犬弟、狸姉の化けの皮を剥ぐ
『可愛い可愛いだけでは、お利口な子には育たない』って、ものの本に載ってた。ごもっとも!躾は大事。
「あのね!好きでいてくれるのはとっても嬉しいけど、他人の口に勝手にチュウしちゃダメ!」
イェゼ君が何故かえらくショックを受けた顔になる。
「他人じゃないよっ!好きってして、なんで弟より下がるかなぁ?!抵抗だって、しなかったのに…」
スミマセン。内心は喜んでましたから…じゃなくて!
「そ、それはびっくりしすぎて…」
それは本当だ。魂、抜けたんだぞ。
納得出来ないのか、彼はどよーんとしたままだ。
うーん。ワンコが飼い主にペロペロしすぎるのはどうやって諌めたらいいんだろう?ワンコに罪はないんだよね。
彼の頭に、へにょった耳が見える。
甘やかすばかりじゃダメだけど、締め付けすぎて凝った執着が暴走しないよう、ガス抜きは必要か。でないと監禁されかねない。
「…頬っぺたなら、いいよ」
ワンコ、一瞬で耳が立った。復活早っ。
「うん!頬から馴れていこうね!あ、馴れるために姉上からして「しません!!」…ちぇっ。じゃ、頬で我慢するから、その代わり、他の奴には、姉上のどこにもキスさせないでよ?」
姉は狸です、誰もキスなんかしません。
…もしや、あの鼻を擦ったのは狸に対する挨拶だった?
「あはは、大丈夫。心配いらないよ。そんな相手いないから」
イェゼ君がちろんと疑いの眼を向けてくる。
「スーリブ座の、ガンナーレだっけ?アイツも、しない?」
へ??
えええーーっ!!
なんでイェゼ君が、ガンナーレと私が知り合いって知ってるの??
「不思議そうだね?知ってるよ。よく会ってるでしょ?」
まさか、ガンナーレとイェゼ君は知り合い?
いやいや、それはない!それならガンナーレが教えてくれる筈。
ガンナーレ・スーリブは、私の数少ない男の子の友達だ。皇都に複数のある劇団の中で、最近、人気急上昇のスーリブ劇団。そこの花形三兄弟の三男。演技力、身長共に只今延び盛りの13歳。
脳裏に浮かぶガンナーレの姿は、直近に演じたやんちゃな俺様王子。あの、まだちょっと青いカッコ可愛さは、乙女ならば必見!見ずして死んだら人生相当損してる。
「知り合いだって知ってるなら、仕事絡みって解ってるんでしょ?ガンナーレから××とか冗談でもやめて。親衛隊に殺される」
スーリブ三兄弟には熱烈なファンがいて、親衛隊を作っている。
「今度から会うときは、俺も行くから」
「えっ!?」
イェゼ君は当然と言う顔をしたが、冗談でもやめて!
「当たり前だよ。定期的に二人でどっか籠って、何かしてるんだろ?もう二人きりでなんて、会わせない」
「待って!確かに私達だけで籠ってるけど、他の人に手伝ってもらう事がないだけだよ」
お願いだから、来ないで!
でないと作業に集中出来ない。
「二人で、なにしてるの?」
イェゼ君の私を見る目が、言い逃れは許さないと言っている。
言いたくないけど仕方ない。どうせなら、いっそそこまで調べといてよ~。
「私が、ガンナーレの絵を描いてるの」
「絵!?…あ、」
聞き返しが音的には駄洒落みたいになって、イェゼ君の口がへの字になった。
クスッ。ちゃんと伝わったよ。
「うん、絵。肖像画みたいな立派なのじゃなくて、素描だけどね。次の舞台の宣伝に使うの。皇都の中央市場の脇に、劇団の広告看板があるの知ってる?」
イェゼ君は一つ頷いて、ハっと表情を変えた。
「もしかして、あの役者絵を姉上が?」
あっけにとられたといった顔で、彼は自分の予想を答えてくれた。
「色々恥ずかしいから、イェゼ君にはバレたくなかったよ」
苦笑しながら正解だと伝えると、イェゼ君は更に大きく目を見開いた。
レアなお顔をありがとう。
私のしてる事バレちゃったから、もういっそ「その表情、描かせてください!」って、言っちゃおうかな…。




