第97話ー悪を退けたあとにー
注!ちょっと大人の匂わせありです。
ほんと、匂わせてるだけ!!!!!
セーフです!セーフ!
そして勢いで書いたので長めです。
よろしくお願いします。
冒険者達は、黒龍会、窮奇幣、白澤堂の他、それに付き従うものたちを縄で縛り上げてひとところに集めていた。スラム街の入口は、数珠繋ぎにされたマフィア達でごった返す。
縁の元にギルドマスター、沈 宇軒が駆け寄ってきた。
「あっという間の捕り物劇でしたな。さすがです。」
沈は握手を求めて手を伸ばす。縁はそれに応え、
「あぁ、ギルドマスター。悪魔も対処したよ。ネームドでもない、中位なりたての下っ端だったがな。こけおどしもいい所だ。なぁ。」
と後ろをチラリと見やる。後ろでは満面の笑みを浮かべたベリアルが頷いている。
沈は、
「あの、この方は?」
とおそるおそる聞く。
縁は、
ーあ、やっちまった!!ー
と思っていた。
なぜなら、ベリアルの6枚羽がかさばるので隠させたからだ。そのせいで、ベリアルは突然現れた絶世の美男子と化した。更には縁にベッタリと絡みつく、ときているから始末に負えない。
「こんにちはギルドマスター。私は縁様の忠実なる名も無き下僕。ご心配なさいますな。」
ベリアルはにっこりと笑って言った。沈は何となく身の危険を感じ、
「それはそれは。この度はありがとうございました。」
と慇懃に礼をした。
「とんでもない!ギルドマスター。私は縁様に仕えることができ、恐悦至極でございますから。」
とアルカイックスマイルでベリアルは言った。
縁は、
ーこいつ調子に乗りやがって!!ー
と思いながら、ベリアルの足をそれとなく踏んだ。
「ッツ!」
縁の怒りを感じたベリアルは、ササッと後ろに下がる。
弟子3人組は、ベリアルが師匠にベタベタとくっつくのを、異様な目で見ていた。
…ねぇユエ、イケメンな男性の、女性への接し方ってあんなものなの?…
と思考共有でヤンガが尋ねる。
…あんなのふつーにセクハラ。なんで師匠がブチ切れないのか不思議なんですけど。…
ユエは小首を傾げる。ヤオは、
…そうだよなぁ。あんなのしてたら母上にビンタされる。やっぱり悪魔だからかな?…
と思案していた。
「縁様、今後のことについて、知見をお借りしたい。ギルドに来てくだされますかな?そして今晩は、ギルドに併設してある酒場で酒盛りです。縁様は、最大の功労者。ぜひ宴に出ていただきたい。」
と沈は言った。
「わかった。その代わり宴は私は1次会だけだぞ。私用があるのでな。弟子たちは好きにさせる。あと台湾に渡る船の予約を明後日に伸ばすように遣いを出してくれると助かる。」
と縁は答える。そして
「ヤオ、ユエ、ヤンガ、ギルドに行くぞ。お前たちも街の成り立ちを知る良い機会だ。」
と弟子3人組に声をかけた。
「「「はーい!」」」
3人は元気よく返事をした。
縁達と沈は、馬車で冒険者ギルドに向かった。
ギルドマスターの執務室に着くと、既にもう書類が山となりつつある。
スラム街強襲の際に警備兵に応援を要請したあとの謝礼の書類。冒険者たちに支払う報酬の決済。もちろん、"蓮花の理"に支払う破格の報酬もだ。
沈はソファに深く腰掛けると、机に腕を組んだ。縁達もそれにならう。
「さて、縁様。スラム街では大きく勢力図が変わりました。恐らく今後、新興勢力の台頭は避けられないでしょう。しかし、せめて子供たちだけでも、真っ当な道に進ませてあげたい。更に、今後、模倣犯も防ぎたい。この2つを最優先で考えたいのですが、いかがですかな?」
と沈は言った。
「大都市にスラム街はつきものだ。どんなに足掻こうが、真っ当な道から外れる輩はいる。それを受け止め、スラム街は独自のルールを持って成立している。子供のことを考えるなら、まずは孤児院への資金援助だな。スラム街で産まれた子を孤児院へ迎え入れ、独り立ちするまで育てることが必要だ。州知事に援助を申し込むしかあるまい。私が倭国日本の外交官としての権力を持って、一筆添えよう。」
縁は、腕を組んで言った。沈は、
「一筆いただけるのですか?縁様のお立場は私のような冒険者のトップとは違うもの。SSSランクの冒険者だけでなく、土地や民を守る役職につきつつ、日本国の勅使として参られた。州知事にもそう無下にはできまい。ありがとうございます。」
と頭を下げた。縁は続けて、
「模倣犯の排除だが、ベリアル、いけるな?」
と隣に座っている最古の悪魔に尋ねる。
「主の頼みとあれば。」
縁に話しかけられることが最上の喜びだと言うような様子で、ベリアルは答えた。
ピクリ。沈の眉が動く。
ーベリアル、だと…?堕天使であり、ソロモン王72柱の悪魔の王。そんな馬鹿な…。ー
沈のこめかみに汗が滲む。
「ギルドマスター、こいつがやってくれるそうだ。模倣犯は一生現れまい。」
縁は皆の様子をまるで無視して言った。
「そ、そうですか。ならば安心いたしました。」
沈はハンカチで額を拭きながら言った。
ー縁様は、気になさっていない。大丈夫、大丈夫。ー
と自分に言い聞かせながら。
縁の書類仕事は午後に至るまでかかった。その間に、台湾行きの船のリスケもギルドの職員が対処してくれた。
午後の日差しの中、縁一行は、1度、凪の風亭戻った。夜の宴会に備えて、ひと休みする。
その間にー
ベリアルは福州の州都を見下ろす空に浮いていた。青い空に、毒々しいほどの黒と血のような紅い瞳。
「さて、縁ちゃんのお願いとあっちゃあ、手は抜けないねぇ。ま、マーキングするだけだけど。俺のものにはちゃんと印をつけなきゃね。」
ベリアルは独白する。
実はベリアルは捕らえられたマフィア全員から、少々魂を削って吸収していた。
なぜならーー。
"絶望した魂程、美味しいものはないから。"
「ククク。」
ベリアルは高揚した笑みを浮かべる。
縁も黙認しているので、なんの罪悪感もない。そもそも悪魔には罪悪感など存在しない。
ベリアルは唱える。
「天より堕ちし黄金の戦車よ、我が強欲の境界を敷け。この器に満ちるすべては、我が主の掌中の財。一粒の砂、一人の命、一滴の涙すら、有象無象の雑魚に渡す事なかれ。ーー『傲王の禁域』、展開。」
街全体に漆黒の魔法陣が浮き上がる。それはベリアル、他は縁であれば視認できたであろう極上の魔術。
「はい!お仕事終了〜!後は対価を縁ちゃんから頂き〜!」
ベリアルは、福州の州都全体にマーキングを施した。悪魔の王たるベリアルの、"所有物"を犯す魔の者はそうはいない。これで模倣犯は現れることはないだろう。
凪の風亭の窓から、縁の部屋に侵入したベリアルは、
「縁ちゃん、終わったよ〜」
と気軽に声をかける。縁は、
「おい、勝手に入ってくるな。ノックぐらいしろ。代償は1次会の後で払ってやる。しばらくステイだ。」
ベッドに腰掛けて言った。
「はいはい。早く終わらせてきてね〜。俺ここで待ってるから。」
ベリアルは図々しく、靴を脱いでベッドに寝っ転がった。
「はぁ〜。」
縁は一言ため息を吐くと、
「大人しくしとけよ。まじで。」
と言い捨てると、部屋を後にした。
「マフィア掃討作戦!無事完了!!それを祝して!カンパーイ!!」
黒龍会を倒したAランク冒険者が、乾杯の音頭をとる。ヤオ、ユエ、ヤンガは見たこともない貝や、魚介類に、モンスターの肉に、箸が止まらない。3人は蛟なので見かけの若さに合わず、うわばみである。酒もあればあるだけ飲む。Sランク冒険者の弟子ともあって、冒険者の若手から話しかけられている。
縁は隅の方で、"玄天の一陣"の墨 蓮陰達、ベテラン勢と、白酒をちびりちびりとやっている。
そこにギルドマスターの沈が盃を差し出した。
「本来なら明日出港でしたのに、足止めをして申し訳ない。随分と助かりました。ありがとうございます。」
縁はその盃を受け取り、注がれる酒を見つめる。
「ギルドマスター、私の分の報酬は孤児院に当ててくれ。」
縁は盃の酒を飲み干すと、空間術式から袋を取り出した。袋はゴツゴツしていて、外から見ても金銭だけでは無いことがわかる。沈は中身を確かめることはしなかったが、目を丸くして、
「…こんなに、よろしいのですか?」
とずしりと重い袋を持つ。
「孤児院っていうのは、個人的に思い入れがあるのさ。いっぱい食わせてやってくれ。」
と縁は微笑んだ。
「ありがとうございます。福州の冒険者として、お礼申し上げます。」
蓮陰が頭を下げた。
「蓮陰、ギルドマスター、今日は良い夜だった。私は私用があるからここで退散する。弟子たちには飲み過ぎないように伝えてあるが、やばそうなら止めてやってくれ。」
縁は微笑むと、宴会会場を後にしたのであった。
潮の匂いが風にそよいでくる。
「バタン。」
凪の風亭の縁の部屋。
縁は扉を後ろ手で閉める。
「待ってたよ。縁。」
暗闇に深紅の瞳を光らせ、ベリアルがにっこりと笑う。
「代償を払おう。ベリアル。絶対音が漏れないようにしてくれよ。」
縁が武器を空間術式にしまいながら言った。
「音が聞こえるか聞こえないかを攻めるのも、なかなかいい刺激じゃないか?」
ベリアルが縁の手を取りキスをする。
「弟子には聞かれたくないんだ。」
縁は長いまつ毛を伏せて言った。
「結構可愛いこと言うじゃないか。いいよ。遮音してあげる。楽しいこといっぱいしよう。」
血のような紅い瞳が、こうこうと闇夜に浮かんでいる。縁は、
「そうか。なら好きにしていい。」
怪しい輝きを放つ悪魔の王を前に、
ーー縁は身を明け渡した。
ーあぁ、この女のこういうところがいい。掴めそうで掴めない、とらえどころがない。今まで出会った人間種の中で1番良い。他人を愛おしむくせに自分を蔑ろにする。俺に匹敵する力を持ちつつ、わざわざ代償を払う道を選ぶ…。人によって作られた”人”の歪な自己認識、たまんないね。ー
ベリアルはペロリと唇を舐めた。
翌日、弟子3人組は、凪の風亭の食堂で、頭を抱えながら卵粥を食べていた。時間も10時を過ぎている。
「二日酔いってこんなにしんどいのね〜。船を明日にしといてくれた師匠はさすがだわ…。」
頭に氷の入った袋をあててユエがボヤく。
「ヒールかけても体が活性化して、余計に二日酔い酷くなるんだよね…。」
同じくヤンガがボソボソ言った。
「……。」
もう何も発せないのは、昨日1番飲み、更に朝が弱いヤオである。氷袋を2つ頭に当てている。
「それにしても、師匠は何してるんだろ?」
ヤンガが呟く。
それからしばらくして、縁が階段を降りてきた。
「はぁ〜〜〜。体がバッキバキだ…。」
普段の縁はどこえやら。元気がない。
「師匠遅かったですね〜。師匠も二日酔いですか?」
ヤンガが尋ねる。
「まぁそんなところだな。疲れた。ダルい。」
ー師匠も疲れることがあるんだ…。ー
弟子達はみな思った。
「あ、ベリアル様いないですね。」
ヤンガがズキズキする頭を、指で押しながら言った。
「あ、あの羽虫?用が済んだから悪魔界に帰らせた。」
縁はだるそうに水を飲みながら答えた。
ユエがふと目をあげると、ごくごくと動く縁の首に、赤い痣が浮かんでいるのに気づいた。
ちょうど耳の下あたり。
「師匠?首どうしたんですか?」
思わず尋ねる。縁は思いっきり顔をしかめながら、
「虫に噛まれたのかな?気にするな。」
と言った。ユエは、
ー師匠が虫刺され?…するんだ?ー
違和感を覚えながらも、二日酔いの気持ち悪さに勝てない。
今日の"蓮花の理"は、全員が回復するのを最優先したのだった。
福州に平穏が訪れる。
様々な代償を引き換えにして。
そして悪魔界ではーーー。
――あー、昨夜は最高の夜だった。
やっぱり縁は最高だ。今まで味わった中で極上の絶望が味わえたのは、縁、君だけだ。つけるなって言われたけど、印、気づいちゃったかな?ふふふ。君だけが俺と渡り合える。あ、いいや…我が弟ルシファーもそうか。悔しいな、縁の1番は俺でありたいのに。―
こうこうと光る紅い瞳が、ビンテージの赤ワインをグラスでゆっくりと飲み干す。
ーさぁ次会えるのはいつかな?縁ちゃん。ー
ワインより紅い瞳が、暗い世界できらりと閃いた。




