第3話 名前
妄想の産物第三弾です。
今回腐女子の女の子の名前が明らかになります。
女の子のテンションが高めです。
「ご注文は以上でよろしいですか?」
はい…と小さな声で答える。
どうにか聞こえたようで、にっこり笑ってゆうちゃんさんは作業に取りかかる。
少女漫画ってなんでこんなやたらトーン使ってキラキラしてるんだと思ってたけどこういうことだったのか。
同じ店内なのにさっきよりキラキラと輝いて見える。
あぁ、カッコいいな…。
お湯こぼしてアツっとかやってるけどそれもよい。
取り敢えず火傷大丈夫?
テーブル席もあったけど、せっかくだしカウンター席にしてもらった。常連客さんと仲良くなってゆうちゃんさんがどんな人なのか知りたい。
ゆっくり、ゆっくり。焦らずに、不自然にならないように少しずつ知りたいことを聞いていく。
と、思ったが、なかなか難しい。このくらいの方々は私くらいの世代と話す機会がないらしく、嬉しそうに自分の話と私の話を聞いてくる。
いやまぁおもしろいんだけどね?!
田中さんと山口さんと斎藤さんという常連客3人はそれぞれに波乱万丈な人生を送っていた。
今も田中さんが素手で熊を倒した話をしている。
まぁ本州にいる熊は大人しいらしいし、そんな大きくn…え?アメリカで?グリズリー?!
嘘でしょ?!
いやいやいやいや、山口さん?!
柔道の師範代だから~じゃありませんよ?!
普通おかしいですって‼
え?ライオンも?って!!田中さんもう柔道関係なくね?!
どういう人生送ってきたわけ?!
…という風に
こんなのが3人もいたらつい話聞いちゃうよね。うん。私はワルクナイ。
コトンっ
コーヒーの香りがふわりと漂う。
注文したカフェモカが出てきた。
口に含むとじわぁっと温かさと甘さと苦味が広がる。思っていたよりもずっと体は冷えていたらしい。
カフェモカを味わっていると
コトっと
もうひとつ私の前に皿を置かれた。
「私、頼んでませんよ?」
置かれたのはチーズケーキだった。
下の部分にベリーっぽいものが入っている。赤と白のコントラストが可愛らしい。
ちょっぴりいたずらっぽい笑顔を浮かべた。
「また来てくれますよーにっていうサービスです。」
う、
う、
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!なんだそれなんだそれーー!可愛すぎか!!好きぃ!!
ふぅ。
「じゃあ、ありがたくいただきます。」
小さく切って口に含む。
濃厚なチーズと少し酸味のあるソースが口の中で混ざり合う。
「美味しい…」
下手したら今まで食べた中で一番美味しいチーズケーキかもしれない。
「だろ~。ここのものはなんでも旨いよなぁ!」
田中さん。今は美味しさに浸ってるんだから静かにして。
華やかさは少し欠けるけどどれも丁寧に作ってあることがわかる。
「そういえばお嬢ちゃんの名前は?」
斎藤さんが聞いてくる。
そういえば私は3人の名前を聞いたが、私は名乗ってなかった。
「佑香…浅井佑香です。」
聞いたのは斎藤さんだが、ゆーちゃんさんの目をみて答える。名前で呼んでほしくてわざと名前だけ繰り返してみた。
おじ様方は似合うだとか、可愛いだとか言ってる。
ゆーちゃんさんが口を開く。
「ゆうかちゃん、ね。いい名前だ」
ちょっとやめてくれ。眩しすぎる。はにかんだりしないで。浄化されちゃう。
せっかくだから勢いに任せて聞いてみる。
「ゆうちゃんさんのお名前も伺っていいですか?」
どんどん声小さくなったけど頑張った。
「あぁ、名乗ってなかったね。俺はこのアネモネの店主の中野悠司です。」
彼の名前を心の中で反芻する。
なるほど悠司だからだからゆうちゃんか。
「悠司さん…ですか。素敵なお名前ですね。」
私も呼ばれて嬉しかったし、この機会を逃したら名前なんて呼べないだろうし、呼んでみた。
すると、何やら様子がおかしい。
顔を手で押さえて上を向いてしまった。
「いや、うん。嬉しいんだけどね?ちょっと照れるから名前では呼ばないでくれ。ゆうちゃんでいいよ」
もしかして、
「何ー?ゆうちゃん照れてるの?名前呼ばれただけで照れるとかまだまだ青いねぇ。」
「田中さん。自覚はあるので言わないでください。」
田中さんたちはケラケラと笑う。
そんなの反則じゃん。
急いで下を向く。
絶対今、顔赤い。
ぎゅーって胸が締め付けられた。




