第20話 帰省
シルバークロウ市のレトロ通りでのんびりとした歩調で紫の髪を靡かせて歩く男の姿があった。ジャックだ。その顔はキョロキョロと周囲を見渡しており、何かを探している様子だった。
ジャックは正面に目線を戻すと、ふと立ち止まった。目線の先には体力作りに走っていたレオンと少し離れたところに汗だくになりながら歩くエリスがいたからだ。ジャックが歩いて来た方向にはブレインの店がある為、進行方向から考えて二人は事務所に戻る最中であることが分かる。
「あれ、ジャックさん一人でどうしたんですか? 」
「休暇中っす。ちょいと北部に用事ありやして、これから向かうところっすね」
ジャックは走り疲れてぜーぜーと肩で息をしてるエリスのもとに近づいていく。エリスはジャックの姿を見るなり噛み付く勢いで捲し立てる。
「あんたどうせあたしに罵詈雑言言ってお兄を呼び寄せるつもりなんでしょ! 」
「チッバレたか。ちまちま連絡取り合うより手っ取り早いってのに」
「いや、アンタ人の兄をなんだと思ってるんですか」
悪びれる様子もなくジャックは常套手段としてクリスを呼び寄せるつもりだったのだろう。レオンはジャックに慣れたのか将又同い年故の目線からなのか、丁寧さを一段階下げた口調で小言を言う。
「大体、お兄も暇じゃないのよ。あんたを怒る為に毎回毎回来る訳無いじゃない」
エリスが「クリスは忙しい」と言い張るが、レオンもジャックもその言葉を信用していない。妹の為なら何処に居ようと飛んでくるのがクリスなのだと理解しているのだ。
ともあれ、不機嫌に見上げるエリスとそれを能天気な目で見下ろすジャックの二人を見たクリスが殺意を込めて暴れ出すのは火を見るより明らかだ。レオンは面倒事になる前にジャックの腕を引っ張って事務所へ連れて行く。
三人が事務所に着くと、中ではレザールが応客用のソファで横になって眠っている姿があった。レオンもエリスも見慣れた光景のようで、特に気にした様子も無くジャックを招き入れた。ジャックはレザールの丁度向かい側のソファに座り込む。
「おーいダンナ、起きてくだせぇ」
ジャックの声かけに不機嫌そうに身体を起こす。まだ目には眠気が残っているようで、ぼんやりと瞼が落ちかかっているのが見て分かる。
レザールの様子を見てレオンは一杯のアイスコーヒーを差し出した。インスタントではない。ごく普通のスーパーに売っている、ペットボトルに入っていた飲料をマグカップに注いだものだ。冷蔵庫で冷やしていたため冷たいが、氷は入っていない。レザールはコーヒーを飲んでようやく眠気が醒めたのか、座り直してジャックと向き合った。
「それで、何の用だよ。仕事って訳じゃねぇんだろ」
仕事はいつもコブラを経由して来る。ジャックが持ってくるなんてことは一度も無いのだ。局内の部署を考えれば当然だ。コブラは営業でジャックは所謂現場。仕事の斡旋は営業部の仕事なため、ジャックが持ってくるということはまず無い。
「そうっすね。仕事じゃあねぇっす。そもそもオレ、今日は休暇取ってやすし」
「んなこたぁどうでもいいんだよ。さっさと本題入れ」
不機嫌そうに急かすレザールにやれやれと肩を竦める。
「ダンナに実家までついて来てほしいっす」
「怠い。他当たれ。ていうか一人で行け」
食い気味で素っ気ないレザールの返答に落胆の表情を見せたが、すぐに切り返す。
「ダンナ、どうせ暇じゃないっすか。それに旅は道連れともいいやしょう? 」
ジャックの押しに決して首を縦に振らない。暇か否かと問われれば暇ではあるだろうが、レザール目線ではそれでもジャックの帰省に付き合う意味も必要性も無い。レオンやエリスなら兎も角、ジャックは事務所の人間ですら無い。断るのも当然な話だ。
考えるまでもなく拒否し続けるレザールに痺れを切らしたのか、ジャックは次の一手に出る。
「オレの実家は北部にあるんすよ。だから北部土産を買うチャンスっす! ね? 」
お土産で釣ろうとしているのが丸わかりな手だ。レザールは興味無さそうにコーヒーを啜る。
「じゃ、決まりっすね。行きやしょうぜダンナ」
レザールの様子を見て強引に話を打ち切った。レザールは「は? 」と困惑した顔でジャックを二度見した。半開きの口の端からコーヒーが流れ出る。
「おい待て。分かった、レオンを連れて行け。それでいいだろ」
ジャックはレオンを一瞥して口元に右手人差し指を立てる。内緒話でもするかのようなポーズだ。薄く笑みを浮かべているのが不気味に映る。
「暴走とまではいかなくても何かあった時、レオンくんじゃあオレを止められやせん。間違えて殺しちゃうかも」
ジャックの脅しとも取れるその発言は、相手がジャックなだけあって本当にやり兼ねない危うさがあった。神の落とし子の能力ならレオンならどうにか出来るだろう。しかし、能力とは関係無い部分ではジャックの方が圧倒的に強い。チェーンソーを振り回したりコンバットナイフを振り回したり、どちらにしても危険なことに変わりはない。レザールは呆れ果てて眉間を抓んで、深く息を吐き捨てて項垂れる。レザールにとって一概に否定しきれないのが質が悪い。
レオンとエリスの顔をちらりと見てからジャックに向き直った。
「……付いて行ってやる」
長い沈黙の末、絞り出すように出た溜息交じりの小さい声での了承だった。苦虫を噛み潰したような表情から察するに余程行きたくなかったのだろう。意気揚々と事務所を出ていくジャックとは対照的にレザールは肩を落として付いて行く。
ジャックら四人がこれから向かう帰省先は北部エリアのスノードロップピスケス県グレージュスパロウ市にある。グレージュスパロウ市へは現在地のシルバークロウ市から電車で約二時間掛かる。今から向かうとすると着く頃には昼過ぎになるだろう。日帰りで事務所に帰ることを考えたらあまり悠長にはしていられない。行きは兎も角、帰りはグレージュスパロウ市から南側の隣の市のオリーブクレーン市やオレンジスワロー市に行く電車が無い。一度西側の隣の市であるホワイトウッドペッカー市に行く必要があるのだ。その為行きより帰りの方が時間が掛かることになる。レザールが渋っていた理由もここに集約される。
今は実家に帰ると言って周囲を巻き込んで電車に乗っているが、当のジャックは終始浮かない顔をしている。出発前の毒気はすっかり鳴りを潜めていた。
「ねえ、あんたはなんで北部を出て中央部に来たの? ライラックみたいな斡旋業者が無いから? 」
エリスは窓の外を眺めながらジャックに尋ねる。すかさずレザールが「余計な詮索はするな」と止めに入るが、ジャックは気にしてない様子で問いかけに答える。
「斡旋業者がどうとかは知りやせん。うちはライラックから仕事貰ってやしたから。ま、細かい話しは省略しやすが、コブラさんに助けて貰ったんすよ。だから中央部に行った」
「コブラさんって戦闘も出来る人だったんですか? 」
「いや、アイツは戦えねぇ筈だ。中央部に来た時点で既に」
レザールの発言にジャックは目を丸くしてパチパチと瞬かせる。そしてニヤリと口角を上げてレザールに詰め寄る。
「へぇ、ダンナとコブラさんって付き合い長そうっすけど、何歳からの付き合いなんすか? もしかして、出身も一緒だったりするんすか? 」
「……会ったのは確か九歳くらい。出身は一緒とだけ言っておく。ほら、俺の話しはいいだろ」
投げやりで簡潔な回答にジャックはつまらなさそうに口を尖らせる。エリスが「それって幼馴染ってやつ? 」と目を輝かせて聞くが、九歳と言えば初等の義務教育である小学校三年生にあたる年齢だ。世間一般では九歳からの仲を幼馴染とは言わない。レザールは的外れな発言をしたエリスの額にデコピンをして三人から少し離れた席に移動した。自分のことはあまり語りたく無いようだ。
ジャックは窓の外をチラッと見る。ビル群はなくなり、代わりに木々が多く見える。到着まで数分といった具合だろう。表情は少し堅くなり緊張の色が見える。帰省する人間の顔とはとても思えない程だ。
「ジャックさんは家族とあまりいい関係を築けていなかったんですか? 」
レオンはジャックの表情を見て問う。レオン自身察しはついている様だが、それでも本人の口から聞いてジャックという人間を知ろうという問いかけだった。
「ま、そうっすね。魔力炉心を継いでからあの人たちとのいい思い出は無いっす」
そう答えたジャックの目は寂しげでどこか遠くを見ていた。その様子を見てレオンもエリスも言及することが出来なくなった。数分は静かに電車に揺られていた。
ジャックは実家に着く間にぽつりぽつりと自分の家族について話しだす。平坦で遠い日の出来事を語るような口調だ。三人は口出ししずに静かに耳を傾ける。
ジャックは北部スノードロップピスケス県グレージュスパロウ市で生まれ育った。家柄は五代続く神の落とし子の家系だった。続くとは言うが、何代にも渡って「選ばれ続けた」正式的なものではない。最初に選ばれた者が同じ魔力炉心を後世に継いだ、言わば非正式の家系だ。
ジャックの家系、ディー家は北部エリアの豊穣神ナトゥーラや、国の創生神アズエラには一切の信仰もしていないが、戦う力が降って湧いてきたということで力を金策として利用してきた。国としても人々が守られるなら何でもいいのだろう。天罰とも言える程の不幸が起きて来なかったのが何よりの証拠だ。不敬と言えば不敬だが、それでも役目は果たしているため直接的なお咎めは無い。そんなグレーゾーンの中にいる。
神からのお咎めは無いが因果か、将又運命か、ディー家は決して幸福ではなかった。金銭の問題では無い。寧ろ金回りは良く「金持ち」と言ってもいい程裕福な家だった。問題は、魔力炉心の引継ぎによる「歪み」だった。
ジャックは戦闘に入ると狂ったように笑う。それはディー家でジャックにのみ起きたものではない。最初に神の落とし子になった初代以外の代、つまり二代目から魔力炉心を継いでいるため影響もまた受け続けているのだ。受け続けていると言うと多少大袈裟ではあるが、魔力炉心の引継ぎは人格に影響を与える程度でそれも執着心が増すだけだ。それでも事情を知らない他者から見てみれば異常者に映る。ディーの血筋の若い男が悉くこの影響を受けているところを近所の人間が見ているのだ。いつの日かディー家は「呪われた家系」と揶揄されることとなった。
魔力炉心由来の歪みは炉心を手放せば無くなる。炉心で増していた執着心は本来の性格由来にまで治まるのだ。ジャックの前任の神の落とし子であるジャックの父親も魔力炉心で歪んだ執着心を理解している筈だった。しかし現実としてあったのは、悪魔の子、気持ち悪いといった罵詈雑言と殴る蹴るといった暴力だった。
この過去があって現在帰省しようと思い至ったのが奇跡と言ってもいい程の珍事なのは考えるまでもない。ジャックが誰かを連れて一緒に帰るのも、いざ帰る時に浮かない顔をしているのもこの過去あってのことだ。
一連の話をジャックから聞きながら一行は電車を降りて徒歩で目的の場所へ向かう。ジャック曰く家を出たのが十二歳の時でそれから七年経っている。住宅街は記憶にある七年前の姿と少しだけ変わっているようだ。その少しというのは道が変わったというものではない。昔空地だった土地に家が建った、家が無くなった、アパートが建った程度のものだ。その道を通れば昔通った道だなとノスタルジーを覚える程の面影が残っている。
記憶を頼りに地区内の住宅街を奥へ奥へ進んで行く。昔とはいえ七年、実家付近の道筋は覚えているようで、道を引き返すことは無くスイスイと歩いて行った。そして三人より数歩前を歩いていたジャックの足が不意に止まった。それに合わせてレザール他二人も立ち止まる。ジャックの視線の先をレザールたちも見る。しかしそこに家は無く、家の残骸のようなものが転がっている空地が広がっていた。
「おいジャック、こんなところで立ち止まって何してんだ」
レザールが声をかけるも返事が無い。ジャックの顔を覗き込んで再び声を掛けようと口を開けると、言う前にジャックが言葉を絞り出した。
「ダ、ダンナ……オ、オレの実家……」
ジャックは目を見開いて立ち尽くしていた。明らかに様子がおかしい。落ち着かせるべくレザールが手を伸ばすが、タイミング悪くジャックは離れて行く。その足は近くを通り掛かった四十代くらいの年配の女の前で立ち止まる。
「す、すみません。この家ってどうしや……したんですか? 」
近所に住んでいるであろう年配の女はジャックが指差した方に目をやった。
「え? ああ、ディーさん宅ね。いつだったか、大分前に火事があったんよ。ここの家の人はみんな火事で亡くなったんだって」
一人の年配の女が事情を説明している間に、後ろで聞いていたのか、もう一人の五十代くらいの年配の女が割り込んできた。
「なにぃ、私が聞いてたのと違うがね。ここ、火事は火事でも放火で起きた火事らしいで。だでこの近くの山で放火犯の遺体が見つかったって当時警察の人の説明があったがね。それと、お子さんの遺体は見つかってないらしいで。そん時警察も捜査してたらしいけど、なんでか捜査打ち切ったって聞いたで。いつの話かって? 孫が小学校入学した年だったで多分七年前じゃなかったかね? 」
話すだけ話して二人の年配の女は去って行った。
事情を聞いたジャックはそのまま呆然と立ち尽くしていた。ジャックの目は見開いたままで僅かに揺れており、動揺しているのが見て分かる。
「……父さん……母さん……なんで」
ジャックは数分放心した後に崩れ落ちるかのようにしゃがみ込んだ。悪魔とは言え殺すことに躊躇いの無い、狂気染みた笑いで仕事をこなしてきた男とは思えない程に肩を震わせて涙を零していた。神の落とし子になってからいい思い出の無いジャックだが、それはそれとして血の繋がった両親を失くすというのは堪えるものがあるのだろう。今のこの姿は普通の青年と何ら変わりなかった。
「……ジャックさん、ご近所さんとはいえ言ってること全て正しいとは限らないですよ。もう少し調べてみませんか? 」
「そうよ! 火事は本当っぽいけど、もしかしたら引っ越したのかもしれないでしょ? 」
レオンとエリスは見て分かるくらいに必死に言葉を選んでジャックに語りかけた。
「レオン、エリスやめろ。さっきの二人の話だけで断定するべきじゃないだろうが、少なくとも亡くなってるのは事実だろうよ。警察が動いてたらしいからな」
警察という言葉に二人は黙り込む。近所に住んでいる人間が警察と口走るくらいには印象深い出来事だったのは確かなのだ。
レザールはジャックの腕を肩に回して歩き出す。実家の跡地前にいつまでもいる訳にはいかないからだ。ジャックが落ち着ける場所に移動する。レオンもエリスもレザールの後ろを付いて歩く。無言の中、四人の間にあるのはジャックが漏らす嗚咽と鼻を啜る音だけだ。重い空気感のまま歩を進めた。来なければ良かったと恐らくこの中の誰もが思ったことだろう。ジャックさえも。
中央部モナルダキャンサー県ブルーイーグル市とクレマチスジェミニ県レッドコンドル市の市境にある教会、中央部クランベラ教会の聖堂の大きな扉が開かれた。コツコツと革靴の音が響き渡る。男は聖堂の入口から四列目の長椅子にドカッと腰を下ろした。
「ルイちゃん、仕事終わったよぉ。最近は爬虫類型が多くて嫌だねぇ」
間延びした口調で語りかけたのはアズマだ。ルイは祈りの際の姿勢である跪座から立ち上がりアズマに「お疲れ様です」と声を掛ける。至って普通の事務的なやりとりだ。
アズマは疲れた顔で椅子の背もたれに身体を預けている。疲労とは別にどこか上の空な様子も伺える。
「考え事ですか? 」
「んーまぁ、そうね。ルイちゃんはさ、レザールくんの事務所の名前って誰が考えたのか気にならない? 」
「何ですか藪から棒に。『Crash The Cold Heart』は彼の事務所ですので彼自身がつけたのでしょう。そこにどういった疑問が? 」
アズマは一拍置いて考える素振りを見せたあとフッと息を漏らして話す。
「ああ、ルイちゃんは知らないかぁ。コールドハートって東部離島エリアの神聖生命体を恨む人たちや、それに関した職種の人たちの間で使われている蔑称なんだよぉ」
そういうスラングがあるということと事務所の名前に一緒の単語が使われているということにいまいち要領を得ない様子で首を傾げる。この蔑称は東部離島エリアの限られた人しか知らない言葉な為、ルイが知らないのも無理はない。東部離島の教会の人間は知っている可能性は高いだろうが。
「レザールくんの事務所の名前は、ざっくりと言えば『神聖生命体を倒す!やっつける! 』みたいな感じの意味合いになるんだけど、レザールくんがコールドハートの意味を知ってたらまずそんな名前は付けないと思うんだよねぇ」
レザールの事務所でやっている業務内容を考えればおかしいところは無い。寧ろピッタリだと言える。しかしアズマはそうは思っていない様子だ。ますます意味が分からないといったルイにアズマは言葉を続けた。
「コールドハートって直訳だと『冷たい心臓』でしょ? それを神聖生命体相手に呼んでいる訳だから、直接的にそれを示しているのは心臓に付いている魔力炉心。早い話が、魔力炉心を持ったもの全てに対して呼ぶ蔑称なのよぉ」
アズマは「ここまで言えば分かるかなぁ? 」とルイを試すように話を切った。
話を整理すると、魔力炉心を持っているのは神聖生命体全般と神の落とし子だ。そしてレザールがコールドハートの意味を知っていたら事務所の名前にはしないだろうと言ったアズマの言葉。これらから導き出されるのは、コールドハートとは神の落とし子をも含めた魔力炉心を持つ生命体の蔑称だということだ。レザールが知っていたらと言うのは、事務所の名前の意味合いに自身も討伐対象として含まれるからだ。
「今現在がどうなのかはどうでもいい。本人が気付いていてもいなくてもね。でも、名付けの時に東部離島出身の人間が居たのは確かじゃなぁい? それもレザールくんがかなり信用してる人だねぇ」
「……意味を知らずに使用している可能性もありますが」
「それはないね。大事な社名だから意味くらいは調べるでしょ。それに東部離島のそういう人たちは神聖生命体を指して言ってる訳じゃ無いからねぇ」
「どういう事でしょうか」
ルイの真っ直ぐな目がアズマを映す。勿体ぶるアズマに対し少しだけ語気が強くなる。
「魔力炉心があるか無いかで判断してるんだよ」
アズマは拳を自分の胸に当てる。それは自分の魔力炉心を指している。アズマの真剣そのもの且つ脅すかのような低いトーンで発せられた言葉はルイに突き刺さった。だがアズマが言っている事が本当だとしたら、レザールの事務所に名前を付けた人物は誰なのかという話になる。推測の域は出ないが、意外と早くそういう疑いの人物が上がった。
「そう言えばライラック魔狩り局の本社が東部離島にあるの、知ってた? コブラくんがそこの社長令息なのも」
確信に触れたような真っ直ぐさで言い放つ。ルイから放っておけと言われたのにも関わらず内密に調べていたのか、元々知っていたのかは最早関係無かった。
アズマはそれだけ言って立ち上がった。向かったのは外へ出る大きな扉ではなく廊下へ出る扉。アメリアに会いに行くのだろう。ルイはアズマが視界から消えるまで背中を目で追っていた。アズマの口から嫌なことを知ったと目頭を押さえる。アズマがコブラに対してあまりよく思っていなさそうなことは確認できたが、ルイの立ち位置はあくまで中立。怪しかろうと疑ってはいけない。それが神父というものだ。ルイは再び祈りに入った。今回の話を胸に刻みながら。




