第47話 聴取
地下から外に出ると、リプラやカラリ、セクタ、他の自警団の皆さんが俺達を待っていた。
「…っ、ツイトさん…良かった、無事で…。」
「「………。」」
カラリとセクタは、不安と安心が混ざったような表情で、リプラは寂しさを感じさせるような顔で、こちらを見ていた。
「…あっ、め、迷惑をかけて…ご、ごめんなさい。」
俺は、周りを見ながら、まず、皆に会ったらすぐ言おうと思っていた言葉を口に出した。
「…ツイト様、もしかして、正常に戻られたのですか?」
リプラは、驚いた様子で、俺の目を見ていた。
「…えっ、ああ、うん、まあ…そうだね。」
「…っ、そうなんですか!?
よ、良かった…。」
カラリは、その言葉を聞くと、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。
「…えっ、カ、カラリ…!?」
「…本当に、良かったです…。
…ツイトさんが、ツイトさんじゃなくなるかもしれないって、不安だったんですから!
…もう、こんな無茶しないでください…。」
「…そうですよ、ツイト様…自分の力で敵を倒さなくては…これからは…。
…いえ、違いますね…。
…もっと言いたかった事がありました。」
リプラは、真剣な顔をして、真剣な声色で、そう言ったかと思うと、今度は、優しげな笑みを浮かべた。
「…私も、心配していたのです。
本当は、もっと、言わなければならないことは、沢山あるはずなのですが、この言葉を、一番に言わなければならない気がしたのです。」
「本当よ、もう…私達も、かなり心配したわ。
結果的に何事も無かったから、良かったけども…。」
リムさんの言葉に、ブロックさんも、頷いていた。
「………そっか。」
俺は、皆のその言葉を聞いて、心の奥から、暖かな何かが込み上げてくるような感覚になった。
…心配…か。
「…勇者様、リカバリー街へ戻った際には、少々事情などを、お聞かせ願いますか?」
「…ああ、そうですね。」
そう、思いにふけっていると、自警団の人が、そう声をかけてきたので、俺も、シャキッとした顔で、返事をした。
「…ああ、ちなみに、主犯も、仲間も、ちゃんと捕まえたわ。
もう戻っても大丈夫よ。」
「…じゃあ、よし、戻ろう。」
こうして俺たちは、リムさんが言う通りに、リカバリー街へ戻る事にしたのだった。
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「あっ、勇者様がお戻りになられたぞ。」
「…おおっ、池のアイツを倒したと噂されているが、本当なのか?」
「…きっと本当なんだろう。
ああやって、元気に戻ってくると言う事は…。」
…リカバリー街に戻るや否や、人が集まっていた訳では無いが、俺達をチラチラと見ながら、そう、ボソボソと呟いていた。
…しまった、帰ってきた時のことは一切考えていなかった。
よく考えたら、この街にいる人は、自警団の動きで勇者が居るという事を、何となく察していたりしたのかもしれないな。
行きは空気を読んだが、帰りは…まあ、空気を読んで近づきはしていないが、明らかにこちらを見て何かを話している…という事か。
これはもう、全く変装の意味が無くなってしまっているなぁ…。
…もはや、どう頑張ってもこうなってしまうなら、変装するのではなく、リムさんみたいな、別な人に見えるようにする魔法を習得した方が早いのかもしれないな。
どうせ変装しても、これからもこういうことがあれば、バレるだろうし…。
俺は、そんな事を思いながら、一旦宿屋に戻り装備を整えた後、自警団の元へ向かったのだった。
「…やっぱり、周りの目が少し気になるな…。」
俺は、そう呟きながら、自警団の建物に入った。
「ああ、勇者様方、こちらにどうぞ。」
建物に入り、俺たちと目が合うと、自警団の方は、すぐに俺たちを、別々な個室に案内した。
「…では、少々お話を聞きたいと思いますが…。
普段は、あまりこういった事をしないので…。
このような事態は、とても久々なので…少々聞づらかったら申し訳ないです。」
「あっ…いえ……というか、えっ、普段はあまり事情聴取はしないんですか?」
…俺は、自警団の人が言ったその言葉が気になり、自分が答える前に先に質問をしてしまった。
「…まあ、はい、あくまでも、“自警団”なんで。
被害者でも加害者でも、どうしても、訴えたい事があるという場合は別ですが……それに、大抵、調べれば分かるので。
アンドロイドのデータ、スマホのデータ…そういったもので、分かる事がほとんどで、話を聞かなければ分からないという事件は、滅多に起こりません。」
「…なるほど。」
「今回は、魔王軍関係で、少々話を聞いておかなければならない事があるので、こういった機会を設けさせて頂きました。
…今から、質問をするので、それに答えてもらったり、また、質問では聞かれなかったけれど、言った方がいいと思った事は、すぐに言ってください。
…では、行きます。」
その後、俺は様々な事を聞かれた。
元依頼主の様子だとか、どう行った事をしていたのか、そういった事を一から確認して行き、段々と事実をまとめて行った。
さらに俺は、聞かれなかったが、イーネさんと一緒にいた地下であった事を、正直に話した。
もちろん、イーネさんの事も、あの柄の悪い男らの事も。
…イーネさんは、俺の状態について、多分もっと情報を持っているはずだ。
だが、イーネさんは一度、自分のやった事を反省した方がいいだろう。
俺の情報がなんだと言うのだ、背に腹はかえられないが…。
覚悟を決めるしかない。
俺はそう思いながら、全てを話した。
「…なるほど…あの地下でそんな事が…。
では、一旦、今その方から話を聞いている人に、その話を伝えておきますね。」
自警団の方は、俺の話を聞くと、立ち上がり、話を伝えに行こうとしていたようだった。
「…では、少々…っ!?」
しかし、ドアを開けようとした途端、向こうから先にドアが開き、俺から話を聞いていた自警団の人は、驚いたような表情になっていた。
「…あっ、すみません、でも、すぐに伝えなくてはならない事が…。
…実は…。」
ドアを開けた自警団の人は、俺が話していた自警団の人と一緒に廊下へ行き、何かを話しているようだった。
「……実は…………上司にあたる……突然爆発……。
そして……別の場所……。」
「……それは……。」
俺がいる部屋に、話が薄らと聞こえてきた。
…大丈夫なのか?
俺の耳が間違っていなければ、上司にあたる人が突然爆発したというような会話をしているような気がするぞ。
…でも、まあ、もしそうだったら、合点が行く。
結局、元依頼主が、分身を自警団に送り込み、今までの事件をもみ消していたと考えれば、おかしな事でもない。
流石に爆発は、もし目の前で見ていたとすれば、トラウマになってしまいそうな気もするが……。
そうか、それなら、暗号の作戦も、おそらく上手くいったという事だろう。
…待てよ、別の場所…?
…まあ、そうか、一箇所だけじゃ、完全にもみ消す事は不可能だからな…。
…今、本体は……どうしているんだろうか?
自警団に引き渡された事は、分かっているが…。
後で、聞いてみよう。
「……それならば…………お願いします。」
「…………そうですね。」
二人のうち、俺の話を聞いていた人は、しばらく会話をすると、こちらに戻ってきた。
「…申し訳ないです、急な話で…。
話は、先程の人に伝えてもらう事になりました。」
「あっ、いや、大丈夫ですよ。」
「…では、勇者様、こちらが聞きたい事は、全て聞いたので、後は大丈夫です。」
「…あっ、待ってください、あの…元依頼主…あっ、いや、池にいたモンスターは…今、どこにいるんですか?」
「…ああ、今、この街のある地下で眠ってもらっていますね。
様々な対策をして、話が出来るまで、そこにいてもらうつもりです。」
「…なるほど。じゃあ、ありがとうございました…。」
…つまり、安全であるようにしているという事か…。
…いや、でも、空間を操れる魔法を持っているやつが来たら、それは意味をなさないのではないか…?
「…あの、そう言えば、もしかしたら、相手の仲間に、空間を操る事が出来る魔法を持っている者がいるかもしれないんです。
その対策も…。」
「…ああ、それでしたら、大丈夫ですよ。
魔法などで、脱出されないように、空間内では魔法を使えませんし、外から魔法を使う事も不可能ですから。」
それなら、大丈夫、か…?
「そうですか…では、ありがとうございました。」
俺は、少し不安を感じつつも、部屋から出たのだった。
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「…………ああ、勇者か。」
部屋から出ると、ブロックさんと、リプラが、皆を待っていたようだった。
「…カラリ、リムさん、セクタ、イーネさんは……まだ?」
まあ、イーネさんが俺より遅い理由は、完璧に察しているが。
「…そのようですね。
私達よりも、何か、聞かれているようです。」
「それなら、取り敢えず皆が来るまで待って、宿屋に戻ろうか。」
「そうですね。」
しばらく待っていると、リムさん、セクタ、カラリ…と、続々皆が集まり…最後に、イーネさんも戻ってきた。
「…………。」
イーネさんは、ドヤ顔でこちらを見ていた。
何だろうか、少々怒りが湧いてくるような感覚になる。
別に、ドヤ顔くらい何回も見ているだろう。
落ち着け、俺。
「…まあ、逆転の発想というやつだよ。
勇者様の事を信用しているなら、私の発言を信用しないのであれば、勇者様の言葉と矛盾するようにすればいい。」
イーネさんは、周りに聞こえないような声で、そう言った。
…信用しなければ、俺の言った事と矛盾するような事とは、一体どのような言葉なのだろうか。
取り敢えず、言葉だけでイーネさんを捕まえる事は、難しいという事か…。
「…じゃ、まあまあ、宿屋に戻りましょうー。」
イーネさんは、笑顔で自警団の施設から出て行こうとしていた。
「何、仕切ってんのよ…。」
「…まあ、ツイト様も、休まなくてはなりませんからね…。」
「…はぁ…疲れたなぁ…。」
「…………帰るか。」
「…ツイトさん?」
「…………ああ、うん、行こう。」
俺は、この状況が腑に落ちなかったが、次にチャンスがあったら、また作戦を考えよう、と、皆に続き自警団の施設を出たのだった。
今回も読んでくださりありがとうございます。
イーネさんは、一体どんな事を言ったのでしょうかね。分かる日が来るのでしょうか。
次回も良かったら見てください!




