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第32話 説得…?

「………………。」


「…えー、何か、私と…話したい事があったようだが…。」


…会社の中に入るや否や、デュアルさんに案内され、初めてこの都市の、このビルに来た時と同じ部屋に来て、すぐにトラックさんと話ができる、ということになったのだが…。


「…あっ、あの…えーとですね、まず…その……セクタ…との…話と言ったら良いんでしょうか、何の話をしていたかを…ちょっと、聞きたいと思っておりまして…。」


「…私とセクタが何を話していたか…?

…ええと、それは、いつの…話だったかな…。」


「い、いつ!?…えーっと…その…それは…。」


…驚くほど言葉が出てこない。


「…あれですよ、あの…俺が、勇者だという事が分かった後の…話です。」


「…ああ、あの時か………あの時は…。

もうセクタから話は聞いたかもしれないが、これから先は、もし、冒険について行きたいと思っても、危険だからやめた方がいい、という話をしたと思うな…。」


「…そ、そう…ですか…。

…あの、トラックさん、もし…セクタが…どうしても冒険に着いて行きたい、といった事を話したら…どう、思います?」


…しっかり気合を入れてきたはずなのに、声が少し震えてしまう。


「…どう、か…。…止めたいと思っているよ。」


「…止めたい…えーと、何故…ですか?」


「…何故?…セクタが命を落とす事も、あるかもしれないと考えたら、そうなってしまうよ。」


「…あっ、そうですよね…すみません…。」


…分かりきっていることを聞いてしまった…。

…そりゃそうだ、息子であり、次期社長であり…とにかく、様々な理由でセクタを心配しているから、トラックさんは止めるのだろう。

…しかし、言えない…「セクタは、覚悟を決めたみたいなんです、例え、冒険で大変な事があったとしても、乗り越える覚悟を…。」…なんて、言えない。

…そもそも、セクタは冒険での“辛いこと”を心配していたけど、トラックさんは、冒険での“危険”を心配している…心配している事が、少し違うんだよな…。


…いや、でも、まず言ってみないことには分からないよな…。

…案外、セクタが本気で冒険に行きたいと思っている事を説明すれば、すんなり納得してもらえるかもしれないし…な。


「………えーーっと……それで……ほ、本題なんですけど…。」


「………。」


「…あー、こ、これからも、セクタと冒険を…したいんです!

…どうにか、許可をいただけないでしょうか!」


俺は、唇をギュッと噛んだ後に、思い切ってそう、考えていた事言葉を、声に出した。


「えーと、あの、ですね、さ、先程も…セクタ…と、話をしていたのですが…セクタも、冒険がしたいと言っておりまして…。

…なんというか、セクタは、迷っていたみたいなのですが、色々と話し合った結果、その、冒険の…辛い事などは、仲間がいれば、乗り越えていけるんじゃないかと…そういう結論になりまして…。」


俺は、トラックさんの返答を待たず、そう付け加えた。

…俺の話が終わると、トラックさんは、少しの間黙っていた。

…沈黙が怖い…一体、何を考えているんだ…?

…前向きに考えているのだろうか…後向きに考えているのだろうか…不安だ…。


「…セクタ、それは本当なのか?」


…トラックさんは、少し考えた後、セクタの方を向いて、確認を取った。


「…え、ああ、うん……。」


「…なるほど…。」


…そのセクタの言葉を聞くと、トラックさんはそう呟き、またこちらに向き直った。


「…私は、もしかしたら、セクタに、圧をかけるような言い方をしてしまったのかもしれないね。

…そんな事を思っていたなんて、全く知らなかったよ。

…今まで、私は…あまり、セクタの話を聞いてこなかったのかもしれない。

…いや、かもしれないではないな……そうだな。

…ツイト君に、教えてもらうまで私は、セクタは、ずっと旅行をしていたと思っていた。

…友達と、一緒に旅行へ行って来ると聞き…セクタにも友達が出来たんだと喜び、二つ返事で旅行に行かせたんだ。

…それが、偽物だとは…気づけなかった。

…もしかしたら、しっかりとセクタの話を聞いていれば、それに気づけたかもしれない…。

…ずっと、そう、後悔していたよ。」


「…トラックさん…。」


…トラックさんは、申し訳なさそうに、俯いていた。


「…い、いや、僕も、同じだよ。

…僕だって、お父さんが偽物かもしれないなんて、少しも考えなかった。

…急に、『ボスと呼べ』…って、言ったのも何か必要な事なんじゃないかって…思い込んでいた。

僕も、言う前から、勝手に、決めつけていたのかもしれない。

…それに冒険だって…僕も最初は…1人でここまで帰ってくるのが心細くて…勇者さん達に着いて行ったんだ…。

でも、一緒にいるうちに…何だか、離れるのが、名残惜しくなってきて…今は、心から着いて行きたいと思ってる…。」


セクタは、話を聞いた後、俯くトラックさんのそばに寄って、そう声をかけた。


「…セクタ…それが、心からの本音なんだな。」


「…うん…。」


…俺は、そんな二人の様子を黙って見ていた。

…おお、何だか、上手く行きそうな雰囲気じゃないか…?

…そう思いながら、俺達の会話をずっと黙って聞いてくれた皆の方もチラッと見てみると、同じような表情になっていた。


「…セクタの気持ちは、よく分かった…しかし…冒険に行かせることは出来ないな。」


「…えっ?」


「…ええ!?どうして…。」


俺は思わず驚きの声を漏らしてしまったが、それをかき消すような声で、セクタも驚いていた。


「…気持ちは分かった、だが、ダメだ。

…理由は色々とあるが…まず、最初から言っている通り…危険だからだ。

…先程ツイト君は、セクタは『冒険で辛い事があっても、仲間がいれば乗り越えていける』という結論に至ったと…言っていたね。

…それは、間違いないか?」


「…う、うん…。」


「…甘い。」


「…えっ?」


「…甘いと言っているんだ。

もし、冒険する事になったとしても、仲間とは何かしらの理由で離れる事になるかもしれない…別行動を取るかもしれない。

…そうなった時、何かトラブルが起こったら、どうするつもりなんだ?」


「…そ、それは…。」


「…それに、仲間がいたとしても、辛い事が起こった時、最後に乗り越えなければならないのは自分だ。

…仲間の気遣いが、むしろ、自分をもっと傷つける…なんて事もあるかもしれない。

そうなった時に、覚悟を決められるのか?」


「…ううっ…。」


…セクタが言い負かされている。

…しかし、俺も、フォローを入れる事はできない。

トラックさん、何も間違ったことは言っていないからな…。

…「大丈夫ですよ!セクタなら乗り越えられます!」なんて、根拠もないのに、親であるトラックさんに言えないし…「俺が護ります!」というのも、トラックさんの心情を考えると、ちょっと違う気がする。


…と、あれこれ考えていると、トラックさんが息をついた。


「…と、セクタの話を聞かずにいたから、私は失敗したのだろうな。

…セクタ、私が今まで言ったことは、全て、私の本心だ。

冒険は危険が多いと思っている…乗り越えて行くのは難しい…と。

…先程ツイト君にも言ったが、万が一にも、セクタが命を落とした…となったら…私は、立ち直れなくなってしまう。

…だから、セクタには、冒険に行って欲しくない。

…でも、今のままだと、私はセクタの本心を完全には聞くことができないまま終わるだろう。

…だから…合理的ではなくても…全て、感情でいい…本気で、冒険に着いていきたいと思っているなら、その気持ちを…語ってみるんだ。」


…トラックさんのその言葉を聞いたセクタは、少しの間、何を話そうか考え、ゆっくりと話し始めた。


「…ぼ、僕は…………………ゆ、勇者さん達と常に一緒じゃなくても、トラブルでもなんでも、乗り越えていけるよ!

…例え、皆の気遣いでさえ心を傷つけるくらいの出来事があったとしても…僕は……………!…そうだ、今、だよ。」


…セクタは、そこまで言うと、こちらの方を見た。


「…勇者さん…皆……えーと、お父さんを説得しようとしてくれて…ありがとう。

…でも、分かったんだ。

僕が、ここから離れても大丈夫だとお父さんに訴えるには…僕が、僕自身の言葉で、お父さんを説得しなくちゃいけない…って。

…これからは、僕一人の力で…お父さんを、説得してみせるよ。」


…セクタは本気の目をしていた。

…しかし俺も、セクタが言っていた事を、トラックさんに伝えただけで、説得という説得はできていないのだが…確かに、セクタの事なのだから…俺達が何を言っても、最終的にセクタの心に迷いがあったら、ダメだよな。

…セクタはトラックさんに、言われたから、誘われたから…という理由ではなく、心の中に、ハッキリとした意思があるという事を訴えるために、自分の力で説得すると言ったのだろう。


「…分かった、じゃあ…どこで待っていようか…。」


「…ああ、貸していた空き部屋を、続けて使ってくれて構わないよ。」


俺が周りを見渡しながら考えていると、トラックさんがそう言ってくれた。


「…あっ…ありがとうございます、トラックさん。

では、そちらで、待っていますね…。」


その言葉を聞いて安心し、俺は廊下に出たのだった。


「…結局、私達が来た意味はそんなに無かったわね…。」


…俺の後に続き、リムさんも、悩みながら廊下に出てきた。


「………。」


「…まあ意味があるかないかなんて、やんなきゃ分からないし、良かったんじゃないのー?

セクタ君が、一人で説得してみようと思えるきっかけになったんならさー。」


…その後、他の皆も廊下に出てきた。

…しかし、イーネさんがそんな事を言うなんて、意外だな…ちょっと…本当にちょっとだけ、見直したかもしれない。

俺は、心の奥底で、そう思った。

…リムさんも、俺と同じような事を思っているようだった。


「…あっ?…今意外だとか思った?

…何をいっているんですか、いつもこんな感じの事を言っているじゃないですかー。」


イーネさんは、俺と目が合うと、ニヤニヤとし始めた。

…さっきの言葉だけだったら、本当にちょっとだけ、見直したかもしれなかったのに…。


「…ってあれ、デュアルさん!?」


俺は、イーネさんの事でもやもやとしていたが、よく見ると、イーネさんの後ろで、デュアルさんが、何やら、壁に手を置いて、書類にサインをしたり、スマホに、何かを記録していたのが分かった。


「…あ、バレてしまいましたか。

…いえ、少々、トラック社長に聞きたい事があったので、ここで話が終わるのを待っていただけです。

…決して、どんな話をしているのか、気になっていた訳ではないですよ。」


デュアルさん…仕事を持ってきてまで…。

…なんやかんや気になっていたんだな…。


「…じゃあ、俺達は空き部屋に…。」


俺は頷きながらデュアルさんから視線を外し、空き部屋の方へ行こうとしたのだが、皆、全く動く様子がない。


「…何言ってるのさ、勇者様…私達も、こいつと同じだろ?

…気になってんだろ?」


イーネさんは、デュアルさんを指差しながら、おいおい、といった様子で笑みを浮かべていた。


「…私は、どんな話をしているのか、気になっていた訳では…。」


「………まあ、気になると言えば気になるけど…。

…でも、なんというか…そうだな。」


…確かに、イーネさんが言う通り、セクタが、どう説得するつもりなのか…気になりはする。

…しかし、このままセクタの様子を確認し続け、それがバレたら、おそらく、怒られるだろう。

…ここで、様子を見ていたとなれば、まあ、言ってしまえば、いつでも突入できる状態なので、一人で説得しようという、セクタの気持ちを無下(むげ)にしてしまう事になる。

…すぐに、空き部屋に行った方がいいのだろうが…どうしようか…。

…俺は少し考え、結論を出した。


「……よし、俺は、セクタの気持ちを尊重する。」


俺は、そう言いながらセクタとトラックさんがいる部屋の壁に耳を当てた。


「…セクタが出て来そうだったら、すぐに廊下の端まで走ればいい。」


「…それは、セクタさんの気持ちを尊重する…というよりも、セクタさんの気持ちも尊重する…という事ですよね?」


リプラはそう、首を傾げていた。


「…まあ、細かいことはいいんだ。

…話が終わったタイミングで走ればいいんだからな。

…えーと、じゃあ…よろしくお願いします、デュアルさん。」


「…ですから、私は…どんな話をしているのか、気になった訳では…いえ、分かりました、もう諦めます。」


デュアルさんは、俺の言葉を聞いても、一切表情を変えず、書類にサインをしていた。


「…ところで、その書類って、俺達の前に持ってきても問題ない書類なんですか?

…その…個人情報とか…まずいのでは?」


チラッとデュアルさんがサインをしている書類に目をやると、売買契約書だの、何かの権利書だの…もちろん、悪用する気は無いのだが、会社とは関係ない人に見せても大丈夫なものなのだろうか、というものばかりだった。


…しかしまあ、見られてまずいような書類だったら、俺達が来た時にすぐしまうだろうから、きっと問題ないのだろうな、と俺は思っていたのだが、次に出てきたデュアルさんの言葉は、驚くものだった。


「…問題ないですよ、重要書類ですが。」


「問題ない…?…重要書類ですが!?」


「…重要書類だと…っ!?見せてみろ!」


「…どうぞ。」


イーネさんはその言葉を聞くや否や、デュアルさんの書類を奪おうとしたが、デュアルさんはためらいなくイーネさんに書類を渡した。


「…えっ…?…って、読めないじゃないか…!」


困惑しつつ書類を受け取ったイーネさんは、すぐにそう叫んだ。


「…ですから、問題ないのですよ。

…見られてはいけない書類に、何も対策をしていない訳ないじゃないですか。

…そちらの書類は、魔法や機械で、文章が暗号化されております。」


「ぐぬぬ…。」


イーネさんは、悔しそうに書類をデュアルさんに返していたが、俺は、それよりも気がかりなことがあった。


…俺…重要書類、読めちゃってるじゃん!!


…おそらく、翻訳の力なのだろうが…そうか…。

どこに翻訳されるラインがあるのかは分からないが、魔の意味を持つ絵が翻訳されてしまったんだから…暗号くらい、わけないか…。


…幸い、俺はそういった書類に詳しくない。

…何かを、売るか買うかしようとしているんだな、何かの権利を持っているんだな、ということしか分からなかった。


…しかし…まあ、今見た事は、全て忘れよう。

俺が見たのは暗号だ。そう、暗号。


俺は目を瞑り、自分にそう言い聞かせた。


「…ツイトさん?どうしました?」


「…ああ、カラリ、何でもない何でもない…セクタの話はどうなってるのかなー?」


俺は、鋭いカラリの言葉をかわし、部屋に耳を澄ました。

…部屋からは、うっすらとセクタとトラックさんの声が聞こえた。


「………で、今の…………だから………。」


「……なるほどな……しかし………。」


「……それも………。」


「…意外と聞こえないな…あ、ちなみに…リプラ、カラリ、リムさん、ブロックさん…もし、こういった事はしたくないな…と思っているのであれば、空き部屋の方に向かっても問題ないですよ?」


俺は、壁に耳を当てながら、一応皆に確認を取った。


「…何言ってるのよ、私達だって、セクタ君の話が気になっているに決まっているじゃない。…ねえ?」


「…そうですね、ツイト様がそうするのであれば、私も、こちらに居ますよ。」


「…私も…ツイトさんがそうするのであれば…。」


「……………。」


…リムさんが周りを見渡しながら確認すると、ブロックさん以外は、賛同してくれているようだった。

…しかし、ブロックさんも部屋の方に戻る様子はない。

…まあ、賛同はしていないが、ここには居ることだろう。


「…ありがとうございます。」


俺はそう感謝の言葉を伝えて、続けて壁に耳を当てた。


「………………だから……………。」


「…………しかし…………で…………そう……。」


「…うーん、やっぱり、聞こえずらいな…。」


…まあ、セクタも説得を頑張っているようだし、心配する事は何も無いのかもしれない。

話があまり詳しく聞けなかった事は残念だが…。

…と、俺がそんな事を思っていた矢先、部屋から突然大きな声が聞こえてきた。


「…………もう、お父さんのわからず屋!」


「…ん?…えっ?」


「……何…?」


「あれっ?ちょ、ちょっと待って、何だか話の雲行きが…。」


「…ええ、私にも聞こえたわ。」


今のセクタの声は、壁に耳を当てていないリムさんも聞こえたらしい。


「…うん、私にも聞こえたねぇ…あ、後、ドアに耳を澄ました方が声が聞こえやすいかもしれねえぞ。」


「…あっ…うん…。」


俺は、おそらくこの場の全員には聞こえているんだろうな、と思い、耳を澄ましながら、イーネさんの言った通り、ドアの方に移動した。


「…しかし………。」


「…僕は…冒険したいんだよーっ!

…もう説得なんてできない…冒険に着いて行くのを認めてくれるまで僕はここを動かないから…!」


…ちょっとセクタ!?…一人で説得、失敗しているじゃないか。

…後、ここを動かず一番困るのは、セクタなんじゃないか?

俺は内心そんなことを思ったが、いまはそれどころじゃない。


…セクタ一人で説得をするのは、難しかったのか…?

…しかし…もし、ここで部屋に突入してしまったら…セクタの気持ちを無下にする事になる。

本当に無理だと思ったら、俺達の方へ来るはずだろう。

…俺は、突入したいという気持ちを抑えて、続きを聞いた。


「…セクタ…それなら…私も、心配なんだよ。

…合理や、理屈じゃない…ただただ心配なんだよ…。

いや…そうだな、私も、同じだよ、セクタ…。

私も、ただ…セクタに行って欲しくないだけだ。

だから…。」


「…いや、絶対に動かない…!」


…あれ、セクタがトラックさんを説得していたはずなのに、もはや、トラックさんがセクタを説得している状態になっているぞ。

…これはもう…突入した方がいいのではないか?


「…勇者さん、まさか、突入するつもりじゃないでしょうね。」


俺が、そんな事を考えていると、その様子に気づいたリムさんが、こちらの方を見た。


「…えっ、いや、でも…。」


「…これは、セクタ君なりの説得なのよ…見守ってあげましょう。」


「…あ、う、うん…そう…なのか…まあ…うん。」


俺は、リムさんの言葉で、それなら、まだ様子を見ていた方がいいか…と思ったのだが、なんだか、何かが腑に落ちなかった。


「…では、私はそろそろ…行きますね。」


デュアルさんは、書類の整理が終わったらしく、去ろうとしていた。

…おそらく、膠着状態になったので、もう結果が見えた、と考えているのかもしれない。


「…あれ?…社長さんに用があったんじゃないのー?」


…すかさずイーネさんがツッコミを入れるが、デュアルさんは動揺せず、長くなりそうだったので、と言い残し、去っていった。


「…チッ…。」


「…うーん…。」


イーネさんは不満げな態度を取っていたが、取り敢えず俺は気にせず、その後も、部屋の声を聞き続けた。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「…お、何だか、静かになったな…。」


しばらく、状況は膠着状態だったので、俺は、壁に耳を当てるのをやめていたが、ある時セクタの声が聞こえなくなって来たので、俺は再び耳を澄ました。


「……本当にいいの…?」


「…ああ。」


…何だか、上手くいったような雰囲気だな…。

…一体何があったんだ…?

…トラックさんは、どうやって膠着状態を抜け出したんだ…?


「…ありがとう、お父さん…じゃあ、一旦、勇者さん達の所に行って来るね…。」


…やべっ、考えている場合じゃない、セクタが来る…!


「…よし、走れ!…………いてっ!!」


廊下の角を目指して走り始めたが…突然の事で焦っていたのか、俺は派手にすっ転んでしまった。


「…あれ?…勇者さん…?」


「…あっ、えーと、リムさん、イーネさん…って、居ない!?

リプラ…カラリも!?」


俺は助けを求めようと、周りを見渡したが、そこには、ブロックさんしか残っていなかった。


「…まさか、ずっと聞いていたの?」


「…えっ、ああいやそうなんだけど、あの、俺は最初、空き部屋に行こうとしたとしたというか…み、皆居たというか…。」


何だか言い訳じみた言葉になってしまった。

…しかし…イーネさんやリムさんは分かるが、リプラとカラリは何故いなくなったんだ…?

…リプラが、森の時のようにカラリを抱えて逃げた、という事は分かるのだが…。

…あ、もしかして、俺が逃げられないのが想定外のことだったのか…?


「…………………勇者、諦めよう。

…………こういう時は何を言っても無駄だ。」


俺が色々、状況と言い訳を考えていると、ブロックさんは、悟ったような表情で、俺の肩に手を置いた。


「…ブロックさん…そんな…!」


ブロックさんの……潔さと言っていいのか、諦めが早いと言った方がいいのか、俺はそれに驚き、唖然とした。


「…勇者さん…。」


「ああ、セクタの気持ちは分かっていて…えっと、でも、その、本当に申し訳なかったというか…。」


「…なんて、勇者さん達が居たことは、最初から分かっていたよ。

…『サーチ』を…使ったからね。」


「…ん?…『サーチ』…?」


…そういえば、かなり前に、森で、セクタが、そういった類の魔法が使える…みたいな…話をしていたような…。


「…えっ?…じゃあ、つまり、俺とブロックさん以外の全員が、さっきまでここに居たという事も…?」


「うん、分かっていたよ。」


「良かったー…。って、ちょっと待って。」


…俺とブロックさんだけが話を聞いていた、と思われていなかった事に安心した反面、俺は、カラリが連れて行かれた…いや、魔法を使われた時…『サーチ』を使ってもらえば良かったのではないかと思い始めた。

…森では…魔力がどう…と言っていた記憶があるから、魔力を感知する魔法なのだろうか。

俺は、セクタに確認してみる事にした。


「…その、『サーチ』で、何が分かるか…あー、つまり、なにで、俺達が居たって事を判断していたの?」


「…魔力だよ、量や、何人くらいの魔力か…って事が分かるから…。」


…やはり、魔力らしい。


「…カラリが連れて行かれた時は…使えなかったり…したの?」


「…あー、実は、この魔法、効果範囲がそんなに広くないんだよね…。

…それに、あの時は、ちょっと、使ってみようっていう余裕は無かったからさ…まあ、どちらにせよ、効果範囲は地上だけで、地下までは、届かないから見つけられなかったとは思ったけど…。」


セクタは、申し訳なさそうにしていた。


…そういえばあの時は、セクタのお父さんが犯人かどうか…という状況だったよな。

…まあ、セクタに魔法の事を聞く暇も無いほど、俺達も必死だったし、致し方ないか…。


「…まあ、とにかく良かった。

…あ、えっと、説得は…上手くいったような雰囲気だったけど…。」


「…うん、上手くいったよ。

…だから…これからもよろしく、勇者さん。

…じゃあ、この事を、他の皆にも伝えて…冒険の準備をして来るよ…。」


「…う、うん…。」


セクタは、嬉しそうにそう言い、空き部屋の方に歩いて行った。


「………………取り敢えず…よかったな。

………勇者、俺達も、行こう。」


「…そうだな…。」


「…ツイト君。」


「…あっ…はい!」


セクタに続くように、俺は、ブロックさんと空き部屋へ向かおうとしたのだが、トラックさんに声をかけられたので、声がした方を向いた。


「…少し、話をしてもいいかな。」


「…ああ、いい…ですよ。」


一体どんな話をされるんだ…と少し身構えて、トラックさんの方へ近づいた。

…ブロックさんは、呼ばれたのは自分ではないから、大丈夫だよな…?と、心配しながら、空き部屋の方へ向かった。


「…ツイト君、君には、話しておきたい事があったんだ…。

…セクタの事なんだが…。」


「…セクタの事…。」


これから、セクタをよろしくお願いします…という様な話だろうか。

…俺は、そう考えながら、トラックさんの話を聞こうとしたのだった。

今回も読んで下さりありがとうございます。


見事、説得…が、上手く行きましたね。


次回も良かったら見て下さい。

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