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さえこさん  作者: 古木花園
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第1章 黒目秋人 4

「これはどういうこと…田中くん。説明してくれるかしら」


「はは、いや、なんて言うか、…ちゃ、チャッチャラー!ドッキリ大成功!!」

田中は足首と手首を田中が持っていた結束バンドで固定され、ライトの前に正座させられている。

その前に白石が椅子に座り田中を見下す。

白石は放置されていたしっかり削ってある鋭い鉛筆を目元まで近づける。


「ちょ、ちょっと待ってって、話を聞いてくれ!」

鉛筆を眼球にスレスレで止めてみせる。

「ちょ、おれは気が動転してて、幽霊が怖くて、襲われるくらいなら襲ってやるってさ、思っただけだよ!」


白石は鉛筆を眼球に向けることをやめ少しの間立ち尽くす、。

「本当の事をいって、なぜ、こんなことをしたのか。いいなさい」


「いや、だからさ、気が動転してて、幽霊かと思ってさ、先に倒そうと…」


ヒュンと、風を凪ぐ音がなったと思った時、その思考をかき消す痛みが足にはしった。田中の視界に映るのは自分の太ももにつきたった鉛筆、そして、溢れ出る血液。無表情な白石の顔だった。


「ぐぁがぁぁぁぁぁぁああ…い、いだい。ぐぅ、なんで、こんな」


「田中くん。私を殺そうとしたのよ?私は正当防衛をしたまでよ。それで、なぜこんな事をしたのか。もう一度聞くわ。なぜ?」


痛みに悶絶する田中を見ながら白石はもう一度椅子に座り直す。


「…ぐ、た、たすけっ…」


田中は息を吸い、大きく口をあけた。

その瞬間白石は思い切り鉛筆が刺さった部分を蹴り飛ばした。

鉛筆が肉を抉りながら弾け飛ぶのを横目に田中が苦しむ声を上げるのを冷静に見つめた。


「ぐぎぎいいぃ…」


「いま、大きい声で助けを求めようとしたわね。もしかして仲間がいるの?あんなナタと、結束バンドまで用意しておいて、それに覆面。言い逃れなんて出来ないわ。」


田中は青い顔を白い顔にしながら床をみつめてはを食いしばる。


「私はね。昔、この学校で暮らしてたけど親の転勤が原因で引っ越さなくちゃならなかったの。だから冴子や遥と離れ離れになってしまうしかなかった。それから約5年後にここに戻ってきた。それは何故かわかる?」


「…いでぇ。わ、わかるっ…わげないだろ?」


「そうね。あなたには分かりそうにはないわね。教えてあげる。私は冴子から手紙を受け取ったからここに来たの。」


田中はその目に痛みと驚愕で震えさせた。


「それで、戻ってきてみたら色々変わってた。それは当たり前かもしれないけれど、変わってはいけないところまで変わってしまっていた。」


白石はその制服のスカートに滲んだ血をすこし拭いながらもう1度鉛筆を拾い目元まで持ってくる。

田中は折れた鉛筆の切っ先がこちらに近づくにつれ生涯感じたことのない恐怖を体感した。


「あなた達の中に冴子を死に追いやった悪魔がいる。それはあなた?」


田中の眼球にむけ、風の壁を貫きながら迫る鉛筆に田中は思わずその口を開いた。


「ま!まってくれ!はなす!はなすから!」


苦痛で、涙をぐしゃぐしゃに流し鼻水を垂れ流す田中の顔は綺麗とはいえず、とても醜く歪んでいたがまだ目は死んでいなかった。

しかし、その目すら死んで、くちから唾液を吐き出す。


「かはっ…はぁ、はぁ、この七不思議は危険なんだ。知ってはいけないことが沢山ある。それを知ろうとするやつは止めなくてはならない。それがどんな人物でも。」


田中はその沈んだ目を白石にむけながら唇を震わせる。


「って、言われたんだ。これはおれの意思じゃない!」


突き刺すすんでのところで鉛筆をピタリと止めた。


「…」


白石は冷徹な目で田中の目をみる。

田中はその目を見返し必死につたえる。それを白石は眺めるが、そこには冷たい物が漂っているように田中には感じられた。

それは底冷えする恐怖という贈り物を付けられたような感じだ。


「…そう。嘘じゃなさそうね。それとも相当口が硬いのか、どちらにしても信じるしかなさそうね。」


白石は一呼吸をおく。


「それで、だれに言われたの?」



「それは…わからない」


白石の目が欧弁に語っていた。殺すと。

そうさとった田中は早かった。


「ちがう!ちがう!嘘をついてるんじゃない!知らないんだ!紙が届いて。それに従っただけなんだ。本当だ!信じてくれ!」


白石は静かにするように鉛筆で脅しながら人差し指を口元に当てる。


「紙?それはどんなやつ?」


「おれの右ポケットに入ってる。」


田中は顎で右ポケットを指し、ズイっと前に出て取りやすくした。それを取り上げ紙を開く。

その紙は四方系の小さなメッセージカードで服装と今回の犯行について簡易的に書いてあるだけだった。


「これをどこでもらったの?」


「教室の俺の席に入ってたんだ。」


「コレだけでこんな事をしたの?他にもなにかあったんじゃない?従わなければならないようなものが…」


「それは…写真だよ、脅されたんだ」


田中は下を向き歯切れが悪くそう呟く。


「写真は?なんの写真なの?」


「そんなことは別にいいだ…ろ?」

白石の目を見てまたすぐ俯く。

震えながらこもった声でつぶやくが、白石に聞こえないと催促され大口を開けて答えた。


「む、むかし!…盗みを働いちまったんだ。万引きだよ。その証拠写真だ!」


「万引きで、その証拠写真だけで人を殺そうと?」


「おれは、その万引きは軽いつもりだったんだ。金を持ってなかったわけじゃない。その盗ったものが欲しいものだったものでもない。でも、ふとした瞬間に刺激が、スリルが欲しくなったんだ。それでコンビニの商品に手を出した。何個も盗っていった。それで簡単に盗れるからずっと盗んでたんだ。そしたら、そこの店長が、自殺、したんだ…」


「それがバレたくないからさらに罪を重ねようと?」


田中は縛られているにも関わらず身を乗り出して思い切り唾を吐き出す。


「しかたないだろ!俺みたいなバカは勉強できる訳でもないから、こんなことがバレたら未来なんかなくなる!普通に暮らせなくなるんだぞ!?」


「そうやって言い訳して、自分の罪を認めず、自らのエゴのために人をまた、殺すっていうの?」


「そう、そうだ。それしか、それしかないんだ!みんなそうだろ?みんな自分が大事なんだ!」



バチンっ


白石は平手を田中の顔に目掛けてぶった。

その強さに押し負けて田中は右から左へ倒れふす。


「ふざけないで!どんなことがあっても人を殺したら罰を受けなくちゃいけないの。ちゃんと罪を償って。」


泣きっ面に蜂のような様子の田中はそのまま寝てしまおうと、思いもしたが白石が強引に起こすことによって目覚める。


「でも、罪を償うのはまだ早いわ。あなたが私を殺スために一緒に来たのは別として、私を手伝うといったこと、しっかりと果たしてもらうわ」


「え…」


白石はいつもの凛とした表情に戻って、その口角を上げる。

ライト1本に照らされているせいかものすごく不気味な笑みに見えるのは気のせいだろう。


「あなたを差し向けた犯人、それを暴くわよ。」




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