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オッサン勇者、実は盗賊?!  作者: としょいいん


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第40話 カティア王女と

 その翌日、アイシャには昼から出勤するように言っておいたがエミリアは普通に出勤して来るので、彼女の訓練を見守る他にティタを妖精の村まで送り届ける旅に必要な品々を買い出しに行かなければならない。


「おはよぅございますぅ」


 ちゃんとしていれば優秀でグラマー美女のエミリアだが、低血圧なのか朝が弱いのが彼女のダメな所だ。


「今日、アイシャは昼から出てくるから、それまでの間はオレと一緒に訓練を行って貰おうか」


 いつもならアイシャが彼女の基礎体力向上メニューを一緒に熟してくれているので、急にその相手がオレみたいなオッサンに代われば嫌がられるかも知れない。


「ほんとですかぁ、たすかったぁ~。今日は女の子の日なので、アイシャさんと一緒だと訓練がちょ~キツくて死んじゃうかもと心配だったのです」


 え、女の子の日? そう言えば以前に聖女もそんな事を言ってた記憶があったと思う。確かあの時のオレはそれが何の日か判らなかったから、つい詳しく聞いてしまいグーパンで身の程を教えられた苦い思い出が甦る。


 ひじを左わきから離さないように構えて、やや内角をねらい、えぐり込むようにして打ち込まれた聖女の右ストレートは、無防備だったオレの左顔面を捉えてノックアウトさせるのに十分な威力を誇っていた。


 あれからオレは「女の子の○○」と言うワードを聞いただけで、背筋に冷たい汗が流れ全身が小刻みに震えるほどのトラウマを負うようになった。


「エミリア、今日の訓練は中止する。それと今日から一週間は座学中心の訓練で構わないとアイシャにも伝えておくから、今日はこのまま帰って休んでいろ」


「え、ほんとですか?! ハルトさんありがとー!!」


 そう言うとエミリアは訓練場へ来た時とは別人のように元気な姿で帰って行ったのだが、身体に負担が掛かるから走るなと言っておけば良かった。


 こうしてオレ一人だけになってしまった訓練場を後にして、昨日の潜入調査で手に入れた書類と訓練場の牢屋に放り込んだままの魔男について、カティア王女に然るべき対処を頼みに行っておくとするか。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「やっぱり魔族が関わっていましたか……」


 いつも可憐な王女様だが彼女が目頭に手を当てて下を向く姿は、問題児だらけのクラスを受け持ってしまった新人教師の姿と重なって見える。


「私も魔族っぽい人が視えるな……とは思っていたのですが、まさか本物だったとは。いくら不正をしているからと言っても、お互いが不倶戴天の敵である魔族と通じるなんて俄には信じられない話です」


 オレは様々な不正の証拠となる書類の束をカティア王女に手渡しながら、一つ一つ説明を続ける。


「これまでも王家を支持して下さる貴族家の方ばかりが、隣国との紛争で亡くなるケースがいくつもあったので怪しいとは思ってました」


 魔王大戦末期の頃から既にこの王国内で裏の権力争いが始まっていて、貴族が自分たちの権益を大きくする為に派閥を形成して行ったのだが、敵対する貴族は勿論のこと、中立を保つ貴族に対してもその当主や嫡男を最前線へ送り出し、そこで戦死させる手法はどの陣営に限らず用いられてきたテンプレ策のようだった。


「王家を絶対に裏切らないと言えるのは、王宮騎士団でも近衛騎士の他には南方騎士団くらいでしょうか? あと3つのうち西方騎士団に限っては真っ黒ですね」


「それが判ってるのなら、どうして処罰しないんだ?」


「騎士団長のポストは騎士団本部と議会が握ってますから、王家と言えどここで強権を使ってしまえば左派貴族たちの派閥に足を掬われたり、騎士団と所領ごと他国へ寝返ってしまわれたら一大事ですからね。それに西方騎士団は国内最大規模の集団なので派閥もそれなりに大きいのですよ」


 このヒュベリオン王国では国王以外に議会があり、最終決定権こそ国王にあるが、国王へ献策するのは議会の役割となっている。


「軍閥貴族の……何と言ったかな、ボヤージュ侯爵だっけ。もしその屋敷に魔族が潜んでいるとしたら、王宮騎士だけだと負傷者が出るかも知れないからオレも同行した方が良いか?」


「私の本心としてはハルト兄様に助けて頂きたいのですが、貴族の不始末くらい私たち王家が主導となって処理出来なければ、これから先が思いやられますからね」


「もし何か不測の事態があったらオレが駆けつけてやるから安心しろ。大事な”戦友”をこんな事で失う訳には行かないし、カティアの未来を守るとトモダチに約束してるからな」


 オレは王族たちとの契約によって彼らが生命の危険に晒された時、その場へと召喚される魔法が掛けられており、過去に何度も呼び出された事があるからカティアの直ぐ側に居なくても彼女を護衛する事は出来る。


 それに盗賊のオレは魔王大戦末期に前線での戦闘に参加せず、ずっと王城にある訓練場で素振りをして過ごしていた事になってるから、王宮騎士団や近衛騎士団での評判は頗る悪く、何も事情を話せないまま彼らと一緒に協力して貰えるとは思っていない。


 騎士たちの中にはマスク姿の勇者に助けられた者は多く、その人気は今も高いと思われるのだが当初こそ勇者の死を隠すための措置だったので、戦後になってオレが静かに暮らして行く為にはマスク勇者は元の世界へ戻った事にして、オレは先代国王の友人として『王家剣術指南役』を拝命する事になった。


 この頃の王家は先代国王に子供が居なかったので剣術を指南する相手が居らず完全な空職となっていたのだが、通例なら騎士団から任命される名誉職を盗賊のオレが横から盗んだと思われており、それが敵対とまでは行かないが敵視される要因の一つになっている。


 その他にも、まだ幼い公女だった頃のカティアが城の外を見たいと言ったのでオレが連れ出してやった事があったのだが、王族誘拐の容疑で王宮騎士や近衛騎士たちに王都の中をしこたま追いかけ回された事があった。

 この話には続きがあって、本当に王族誘拐を企んでいた者たちが居て騎士団からマークされていたらしいが、その最中に城からカティア公女が居なくなったので誘拐されたと勘違いされて大騒ぎになったのだ。


 それを聞いた先代国王のリチャードのヤツが、普段から威張ってる王宮騎士団長の鼻をへし折ってやろと考えて「面白そうだから、そのままカティアを連れて逃げ回ってくれ」と頼まれたので、盗賊のプライドを掛けて王都中を駆け回った記憶が甦る。


「ハルト兄様と一緒に王都を見て回った時は本当に楽しかったです。また私を盗み出して下さいね?」


 当時マジギレした近衛騎士たちにギリギリまで追い詰められた時も、この王女はキャッキャと嬉しそうな声を出して喜んでいたので、この国の王族たちは本当に大丈夫かと心配したものだ。


「そう言えばこの前、”ロイガス”で王妃様に会ったぞ」


「そうなのです。最近はお店が忙しいらしくて、いつも王宮には居られないみたいなので何かあったら心配です」


 あの王妃様なら大丈夫だろう。身体強化魔法を使えばオレより腕力がありそうだったからな。


「それに最近はお父様と余り上手く行ってないみたいで……」


 あの王妃様なら、そこらへんも含めて大丈夫だからカティアは心配しなくても良いと思うのだが、誰しも自分の両親が不仲になれば心配してしまうものなのだろう。


 話が大分雑談みたいになってしまったが、軍閥貴族の裁判手続きと訓練場に居る魔男の回収をカティア王女に頼んでからオレは王宮を後にした。

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