第二話 ファーストコンタクト
妄想の産物第二弾です。
今回薄っぺらい&短いですが少々ボーイズラブ表現があります。
苦手な方はご注意下さい。
第2話 ファーストコンタクト
私の第二の自我の目覚めは中3の時だった。そう、腐女子デビューである。
現在19歳なわけだから今年で4年目。
たった4年前のことなのに私はそれ以前のことがほぼ思い出せない。
恐らくだが、脳の容量は無限だなんて言うが、そんなものは天才の話で、私みたいな一般人にはどうしても限りがある。
その結果がこれだ。
それ以前の記憶も感情も消去して空いたスペースに萌えを詰め込んだ。
私としてもこんなお粗末な頭だなんて思いたくはないが、そうとしか考えられない。
今や立派な腐女子となり、男性が2人歩いてるだけで妄想が捗るし、なんなら1人でも想像力・創造力を働かせ物語を作り上げる。
そうはいうものの私は基本インドアであるため、そんな妄想をするのは登下校時とごく稀に出掛けたときだけだ。
今日はそのごく稀に出掛けた日になった。
特に理由なんてない。ただ、なんとなく、なんとなく今日は出掛けなければいけないような気がした。
幸い急ぎのレポートもないし、こんなに天気のいい、「ザ・春」という日に出掛けない方が勿体ない。
そんな風に思う時点で今日の私は何かが違う。
とは言っても所詮はインドアな私が突然出掛けるといってもどこに行けばいいかわからない。
仕方がないからただひたすら歩いてみる。ちょうどいいと思っていたが、少し歩いてみると汗ばむくらいには暖かい。
着ていた薄手のカーディガンを脱いでブラウス1枚になる。
これだけで大分体感温度は変わった。襟元を少しパタパタとして服の中に空気を送る。
日焼け止め塗ってくるんだった。
しかし戻るには中途半端に遠い。
仕方がないからそのまま歩き続ける。
道に迷わないようにひたすら真っ直ぐ歩いていくと、公園にたどり着いた。
遊具はジャングルジムとブランコだけ、少し離れたところにベンチがおいてあって、その頭上には大きな桜の木が咲き誇っていた。
シンプルだけど、花が多く、きれいな公園だ。
土曜日のお昼過ぎ、おそらく2時頃だというのに子供はいない。
これはもしかしたら穴場を見つけてしまったかもしれない。
早歩きでブランコに近づく。
ギーコ、ギーコと独特な音がなんとも懐かしい。流石に19歳となった今ではブランコに乗る機会なんて全くない。
小さい頃は好きでよく乗っていた。
ブランコに乗れば、色々考えなくて済んだ。嫌な気持ちをできるだけ遠くに蹴り飛ばすように必死に漕いでいた。
今は推しCPのことを考えれば嫌な気持ちなんてどっかに飛んでいってしまうけど。
推しCPがこんなところでデートしてたら可愛いなぁ…
誰も見てないから大丈夫だとか言って手を繋いで歩くんだろうな。
そういえば手なんて最近繋いでないな
あ、そんなことない。友達とはよく繋いでるや。
女子同士で繋いでるのはよく見るのに男子同士ってのはないんだもんな。
変なの。
世の中こんなにも百合で溢れてるのにBLはないんだもん。
不平等だ。
ギーコギーコ
あぁ、なんか寂しいな。
腐女子になったことは勿論後悔なんてしてないし、するつもりもない。
けど、大事な何かをなくした気がする。
目覚める前はおしゃれとか好きだったし、イケメンを見たら「付き合いたい」って思ってた気がする。部屋の中は可愛いもので溢れてた。
可愛い服を着て、髪をアレンジして、どうすれば好きになってもらえるか本気で悩んでた。
今や、服を買うくらいなら推しCPに貢ぐし、部屋の中は人様にはお見せできない。私の煩悩の塊だ。
親にヲタばれはしてるが、腐女子だとはバレたくない。一部の同志以外には絶対にバレたくない。
墓場まで持っていく覚悟だ。
同志には棺桶に入れてもらう薄い本を知らせてある。
これであの世でも快適腐女子LIFEが送れる。
親が買ってくれるから服は今も小綺麗にしてあるが、まとっている雰囲気があの頃とは違う。
表現し難いがあの頃はもっとキラキラしてた。肌もツヤツヤしてたし、全身から1軍オーラが出てた。
今や連日リアタイでアニメを観たり、ゲームをしているせいで肌はくすんでいるし、幸せだけどバックに花を咲かせられない。
全力を出しても今や咲かせられるのは毒々しい色の薔薇の花くらいだ。
とても白百合とかの無垢な美しさは表現できない。
上を向く。
本当にこれでいいのだろうか。
すると鼻にポツンと水滴が落ちてきた。
あ、雨。さっきまでどこからが空なのかわからないくらい晴れてたのに。
ゴロゴロと雷も鳴り出した。
これはまずい。急いで何かしらお店を探す。生憎傘なんて持っていない。
探している間にもどんどん雨足は強くなる。歩くたびにぱしゃんと音がする。
土の匂いなのかわからないが雨のときのあの特有の匂いがする。それに混ざってふわりとコーヒーの香りが鼻腔をくすぐった。
立ち止まってあたりを見渡す。するとちょっと入ったところに喫茶店を見つけた。
『喫茶 アネモネ』
少し古めかしい感じで常連客しかいなそうで入りづらい。だけど背に腹は変えられない。
重い扉を開く。
カランカラン
中に入ると思ったより古めかしくもなく、むしろアンティーク調にまとめられた店内は店主のセンスの良さが伺えた。
客は2~3名。店主と思しき人も交えて歓談中であることからも常連客だろう。どの方も品があって、ゴルフとかしてそうな間違ってもカップ酒なんて飲まなそうな第二の人生謳歌中といった感じの人ばかりだ。
カウンターの向こうにいたのは35歳程の若い男性だった。もちろん私よりは大分年上だけど。
こういうお店に入ったことがないから分からないが勝手にナイスミドルがやっているとばかり思っていた。
扉を開けた音に気づいて皆さんがこっちを向く。
瞬間全員驚いた顔をした。
え?なんかだめだったの?あれです?アニメによくある訳アリの人とかしか入れない店とか?
まぁ、そんなわけもなく、常連客の一人が店主に「ゆうちゃん、何か拭く物持ってきてあげて」と言った一言で気づいた。
お店の窓ガラスに映った自分は捨てられた犬みたいになっていた。つまりびしょ濡れである。
いきなりこんな女が入ってきたらそりゃ驚く。都市伝説にこんな女が出てくるやつがあった気がする。
と考えている間に「ゆうちゃん」さんが大きな真っ白なバスタオルを持ってきた。
「ありがとうございます」
といって受け取ろうとしたら、視界が一気に真っ白になり、そのままわしゃわしゃと髪を拭かれた。男の人というのもあって少し力が強い。ただ、驚いたのは別にいやな感じはしなかったのだ。もちろんびっくりはしたけど不快な感じとかは一切しない。
粗方拭き終わったのかやっと店主と目が合った。
思ったよりも背が高い。私が158cmで少し見上げるくらいなのだから175cm前後だろうか。
ワイルドなイケメンである。というかどっちかというと男前な感じだ。
「いらっしゃいませ。大丈夫?寒いならエアコンの温度上げようか?」
ゆうちゃんさんの声が鼓膜を震わせた。
瞬間、全身に甘さが広がった。
心臓、うるさい。
それなのにこの人の声は不思議なほどとおる。他の音なんて何も聞こえない。さっきまでうるさかった雨の音すらもしない。
…落ちた。
一目ぼれなんて二次元の中だけで自分には関係ないと思っていた…のに。
19歳、春。恋をした。