第二話 カレンダーのダイイングメッセージ
声を荒らげて来店して来たのはスーツを着た男性だった。身に覚えの無い人物に蜜花は何事かと狼狽えていると、榎本が手を拭きながら男性の元に歩み寄る。
「高科くんじゃないですか」
スーツの男は榎本の知り合いだったらしく、親しそうに話しながらテーブル席に案内された。「いつもの珈琲でよろしいですか?」と聞く榎本に高科と呼ばれた男は「はい、お願いします」と落ち着きを取り戻した様子で答える。
その注文を蜜花に頼み、榎本は高科の向かい席に腰を下ろす。
「捜査協力とは何か事件でも?」
「事件?」
ニュースやミステリーでしか聞いたことがない単語に蜜花が反応すると、俊夫が「あの人は警察の人じゃよ」と小声で答える。
「警察?!え、マスター捕まっちゃうんですか!」
お湯の入ったポットを勢いよく叩きつけて声を荒げる。
店に警察官が来たという単語だけを頭にインプットした蜜花はイコール「捕まる」と変換したようで、榎本が逮捕されてしまうのではないかと勘違いを起こす。それを聞いた高科は目を点にしながら唖然とし、榎本はまた面白いことを言っていると笑いが溢れる。
「私は捕まりませんよ」
「捜査協力ってあの刑事さんが言ってたでしょ?良くあるのよぉー」
冴子に言われ、高科が来店した時に言っていた言葉を思い出した蜜花は胸を撫で下ろす。ここ最近は警察からの捜査協力が無かった為、蜜花は榎本がそんなことをしているなんて全く知らなかったのだ。「言ってくださいよ!」と言えば「そんな大したことはしていない」と笑って謙遜しだす榎本に蜜花はふくれっ面をする。
そんな蜜花に気付かない榎本は店内の時計を確認する。
「もう閉店時間ですし、作業が終わってからでもよろしいですかな?」
その問いに高科が了承すると榎本は閉店作業をする為に立ち上がると、すかさず蜜花が引き止める。
「私一人で大体の作業は出来ますからマスターはお話しててください!」
意気込むように胸に手を当て張り切ると、その姿を見た榎本は笑いながら「では、よろしくお願いします」と再度腰を下ろす。
「じゃあ、私達も帰りましょうか」
「そうじゃな」
「ありがとうございました!」
最後のお客だった白石夫妻を笑顔で見送った後、サインプレートを「CLOSED」に変えて看板を仕舞いモップがけから始める。
だが、蜜花も本物の事件が気になりすぎていつものような効率の良い掃除方法ではなく、出来るだけゆっくりと話が聞こえるような動きをする。不謹慎なのは承知の上だが自分にも何か役に立てることがあるかもしれないとこっそり聞き耳を立てる。
「それで、一体何があったのですか?」
「実は昨日の夕方、化粧品会社「メイキィー」の社長、木山薫が頭を強く殴られ死亡した事件があったんです」
懐から事件現場の写真を取り出し、机に並べる。榎本はそれを見ながら遺体状況を把握していると、三人の男女の写真も追加で出される。
「うつ伏せで倒れている木山薫を発見したそうで、死亡推定時刻は十三時から十四時の間。部屋にあった壺で背後から殴った痕跡がありました」
そして、その時刻にアリバイがなかったのはメイキィー社社員の三人。
一人目は第一発見者の伊津美和子、三十九歳女性。社長である木山薫の右腕と言われているぐらい優秀な人物だが、会社の方針で何度か木山薫と揉めていたようだ。
二人目は後藤景、二十七歳男性。女性社員が多い職場だったこともあり、可愛がられていたが荷物持ちなどの雑用も良く押し付けられていたようで退職を考えているが木山薫に引き留められているそうだ。
三人目は吾東衣央、二十四歳女性。新人の時から木山薫に良くしてもらっていたらしい。
「吾東衣央さんだけ動機はなかったのですか?」
「はい、これといって情報は……元気で後輩の面倒見も良かったと聞きました」
動機がないからとってアリバイがない人物を容疑者から外すわけにはいかない。恨みがなくとも殺人は意外と起きるものだが、本人からしたら耐え難い状態だろう。
「そして、遺体のそばに卓上カレンダーが落ちてあったのですが、なぜか十二月になっていたんですよ」
机に置いていたのが何かのはずみで落ちてしまった時に捲れたのではないだろうかと榎本は考えるが、渡された写真を見てその考えはなくなる。
「三十日のところ……血のついた指で触った痕跡がありますね」
「恐らくこれは───ダイイングメッセージ」
高科の言葉に緊張感が走る。
すると、「カタンっ」という何かを落とす音が店内に響き渡り、驚いた榎本と高科は音の方に顔を向けると蜜花が目をまん丸にしながら手で口元を押さえて立っていた。
「ええ!あれってフィクションじゃないんですか?」
蜜花の純粋な疑問に榎本が答える。
「こうやって被害者が残すことは現実でもありますよ」
ただ、それがダイイングメッセージだと第三者が気付けるかが問題なのだ。それなら犯人の名前を残せば良いだろうと思う人も出てくるだろう。だが、万が一犯人が現場に戻ってきたらどうだろうか。メッセージが自身を示していたら真っ先に疑われ、捕まるのも時間の問題だ。そうならない為に被害者が残したメッセージを犯人は消すだろう。
そうならない為に分りづらくするのだが、その塩梅が難しいのだ。
「ダイイングメッセージなら十二月三十日に関係のある人が犯人ってことですか?」
いつの間にか榎本の横に座った蜜花が問いかける。
「実は、その線で警察の方でも考えたのですが吾東衣央さん以外……」
話を聞くところ、後藤景の生まれた日が十二月三十日で伊津美和子は語呂合わせで伊津美和子と考えられるそうだがそれに対して蜜花が首を傾げる。
「生まれた日は納得ですけど、美和子で五に印がついていないのはおかしくないですか?」
「つける前に力尽きてしまったのではないかと、」
腕を組みながら頭を悩ませる二人を他所に榎本は現場の写真を見つめる。
カレンダーは遺体の頭上で右手を伸ばせば届く位置にあるが、写真に写る右手は顔の横にあった。もし、力付きて五に印を残せなかったのならまだカレンダーの近くにある、もしくは触れているのではないだろうかと一人考えていると榎本はあるものを発見する。
「なるほど、吾東衣央さんにも当てはまりますね」
その言葉に蜜花と高科は必死に頭を捻らせて関連しそうなことを考える。
「ええ?語呂合わせと誕生日以外だと……衣央さんが入社した日?」
「もしくは衣央さんが何かを成し遂げた日とかですか?」
頑張って出した回答だが榎本は首を横に振る。
社員の入社した月は覚えていても日にちまで覚えている上司はなかなかいないだろう。ましてや人数が多い会社なら尚のことである。何かを成し遂げた日も同様だ。
方を落とす二人に榎本はそんな難しく考えなくても良いと言うが一向に出てこない。
「ヒントはポケベルですよ」
答えを言うと何かを言われそうな雰囲気を察した榎本がヒントを述べると、二人は口を揃えて「ポケベル?」と首を傾げる。それが犯人とどう関係するのかの「?」ではなく、ポケベルとは何だの「?」だと感じた榎本は苦笑いをしながら恐る恐る問う。
「もしかして、ポケベル……知らないんですか?」
「聞いたことも」
「見たこともないです」
「これがジェネレーションギャップですか……」
片手で目元を押さえながら「私もだいぶ歳をとったな」と溜息を溢す。
「ポケベルはポケットベルの略で簡単に言えば小型の無線呼び出し機器ですね」
携帯電話が普及する前の一九八〇年代から一九九〇年代に大流行した文字や数字を受信できる機械。受信専用機器なので発信する時は固定電話や公衆電話から相手のポケベル番号に連絡をしてメッセージを送らなければならない。
スマートフォンを使っている今の時代では不便な機械となってしまったが、当時の女性達の間でポケベル暗号といった語呂合わせでのやり取りが大ブームとなった。
代表例で言うと「おはよう(〇八四〇)」や「愛してる(一一四一〇六)」など。
しかし、これだと短い文でのメッセージしか送れない。そんな時に使われていたのが二タッチ入力のポケベル打ちだった。
二タッチ入力の数字の組み合わせは意外と単純で、
ー行の数字(子音)ー
一(あ行)、二(か行)、三(さ行)、四(た行)、五(な行)、六(は行)、七(ま行)、八(や行)、九(ら行)、〇(わ行)
ー段の数字(母音)ー
一(あ段)、二(い段)、三(う段)、四(え段)、五(お段)
となる。
その話を聞いて興味を示した蜜花はポケベルについて調べていると分かりやすくまとまったポケベル打ちの表を発見し、眺めていると「あ、」と小さく声を上げる。
「いお……」
「ポケベル打ちで十二と三十は「いお」と読めるんですよ」
驚いた高科は蜜花からスマートフォンを借り、自分の目で確かめる。
「本当だ……」
「これで容疑者全員が一二三〇の数字に関連する人物だと分かりましたね」
「でも、どうしてこのカレンダーだけでポケベルが出てきたんですか?」
蜜花の疑問に榎本は遺体の写った写真を机に置き、そばに落ちている書類の山を指差す。
「吾東衣央さんは日頃から衣央と下の名前で呼ばれていたようでしたので」
目を凝らして見ると、「社員旅行参加者」と書かれた紙があることに気が付く。
そこには名字の「吾東」ではなく下の名前の「衣央」と可愛らしい字で書かれていた。恐らく普段から下の名前で呼ばれており、社員旅行という会社内の行事だからこそ分かりやすい方で署名したのだろう。
「確かに、私も下の名前で書いちゃうかも」
「それに木山薫さんはポケベル世代、どんな経緯で十二月のカレンダーを見ていたかは分かりませんが瞬時に思いつけたはずですよ」
だが、吾東衣央が数字に関連する人物だと分かっても容疑者には最初から入っているので捜査は並行のまま。
再度悩む三人はそれぞれ遺体や事件現場の写真を眺めていると、蜜花が首を傾げながら口を開く。
「そういえばこれギメルリングですよね?でも何で同じ形を二つもつけてるんでしょう」
「ギメ、なんですか?」
ギメルリングの存在を知らない高科は目を点にしながら唖然とすると榎本が笑いながら蜜花から写真を受け取る。
「ギメルリングですよ。確かに珍しいですね」
ギメルリングとは二つのリングを知恵の輪のように絡み合わせて一つになる指輪のことで、強い絆で結ばれる人物と分け合って使うことがほとんどだが木山薫がつけているものは絡み合うことがない同じ形状のリングだった。
「旦那さんの……とかでもなさそうですよね?分け合って使うのなら木山さんが嵌めてているのとピッタリ合うはずですし」
「そうですね、ん?」
「どうしました?」
何かを見つけた榎本が目を凝らしながら一点を見つめる。そんな榎本の姿に蜜花と高科は左右から覗き込むようにして写真を覗き込む。
「このリング、おかしくないですか」
そう言って右手の薬指につけていたリングを指差す。
「右手だから結婚指輪じゃない、とか?」
「結婚指輪ではないのは確かですね。左の薬指にちゃんと結婚指輪がつけられていましたので」
「これは恐らく婚約指輪ですよ」
結婚指輪とデザインが合わなかった為、重ね付けができなかったのだろう。だが、外したくはない。そう考えた木山薫は仕方なく同じ指の太さである右の薬指につけた。
だが、榎本が注目しているのはそこではない。
「二つのリングのうち、上のリングにだけ血痕がついていないんですよ」
高科が写真を受け取り注意深く見ると、確かに下のリングにはついているのに上のリングにはついていなかった。
「まさか、そのリングは犯人が後からつけた。でも一体何の為に……」
新たな謎の真意を考えていると、「ああーーー!!!」と言う本日三度目の大きな声に二人は顔を向けると、スマートフォンを凝視したまま固まる蜜花がいた。
「ど、どうしたんですか?」
「思い出したんです!これ見てください」
アクセサリーに疎かった蜜花が何故ギメルリングという指輪の種類を知っていたのだろうと一人考えてやっと思い出したらしい。
そのきっかけとなった写真を榎本と高科に見せる。そこには制服姿の女子生徒が一人の女性を挟んで撮った写真だった。
「あ、この左右にいるのが私の高校の時の友達で、真ん中にいるのがメイキィーの社員の人なんです」
メイキィーと聞いた瞬間、二人は顔をあげて蜜花を見る。実は、就職をする蜜花の友人が職場見学に行った時に説明してくれた社員の人と撮った写真のようだ。
「それで、これ見てください!彼女の薬指についているリング」
「これは、」
「私、これ見てギメルリング知ったんですけど……」
木山薫の右薬指に嵌められている二つの内、上のリングと色形が全く同じだったのだ。
「同じデザインじゃないですか」
「でも、たまたま同じだっただけじゃないですか?」
人気のデザインなら同じのを持っていてもおかしくはないと高科が言うと蜜花は立ち上がり、今度は三年前のネット記事を見せる。
「それがそうでもないんですよ!実はこの職場見学の後、写真に写っている女性が亡くなってしまって入社試験は無しになったんです」
「犯人はこの人の知人で……復讐の為に、」
「高科くん、この事件のこと詳しく」
榎本に言われ、高科は急いでどこかに電話をかけた。
「同僚に資料を送ってもらいました。三年前に亡くなったのはメイキィー社の社員だった当時二十五歳の矢内麻央さん」
「それで、死因は」
「会社の屋上からの飛び降り自殺だったそうです」
靴も綺麗に並べられており、遺書の代わりなのか靴の横に指輪が置かれていたようで今は遺族の方が持っていると当時担当していた刑事が書き残していた。
「それが、ギメルリング」
「確かな動機は不明ですが上司からのモラハラが原因だったのではないかと聴取を受けた同僚の方だ言っていたそうで」
だから犯人はその復讐の為にメイキィーに就職し、チャンスを伺っていたというわけだ。犯人の動機が明らかになり、榎本と蜜花が納得していると高科が驚いた様子でスマートフォンを見つめる。
「何かあったのですか?」
「えっと、矢内さん……幼い頃に両親を事故で亡くして親戚に預けられたようなのですが、実は生き別れになった妹がいるようです」
その言葉に全員の脳内が一致する。
容疑者の中で矢内麻央より年上の伊津美和子と男性の後藤景は除外さ、四歳下の女性である「吾東衣央」が最も怪しくなる。
「その線で調べてみます!」
勢いよく立ち上がった高科は急いで店を出て行った。
残された榎本は片付けを始め、蜜花は誰もいなくなった店内を数秒眺めていた。
「私達も帰りましょうか」
蜜花に声をかける榎本だったが、どこか納得のいっていない表情をしていることに気が付き問いかける。
「まだ気になることでもあるんですか?」
「姉の復讐だったとしても、大切な遺品を現場に残していくでしょうか……」
これは復讐だと第三者に知らしめる為だったのかもしれないが蜜花なら肌に離さず持っていたいと思う。やはり、人それぞれなのだろうと無理やり納得させようとすると榎本が口を開く。
「これは、私の推測ですが───全てが想定外だったのだと思います」
榎本の言葉の意味が分からず「どういうことですか?」と蜜花は聞く。
「矢内麻央さんの死のきっかけとなった上司。犯人はそれが誰か分からなかったのではないかと、私は思います」
そうでなければわざわざ嫌なところに入社する理由が思いつかない。
先程、高科も「上司からのモラハラが原因」と言っていた。名前を言わなかったのは誰かまでは捜査していないからなのではないかと榎本は考える。
「ずっと探していて、見つけたってことですか……?」
何らかのきっかけで矢内麻央を追いやった人物が木山薫だと気付いた犯人は自我を失い、勢いのままに殺してしまった。落ち着きを取り戻した時には木山薫は血を流して倒れており、証拠を隠滅しようと指紋を消した。しかし、その時に矢内麻央のリングを落としてしまう。気付かない犯人はそのまま部屋を出るが、その時はまだ生きていた。
「目を開けた木山薫さんが落としていったリングを見つけて気付いたんですよ。吾東衣央さんは矢内麻央さんの妹だと」
「え、じゃあ衣央さんがリングをつけたんじゃなくて……」
「木山薫さんが吾東衣央さんを庇う為に自らつけたんです」
衝撃の内容に蜜花は口元を押さえる。
「でも、庇うなら最初からダイイングメッセージなんか残さなければ、」
榎本の推測が本当なら木山薫は何故、ダイイングメッセージを残していったのだろうか。庇うのなら疑いがかけられないようにするのではないかと蜜花が問うと榎本は静かに答える。
「残した後で気が付いたんですよ。矢内麻央さんが生前愛していた、たった一人の妹だということに」
床に落とされたリングを隠すので精一杯だった木山薫はダイイングメッセージまでは消せなかった。
勘違いによる殺人だったのではないかと榎本は静かに言った。それがどう言う意味なのか蜜花には分からなかった。
「さ、帰りましょうか」
帰りの用意をする為に榎本はバックヤードに消えていく。それを確認した後、ホールに残った蜜花は暗くなった外を眺める。
「復讐は結局……何も生まない」
後日、高科が再び喫茶店に来て事件の詳細を教えてくれた。
捜査をした結果、三年前に靴と置かれていた矢内麻央のリングと今回木山薫が着けていたリングが一致し、矢内麻央の両親に確認をしたところ妹である吾東衣央が持っていると判明。
問い詰めると吾東衣央は泣きながら罪を認め、全てを自供した。
その証言は榎本が蜜花に話した推測と同じだった。復讐をする為にメイキィーに入社したが強い言葉や嫌な態度をとる人は一人も居らず、姉の死の原因は会社が原因ではなかったのだと思い始めた───その時。
木山薫に呼び出され、「新人にキツイ言葉を言い過ぎると訴えられるわよ。色々と大変なんだから」と注意をされた。その言葉に姉を殺したのは木山薫なのだと思った吾東衣央は体が勝手に動いて気付いた時には地面に倒れていた。
気が動転した吾東衣央は急いで逃げたが、姉のリングがないことに気が付きすぐにバレるだろうなと覚悟していたと証言した吾東衣央に伊津美和子が泣きながら「麻央ちゃんに色々言っていたのは私なの」と告白。木山は当時、別の部署で働いていたらしく、矢内麻央とは友人のような関係だった。
上司からモラハラされていると相談を受けていたが、部署も違ければ立場も高くはない。話を聞くことしかできない木山薫は相談を受けていたにも関わらず何もしてあげなれなかったと一人悔やみ、社長の座まで上り詰めた。もう二度とこんなことは起きてはならないと会社の雰囲気を変えたのだ。
木山薫のおかげて強い言葉や嫌な態度をとる人が居なかったのかと吾東衣央は「ごめんなさい」と泣き崩れたそうだ。
「マスターの言っていた勘違いってそう言うことだったんですね」
「矢内麻央さんが亡くなったのは十二月一日だと高科くんに送られてきた資料に書いてあったので」
もしかしたら十二月のカレンダーを見ていたのは矢内麻央を思い出していたからなのではないかと榎本は考えていた。
「今回も捜査協力ありがとうございました!」
立ち上がって敬礼をする高科に榎本は微笑む。
「貴女もありがとうございました!では、ご馳走様でした」
お会計をして帰る高科に榎本は「ありがとうございました」と扉までお見送りをする。一方で蜜花は挨拶を忘れて唖然とする。
どちらかと言えば勝手に首を突っ込んだ一般人なのだから怒られるのが普通だろう。それがまさかお礼を言われると思っていなかった蜜花は困惑の表情をしながら呟く。
「私、何もしていないんですけど……」
その言葉に戻ってきた榎本が笑いながら答える。
「あのリングの正体を突き止めたのは蜜花くんじゃないですか」
しかし、それは友人があの写真を送ってくれたお陰で偶然が重なった結果であるが榎本は「それでも、お手柄でしたね」と微笑む。
「そっか……お役に立てたのなら良かったです!」




