第198話:航空技術者は機関砲を採用する(後編)
僅か数秒にも満たない刹那、辺りに響き渡る蜂の羽音のごとき火薬の炸裂音。
瞬く間に穴だらけとなる標的。
そのあまりの衝撃の強さと弾数に標的として用意したB-17とほぼ同等の構造を持つModel307の主翼の一部は真っ二つに切断されてしまった。
機関砲が動きを停止した時、俺は確かに目撃した。
恐怖に飲み込まれ、眉間にシワが寄る者たちの姿を。
ある者は唾を飲み込み、ある者は拳に力を入れ……
たった1000発の弾丸でもって、目の前の機関砲は再び息を吹き返したことを見事に証明する。
「射撃に使用する.45-70を集めるのには大変苦労しました。何しろ古い弾丸でモノがない。全国の陸軍の倉庫から弾丸と薬莢をかき集めて火薬を詰め直してようやく3000発ほど。そのうちの1000発を皆様にお見せしました」
余りに興味を引く者が続出したために会議は中止され休憩がてらのお披露目。
本当は別に今日でなくともよかったのだが、結果的には良かったのかもしれない。
今後の戦いがどういう事になるのか、上層部の者達も想像が付くようになってきただろう。
「あーすまんが信濃君、君は確か開発予定の機関砲は毎分2000発と述べていたような気がするのだが……明らかにそれより速いと感じた。この骨董品を改修して生まれ変わった機関砲は2000発以上撃てるのか」
「毎分6200発相当になっているはずですが、実際に計測したことはありません。最低毎分6000発以上には達しているかと」
「ろ……6000? 今6000と言ったのか!?」
稲垣大将は驚異的な連射力に驚いているようだが、なんてことはない。
本来の未来でも数年後にG.Iは毎分6200発で作動させ、航空機関砲としてのガトリング砲の復活へと繋がっている。
彼らはガトリング博士が晩年に毎分1500発仕様の試験機を遺して旅立った事を知っており、今の技術ならその4倍に相当する連射力にできると考えて実行に移したのだ。
恐るべき光景を目にした軍はすぐさまG.Iに開発予算を組むことを了承したが、同じことをやったに過ぎない。
「新たに開発予定のものを6門仕様とすれば銃身冷却との兼ね合いからも毎分7200発程にまでは持っていけます。それ以上は保証できかねますが、銃身の耐久性を極端に減らすことを厭わぬならば8500発までは作動可能範囲です」
「作動試験を見て技官がやりたい事がそれとなしに理解できた気がする。複数の機関砲を内蔵するのではなく、信頼性が高く連射力に優れたものを最低限の数として機体内に押し込めたいわけか」
現場にいた別の将校はこちらがやりたい意図を汲み取ってくれていた。
頻繁に口にする"信頼性"という言葉から推測できたのかもしれない。
「基本は1門です。銃の仕組み上、本砲は1門が事実上使用不能となっても撃てます。そしてそうならないだけの信頼性ある構造に昇華してみせる自信があります」
今回用意したのは.45-70弾を用いる、皇国陸軍の倉庫に眠っていた10門式の古のガトリング砲を活用したもの。
しかし既に現時点でその構造は本来の未来でG.Iが用いた物とは異なっている部分がいくつかある。
その中でも最大の違いがリンクレス給弾機構となっている点。
これはもう、ガトリング砲を航空機関砲として採用するなら絶対として採用しなければなら機構だ。
実はG.Iが6200発の試験モデルを軍に向けてお披露目した後、新たなガトリング砲開発において相当に苦労していた事はあまり知られていない。
G.IはまずT-45と呼ばれるガトリング砲を開発したが、これは今より7年後。(なお後にこの初期型はModel Aと呼ばれる)
だがこのT-45は給弾機構が従来の革製のベルトリンク式であることから発射速度は6門で毎分2500発が限界だった。
当然、6000発以上を保証しますと胸を張って予算を獲得したのにこれでは話にならない。
すぐさま改良され、3年後のT-45 Model Dでは6500発にまで改善される。
この時に採用したのが分割可能な爪で互いを繋ぐ金属製のリンクである。
これにより革ベルトによるベルトリンクであった状態から大幅に信頼性を底上げし、その構造からさらに煮詰めた直して誕生するのがM61ことバルカンだ。
しかし航空機関砲として実際に運用すると不具合が多発。
地上でばかり試験していたG.Iは、強烈なGがかかる状況でのドッグファイトで高速連射のために高速で動き回る金属リンクの状態まで想定しておらず、これにより給弾中にリンク同士が外れて撃てなくなる事例が多発。
あえなく連射速度を毎分4000発ほどに落として運用せざるを得なくなった。
また、排莢後の弾丸と金属リンクは別々に所定の回収箱の中へと収納され、特に金属リンクは省スペースを目的に爪が外された状態で分割されて収納されたのだが、これらが飛行中に箱の中を動き回ることで重心位置が変動し、飛行に影響を及ぼす事も発覚。
これを改善するためループ構造として金属の爪で抱きかかえるようにして弾丸を運び込む金属製ベントコンベアー式としたのがリンクレス給弾方式である。(なお、リンクレス給弾機構のアイディアを生み出したのは同じくM61を採用していた王立国家の企業とされる)
この方式により発射速度は一気に向上。
銃身さえ耐えられるなら9000発以上も可能ともなったが、銃身の寿命と引き換えに作動可能な範囲は大体9000発未満とされる。
当然俺はこれを知っているので今回の評価試験機ではリンクレス給弾機構へと改修しており、弾丸は発射、不発問わず排莢されループ構造となっているベルトコンベア内を周遊する状況としていた。
これなら重心移動の問題も最小限とし、作動信頼性も確保できる。
正直、皇国が所持する古い弾丸など質が悪く、この方式でないと話にならなかったと思う。
実際、ループしているリンクレス給弾機構のベルト内を見ると不発のまま排莢されていることが遠目でも確認できる。
M61では、噂によると強制的に排莢した際に収納箱に落ちた衝撃で雷管が作動して収納箱ごと機体の一部を内部から破壊したなんて事故すら数件ほど起こしているそうだが、そのリスクも大幅に落とせるという意味ではこの構造以外に考えられない。
この強制排莢できるというのが重要だ。
ちょっとやそっとではジャムを起こす事は無いのだから。
将来の我が国は違うのかもしれないが、現状の皇国にとっては弾丸1つとって信用できない。
一度発射不良を起こしたら撃てなくなる仕組みの機関砲なんて使えない。
だからといって複雑極まりないガトリング砲もどうなのかという話もある。
安心してほしい。
今回採用するのはM61系列ではない。
T-45から基本構造を大きく進化させたわけではないM61系列、それこそリンクレス給弾機構を初採用したM61A1ではない。
俺はそんな古すぎる機関砲の構造なんて覚えてない。
基本作動機構以外、覚えておく必要が無かったからだ。
俺が今回採用するのはF-35開発時に入手に成功した設計図をベースとするもの。
俺がやり直す直前において最新鋭の機関砲。
GAU-22/A……すなわちイコライザーの系列に属するものを基としたものを採用する。
イコライザーについて少し説明しよう。
NUP内での機関砲の開発というのはG.Iを中心に続けられていた。
ところがM61A1があまりにも普及してしまった結果、NUPは20mm機関砲の更新というのが出来なくなるジレンマを抱える。
新しい機関砲を採用しても大量生産されたM61A1の方がランニングコスト等で上回るため、大幅に改良することが出来たにも関わらず本格的な大規模改修は行わずに尻込みしてしまった。
しかしNUP内でも古すぎるものをいつまでも使うのはどうなのかということで、違う方向性からのアプローチを試み、そして採用にまで持っていく。
違う方向性とはすなわち、異なる口径のガトリング砲を新規採用する場合、その時点で最も進んだ改良・熟成されたものとするというやり方だ。
NUPはこれにより30mm砲として新型機関砲のGAU-8アヴェンジャーを、アヴェンジャーからさらに一段階進化したGAU-12イコライザーを誕生させていく。
一連の機関砲は新しくなるたびに作動機構に見直しが図られ、部品点数の削減やより製造が簡便で単純構造のパーツが用いられるようになる。
それこそパーツ単位で見れば構造の耐久性に余裕があり、大量生産によって価格の安いM61A1の部品を流用すればいいではないかなんて意見すら言わせぬよう、徹底的に各部に改良が施された程だが、このGAU-12をベースにさらに改良されたのがGAU-22/Aなのだ。
そしてなんとGAU-22/A、実はGAU-12をベースにさらに最新の技術でもって一から設計されたという背景を持つ。
M61系列ではM61A2というF-22に搭載するためにGAU-8をベースに多少の改良を施したものを新たに開発したのとは異なり、GAU-12を骨格としつつも一から設計し直したのだ。
よってGAU-12とGAU-22/Aについてはパーツ単位で殆ど互換性が無いという状況に至っており、別の名前を与えるべきだと思うのだが……
予算獲得などの理由付けとして「イ……イコライザーの改良型で派生型だから……」――という言い訳を用いたため、事実上の別物なのにも関わらずこちらもイコライザーと呼ばれている。
こうなった要因はリヴォルバーカノンにある。
実は当初F-35ではBK-27……ユーグでEF2000等に採用実績のある優秀なリヴォルバーカノンを搭載しようと画策していた。
X-35の頃などはBK-27を搭載する予定と発表していたりするし、そもそもBK-27はF-35に搭載可能だったりする。(ついでに言えば競合機のX-32は内部スペースに余裕がなくBK-27しか採用できないとボーウィンは述べていた)
だが途中から状況が変わり、GAU-22/Aが採用されるという事になった。
なぜこうなったかといえば簡単な話である。
NUPの運用ではBK-27の信頼性に不安が生じたからだ。
NUPでも当初は過去にリヴォルバーカノン運用実績があった事から乗り気でいたのだが、試しにF-16にBK-27を搭載して使ってみると不発による作動不良が続出。(実は密かにF-35への導入と合わせ、F-16の燃料タンク容積を増やすためとランニングコストを削減するために新型のBlock70/72においてBK-27を採用するかの検討もされていた)
当時NUPでは経済不安等による軍の合理化と省コスト化が求められていたが、この時に弾丸の品質管理・維持費用をそぎ落としており、運用する弾丸について従来では航空機関砲向けでは選りすぐりとすべき所、基準を下げ、ユーグ各国と比較して甘めな完成度の弾丸でも使用可とできるよう運用法を改めていた。
結果、ユーグの国々が余裕をもって扱えるBK-27はNUPでは満足に扱えないことが発覚。(ユーグはそれだけ高品質な弾丸を安定的に大量生産できたためにコストの大幅な増大は発生していなかったのだが、NUPではそうではなかったのだ)
そこで王立国家などが万が一BK-27の採用に拘っても大丈夫なようにしておきつつも、自国向けとして新たにGAU-22/Aを開発したというわけだ。
特にGAU-22/AについてはBK-27を採用する前提でF-35を開発していた事から、前身のGAU-12では体積や重量が原因で搭載不可能とされた事から、BK-27に匹敵する重量及び体積とすることが求められた。(BK-27を搭載する前提であることから当初よりM61A1を搭載する事は念頭に入れられていない)
そこで当時の最新鋭のスーパーコンピューターを駆使して徹底的に一からガトリング砲というものを見直し、低価格かつステルス戦闘機という謳い文句のF-35に見合うものとして生み出されたものがGAU-22/Aである。
見てわかる通り、砲身を1つ削ったがそれ以上に注目すべきは作動機構の大幅な小型軽量化。
GAU-8よりさらに省スペースとしたとされるGAU-12から体積ベースで20%も削っている。
砲身削減による重量削減はGAU-12の18%に留まるが、それよりも部品点数の削減に成功しているところに目が行く。
これは当時のもっとも進んだ熱力学と構造力学を用いてスーパーコンピューターで演算して導き出した賜物で、俺がやり直す頃の最も進んだ熱伝導の原理やトルク伝達の原理を落とし込んだもの。
トルクを伝達するためのギア等の構造はそこまで複雑でないにも関わらず、各部の重心設計等を見直した結果、M61A1とは比較にならない程のスピンアップ速度を持つに至った。
特にスピンアップの速度は半端じゃない。
F-22用のM61A2がスピンアップのために大幅に銃身の肉厚を削ったのに対し、GAU-22/Aは肉厚を削らずにスピンアップ短縮に成功しているという点は特筆に値する。
本当なら肉厚を削ってでも軽量化したいところ、25mm弾が銃身に与える負荷は強く、それではあまりにも銃身寿命が短くなる事、また合わせてそれだとコスト増大となって本末転倒のためあえて削っていない。
つまり重量18%削減の大半は銃身1本と作動機構の省スペース軽量化の2つによって達成しており、銃身の肉厚を削って軽量化すれば30%近くの軽量化も可能だとされた。
あえてやらなかった分、BK-27との重量差の溝は埋まらなかったが……
作動の圧倒的信頼性と極めて高い部品寿命を獲得しており、そしてなによりもGAU-22/Aが持つスピンアップ速度はあの王立国家がBK-27でなくてもいいかもしれないという判断を下すほどである。(スピンアップ速度はおよそ0.1秒未満とされ、F-22と同等かそれ以上とされる)
ようは最新、最強、最軽量の俺が知る限り最も信頼性があり、弾丸の品質が保証されなくとも何とかしてくれる機関砲をこれから作って採用したいとうわけだ。
何しろその信頼性といったら、あのBK-27とほぼ変わらないというんだから。
当たり前だ。
BK-27がいかに優れていようと、約40年前の代物だ。
リヴォルバーカノンだってもっと優秀で部品点数の少ない、洗練された新型モデルを作る事も出来たはずだが、それをやっていたのはあの時点で共和国だけ。
共和国はDEFA 791という、より作動機構部分が小型化されながら連射力が上がった最新のリヴォルバーカノンを生み出していたし、さすがにGAU-22/Aは当時最新のリヴォルバーカノンたるDEFA 791よりかは劣る。
裏を返せばBK-27もBK-27でM61系列と同じジレンマに陥っていたことがGAU-22/Aとの差を埋める事になった。
俺は当初GAU-22/Aの信頼性についてはNUPの誇張だと考えていたが、あの王立国家がガンポッド式でもGAU-22/Aでいいという反応を示して考え方が変わった。
発射試験等のデータも見ているが、最新ゆえにリヴォルバーカノンに匹敵する信頼性はあるとみている。
こうなってくるとリヴォルバーカノンより信頼性の低いガスト式なんて採用する理由は無くなる。
いや、そもそもガスト式にそこまでの信頼性は無い。
俺の頭の中には1つの資料が記憶されている。
G.Iのデータ資料だ。
実はG.I、GI-225としてガスト式の機関砲を開発していたのだが、本機関砲での各種試験によってガスト式はヤクチアが述べる程信頼性が高く無いという結論を軍共々下している。
動作機構はほぼGSh-23のコピーで使用弾薬が異なるだけ。
コピーするにあたってG.Iは信頼性を得るために王立国家のヤクチアに匹敵する精度及び冶金技術で構成された部品でもって作り上げたモデルまで別途作って弾丸まで調達して試験に供したが、結局最後まで作動信頼性において納得できる結果は得られなかった。
G.Iの記録によると加熱した砲身が機関部まで伝わり、装填して発射する前に射出されて作動不良を起こすなど問題が多発したと述べている。
曰く「あいつら寒い地域で使う事を前提に設計したんじゃないか」――とのことだが、事実関係は不明。
少なくとも一度作動不良が生じたらガス圧駆動ゆえに撃てなくなる事から、軍は興味を持たなかった。
G.Iは電気式着発にしてガス圧駆動をやめ、万が一発射不良を起こしても強制排莢できるよう改良したGI-225も開発したが、こうすると大幅にパーツ点数が増えるためガスト式の利点は完全消滅。
そしてその情報をどこで獲得したのかは不明ながら、ヤクチアはG.Iのアイディアを用い、単砲身化したGSh-30-1を開発してガスト式を事実上消滅させてしまうに至る。
GSh-30-1ではGI-225で報告されていた銃身の熱量が機関部にまで伝わるという弱点を水冷式にして克服。
また水冷式としたことで銃身加熱を抑えられることから限界まで発射速度を増加させてリヴォルバーカノンとほぼ同等の連射力とし、前述のG.Iから着想を得た、GI-225とは別の強制排莢システムを採用して高い信頼性を獲得し、リヴォルバーカノンでは不可能とされる不発後の継続発射を可能とした。
全体重量が50kgという軽量さから考えると、ある意味でこれは正解の回答なのかもしれない。
聞いたところによると単砲身での連射力というのは毎分3000発未満が限界らしいのだが、リヴォルバーカノンで最も発射速度が速いタイプが毎分2500発(DEFA 791)で、その他の一般的なリヴォルバーカノンが毎分1400~1800発なのに対し、GSh-30-1は約1800発と同等である事から、Sh-30-1は相応に完成度が高いのだと思うが……
恐らくヤクチアの冶金技術あっての性能で現段階では実現不可能。
将来を鑑みてリヴォルバーカノン共々開発を挑戦するかもしれないが、今は見送る。
一般的なガス圧駆動で毎分1800発なんて連射速度の20mmマシンガンなんて簡単に作れたら苦労しない。
無茶な背伸びをして機関砲開発に失敗するような事は出来ないんだ。
だからGAU-22/Aをベースに20mmとしたものをこれよりこの世界に呼び込む。
俺はやり直す直前、25mmのものを頭に入れこむのとは別に独自に20mm、30mmのモデルを仲間と共に設計して頭に叩き込んでおいた。
口径ごとに3門、4門、5門、6門を頭の中に押し込んでいる。
つまり20、25、30mm版において様々な仕様のものをそれぞれ開発できる。
今後それらが必要になるかどうかはわからない。
今は20mmに注力し、今後どうするかは軍の考え方次第とする。
というか……25mmと30mmはある事情により現状ではほぼ採用できない。
弾丸が無いんだ。
25×137mmも、35×173mm弾もこの世にまだ存在しない。
一連のガトリング砲は協力者の影響もあって西側NATO規格に合わせてしまっているため、異なる弾丸を用いるために再設計するにはスーパーコンピューターがいる。
最新の熱力学や構造力学によって最適化されて生み出されたGAU-22/Aの再設計は容易ではない。
それだけ緻密な計算が必要になる。
機関小銃ことJARと同じように、高い信頼性と、これまでにない省スペース化の獲得と引き換えに失ったのだ……人の頭による再設計可能な余裕を。
スーパーコンピューターなんて今の時代に無い。
といっても弾丸さえ作れれば問題ないという点ではJARと状況が異なる……そんなものを新たに作って生産する余裕が皇国にあればの話だが。
……あったら苦労しないよな……
おまけに25mm弾や30mm弾だけでなく、20mm弾にもやや問題があるわけだ。
M61が採用したのは20×102mm弾。
これはリヴォルバーカノンたるM39を開発する際に採用された新型弾丸である。
M39は戦後開発のリヴォルバーカノン。
つまり20×102mm弾についても現在この世に存在しないかもしれないわけだ。
かもしれないというのが、実は当時の記録がNUP内に残っておらず、研究者や技術者の中でも混乱が生じているため。
わかっている事は、最初期のG.Iのガトリング砲であるT-45は当初15.2×114mm弾というものを採用していた。
しかし威力不足から途中で20×102mm弾仕様へと変更を要請され、T-45 Model BあるいはModel Cでは20mm仕様となり、T-45 Model Dへと改良されM61へと至る。(なお、この裏でM39の前身的モデルで量産されなかった15.2×114mm弾仕様のM38というリヴォルバーカノンが存在したりする)
この15.2×114mm弾というのは12.7mmの威力不足のためにNUPが航空機関砲用、並びに対戦車ライフル用として3年前に新たに開発した弾丸で、2602年現在、既に存在する。
20×102mm弾はこの15.2×144mm弾をそのまま20mm仕様としたもので、実はこの裏に大口径化した27×102mm弾と小口径化した12.7×114mm弾というものが存在し、この12.7×114mm~27×102mm弾は同一の工作機械で大量生産できるという特長を持つ。(薬莢の構造が一部を除いて同一)
大戦中のNUPはこのように同一の工作機械で複数の口径の弾丸を作れるようにいろいろと構想を練っていたそうなのだが、12.7×114mm弾や27×102mm弾共々、大戦中に完成していたのかしていなかったのかが釈然としない。
おまけに将来を見ると生き残ったのは20×102mm弾のみであり、当初の構想は完全に破綻している。
一応12.7×114mm弾は12.7×99mm弾と共通の弾丸を用いるものであったために、未来においても大量生産は可能なのだが、12.7×99mm弾で十分という事で生産実績は0で試験に供される程度でしか製造されていない。
本当はそんな中途半端に孤立した20×102mm弾なんて採用したくないのだが、現状で王立国家共々採用している20×94mm弾は弾道直進性と射程で劣るためこれまた採用したくないし、そもそもGAU-22/Aは前述の理由で20×94mm弾仕様に再設計できない。(なお、25×137mmも、35×173mmも本弾丸をそのまま拡大したものだが、先ほど述べたように製造用の機械は同一ではない)
となると現時点で設計が終了したりなんだりしていないと困るかもしれない。
数少ない記録によると、本来の未来において零が20mm弾でもって暴れた事から15.2mmでは足りぬということで20mm仕様が急遽設計されたとする。
それが2602年初頭だと言う。
今俺がいる世界では早い段階でホ5が完成し、20×94mm弾が高く評価され、NUP内でも注目はされてた。
他方、インチ設計ではないので20×94mm弾のライセンス生産及び各国への供給は行わないと通達している。
この裏で20×102mm弾の設計が終了していればいい。
していなかった場合は逆提案とするが、現時点で世界で大量の弾丸を供給できる国は限られており、その1つがNUPである。
また、将来を鑑みると20×102mm弾は半世紀以上も使用される高性能20mm弾。
やや困難は伴うが大量供給は十分可能で、弾丸としての信頼と実績の双方を理由に、今回は20×102mm弾の調達と共に次の世紀の最新のガトリングを再現して調達する方向で行く。
20×94mm弾すら調達に苦労する現状、上層部には新型弾丸の採用は納得してもらう他ない。
「――ところで信濃君。君は砲身の数を増やせば自ずと連射力は上がると述べたが、20㎜弾仕様とした時の最大砲身数というのはどこまでいけるんだ?」
「重量と冷却性との兼ね合いから6門までです」
「6門と3門でそこまで部品の互換性が無いものなのか」
「いいえ、稲垣大将。部品点数の換算で7%程です。93%は同じ部品をそのまま用いる事ができます。ただ、その7%の多くが主要部品でかなり大きな構成部品なのです」
「ならば3、4、5とそれぞれ作るのはいささか問題があるか。だがこの連射力は対空砲としての可能性も感じうる。6門のものも作ってくれ。西条君。構わんよな?」
「私は3門仕様で十分と心得ますが、必要とおっしゃるならば」
……もしかして稲垣大将は本砲を海軍に売り込む狙いがあるのか。
現状ではそこまで活躍は見込めないと思うが……
ともかく、やらせてもらえるならやるまで。
すでに製造能力の不足から常に供給に苦労する20×94mm弾については周知の事実だからなのか、周囲にいる者も特に20㎜への拒否反応も示していないため、このまま続けても問題なさそうだ。
あるいは……自分への信頼なのか。
後に完成する機関砲は登場当初より所定の性能を示し、黎明期のリヴォルバーカノンと熾烈な採用争いを西側で展開するようになる。
ガトリング砲の弱点を解消しようとスピンアップ速度を高めた構造とした結果、信濃忠清の知る未来より採用実績が上がり……また皇国国内でもガトリング狂が多数誕生していった事から、35式主力戦闘機の航空機関砲の検討の際、彼は自らが招いた結果に頭を抱える事となるのだった。
さらに遠い未来のロボットアニメでは機関砲を「イコライザー」と呼称するようになる結果も生む。
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