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航空エンジニアのやり直し ~航空技術者は二度目に引き起こされた大戦から祖国を守り抜く~  作者: 御代出 実葉


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第116話:航空技術者はエンジンパワー解決のために軸流式ラムエアタービンを採用する(前編)

長すぎるので前編後編に分けます

 俺はこの日の午前。

 技研の会議に参加して戦地からの報告を受けていた。


 報告会議の主要な議題となったのは3つ。

 1つはCs-1のタービンのクラックに関する問題。


 当初より高性能なジェットエンジンとして完成したCs-1だが、やはり過酷な環境における連続運転にタービンが耐えられず、整備中にクラックが見つかる事例が相次いでいる。


 技研では一応、72時間に1度エンジンを総メンテナンスすることとしており、現地での整備においては簡単にエンジンが下ろせるロ号の構造から、エンジンそのものを交換することにして整備時間の大幅な短縮を図っていた。


 交換したエンジンはタービンの状況などをくまなくチェック。


 問題が無いとされたものは次の整備で新たな機体に搭載され、クラックなどが見つかったエンジンはタービンなどを丸ごと交換するようにしている。


 報告では一部のエンジンは200時間近く経過してもクラックがみられなかったが、運用されるエンジンの4割ほどが70時間ほどでタービンのどれかにクラックが入り、タービンブレードの精度にバラつきがあることが現地での課題となっていることが明らかとなっていた。


 俺から言わせれば、表向き大きな声ではいえないし恐縮ながらも贅沢な悩みだと言いたい所だ。


 Me262のエンジンメンテナンスは1回の飛行につき1回。

 それもオーバーホールが必要な状況。


 その際にエンジン全て下ろしてバラしてタービンブレードを交換するという、エンジンは使い捨ての消耗品みたいな扱い。


 皇国で誕生したネ0やネ10なんか分単位での運用しか出来ないとされていた。

 それでも実用型戦闘機として採用したくなるほど高性能なエンジンだったわけだ。


 2600年代で70時間以上使えるのは当然にして熱量が低いCs-1の最大の特長ゆえだが、人間というのは一度便利なものを手に入れるとさらに便利なものを求めたがる。


 200時間運用できるタービンブレードもあるのだから、その精度を常に出せるよう努力してほしいと前線から注文がついたのだ。


 ようは整備サイクルまでの運用可能時間を増やせということ。


 その点に関しては今後G.Iがエンジン製造に本格的に参入するので問題ないはずだが、キ70は一体どれだけ酷使されているのだろう。


 現在、前線へはシコルスキーが量産を開始したサイクリックピッチなどのメインローターの部品が続々と運び込まれているが、改修時に各部の疲労が指摘されてオーバーホールが必要となる機体がいるかもしれない。


 聞いた所じゃパイロットを交代しての24時間運用がなされ、エンジン載せ変えたらすぐ飛んでいくような有様だという。


 報告会議内においては、野戦病棟がある駐留基地の無線室内には常に「メディーーーーック!」という言葉が叫ばれ、優先順位を決めて飛行経路を策定するのに苦労するなど、運用面において数が足りないことが如実にわかるような生々しい話が出てきている。


 NUPはそれを防ぐ為に戦後の戦争において合成写真か何かの間違いではないのかというぐらい大量のヘリコプターを密林などに持ち込んでいった写真が本来の未来において残っているわけだが、救助機・救援機の需要はそのぐらいあるものだということ。


 シングルローターになって200km出せるキ70の運用効率の上昇と、夜を徹して開発が急がれるスカイクレーンもどきの投入でどう変わるかだが、技研内においては出来れば早い段階ですでに当たり前のごとく皇国らしくない"スーパーアンビュラス"と呼ばれている新鋭機の開発と実戦投入を行おうということでまとまった。


 もっとなんかこう、皇国らしい名前はなかったのだろうか……


 2つ目の報告もやはりヘリコプター関係だった。

 前線からのもう1つの悲鳴は、パイロット不足。


 24時間運用を行うようになり、大量のパイロットを交代させて連続運転させるようになったが、連合王国内の運用だけでもパイロット不足が深刻になってきているという。


 中々適性をもつ者を選別できないらしい。


 王立国家などユーグだけの問題ではなく、共同運用して後方作戦に従事する皇国においても例外ではなくなってきていた。


 原因は航空機パイロットの適性があるとされた者が回転翼機の適性があるわけではなく、特異な才能がある者でないと飛ばせないからだというが、流石にそれは「そんなものこちらが知るか。なんとかしろ」と思わず会議室内で発言してしまった。


 無論、その後にその理由も説明した。


 まず回転翼機というのは、操縦方法がまるで一般的な航空機とは違う。

 サイクリックレバーを下げると後ろへ、前に傾けると前方へ。


 固定翼機は常に前に進む中で上下運動を操縦桿に任せるが、機首を上げるようとすると後ろに下がってしまう。


 上昇と降下は固定翼機ではスロットルレバーに相当するものを用い、ここではピッチ変更も可能となっていて、ヘタに弄るとヘリが引っくり返る可能性すらある。


 ゆえに初心者が教習訓練を受ける場合、ここの操作は教官にしか許されていない。


 ゆえに固定翼からの転換は尋常でないほど敷居が高く時間がかかるものだ。

 やるなら固定翼に触れる機会が無かった者の方が習熟が早いのだ。


 だから俺は当初より陸軍に進言してオートジャイロの部隊を中心にヘリコプター運用部隊を組織させた。


 また、その危険性を認知していたため、オートジャイロからヘリコプターへの転換が行われた際には、才能がある者達を中心に一連の操縦に慣れてもらい、後に続く訓練生にはサイクリックレバーとラダー操作のみ行わせることとしたマニュアルも作成していたほどだ。


 訓練中に大変貴重な教官が亡くなってもらっては困る。

 機体は大破してもいいが貴重な人材は失えない。


 安全面には徹底的に配慮するよう促していた。


 このマニュアルは他の国においても踏襲されており、その結果それなりに訓練時間がかかるようになってしまっているわけだが、いきなりの実戦投入で多数の死者を出したNUPのような真似事は出来ない。


 大戦の戦中こそ訓練を重ねた者にしか操縦させなかったNUPは、密林における戦いでは多数の志願者を短時間で育て上げて投入したが、相応に機体と人員を失う結果となった。


 ユーグにおいてそんな物量作戦は出来ない。


 だからともかく俺が運用開始前より主張していたのは、ヘリコプターの適性がある者を見出して積極的にパイロットにしていく事だ。


 ヘリコプターパイロットへの適性とは3つ。

 1つ、空間把握能力。

 2つ、優れた体幹を持っている。

 3つ、理系で物理学に理解がある。


 ヘリコプターというのは未来世界の自動車レースのレーサーのように計算が出来る者でなければ操縦できない。


 例えば2660年代以降のインディ500なんかはもはや計算の世界だ。


 ヘルメットに受けた風の具合から前方の乱流を予測。

 それに合せて走行中にフロントとリアのウィングを調整してダウンフォースを整える。


 それだけではなく外からも走行中の様子をモニタリングし、ドライバーへと無線で情報を伝える。


 それだけじゃない。

 気温によって膨張、収縮する大気の状態を見てエンジンの圧縮比やダウンフォースの調整までする。


 もはや彼らは本能で乗りこなしているわけではない。


 ダウンフォースはすなわち抵抗なので、いかにダウンフォースが不要となるような空間を見つけて走り込むかがインディ500の肝。


 その空間は時には前方にいる車の真後ろではなかったりする。


 前方左右に他の車がいる場合は、前の車の車体の半分横あたりが最も効率のいい空間でスリップストリームを得られる場合がある。


 中央付近は乱流が重なり合ってむしろ極めて効率が悪く、そしてその近くである両サイド内側の前方の車体の左右半分あたりまでも同じく効率が悪くなっている。


 むしろその両サイド外側の車体半分横あたりが極めて効率がいいような風流の流れとなっており、前の車の後輪に自分の車の中心線を合わせたりして走ることで効率的に加速できる。


 その際にも左右で受ける風の流れは異なるわけだから、ステアリング操作と同時に細かいピッチ変更が必要。


 極めて高い才能を持つドライバーは、時にはヘルメットに受ける風すら抵抗となるので顔を左右に傾けたり、肘を出して片側の抵抗を増加させて調節するような事までする。


 自分の肘をエアロパーツにするようなレースはインディ500ぐらいなものだが、もはや彼らは風の魔術師と言えなくもない。


 350km以上で走行する車に対し、自らの体で抵抗となる構造体を作って走らせる姿は異質だ。


 カーブと直線で絶えずウィングのピッチ変更しながら走る姿は、もはや今の時代のレースとはわけが違う。


 しかしそれこそヘリコプターの操縦に必要なものなのだ。

 ヘリコプターは横風などの影響を受け、絶えずその状態が変化する。


 それだけではなく、テールローターに受ける風の具合によって絶えず機体が回転しようとする。


 強風のホバリング時なんか、必死でラダーペダルを踏み込んでサイクリックピッチを傾けて、コレクティブ ・レバーを常に細かく制御して同じ高度を保つようなことをしなければならず、正面の気流を読んで操縦桿とプロペラピッチ等を制御すればいい航空機よりよほど操作は複雑。


 それこそ機内は与圧されていないことから、体が受ける気圧の状態すら五感で理解して操縦に反映させるようでないといけない。


 そんな才能を持つ者は必ずしも固定翼機の操縦が上手いわけではなく、固定翼機では落ちこぼれとされるような人間が、ヘリコプターのエースになれたりする。


 その逆もある。

 両方に適性があるような者を探しているようでは駄目なのだ。


 より人材を増やしたいというなら、上記3つの条件を満たすような、それこそ普段はハンティングなどに勤しむような優れた触覚と空間把握能力と体幹を持つ者を積極的に訓練生として採用すればいい。


 空間把握能力は重要。


 眼だけで大体の正確な距離を測れる者であればあるほど、体の傾きだけで今傾いているのかそうでないのか判断できる者であればあるほど、ヘリコプター操縦者としての適性がある。


 それは固定翼機のパイロットでも重要な要素であるが、それこそ砲撃手など、それらに突出した人材の方がヘリコプターには向いている。


 固定翼機のパイロットは目の良さばかり重視されているが、眼の良さだけに留まらない人材を見出していく方がいい。


 既存の人材で適性があるとされる者が少なく、パイロットの増員が出来ないというなら、手段を選ばず、才能がありそうな者を発掘していく他ないだろう。


 例えばロ号については海軍も運用を行っているが、元々は水雷戦隊に所属していた人間が適正を見出されてパイロットとなった例がある。


 統合参謀本部会議でそのような話を聞いた。


 風と潮の流れを読む適正がヘリコプター操縦にも活用できたのだろう。

 また、ヨットの名手とされた水兵が見出されたという報告も挙がっている。


 灯台下暗し。

 案外近くに人材は埋もれているもの。


 だからつまり、結論から言えば、手段を選ばず何とかしろとしか言いようがない。

 コンピューター制御が出来る時代などではないからな。


 皇国海軍のように柔軟に人材を見出していけばいい。

 体重移動のみで操縦するグライダーを趣味とする連中とか……いるだろう。


「――ともかく、そういう軍上層部がどうにかできそうな問題を、技研内の、それこそ航空技術の問題みたいな事にしないで頂きたい。ヘリコプターとは極めて操縦にクセがあって高い操縦難度を要求する、優れた才覚を持つ者が乗りこなすものだと認識を改めていただかないと」

「信濃技官。それを面と向かって上層部に直接言えるか?」

「副所長が出来ぬとおっしゃられるなら、今度の統合参謀本部会議の場において、周囲からまるでものおじしないと言われる私が代わりに言いましょう。効果はあるかわかりませんが、技術的解決困難を極める要素に無茶な要求をせんでくださいとはっきり言いますよ。それこそ人材発掘を行う事務方はそれが仕事でしょう」


 俺の言葉に誰かが「フッ、全くだ」とクスリと笑う者すら出てくる始末だが、間違ったことを言っているとは思っていない。


 立場を弁えていないと批判されても俺ならば言う。


「我々は確かに技術者であって、より操縦が簡便なものとするとか、安定性が高いものを作ろうと努力しなければならない立場ですが、それが解決できうる、より高性能なヘリなど現状存在しない。しかもその高性能な機体であるスーパーアンビュラスの投入は早くとも来年の夏。それでも操縦性がどれほど改善されるかわからない。確かに安定性はロ号より格段に上がりますよ。双発機の利点を活用して新鋭な設計にしましたから。現状だとソレですら不満が出そうだ。それは多少慎んでもらわないと。どんなにがんばったって限界はあるのだから、そこは割り切って承知していただかねば」

「それだけ期待されているということさ信濃。不満は期待の裏返し。先ほどの話については恐らく人材の選定を行う事務方の者達に指標となるマニュアルなどがないために発生している可能性もある。人材発掘用マニュアルをお前が作ってやるべきじゃないか」


 また仕事を増やす気か中山め……

 こっちはヘリコプターの詳細設計やらロケット開発やらで忙しいってのに。


 それに他にも解決、開発したい存在がもう2つある。

 あんまり手を焼かせるなと。


「……ならば1日ほど時間があればマニュアルをこさえます。それを提出した上で上層部をなだめて下さい。海軍の事例を参考に大砲屋がヘリコプターに1度は乗るよう上層部が働きかけたくなるような内容を書きます……それでよろしいですか?」


 周囲はシンと静まりながら、副所長は黙って頷く。

 俺は技研の所長ではないんだがな……全く。


 こうやって何でも仕事を任されるのも信頼がある故だろうが、上層部に頭が上がらない者達をこのような形で助ける為に割く時間をもっと減らしたいものだ。


 3つめの議題となったのは、俺がすっかり忘れていた存在だった。


 百式機動二輪車だ。

 宗一郎などに頼んで作らせていた軽二輪車両の話である。


 12月末に量産に移行した百式機動二輪車については、俺が加賀でユーグに向かうことなどから技研の他のメンバーに任せていた。


 報告としては、平地なら時速100kmを十分出せる極めて優秀な車両となっているとの事。


 各メーカーで品質のバラつきも特になく、従来までの二輪車と比較して優れた悪路走破性を持ち、皇国に留まっている陸軍歩兵部隊からの評判は大変よろしいものであるという。


 すでに1500台ほどが完成。

 年内に3万5000台を調達し、皇国、華僑、ユーグの3地域に分配する事が決定されていた。


 会議室内には報告に合わせて実際に完成した車両の1台が運ばれてきたが、皇国人の体格に合うような小柄のバイクに皆興味津々な様子である。


 こいつは今後立川や調布などの飛行場内でも移動手段などとして運用されるだけでなく、生産コストを下げる為に民間においても販売される。


 発売日は来月の節分の日。

 すでに逓信省からまとまった数の注文が入っており、郵便配達などに使われる予定である。


 皇国の二輪車市場を切り開くベース車両として売れてくれればいいのだが、どれだけ評価されるかは未知数。


 会議内ではアペニンなどを中心に広まりつつある、スイングアームを導入した二型の開発を始めることが発表されたが、スイングアームを搭載したらほぼほぼ宗一郎が未来に作るベンリィC90に匹敵するようなバイクになりそうだが……どうなるかは未知数。


 まあ、作ることにこしたことはない。


 俺もそういうバイクは1台欲しいぐらいだ。

 近場を移動するのにいちいち車は使っていられない。


 自転車では時間がかかるような場所にすばやく移動したいので一型も含めて購入を検討しておこう。


 まあ買わずとも立川に何台か入るようだから、自分専用に確保するという手もあるが……


 税金横領みたいな真似になるから精神衛生的によろしくないので乗りたい場合は素直に買うことになるだろうな。

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