第39話 不都合な真実
「ここらへんでいいだろ」
オレは軍閥貴族の屋敷で襲ってきた魔族の男を逆にフルボッコしてやってから、そいつを拉致って訓練場まで戻って来た。
「ワ、ワレをドウスルつもりダ……」
「どうせ何も喋らないんだろ? 面倒だから、そーゆーのはいいんだよ。こっちはお前の頭の中から直接記憶を奪えばいいだけなんだから」
オレはぐったりしたまま動けない魔族の男の頭を掴んだままスキルを発動させる。
「ウぐぅ……」
そうか、それで次の魔王はまだ復活してないが、新しい四天王が現れて復活の準備、いやこの場合は召喚の準備を進めてると言う訳だったのか。前回の戦いでは魔王アバターを破棄する事で勇者をこの異世界から消し去ったから、安全を確認したから次は邪神本体が乗り込んで来るらしい。
「た、隊長……これは……」
「アイシャ、どうしてこんな時間に?」
「何か不測の事態があった場合に備えて待機していました」
「その判断は嬉しいが、若くて美しい女性がこんな遅い時間に出歩いてたら心配するだろ」
アイシャが急に目を見開き少し驚いたような表情になる。あの顔は自分も守られるべき女性の一人だと気がついていなかったんだろうな。彼女はもう立派な騎士だが、35歳のオッサンから見ればまだ若く庇護欲を唆られる存在なのだ。
「それで隊長、その魔族は?」
「ああ、こいつか……」
オレはこの魔族の男、もう説明が面倒だから”魔男”でいいか──この魔男が軍閥貴族の屋敷にある地下室にいたのでボコって連れてきたと説明した。
「はじめましてなの、わたしピクシーのティタなの」「ワレはいだいなる……」
アイシャに魔男の説明をしていると胸の内ポケットに潜んでいたピクシーが出てきた。
「隊長、この妖精の方は?!」「オイ、ワレをムシするな……」
「こいつは貴族屋敷の地下室で捕まってたピクシーで、近いうちに妖精たちが住む村まで送り届けようと思ってる」「だからワレのハナシをきけというに……」
せっかくの美少女騎士と美少女妖精が出会う感動のシーンだと言うのに、無粋な魔男のダミ声が邪魔をする。
「お前、少し黙ってろよ!」
オレは魔男の頭を掴んでいる右手から更に強い意識を込めて、ヤツの頭脳の奥にある記憶を根こそぎ奪いにかかった。
「ぅガぁぁぁぁぁ……」
相手の同意無く、また心の受け入れ準備もさせない状態で、強制的に脳に対して【強奪】スキルを行使し一方的に記憶を奪っていく。
被験者からすると、これは自分の頭の中に電気を直接流し込まれたような激痛が走り、とても正気を保っていられる状況ではないはずだが、魔族の身体は人族より丈夫なせいで意識を完全に失うまでが長く、そのせいで激痛をより長く感じる結果となる。
「………………」
まだ死んではいないはずだが、もう意識が無くピクリと動かなくなった魔男の身体を引きずって、訓練場の地下にある牢屋の中へ放り込んでおく。さすがにこれだけ脳に負担を掛けてやったので、当分の間は意識を取り戻す事は無いだろう。
こいつの身柄は【魔封じの環】を首に嵌めて拘束したまま、明日にでもカティア王女へ連絡して騎士団に引き取って貰うとするか。
この【魔封じの環】は既に存在していた【隷属環】を解析した賢者が作った物で、異世界にある技術習得のための副産物だったのだが、魔王討伐の旅で色々とい必要となった事である程度の数が製作されていた。
そして魔男の記憶から、ピクシーたちの村が魔族の一団に襲われた時の様子を知った。
まだ次の魔王は現れていないが、新しい幹部である魔王軍の四天王が現れて魔王召喚の準備を進めており、ピクシーたちの村を襲ったのはそこが召喚魔法陣の一つを設置する場所だったと言うのが理由みたいだ。
それと多くのピクシーたちが捕えられたのは、彼らの存在が魔力の塊みたいなものだから召喚魔法陣を起動させるための触媒兼エネルギー源として使えるからだと判った。
それなのにティタだけがこの国に連れて来られたのは『ピクシーが居る家は栄える』と言った迷信があって、あの軍閥貴族が一匹だけ手元に置いておきたいと望んだかららしい。
あと地下室に捕まっていた子供たちは他国へ奴隷として売り払う予定で、人族以外の子供については他国から仕入れるルートがあるようだが、あの魔男は奴隷販売に直接関与はしていなかった。なので奴隷の件に関しては全てこの国の人族が犯した罪と言う事になる。
結局、この魔男は王国内でまだ何も罪を犯しておらず、ただ”魔族”だという理由のみで殺害するには根拠が弱い。
それでもピクシーたちの村を襲ってティタたちを拐ったのは事実だったので殺処分しても良かったのだが、それは例の魔王四天王の命令らしく、この魔男だけを処罰するのは躊躇われたからだった。
それに勇者が守っていたはずの人族が、今度は魔族に代わって世界の脅威となった事でオレは悔しいのと情けない感情で、今はとても怒れるような精神状態にはなれなかった。
せめて奴隷の売買についても魔族の犯行であればと願ってはみたが、この不都合な真実については今後も考えずにはいられない状況となった。
そして魔男の記憶の中に出てきた新しい四天王のうち、ダークナイトと呼ばれる者が配下の魔族全員に向けて『ハルト』と言う名の人族男性を探すように命令していたのだが、それは前回の魔王大戦でオレが生き残った事を覚えてるヤツが敵軍に居るのだろう。
また他の魔王四天王についてはダークヒーローとダークセージ、そしてダークウィッチが居るという事も判った。
だがこいつらの実力がこの魔男と比べてどれくらい強いのか判らなかったので、その記憶にある映像から推し量るしかなかったが、この新しい魔王四天王は前回の勇者パーティと同等の実力を持っていると考えた場合、オレはその予想に目眩がする思いがした。
「隊長、もしかしてお疲れではありませんか?」
「ああ大丈夫だ。心配させてすまない」
オレはアイシャを彼女の宿舎まで送り届けてから、自分の宿舎へ帰ることにした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
アイシャを彼女の宿舎まで送り届けてから、今度はティタを連れて自分の宿舎まで帰ろうとしていたら、アイシャからティタのお世話をしたいので任せて欲しいと懇願された。
「ティタさんはピクシーですが、立派な女性の方なので隊長のお宅では色々と問題があると思います」
確かにアイシャの言う通りだ。
「ティタはこのひとといっしょに”じょしかい”がしたいの」
”じょしかい”って女子会の事か? 妖精族にもそんな風習があったのかと内心で少し驚いたが、今どきの女子が二人も集まればそこは自然と女子会になるらしい。
また女子会とは好きな食べ物とか最近買った衣服の事に始まり、後はお決まりの好きな人トークまでを言うらしいのだが、それには美味しいお茶とお菓子が欠かせないと言うので、オレはストレージの中に常備しているケーキやクッキー、それにこの異世界ではまだ貴重品とされるチョコレートなどのお菓子をアイシャとティタに渡しておく。
「アイシャ、食べすぎには注意するんだぞ。それと明日は……と言うかもう今日だが、昼からの出勤で構わないから、ちゃんと寝ておけ」
「ハルトばいばい」「隊長、おやすみなさい」
「二人とも、おやすみ」
もう夜中をとっくに過ぎてしまっていたので、真面目過ぎる部下が自分の睡眠時間を削ってしまわないように注意をしておいた。
オレも勇者パーティの仲間たちと一緒に夜な夜な話し込んでしまい、翌日の朝に寝坊してみんなまとめて聖女に正座させられたのは今では良い思い出だ。




