第32話 全てを握る男
それから私は列に並んでいる間、エクリエスさんに様々な話をしてもらいました。
討伐者についてや沢山の人が集まる場所で起こりえる危険、おすすめの宿屋や飲食店の場所など様々。
その中で私が特に気になったのは今から私たちが入ろうとしている門が守っているもの。勇者というスキルを得た者が王となる国、ブレイブリー王国についてでした。
「それでね、ブレイブリー王国の特徴は勇者様のことを民が慕い、それに勇者様が応えることなのよ」
「勇者ですか......初めて聞きました。私にはわかりませんが、民が慕うということは普通の王様とは違うのですか?」
私はエクリエスさんの話を聞いて思わず首を傾けてしまいました。
私のなかで王とは権力を行使し、国のことだけを考える存在です。私が住んでいた村も自由国ラグス・フールという国の一部だったらしいですが、助けてもらった記憶は一度もありません。
半年に一度、国からの使者を名乗る人が税金として作物などの一部を取っていくだけで、子供の私としては一方的な搾取に理不尽を感じていました。
それが国というならそれまでですが、そんなことを指示する国王を民が慕うとは思えません。
「......ゼノヴェル君としても何か王様に思うことがありそうだけど、勇者様は安心していいわ!なんせ、勇者様は自ら戦地に赴き私たち討伐者とともに戦ってくれる方よ。民を思い、民のために身を削り未来を見せてくれる素晴らしい方だからね」
「なるほど......」
「ゼノヴェル君が入国出来たら勇者様を見る機会もあると思うわ。その時は教えてあげる!」
「それは助かります」
「それに、勇者様は陽光の神シューラ様を尊崇する熱心な信徒だからね。信仰する神は違えどゼノヴェル君とは気が合うかもしれないわ」
私はエクリエスさんの言葉に一瞬、嫌悪感を表情に出しそうになります。
陽光の神シューラ様を信仰している......ですか。
それはそれは、素晴らしい方なのでしょう。ただ、私とは違う道を進んでいるようですね。
実は、私が暗影の信徒になったときに、我が神シャーマ様の情報だけでなく陽光の神シューラ様の情報もある程度ですが私の脳内に刻まれています。
それが何故なのかはわかりませんが、その情報によれば陽光の神シューラ様は人に対して平等に力を与え、鉱魔獣を倒すように命じているようです。
力を与えた先が悪だったとしても平等に。
「いつか話してみたいですね」
出来るだけ自然な笑顔を作り、エクリエスさんに返します。
私は思うのです。
愚物に力を与えるからこそ付け上がり、他者を害する者が生まれるのではないかと。
畜生以下の存在に神導武器とステータスという「余裕」を与えるからこそ不幸な者が増えるのではないかと。
だから機会があれば勇者に聞いてみましょう。
あなたの信仰する神はこの現状をどう思っているのかを。
「本当に......話してみたいです」
そんな他愛も無い会話は審査の時まで続きました。
◇◆◇◆
「私たちの審査まであと一人ですか」
「そうね。いい?しっかりと何故ここまで来たのかの説明と頼れる身内もいないことを説明するのよ。ブレイブリー王国は法整備も整ってるから、もしかしたら難民処置があるかもしれないわ」
「わかりました、正直に自分の身の上を話そうと思います」
エクリエスさんと最終確認をしていたその時、遂に私たちの番が回ってきました。
「次の方、前にお進みください」
門番の一人が大きな声でこちらへ呼びかけてきます。
「さあ、行くわよゼノヴェル君」
「はい」
私はエクリエスさんと並んで見上げる程大きな門の前に立ちます。
どうやらエクリエスさんは門番の方とお知り合いのようで気さくに会話を始めました。
「お疲れ様、今回も討伐依頼が終わった帰りよ」
「エクリエス殿でしたか。お疲れ様です、いつもブレイブリー王国周辺の治安を守っていただき感謝します。――それで、横の方はお知り合いでしょうか」
門番は私に向けて警戒と哀れさを混ぜた視線を送ってきます。どうやら門番としての立場と痛める心を持つ優しさで揺れ動いているようですね。
ここは一押しさせて貰いましょう。
「門番さん、お仕事お疲れ様です。私はゼノヴェルといいます。生まれの村から人減らしに遭いまして貰った少ないお金で生き延び、ここにたどり着いた者です。エクリエスさんとは、独りで列に並んでいた私に優しいエクリエスさんが話しかけてくれたという関係です」
「なる、ほど......では、身分証などはお持ちではないですよね」
「ええ、最低限のお金くらいしか持ち合わせていないのです。ですのでもし安全性の関係で身分を証明出来ないものは入れられないと言われたら大人しく従います」
「そうですね......原則としては身分証の確認は必須となっています」
門番が少し唇を噛み締めて自らの思いとは反することを言っているのは見て取れる。
どうやら、ブレイブリー王国には心が清らかな人が多いようですね。心を許せるかはまた別の話しですが、少なくとも私の知る簡単に他者を切り捨てる大人たちとは違うようです。
「ねえ、どうにかならないかしら。私がゼノヴェル君の身分を保証するとか......」
「そう言われましても私の判断ではどうにも......」
エクリエスさんが何とか私のことを国に入れようと説得してくれていますが、門番の反応は芳しくなさそうですね。
このままは入れなければ身を隠して無理矢理入ることになるならどうなることか。
そんなことを考えていると、急に膨大な魔力反応が私の探知に引っかかります。木龍と同等の魔力量、そんな存在が近くに居るなんて。
「おう、どうした。何か揉め事か?」
声が聞こえてきた方向に視線を向けると、そこには門の上に腕を組み、足を大きく開いて仁王立ちしている男性が居ました。
なにより、私の感じた魔力反応はあの方から出ているようです。
私の予想が正しければ、彼はおそらく......。
「俺の国のことは俺が決める。まずは相談してみろ!」
――勇者、でしょう。




