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斑鳩、人生最大の失敗をする!

 歳三は巨大な狼の姿のまま、川辺に寝そべっていた。


 日向ぼっこを楽しむように、穏やかに目を細めながら、のんびりと時を過ごしている。


 

 あれから三ヶ月。


 壊滅していく響都を最速で離れながら、途中で勇達と合流して。


 その際に体中に抱きつかれたり頬擦りされたり泣かれたりしながら、それでもみんなで北を目指すことになった。


 海を越える際にどうしたかというと、これがまた歳三にとっては非常に不本意なことに、みんなを背に乗せて泳いで渡るという手段を取った。


 北へ向かう船などほとんど無かったし、そもそも狼の姿になった歳三を船に乗せて貰うわけにもいかず、なおかつみんな歳三と別行動を取ることを了承しなかったので、結果としてそんな方法になってしまった。


 もちろん歳三の身体はみんなを乗せても余裕があるほど巨体になっていたし、狼の姿になっても泳ぎは達者だったので問題はない。


 魔力による身体強化で驚異的な速度で海を渡れたこともまあ、船を利用するよりは早かったと言えなくもない。


 しかし乗り物扱いされた歳三としては、しばらく不満を隠せなかった。



 北の大地に辿り着き、まったく人の手が入っていない大自然を前にして、みんながようやくホッと一息ついた。


 そこから生活できるまで環境を整えるのはそれなりに大変だったが、少人数だったこともあって、環境適応はかなり早かった。


 いまは小さな集落も作ってそこで落ち着いている。


 漁をしたり狩りをしたり、作物を育てたりしながら、みんな穏やかに日々を過ごしている。


 歳三は集落から少し離れた川の畔に住むことになり、自然の中でゆったりと過ごしている。


「うん。今日は日差しが気持ちいい。一日ごろごろするにはもってこいだな」


 気持ちよさそうにごろごろしながら、歳三は満足そうに目を細める。


 狼の姿になってから、川辺の日向ぼっこが何よりの楽しみになってしまった。


「おーい、トシ。昼飯もらってきたぞー」


 集落の方から斑鳩がやってくる。


 大きな盆に盛った大量の食事。


 身体が大きくなってから食べる量もかなり増えてしまった歳三だった。


「斑鳩か。そこに置いてくれ」


「おう」


 斑鳩は歳三が食べやすい位置に盆を置いた。


 そのまま歳三の腹あたりに腰を降ろして、もたれかかる。


「……私はお前の背もたれではないんだがな」


「気にするなよ。気持ちいいんだから」


「……私は重いぞ」


 といいつつ、悪い気分ではないので食事を平らげながら好きにさせておく。


 いつの間にか二人で眠りこんでいた。


 日差しが気持ちよかったからだろう。



「おーい! とっしー、いっきー!」


 総司が気持ちよく眠っていた二人のもとへ駆け寄ってくる。


「……ねむい」


 あふ、と口元を抑えながら総司を見る斑鳩。


「どうした……?」


 歳三も眠たげに総司に問いかける。


「今日の晩はご馳走だよ!」


「ご馳走?」


「クマ鍋!」


「クマぁ!?」


 斑鳩がびっくりして跳ね起きる。


「ぼくが仕留めたんだよ! 勿論一対一でねっ!」


 えっへんと胸を張る総司。


「そりゃすごい。大分勘を取り戻したんじゃないのか?」


「うん。人間の身体も大分慣れてきたよ。クマくらいなら勝てる!」


「……それも人間離れしてると思うけどな」


 核石を失った総司は、北の地に辿り着いてから再び訓練に励んだ。


 今までのような核石に頼っていた戦い方ではなく、人間としての戦い方を一から学ぶようになった。


 斑鳩との訓練を経て、ようやくまともに戦えるように勘を取り戻したと思ったら早速クマなんぞを仕留めてきたのだ。


 それは驚くに決まっている。


「とっしーの分は生肉でもいいけど、どうする?」


 狼になってから生肉も好んで食べる歳三だった。


「いや。折角だから鍋がいいな」


「わかった!」


 総司は元気よく返事して集落の方へと戻っていく。


 その後ろ姿を見送りながら、歳三はやれやれと溜め息をついた。


「力を奪われたときはどうなるかと思ったが、元気になって良かったな」


「ああ。総司はもともと才能があったんだろ。人間としての戦い方も結構覚えるの早かったしな。クマ殺しの総司、なんてレベルにまでなってるし」


「あはは。クマ殺しね。大したものじゃないか。核石を奪われたときは鴨のことを相当に恨んでいたが、立ち直りも早いし、結果としてはアレで良かったかもしれないな」


「殺されるよりはずっとマシだっただろうし。鴨もやっぱりトシには弱かったんだな」


「………………」


 目の前で消えてしまった親友を思い出して、歳三が目を伏せる。


「そんな顔するなって。鴨がトシに甘かったのは、あいつがトシを大好きだったってことだろう? だったらそれでいいじゃないか。トシが大好きだったからあいつは総司を殺せなかったんだ。核石の力を奪うだけで留めたんだ。だからトシは笑ってないと駄目なんだぞ」


「分かってる……」


「………………」


 辛そうなまま返事をした歳三に、斑鳩が黙り込む。


 何かを考え込んでいるようだ。


「って、ああっ!」


 大事なことに思い至ったらしく、いきなり立ち上がる。


「わっ!? どうしたんだ斑鳩」


「そうか! そうだそうだそうなんだ!」


「な、なんだなんだ!?」


 一人で納得したように頷きを繰り返す斑鳩を怪訝そうに見詰める歳三。


「そうだよな! うわあ俺馬鹿! ちょー馬鹿! なんで今まで気が付かなかったんだ!? 死ねばいいのにマジで俺死ねばいいのに! いや今からでも間に合うちょー間に合う! 今日はクマ鍋だし、一緒に食べればいいんだから!」


「お、おい斑鳩。一体どうしたんだ?」


 いきなり支離滅裂なことを言い出した斑鳩を本気で心配する歳三。


「トシ!」


「な、なんだ!?」


 いきなり顔を近づけられて戸惑う歳三。


「ちょっと抱き締めていいか!?」


「? 別に構わないが」


 歳三が了承すると、斑鳩はその大きな頭部をぎゅっと抱き締める。


「斑鳩……?」


「そのまま、目を閉じていてくれ」


「……ああ」


 よく分からないまま、歳三は目を閉じる。


 右の首筋に熱を感じた。


「っ!」


 そこから体中が熱くなって、歳三の中で何かが弾けた。


 抱きしめてくれる身体を大きいと感じるころには、何をされたのかを理解した。


「あ……」


「もう目を開けていいぞ」


「え……うわ……」


 目を開けて飛び込んできたのは、自分の目線より高い位置にいる斑鳩の姿だった。


 さっきまで自分が見下ろさなければならなかった体格差が、いつの間にかなくなっている。


「えっと……」


 自分の身体を確認する。


「………………」


 人型に、戻っていた。


 いや、人間になっていた。


 混血の斑鳩に核石の力を吸収されて、歳三は人間になったのだ。


「私……は……」


 懐かしい人型の身体を確認しながら、まだ戸惑う歳三。


 そんな歳三に斑鳩はガッツポーズで破顔する。


「よっしゃ! 俺最高! 俺天才! 核石を吸収すれば元に戻るかもって思いついた俺最高!」


「………………」


 心底嬉しそうに笑っている斑鳩を見て、歳三も自然と笑みがこぼれる。


 二度と人のカタチに戻れないと覚悟していただけに、たった三か月で戻ってしまったのはいささか拍子抜けではあるが、もちろん嬉しいことに変わりはない。


 随分といきなりな展開だが、もちろん不満もない。


「斑鳩……ありがとう」


 だから素直に礼を言った。


 もう一度人のカタチに戻してくれた斑鳩に。


「え? あ、ああ。うん」


 斑鳩は照れているのか、ちょっと赤くなりながら頷いた。


「?」


「いや、もーちょっとそのままがいい。そのままでいてほしい」


「?」


 よく分からない物言いに、首をかしげる歳三。


「いや、いい眺めだから」


「っ!!」


 言われて、自分が裸で立っているのに気が付いた。


「うわあっ!」


 次の瞬間、歳三が取った行動は、胸元を両手で隠すことでも、恥ずかしがってしゃがみ込むことでもなく、斑鳩に襲い掛かってその上着を奪い取る事だった。


「うぎゃっ!」


 その際、斑鳩の顔面を一発殴っておくことも忘れない。


 裸体を堪能された恨みとしては安いものだろう。


「まったく!」


 素早く上着を羽織ってから斑鳩を睨みつける歳三。


「せっかく素直に感謝したい気分だったのに、大事なところで台無しにしてくれるなお前は!」


「うぅ」


 顔面を押さえながら起き上る斑鳩。


「でもその服から見える生足もなかなか……」


「もう一発殴られたいか?」


「いえ結構です」


 恨めしげに斑鳩を睨んでから、歳三はふっと微笑んだ。


 人として生きていけないと覚悟した時に封じた気持ちを、今伝えようという気持ちになった。


「こんな時に何だが、聞いてもらいたいことがある」


「ん?」


 改まった歳三に斑鳩も姿勢を正す。


「あの時の答えだ」


「………………」


 歳三はゆっくりと斑鳩に近づいて、その胸板にこつんと頭を預けた。


「私も、斑鳩が好きだ。斑鳩と一緒に生きていきたい。これからは、人間として」


「トシ……」


 歳三の華奢な身体をそっと抱きしめながら、斑鳩も満足そうに頷いた。


「もう二度と、聞けないかと思ってた」


「ああ。私も、狼の姿で言うつもりはなかったからな」


「だから、俺も嬉しい」


 ぎゅっと抱きしめる腕に力を込めて笑う。


 そのまま唇を重ねて、芝生の上に押し倒した。


 しばらく斑鳩の重みを堪能しながら、目を閉じる。


 こんな時間を過ごせるなんて、夢にも思わなかった。


 一つの夢が叶うというのは、こんなにも幸せなことなのだと実感する。


 斑鳩は歳三を下にしながら、そっと頬に触れた。


「クマ鍋にしておいてよかったな~」


 などと冗談交じりに言う。


「あはは。確かに。この身体で生肉を持ってこられたら困り果てていたところだ」


「晩飯時に一緒に集落に行って脅かしてやろうぜ」


「悪くないな、それ」


 本当はすぐに教えてやりたいところだが、もう少しだけ二人で一緒にいたかったのとほんの少しの悪戯心が勝った。


 もう少しだけ斑鳩の腕の中にいたかった。


 その幸せをかみしめていたかった。


「って、ああ~~~~っ!!」


 斑鳩が弾かれたように起き上がる。


「ど、どうした!?」


 絶望的な表情で跳ね起きた斑鳩を見て心配になる歳三。


 何かまずい事でもあるのだろうか?


「馬鹿! 俺の馬鹿! 俺最低! 俺最悪! 死ねばいいのに俺なんて死ねばいいのに!!」


 心底悔しそうに頭を抱える斑鳩。


「どうしたんだ一体!?」


 心配そうに斑鳩を覗き込む歳三。


「トシを完全に人間にしちまったら尻尾が堪能できないじゃないかっ! どうにか加減して尻尾だけでも残るようにしなかったなんて俺って奴は最低だぁ! 尻尾マニア失格だあああぁぁぁぁぁぁ!!」


「そっちかああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」


「ぐぼへあっ!?」


 心配した分の怒りも上乗せした歳三の華麗なるアッパーカットが斑鳩の顎に決まった。



 その後、顎を腫らした斑鳩とちょっと恥ずかしそうにはにかんだ歳三が集落に姿を現して、クマ鍋パーティーがさらなるお祝いに発展したことは言うまでもない。


 天牙の民はこうして最後の血を残しながら、北の大地で穏やかに過ごすことになる。


 時々は斑鳩が殴られるうめき声を響かせながら、今日も北の大地には平穏な時が流れる。


 











これで一応完結であります。

長かった……

勢いだけで書き続けた天牙もこれでようやくお終いか。

うん、私頑張った!

読んでくれた方に最大限の感謝を。

今までお付き合いくださいまして本当にありがとうございました。

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