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第115話:航空技術者は隙間を埋める

 皇暦2601年1月15日。


 この日、大気汚染防止法、土壌汚染防止法、水質汚濁防止法などを含む通称:環境汚染防止法が皇国議会にて可決。


 世界でもいち早く環境問題、主に公害を防止する法律を施行していった王立国家にならい、再び同盟を結んだ皇国もそれに追随せんとばかりに法案提出からすばやい審議が行われて可決にまで至った。


 基本的には未来の先進各国と内容は変わらない。


 事業者は汚染を生じさせた場合は原状回復を試みる義務などを負いつつ、それにともなって健康に害する被害を出した場合にはその賠償の責任を負う。


 こうすることでこの後に発生する様々な公害を最小限度に留めたいわけである。


 ただ、事業者に責任を負わせるといっても、1つの事業者だけが必ずしもその公害の主原因となるわけではないため、具体的な防止対策を講じるよう厳しく義務づけるとともに、規制も設けているのが一連の法律が現時点において画期的な所。


 まあ様々な教訓から後の世の人々が各国にて生み出すものを、教訓無しに予防的な意味を込めて施行してしまおうというだけだがな。


 特に規制は重要だ。


 例えば王立国家ですらこの2600年代という割と早い時期から段階的な法整備を行っていっていたにも関わらず、2610年代において深刻な大気汚染、通称ロンドン・スモッグを発生させて多くの死者を出した。


 その原因は賠償責任などを定めても特定単数の事業者が必ずしも原因とはならず、規制という段階にまで踏み込まずに対策を努力義務に留めたことにより、対処が遅れて事件が発生してしまった。


 "まあとりあえず最小限の対策で大丈夫だろう"――などと皆が考えると深刻な大気汚染となってしっぺ返しを食らう。


 最初から厳しく取り締まる姿勢こそ、事故・事件を未然に防ぐ予防策となるのだ。


 ロンドン・スモッグの原因は石炭だった。


 その元凶となった物質は工場からの煤煙だけではなく、家庭から排出されたストーブ用煙突からの煤煙内に含まれる二酸化硫黄などが積み重なって発生したものであり、鉄道などもその原因の一端となっており、誰が責任を負うべきかと言えば誰しもが責任を負わねばならないものだった。


 王立国家はこの事件を教訓に規制に乗り出し、各国もそれに追随し、本来の未来における皇国も煤煙防止のために動き出す事になる。


 だがさほど効果は無く、皇国の大気汚染防止に関する法律は2度に渡る大規模な改正が行われたほどだ。


 なので、当然にして今回大気汚染の分野で可決されたのは、この先の未来を想定しての段階的な規制である。


 原案は俺が考案して西条に提出し、それらは皇国のブレーンらによって改めて内容を整えた上で議会に提出されたが、基本の骨子は全く揺らいでいないものとなっており、可決された内容にも不満はない。


 内容を要約すれば工業、商業、家庭利用において段階的に石炭利用を改めていくというもので、家庭においては石炭ストーブなどが一部地域を除き、4年以内にその利用を原則禁止とする事となっている。


 ようは2605年までの利用は認めるが、ストーブ用石炭等の販売も禁止されることで、事実上石炭ストーブは利用できなくなる。


 これら以外にも工業分野においては様々な環境に悪影響を与える物質の大気への対策無しの放出を段階的に規制していく内容となっている。


 一連の規制は未来の皇国と同じく、地方自治体が地域ごとに規制を上乗せすることが可能。


 皇国政府が出した段階的な規制内容もかなり厳しいものとなっているが、そこにさらに上乗せも可能とすることで、今後の経済発展による大気汚染の被害を最小限に食い止めようと画策しているわけだ。


 まあ家庭の分野においては正直なところ東京市ではさほど影響の無い法律であるし、そもそも皇国は元より工業地帯を除けばロンドン・スモッグのような都市部におけるスモッグ発生を防ぐ環境整備は比較的行いやすい国でもあるので、特段、新聞社などが取り立てて騒ぎ立てるような事もなかった。


 むしろ煤煙問題については皇国が世界に向けて開港してから問題視されていたものであったので、一連の皇国政府の動きを新聞社などは素直に評価していたぐらいである。


 東京市の新聞記事にも書いてある通り、皇国ではもっぱら暖炉は薪を除けばガスと電気が基本で、ロンドン・スモッグの原因の1つである石炭式暖炉の需要はさほどない。


 ただし、法案にも一部地域を除外しているように、そう言えるのは関東や関西などの主要都市部であり、開拓の進む北海道などにおいての主流は石炭ストーブであった。


 ゆえに審議において焦点が当てられたのは北海道を中心とした、石炭ストーブを必要とする冬の気温が極めて低い地域をどうするかについて盛んな協議が行われ、最終的に北海道にはより猶予を設けつつ補助金を出す事も検討しながらの転換を行う事とした。


 なぜここまで北海道にて石炭ストーブが主流となっているかというと、北海道においては材木は大変貴重な資源ゆえ、燃料として大量消費することは疎まれていたからだ。


 冬に度々吹雪くあの地においては、防風林としての役割もある林を簡単に伐採して更地にする事も難しい。


 ゆえに木材に頼らないストーブの中でも、当時最も燃料が安価である石炭ストーブが注目され、2570年代から国産のストーブが販売されはじめると年1万台~2万台ペースで道民が購入して広まっていったのだ。


 一連の需要は戦後重油の価格が下がり、灯油と石炭との価格が逆転するまで生じ続けたが、都市として整備されていった札幌などにおいては次第に無視できない煤煙による大気汚染が深刻化していき、ガスまたは灯油への急速な転換を迫られる事になる。


 実は2601年現在、すでに煤煙による大気汚染の不安は訴えられつつあるほどで、いかに煤煙という存在が家庭レベルでの石炭の利用でも公害となりうるのかを表している。


 農作物などに悪影響を与える煤煙という存在は市民レベルでも無視できるものではなく、転換には時間がかかるが、該当地域住民も概ね好意的に捉えているとのことから、議会においては早期に楔を打ち込んで速いうちに転換しようとまとまったわけである。


 それが可能なのも、やり直した現在の皇国において油田を手にしたことによる石炭と重油の価格の逆転が始まっているからであり、転換の前倒しが行いやすい地盤が出来上がっていなければ本年1月の可決は不可能だったことだろう。


 ただそれは痛みを伴う転換だ。


 一連の石炭ストーブにおいては埼玉の川口においてその8割が製造され、石炭ストーブによる地場産業が出来上がっていたが、そこに楔を打ち込む行為でもあるのだ。


 川口と言えば鋳物の川口と言われ、戦前から鋳造による重工業地帯として発展していく。

 それこそ2601年において国内にて鋳造された製品のうち4割が川口産。


 来年である2602年には市単独でのシェア全国一位に躍り出るほどだ。

 その後の2650年代においても皇国の鋳造における総生産量の13%~14%を川口が占める。


 鋳造といえば川口とはよくいったものだ。

 その発展を支える柱の1つが石炭ストーブ。


 2610年代においては年4万台を販売し、その大半が北海道の地にて使われる事になる。


 その機会を完全に潰してしまうというのだから、川口は少なくない影響を受ける。

 このダメージを最小限度とするのは1つしかない。


 "量産が画策されているM4戦車の鋳造部品の生産を請け負う"――これだ。


 本年の10月に正式採用されるM4戦車は、皇国においても中戦車としての採用が検討されている。


 M4戦車においては初期生産された約1700台が鋳造装甲。

 以降生産されたタイプは全溶接装甲となる。


 一見すると溶接装甲の方が優秀そうに感じるが、溶接に向かない鋼板、それも複数の規格の鋼板を、NUPが持つ世界最先端の溶接技術によって無理やり溶接した装甲ゆえに鋳造には劣っている。


 後の世において誕生するスーパーシャーマンが少しでも性能を高めようと鋳造タイプのものを中心に調達して改造されたことを考えても、M4においては鋳造装甲の方が優秀であったのは言うまでもない。


 重要なのはここからだ。


 川口が持つ各種鋳造用の工作機械は最新鋭。

 実は鋳造という分野だけならNUPを上回ってすらいる。


 その生産量も、品質も。


 戦中、川口がその力を完全に発揮できなかったのは、原材料が無かったからに他ならなない。


 戦後、皇国が開発した戦車の鋳造装甲を川口が担当し、それらは諸外国の戦車に負けなかったという報告がある事からも、高い技術を有しているのは間違いなく……


 M4シャーマンをより高性能な中戦車として、少なくとも皇国を含めた地中海協定連合軍の車両全てを鋳造とするために、川口がその生産を請け負うようにするような事があれば、ストーブで失われた機会的損失を補填することは容易であるというのが俺の考え。


 とはいえ、NUP陸軍と真正面から取引して鋳造装甲のシャーマンを量産すると、それがヤクチアなどに渡りかねないため、国対国による直接の商取引は行わない。


 未だにNUP陸軍は信用できないからな。


 そこでどうするかというと、レンドリース法でM4を調達するにあたり、生産された車両は未完成のまま皇国に輸入。


 この車両に川口製の鋳造装甲を搭載して戦地へと運び込む。


 すでに両国のメーカーと話はつけてある。


 NUP側は"量産に手間取っているので手間が省ける"――などと、初期生産型の量産、つまりは鋳造パーツの製造に苦労していたので、未完成の車両をレンドリースする事に特段問題などは生じなかったが……


 問題が生じなかった最大の理由は"どうせ大したモンが作れるわけがない"――という勝手な勘違いによるものであるのは言うまでも無い。


 あいつらは本来の未来においても戦中において川口を過小評価していたようだが、評価が低いのは川口のせいじゃない。


 あの頃、鋳造装甲を戦車に多用できるほど皇国の技術力は高くなかった。

 重量増大を避けるためにあえなく鋲打ちによる鋼板を用いた装甲とせざるをえなかったのだ。


 川口はもっぱら砲関連での砲身製造などを担当しており、それはやり直した現在の世界においても変わらない。


 俺が最新の戦車を溶接製としたのは将来のためであり、決して川口を評価していないわけじゃない。


 現在も開発が続く駆逐戦車の主砲なども川口が製造しているし、どうしても鋳造でなければならない構成部品も川口に全て任せてある。


 基本は砲身しか作っていなかったから装甲は作れないなどと考えるのは浅はかだ。


 皇国の本来の世界における航空機がプレキシガラスを積層した防弾ガラスを搭載できないからやってなかっただけなように、やろうと思えば出来たが他の部分の技術不足が足を引っ張ってやっていなかった分野は多々ある。


 近いうちにそれを証明してやる。

 M4以外でもな。


 ◇


 皇暦2601年1月18日。

 立川に製造途中の海軍の試作機が持ち込まれる。


 言うまでもなく雷電である。

 各部が最終調整を受け、何度か試験飛行を終えて詰めの作業の途中であった雷電を呼び寄せたのは他でもない俺だ。


 どうしてもこの機体の最後の仕上げをやりたかったのである。


 約1年半前より開発が開始された雷電は、本来の未来の雷電と比較してまるで見た目が異なっている。


 まず外観の大きな違いは細いこと。

 あんなさつま芋みたいに膨らんだ形状とはなっていない。


 当然これはあの形状が空力的に優位とは言えないからであり、当初そのような設計案を考えていた一郎に俺はアドバイスを送り、要撃機として徹底的に突き詰めるようにと計算書などを送っていた。


 その結果雷電は大幅なダイエットに成功しただけでなく、要撃機としてはそれなりに完成度の高い機体となっている。


 基本的に航空機における胴体の中央構造は側面がヘタに膨らんだりくぼんだりするべきではなく、円筒形状で一定の径を維持するのが好ましい。


 乱流が発生する翼等の付近にはいくらか構造変更余地があるが、ロケットの中央部の構造が円筒で胴体の途中で膨らんだりなんだりしないのが当たり前のように、流体力学において最も安定しているのは径が変わらぬ筒形状。


 それを目指せばハ32よりシリンダー径が細いハ43によって、必然的に雷電はダイエットする事になるのだ。


 あわせて俺が一郎に送ったアドバイスは、航続距離を大幅に減らして機体を小型化する事。


 要撃機とはすなわち空母から発艦して敵を攻撃して帰還すればいいわけだから、航続距離は多くて700km程度でいい。


 皇国陸海軍が航空機の基本として求めてくる2000kmなんて必要ない。


 その分、機体を大幅に小型化し、もはやエアレース機に機銃をつけただけのような存在にしてしまえと言ってある。


 役目のために全てを切り詰めることで得られる性能がそこにあると言い切ったわけだ。


 そのアドバイスは実に効いたようで、雷電はGeeBee R1のようなトコトン一郎らしく突き詰めた見た目となった。


 風防は空力的に有利なファストバック型なのは言うまでも無いが、全長は7.62mと異端とも言える短さ。


 全幅も8.90mしかない。

 ここにハ43と排気タービンを搭載し、翼面にホ5を片側に2門、計4門搭載。


 航続距離わずか680kmという活動可能範囲を犠牲に、最高速度669km/hという高速性と、キ47に追随する上昇力を手に入れた。


 何しろその徹底振りは増槽や爆弾すら搭載不可能という点から見て取れる。

 小さな翼の空間は全て20mm機銃に割かれているわけだ。


 運動性は多分に犠牲となっているが元より迎撃対象は爆撃機。

 必要なだけあればいい。


 そもそも迎撃機としてはキ47こと百式攻の存在もあり、こちらも650km以上発揮できる上に高い運動性を保有する以上、ヘタに運動性を付与させて最高速度が低下したのではキ47でよいではないかという話になる。


 だが俺から言わせればこの最高速度の数字は甘い。

 雷電の設計から言えば680km台は確実に出なければいけないはずだ。


 基本設計には俺も尾翼などを手伝って欲しいと一郎に頼まれて手伝っているが、全体設計ではそれぐらい出ていてしかるべき構造になるよう一郎が設計していたのを俺は知っている。


 何しろこいつはどうせ短距離しか飛べないからと、ハ-43Ⅱのパワーを最大にまで搾り出して1920馬力としているんだ。


 この数字はもはや現状のハ43の最大限界出力であり、これ以上出力を上げるには全体構造の見直しと各部の改良などが必要となる。


 それを手に入れて670kmに届かないのが気に入らない。

 試験飛行の結果を聞いた俺が即座に彼らを機体ごと呼び出したのは言うまでもなかった。


 届いた機体を見たら原因がわかった。

 一郎は整備性を鑑みて、キ35で用いた特殊塗装などは施していなかったのだ。


 生まれ変わった零に施して現場で不評だったと聞くから改めたのだろう。


 あくまで軍用機に徹する。


 それはわかる。

 しかしこいつは要撃機。

 速度と上昇力を要求される存在。


 リベット接合部分の隙間などはとにかく塞いでおきたい。

 そして胴体も滑らかに仕上げておきたい。


 どうせそんなことだろうなと予測していた俺はあるものを王立国家から調達していた。


 それは金属用のパテである。

 アルミ合金によく馴染み、磨耗しにくい金属用パテだ。


 王立国家が得意とする接着剤の技術を応用して作り上げたものである。

 こいつと400番の耐水ペーパーを用いて、接合部分の隙間を埋めて各部を滑らかに整える。


 それこそリベットと外板との間に発生するヘコミなども全て埋める。


 このような処理が可能となったのは今年から。


 金属用のパテは俺も百式攻や百式戦に採用しようと考えていたのだが、その前にこの機体に一連の処置を施して感触を確かめたい。


 この処理はかつてP-51に対してNUPと王立国家が試して成功を収めたもの。


 各部の隙間、ヘコミは最高速度を10km以上落とす要因になることを双方はよく理解していた。


 P-51は実は重量が重過ぎてエンジンパワー不足。

 頑丈にしようとしすぎて上昇力が低かった。


 どれだけ低かったかって、本来の未来に存在する一式戦の三型に劣り、翼の失速特性も相まって、皇国陸軍の優秀なパイロットがそこにつけ込んで相手の持つ運動エネルギーを消耗させればP-51を普通に落とせるほどであったぐらいだ。


 一式戦三型の上昇力は4000mまではスピットファイア並み。

 軽さを活かして上空に逃げようとするP-51を三型は何機も落とした。


 五式戦も同じ戦法を用いたのでP-51のパイロットから両機は大いに警戒されたほどだ。


 後にNUPはその対策のためにP-51を大幅に軽量化、改良した試作機を作り、そいつは800km近くの最高速度とスピットファイア以上の上昇力を獲得した。


 しかし結局、改良した機体を量産しようとしたら大幅に機体が重くなり、大幅な性能強化に至らなかったのがP-51H型だったりする。


 それでもP-51の最高速度は脅威。


 その最高速度の秘密を知っているからこそ、こいつを雷電に施して680以上出るはずなので試してみる。


 ◇


「本当に? そんなに出た……のか?」

「何度も計算してみました。間違いありません」


 2日後。


 飛行試験の結果を算出する技研の測量員に対して詰め寄り、何度もその数字が正しいのかを確認するメガネをかけた男の姿が目の前にあった。


 その表情は喜んでいるようにも見えなくもなかったが、ただただ信じられないといった様子である。


 かなりの速度が出たことは間違いない。


 とりあえず詰め寄って最高速度について聞いてみることにした。


「堀井さん。いくつほど出たんですか?」

「信濃技官……先ほどの試験飛行……試製雷電は6500mで685.5km/h出したそうです。本当に出したと思いますか?」

「設計的にはエンジン次第で680kmは普通に越えられる構造でしたからね。各部の隙間などを埋め合わせれば可能かと」

「カタログスペック上の数字はあくまでカタログスペック上のもので、速度はそれを下回るのが私の中での常識だったのですが……」

「その原因を対処したからこそ出た数字ではないですかね」

「ちょっとした隙間がこれほどまでに悪影響を与えていたとは……」


 一郎が驚くのも無理もない。


 雷電はもはや皇国では当たり前となった陸軍式の集中式推力単排気管などが搭載されているが、それがあれば胴体部分の隙間などどうとでもなると考えていたのだろう。


 しかし実はここに大きな罠があるのだ。


 推力単排気管。


 実はこいつ自体は名前の通りそれなりに推力を発生させるもので、機体をコーティングするだけでなく機体を前へ前へと押し出そうとする力もなくはない。


 第三帝国やNUPなんかは排気管を機体後方まで持っていって、少しでもプロペラの牽引力を補助できないかと試作機で試したりしてみたぐらい、この排気による推力の増加は微々たるものだが無視できないものがある。


 その気流の流れを阻む存在こそが各部の接合部分の隙間などだ。

 ここに気流がブチ当たると乱流が発生するばかりか層流まで発生させる。


 推力単排気管がない場合、この部分においては尋常ではないほどの効率の低下が生じ、推力単排気管があることでそれを補ってきたのが従来の状態。


 つまり、ここの効率の低下を押さえ込めば推力単排気管はさらに仕事をしてくれるというわけだ。


 NUPと王立国家はそれを知っていたため、P-51を作る上では凹凸構造にならないよう、外板の最少厚に制限を加えた。


 その上で製造時には本来よりもブ厚い外板をリベット止めし、最終工程にてヤスリとパテを駆使して設計どおりの完璧な状態になるよう整えたのだ。


 その結果がP-51の700kmオーバーという数字であり、雷電ももっと突き詰めれば690kmだって不可能ではない構造となっているため、このような結果を出せたのである。


 例えば雷電の場合は粗いサンドペーパーで削っただけの現状の状態に、ツルツルな摩擦係数の低い塗装を施せば+5kmぐらいは乗っかるはず。


 690kmぐらいは出してもらわないと要撃機として今後に不安がある。

 後で一郎にこの状態からさらに塗装した上でテスト飛行するよう促しておこう。


 その状態が良好ならキ43とキ47に導入だ。

 製造時の手間は増えるが、お手軽に性能向上を果たせるだけに手間を惜しんではいられない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 法律は全体的に見直した方がいいでしょう。 特に性犯罪、ひいては強制性行などに関する法律ですね。 強制性行罪などに関しては2010年代まで百年に渡り改正されることなく、こう言ってはななんですが…
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