第187話 追放幼女、マホすけの実験をする
翌日の午後、あたしはホブゴブリンを含む残りの骨をすべてスケルトンにした。
ちなみにホブゴブリンもゴブリンメイジのようにものすごい魔力がいるかと思って身構えていたが、まるでそんなことはなかった。
必要な魔力はゴブリンメイジどころかシルバーウルフのときよりも少なく、クレセントベアよりはと多いといったところだった。
同じゴブリンの上位種とはいえ、魔法を使うことに特化したゴブリンメイジと違ってホブゴブリンは体が大きいだけのゴブリンということなのだろう。
さて、と。ゴブすけが二百八十一体も増えたことだし、これで色々と仕事が進められるね。
何からやろうかな?
一番はやっぱり土木工事だけど……ゴブすけは手先が器用なだけで重たいものを運ぶのは得意じゃないんだよね。
一応、ホブすけ――ホブゴブリンのスケルトンの名前は安直にホブ-1とした――はいるけど、一体だけじゃねぇ。
とすると、マホ-1の魔法で掘る?
それってできるのかな?
うーん……とりあえず実験してみようか。
「D-8」
カタカタカタ。
D-8が目の前までやってきて屈んだので、鐙に足を掛けて一気に騎乗する。
「マリー」
「はい。お嬢様」
「このゴブすけたち、足りてないところに応援に行かせてくれる? あたしはちょっと信用金庫のとこに行ってくる」
「かしこまりました」
「よろしくね」
こうして大量のゴブすけの差配をマリーに任せ、あたしは信用金庫の建設予定地にやってきた。
建設予定地は中央広場から少し北に行った場所にある畑だった場所で、今は周辺一帯を含めてまるごと空き地になっている。
さて、それじゃあ早速。
「マホ-1、そこに魔法で穴を掘って。深さは……とりあえず一メートル」
カタカタカタ。
マホ-1はあたしが指さした場所まで行くと、魔法を発動した。地面が掘り起こされ、近くに土の山が出来上がる。
わ! すごい! ちゃんと掘れた! しかもこんなにすぐに掘れちゃうなら、建設もすぐ終わりそう――。
ドシャァァァ!
「あ……」
そう思っていたのだが、せっかく掘った穴の壁が崩壊し、半分ほど埋まってしまった。
うーん……まさかこんなに簡単に崩れてしまうとは。地下室を掘るのって結構難しいことなんだね。
……あれ? でも冷凍庫は……ああ、そうだ。石積みをしてたし、目地もモルタルで埋めてたんだっけ。
ということは同じように石積みを……あれ? その石と石って、魔法でくっつけたりできないかな?
「マホ-1、そこに転がってる二つの小石、魔法でくっつけて一つにできる? できるなら頷いて」
カタ。
マホ-1は小さく頷いた。
……できるんだ。ロイド、たしか岩を変形させるのは大変だって言ってた気がするけど、これは変形のうちに入らないのかな?
「じゃあ、やってみて」
カタカタカタ。
マホ-1は二つの小石を重ね、魔法を掛けた。
「見せて」
カタカタカタ。
マホ-1が一つになった小石を差し出してきた。
うーん……切れ目は……ないね。あたしは元の姿を知っているからこれが二つの小石がくっついたものだと分かるけど、もし知らなければこれが二つの小石をくっつけたものだとはとても思わないだろう。
形が明らかに変なので、大きな石から切り出したと思われるかもしれないけど。
じゃあ、強度はどうかな?
「ホブ-1、この石、力づくで割れるか試してみて」
カタカタカタ。
ホブ-1は受け取った石を両手で持ち、力を加えた。しかしすぐに諦めてしまう。
「無理そう? 無理そうなら頷いて」
カタ。
どうやら無理らしい。
「マホ-1、今やった石を繋げるのって、一日に何回できる? できる回数だけ頷いて」
カタカタカタカタカタカタカタカタ……。
「ちょ、ちょっとストップ! ええと、一日に百回できるなら頷いて」
カタ。
「なら千回は?」
カタ。
あれ? そんなにできるんだ。
「なら一万回は?」
カタ。
えっ? そんなにできるの?
「じゃあ、十万回は?」
カタ。
……できるらしい。もしかして石をくっつけるのってそんなに大変じゃないのかな?
ロイは、岩を割って横穴を掘るのはそんなに大変じゃないって言ってたし、もしかして魔法があればトンネル工事って思ったよりも早く進むんじゃ?
◆◇◆
一方その頃、訓練場ではメレディスが遠征に参加した騎士たちのうち数人を集め、怒鳴りつけていた。
「お前ら! 何チンタラやってやがんだ!」
「……」
しかし彼らは気まずそうな表情で俯いているだけだ。
「ゴブリンごときにビビッてたのはてめえらだろうが! そのくせ不貞腐れて、訓練でも手を抜くつもりか?」
しかし彼らは反論するでもなく俯いており、まるで嵐が過ぎ去るのを待っているかのようだ。その様子にメレディスは深いため息をつく。
「てめえら、悔しくねぇのか?」
「……」
しかし彼らの様子は相変わらずだ。それを見たメレディスは再び深いため息をつき、メレディスはわざとらしく舌打ちをする。
「その腐った根性を叩き直してやる。まずはジョエル、お前からだ」
名指しされ、一人の若い騎士が顔を上げた。
「構えろ!」
メレディスに促され、渋々といった様子で剣を構える。
「来い!」
「……はい」
命令され、ジョエルは素早い動きでメレディスに近づき、剣を振り下ろす。しかしその一撃をメレディスは軽々といなし、ジョエルの背後に回るとそのままジョエルの尻に前蹴りを食らわせた。
バランスを崩してよろめくジョエルに向かってメレディスは怒鳴りつける。
「踏み込みが甘ぇんだよ! そんなんじゃゴブリンどもにも勝てねぇぞ!」
「は、はい!」
ジョエルはメレディスのほうへと向き直る。そして先ほどよりも鋭い踏み込みから剣を振り下ろすのだった。
次回更新は通常どおり、2026/05/17 (日) 18:00 を予定しております。




