大団円!? 卒業パーティー 2
カイル目線に戻ってます。
最後の方、BL風味です。
苦手な方は注意してください。
* * *
「コーレナ様、本当に踊っていただけるなんて夢のようです」
「お上手ですこと。わたくしもまさかお誘いいただけるとは思いませんでしたわ」
「なぜですか?今を逃せばもうこんな機会ないですから。サミュエル様を利用してしまって申し訳ないですが」
「そのサミュエル様がよくお許しになったと思って」
くすくす笑うそれすら色っぽい。
40歳まで生きて結婚もしたけれど、こんな色気をまとえたことがあっただろうか!?いやない!
「コーレナ様に男を近付けたくないかもしれませんね。ご婚約されていないのが不思議なほど仲が良いとお聞きしていますが」
「なにをおっしやっているの?ま、いいですわ。それで、わたくしに何か聞きたいのでしょう?」
「お見通しなんですね。ふふ、流石です。恥を承知でお聞きしますが、サミュエル様は僕をどう思われているのでしょうか?」
「……あれだけアピールされていて、わからないと?」
「いえ、好意を持ってくださっているのはわかります。ただ、昔の恩を感じておられるようなので、感謝の気持ちからのものかと…懐かれている、といいますか…」
「あら、まだそんな段階ですの?」
「え?」
「うふふ、失礼しました。ですが、あなたと再会する以前からずっと話を聞かされていて、馬鹿らしくなって婚約解消を申し出るくらいには、想われてますわよ」
「へ?婚約されていたんですか?」
「ええ。10歳頃までですけどね。ふふふ」
はじめて知る婚約解消の話に驚いて言葉が出ない。そして曲が終わる。
「あ、ありがとうございました」
「楽しかったですわ。また踊ってくださいね」
最後まで優雅に去っていく。なんて素敵な女性だろう。ボケーっと余韻に浸っていると、サミュエルに邪魔にならない場所まで連れて行かれる。
「どうしたの?コーレナに何か言われた?」
「本当に素敵な人ですね。憧れます…」
「は?え?何があったの?」
サミュエルが焦ったように何かを言っているが耳に入らない。なんとなくふわふわしていた考えをもう一度しっかりまとめていく。よし!次に踊ってもらうのは…!
* * *
「よろしくお願いします。トウアさん。ドレスよくお似合いですよ」
「こちらこそ。お願いします。本当に素敵なドレスで色んな方に褒めていただきました」
二人で挨拶をしてからホールドを組む。
「お疲れじゃないですか?楽しめてます?」
「はい!こんなパーティーはじめてですごく楽しいです。ちょっと舞い上がってしまっています」
「では僕が相手なので、リラックスして踊ってくださいね。息抜きする感じで」
曲がはじまる。よかった、この曲ならゆったり踊れそうだ。
「あらためて、卒業おめでとうございます。トウアさんには色々お世話になりました」
「カイル様も卒業おめでとうございます。お世話になったのは私の方です。私、この学園に通えて本当によかったです」
「トウアさんは卒業後、上級の学園に進むんですよね」
いわゆる、大学のような学校だ。カイルは家の仕事を学ぶため、進学はしない。でも、もし家を継ぐのが弟になった場合、密かに行こうと考えている。
「はい。特待生に合格できましたので。実は先生になるかお城で文官として働くかまだ迷っていまして。どっちにしろ進学は必要になるのでがんばりました!」
「並のがんばりでできることではないですからね。本当にすごいです。尊敬しますよ」
「ありがとうございます。う〜カイル様に褒めてもらえると泣いちゃいそうです」
「ふふ、泣かないでください。でも、今日もハンカチは何枚か持っているので安心してくださいね」
片目をつぶって冗談めかして言うと、トウアも笑ってくれた。踊り終わったら、泣いてなくても渡してしまおう。
* * *
曲に合わせてステップを踏む。
「アイリーン様、踊っていただけて光栄です」
「当たり前ですわ。生徒会で頑張った仲間ですもの。それに、わたくし感謝してますのよ」
「僕にですか?何かしましたか?」
「謙遜してますの?わたくしを皆さんと仲良くなるよう取り計らってくれましたでしょ」
「はじめの頃のことですか?あれは自分のためにやったようなものですから。アイリーン様が王子様を想うあまり、トウアさんだけでなく僕にまで攻撃的でしたからね」
くすくす笑ってしまう。今では考えられないくらい睨んでいたなぁ。
「あ、あれは忘れてください!申し訳なかったです。トウアにも謝りましたわ」
「でもそんなアイリーン様と仲良くなりたいと思ったのは僕ですから。王子様を使わせていただきました」
「まあ!そんな言い方不敬ですわよ」
言いながらアイリーンもクスクス笑っている。どうにもできないことだが、こっそり王子とアイリーンで上手くいくといいなと思っている。
「アイリーン様、またいつか踊ってもらえますか」
「ええ。きっとすぐ機会がありますわね」
はー、四人と踊っただけだけど、けっこう疲れてしまった。令嬢様方はさらにドレスやヒールを身につけて踊っているんだからスゴイ。もう大人しく休んでおこう。隅に向かっていると、あ、フリッツがいる。
「よ、楽しんでるか?」
「お前、アイリーン嬢とすげえ楽しそうに踊ってたな。ムカつく」
「えー、お前ファーストダンス踊ったんだろ。よかったじゃん」
「めちゃ緊張しちまったんだよ。もっと格好よくできなかったのかな〜あ〜やり直したい」
「それならもう一回突撃してみたら?砕け散るかもしれないけど」
「おまっ…なんて不吉なことを!でもそうだな。ウジウジしてるのは気持ち悪いしな!」
こういう所がフリッツは気持ちがいい。自分のズルい所はみんなを応援したくなってしまうことだな。
後二曲ほどでラストダンスになる予定だ。学園長の気まぐれで前後することもあるが。飲み物と少しのつまみを持ってテラスの方に向かうと、人がいない場所を探して一息つく。
「あー、ワイン飲みたいなぁ」
少し疲れた身体に夜風が気持ちいい。天気もいいので星もキレイに見える。今ここでワイン飲んだら絶対美味しい!カイルは飲んだことないけどね!
「カイルはワインが好きなのか?酒を飲むとは知らなかったな」
やばい、聞かれた。しかも王子だった。別に法律がどうとかはこの世界にはないけれど、基本「大人になってから」みたいな常識があるから、学生はあまり飲まない。
「すみません、実は少しだけ。今、飲んだらきっと美味しいだろうと思いまして」
「確かにな。私もワインは好きだよ」
ちょっと悪戯をしたかのようにニヤリと笑った。ですよね、と僕もニヤリとする。しばらく無言で風にあたっていると、王子がポツリと話す。
「私がトウア嬢に惹かれたのは、きっとカイルがいたからだと思う。君の近くにいるトウア嬢はとても生き生きとしていて、いつの間にか目で追っていたんだ」
「僕は関係ないですよ。トウアさんが素敵なんです」
「トウア嬢は確かに魅力的で、一目惚れに近いものがあったけれど、それだけではないよ。君がまわりを包んでくれていたんだ。私も含めてね。側にいると自分を認めてくれているとわかるから、とても安心できるんだ」
「………」
「カイルと共に学園生活をおくれたことは本当に私にとって貴重なことだったよ。ありがとう」
「僕こそ王子様がいらしたからこそ体験できた学園生活でした。ありがとうございました」
王子がこんな風に思っていてくれたとは。感動してしまった。ちょっと泣きそうだ。
「殿下、そろそろラストダンスになりそうですよ」
「そうか、では失礼するよ」
会場から出てきたサミュエルの言葉に、王子はホールに戻って行った。そのままサミュエルがこちらに近付いてくる。
「カイル、約束通りラストダンスを踊ってくれる?」
「はい。でも女性パートはあまり上手くできませんよ?」
「大丈夫だよ。きちんとリードするから」
グラスを置いて、踊れるように少し移動する。みんなホールの方に注目しているので、テラスに人はいなかった。予想通り。
「では、よろしくお願いします」
「うん。まかせて」
曲が始まった。サミュエルが流れるように踊り出す。先程までとは反対の動きに戸惑いながらも、リードが上手いので踊れている。慣れてきたら段々楽しくなってきた。サミュエルの顔を見ると、変な顔をしていた。楽しくなかったかな?
「すみません、下手ですよね」「殿下と何話してたの」
一緒に話し出してしまった。目を合わせて苦笑する。
「ごめんね、下手じゃないよ。すごく踊りやすいし、すごくうれしい」
「王子様とはお世話になりました、と挨拶していたんですよ」
「そうか。卒業だもんね。もう毎日会えなくなるんだね。寂しいよ」
「サミュエル様、あなたのおかげで僕は学園生活をスムーズにおくれたと思っています。たかが子爵家の僕がみなさんと仲良くなれたのも、サミュエル様がついていてくれたからです」
「カイルは僕より先に殿下と仲良くなってたじゃないか。悔しかったんだよ?」
「確かに知り合ってはいましたが、きっと反発する方もいらっしゃったはずです。トウアさんとフリッツだけなら大丈夫でしょうが、格上の方々となんて生意気だと思われる事がほとんどでしょう」
ダンスも終わりが近付いている。本音を言うともっと踊っていたかった。そろそろフィニッシュだ。
ジャジャジャン!ジャーン!
ワァー!パチパチパチパチ!
ホールでは歓声と拍手が鳴り響く。テラスは静かだ。
「サミュエル様が守ってくれていましたよね?」
首を傾げて問いかけると、少し複雑な表情をされた。そしてコクンと頷く。
「ありがとうございました。大変でしたよね?本当に感謝しています」
手を頭の方に伸ばすと、いつものなでなでだとわかったのか、かがんでくれる。なでなでをしつつ、彼の右頬にそっとキスをした。
なでられている時いつも気持ち良さそうに細められている瞳が、カッと見開かれた途端、顔が真っ赤に染まった。つられてこちらも顔が熱くなる。どんどん恥ずかしくなってきた。逃げよう、そう思って離れようと足を引いた。が、逃げられなかった。
抱きしめられていた。
ぎゅうぎゅうと締め付けられるように。
でも、苦しくはないくらいの力で。
しばらくされるがままにしていた。抱きしめられるなんてカイルになってはじめてのことで、ちょっと気持ちが良かったから。
ふと、力が緩んだと思ったら、顔が近い。さらに近付いてくるので、力いっぱい押しのける!
「あんなにかわいいことしといてなんでさ!お返しにキスしたっていいだろ!」
「角度的に頬じゃなかったですよね?ダメです!それはまだ無理です!」
「そこは雰囲気で勢いだから!…あれ?今『まだ』って言った?言ったよね?いつならいい?」
「……なんか、雰囲気かわってません?こんなグイグイくる感じでした?」
「そんなの猫被って我慢してたに決まってるだろ!」
ぶっちゃけた言葉にビックリしていると、また捕まってしまった。きゅっと抱きしめられる。
「もう、逃がさないからね?」
耳元でイイ声で囁かれ、頭のどこかで「早まった!」という叫び声がする。でももう遅い。
気が遠くなりそうになりながら、これからの対策を考えるのだった。
そして、こっそり覗いていた男爵令嬢は、鼻血を出しそうになりながら悶えるのだった。
これで完結になります。
お付き合いありがとうございました!