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第29話 冒険

「まず、ツイト様の1つ前に、勇者として冒険をした者の、記録から話をします。」


「…う、うん…。」


セクタは、そのリプラの言葉で、ピリッとした表情になっていた。

…俺も、それに釣られて、思わず緊張してしまう。


「…そんな表情しなくとも、確か1つ前の勇者が冒険した時は、死者なしで魔王を倒せたはずだから問題ないよ。」


そんな俺達の様子を見て、イーネさんは軽くそう言った。


「…ん?イーネさんは、前の勇者の事を既に知っているの?」


「…ネットの情報をまとめただけで話せるくらいに有名な人だって事は、別に知っててもおかしくないんじゃないかなぁ。」


イーネさんは、そう、ふてぶてしい態度を取っていたが、リムさんは小声でブロックさんに、ブロックは知っていたの?私は知らなかったわ…。と、相談していた事が分かった。


…リムさん…。


「…しかし、情報は間違ったものも多く、正しい情報をまとめるのは大変でしたよ?」


リプラは、リムさんの方をチラッと見ると、フォローを入れていた。


「…まあ、そうかもね。

まとめるのは大変かもしれない。

間違っている情報で正しい情報が埋もれてしまえば、探しにくくなってしまうし…ねっ。」


イーネさんは、何故かまたドヤ顔になっていたが、今の、リプラとイーネさんの言葉で、先代勇者の冒険の記録を知っているのは、当たり前ではないという事が分かったリムさんは、少し落ち着いたようだった。


「…では、続けますね。

…そういえばツイト様、地名などは、今のものに合わせた方がよいでしょうか?

…今とは、名前が違う街や都市が存在しますが…。」


「…ああ、うーん…。」


昔の地名が後々重要になって来そうで、今のものに合わせた方がいいよ、と軽く言う事はできないな…。

…でもまあ、もし、どこかしらに昔の地名が書いてあったら、これが昔の地名だと、リプラに教えてもらえばいいか。


「…今の地名に合わせてもらったほうが、ありがたいかな…。

もし、これから、どこかに昔の地名が書いてあった本を読む事になったりして、知ったら、その時に、今の地名と照らし合わせる事ができれば、もっとありがたいけども…。」


俺がゆっくりとそうリプラに声をかけると、リプラは、頷き、話を始めた。


「…なるほど、そうさせていただきますね。

…では、話を始めます。

前の勇者も、セーフティシティに呼び出されたようですが、その勇者は、この世界の人…という記録がありました。」


「…前の勇者は…この世界の人、か…。」


歴史博物館の記述では、先代の勇者は違う世界から呼ばれた者だったり、そうではなかったりしていたよな…。

…違う世界から来た者と、元々、この世界の住人だった者…そこで、冒険の内容に、違いが生まれたりはしないのだろうか。


「…リプラ、この世界の人と、違う世界から来た人で、何か、違った待遇と言ったらいいのか…そこの違い…?

いや、逆に…。

勇者になった人に、共通点は、あったりする?」


俺は念のためリプラにそう聞いた。


「…いえ、別世界から呼び出された者とこの世界の者で、違った待遇だという事は、ないようです。

…勇者になった者の共通点は…あの質問に、答えたというだけですかね…。」


「…なるほど、ありがとう。」


…あの質問というのは、この世界に来る前に、スマホに表示された、あの文字の事だろう。

俺の場合、スマホに表示されたが、他の勇者はどうだったのだろうか。


…俺は取り敢えず、疑問を胸にしまって、リプラの話を聞く事にした。


「…はい、続けますね。

セーフティシティに呼び出された前の勇者は、清く優しい心を持った、魔法使いの少年…だったそうです。」


「…な、なるほど…。」


「…その前の勇者は、最終的には、サポートアンドロイドの他に、銀髪の魔道士、黒髪の剣士、青髪の回復魔道士と、冒険したそうです。」


…俺は、心の奥で、1つ前の勇者パーティ、魔法率高いな…と、思ったが、黙っている事にした。


「…まず、前の勇者も、私達と同じように、サポートアンドロイドと一緒にセーフティシティを出て、冒険を始めました。

昔は、門の出口から、次の村まで飛ぶ方法は、魔法しかなかったので、まだ仲間にテレポートが使える者が居なかった勇者達は、今のネクステ村まで、歩いて向かったそうです。

ネクステ村と、リ・クエスト村の間の森も、昔は存在しておらず、森があった場所は平原だったようで、今よりも抜けるのが楽だったようです。」


「…ふむふむ…。」


「…前の勇者一行は、仲間を増やしていき、他にも、私達がこれから行く予定の村や、里なども、今より楽な道のりだったり、辛い道のりだったりして、冒険して行きました。

…こうして、様々な人々の力を借り、前の勇者は、魔王の城がある、魔大陸まで到達したのです。」


「……。」


「…魔大陸に着いた後も、前の勇者一行は、魔王の影響を受けたモンスターを討伐し、ついに、魔王の城までやって来ました。

…魔王城でも、前の勇者一行は、様々なトラップを切り抜けやっとの思いで、魔王の元へたどり着きました。

前の勇者一行は、様々な思いを胸に、魔王と最終決戦を始め…激闘の末、勝利を収め、世界には、一旦平和が訪れ…前の勇者一行達も、自分の住んでいた場所へ、帰っていったそうです。」


「…これで、1つ前の勇者の、冒険の話は終わり…?」


「…そうですね。

…以上で、前の勇者の話は終わりです。」


「「……………。」」


俺は、セクタと目を見合せた。

…おそらくセクタも俺と同じことを思っている。


「…やっぱり、こういった冒険の話は、細かい場所が記述されていないというか…。

多分、セクタが1番知らなきゃいけない所が、抜けているような気がする…。」


…俺も、1番知りたかった所を知ることが出来なかった。

…でも、確かに、誰かの歴史って、その誰かや、関係する者が亡くなったり、村や町に関係する事以外は、あまり残っていなかったりするんだよな…。

前の勇者の冒険の中には、もっと様々な苦労があったのだろうが、全ての記録を残してはおけないだろう。

…それなら…。


「…じゃあ、リプラ、その冒険の…詳しい戦いというか…。

魔王との戦いは、どういった状況で進んで行ったの?」


「…前のサポートアンドロイドが、敵を分析し、黒髪の剣士が前へ出て隙を作り、青髪の回復魔道士が、傷ついた者を回復しつつ、銀髪の魔道士と前の勇者が魔法を撃って、魔王の体力を削って行った…といった状況のようですね。」


「…その、青髪の回復魔道士が回復した、傷ついた者が、誰かは…。」


「記録がないですね。」


「…おぉ…。」


俺は、思わず微妙な反応をしてしまった。


「傷ついた者は、居ないという可能性もあるようです。

回復魔道士も、活躍していたようなので、誰かが傷ついた、と想定できるようですが…。」


「…ぉぉ。」


…つまり、記録がないと。

これは、仕方がないのか…。

たとえ本人が記録したものだとしても、誰が傷ついて、誰がどこに攻撃をして…と、そんな細かく記録できないよな。

…戦っている途中に記録なんてしている暇は無いから、記録をするなら、戦った直後からになるだろう。

加えて、戦った直後も、色々と報告をしたり、休んだりするだろうから、きっと、戦った直後も細かい記録をしている暇はない。


…つまり、記録をする頃には、細かいことは忘れてしまっていると思われる。


…もし、日記など、毎日の出来事をマメに記録している者がいれば、勇者の冒険の苦悩だったり、辛さ、楽しさが分かると思ったが…そんなものがあったら、きっと、歴史博物館に展示されるはずだ。

…だから、おそらく、1つ前の勇者一行の中には、日記を付けている者がいないか、もし、いたとしても、その日記は何かしらの理由で残っていないのだろう、と考えられる。


歴史博物館には、先代勇者について細かい記述もあったようななかったような気がしたが、俺は、5人いるらしい、という事と、召喚された勇者か、そうで無いかはバラバラだ、という事以外、あまり詳しく見ていなかったからな…。


…こんなに悩む事になるんだったら、もっと詳しく見ておくべきだった。


「…って、そういえば、その、前のアンドロイドには、記録は残っていたりしないの?」


俺の言葉を、リプラは、驚いた様子で聞いていた。


「…えっ…ああ、勝手なイメージなんだけど、その、アンドロイドって、常に記録しているって言ったらいいのか…。

記録を残す事が出来そうな気がするから…写真でも映像でも、何か残っていないかなーって、思ったん…だけど…。」


「………ツイト様、まず、私達アンドロイドは、映像や写真で、出来事を記録することはできません。

…さらに、今のアンドロイドと昔のアンドロイドでは、少々使用が異なり、私は文章として物事を記録できますが、昔のアンドロイドは、記録する、という機能自体存在していないのです。」


「…えっ…そうなんだ…。」


「…昔のアンドロイドは、完全に魔力で動き、こちらが情報と、その利用方法を教えなくては、その情報を使う事は不可能…というシステムになっているので…。」


リプラは、少し寂しそうな、悲しそうな雰囲気で、俺にそう教えてくれた。

情報と、利用方法を教えないとその情報を使えないという事は、情報だけ教えても、何も行動は起こせないという事か。


…それに、完全に魔力で動く…電力を使わないって事か?

情報と利用方法を教えなくては動かないのであれば、昔のアンドロイドというのは、魔力で動く、人形のようなものだった…という事…なのか?


…そうか、それに近いものを俺は、初めて依頼を受け、仕事に行った時1度見た事があるじゃないか。

…確かあの時は、ネクステ村で…まかないにつられて…仕事して…。

ウォールさんって人が、俺に手料理をふるまってくれたような記憶があるな。

…その時に見たアンドロイドは、自分で考えて動いているというよりは、事前に得た情報によって動いているように見えた…。


まあ、電気的な力で動きを止めていたから、それとはまた違うのだろうが、リカバリー街のお店にいたアンドロイドとは、様子が違ったので、おそらく、ウォールさんが雇っていたアンドロイドは、リプラの話に出て来た昔のアンドロイドと、近い感じなのだろう。


…なるほど、昔は、情報技術があまり発展していなかったが、魔法の力でそれをカバーして、似たような事が出来ていたのか。

…しかし、そんな力があれば、もっとこの世界の街並みが、発展していてもおかしくはないのだが…取り敢えずそれは、考えないでおこう。


「…じゃあ、次の、先代勇者の話を聞こう。」


「…はい、では、話しますね…。」


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


…こうして俺達は、残り4人の先代勇者の冒険を端的に聞いたのだった。


「…やっぱり、記録はそこまでしか残っていないのか…。」


「…そうですね。」


「「………。」」


俺は、セクタと、また顔を見合わせた。


…そう、残り4人の先代勇者の冒険の記録も、初めの話と似たようなものだったのだ。

…もちろん、勇者の中には、冒険の途中で仲間が亡くなってしまった、という者もいた。

しかし、その話も、「勇者は他の仲間と共に悲しんで、お墓を建てた。」という程度に収められており、何だか、セクタが悩んでいる根本的な所が、やはり語られていないないな、と思った。


「…えーと、セクタ…何だか、根本的な所が分からなかったようで…ごめんね…。」


「…いや、別に…大丈夫だよ。

…という事は、勇者君が魔王を倒しても、僕が名を馳せることは出来ない…?」


「…ん?セクタ?」


「……えっ!?何?」


「…………?」


あれ、何だか今一瞬、セクタが違う人格になった気がしたのだが、気のせいか…?


「…それで、勇者さん…僕、決めたよ。」


セクタは、一度、深呼吸をして、心を落ち着かせたようだった。


「…ああ、ん?

…えっ、そっか…。

…えっと、決めたの?」


…やっぱり、気のせいか…?

と思い、俺はセクタの話を聞く事にした。


「…うん、僕は…冒険に、着いて行ってみる事に…するよ。」


セクタは、おずおずと、そう、呟いた。


「…!」


その瞬間、皆の顔が少し明るくなった気がした。

俺も、少しホッとした。


「…それは、これからずっと…?」


リムさんは、確認するように、セクタにそう聞いた。


「…いや、何か…あったら…ずっと、とは…限らないけど。

…でも、うん、決めたんだ。

勇者さんは、根本的なところが分からないんじゃないかと言ってくれたけど、そんなことはなかったよ。

…確かに、過去の勇者さん達の話を聞いて…勇者さん達の心情は、全く分からなかった。

…でも、話に出てきた人達は皆、後悔のない選択をしていた…ように、見えたから…。

悩んではいられないって思ったから…だから…。」


セクタは、言葉を上手くまとめられない、といった表情を浮かべていた。


「…えっと、つまり、まあ…そもそも…元から、着いて行きたいか行きたくないかだったら、着いて行きたかったから…。

…やらずに後悔するより、やれば満足…かなって。」


「…ん?…やれば満足…?

…やって後悔するほうがいい…じゃなくて?」


俺は、思わずそうツッコミを入れてしまったが、俺のその声が、耳に入ったと思ったら、セクタは今までにないくらいの真剣な眼差しでこちらを見ていた。


「…後悔は…絶対にしないよ。」


…セクタは、そう言った後に、「うん、しない。」と、もう一度言い直し、話を続けた。


「…後悔が残る選択をしちゃいけない…と、僕は…思った。

…僕は、ずっと難しく考えていたんだ。

冒険には着いて行きたい。

…でも、初めて勇者さんに出会った時のような状況には、なりたくない。

…僕は、どっちを取ればいいのか、分からなかった。

…だから、過去の勇者さん達の話を聞いて、冒険が、過酷なものだったら、辛さを感じるものならば、ここに残った方が、いいんじゃないかと考えていたんだ。」


セクタは、そこまで言うと、軽く笑みを浮かべた。


「…でも、もっと簡単な事だったんだ。

元から、過酷じゃない冒険なんて…なかったんだ。

過去の勇者さん達の冒険は、どれも、過酷で、それでも、皆、支え合って…諦めずに、魔王を倒してた…。

…つまり、辛い時は皆、支え合ったり、助け合ったりして…その、辛さを乗り越えて行ったんだ…と思う。

…だから、僕は、冒険の怖さから…逃げるんじゃなくて…乗り越えなきゃな…乗り越えていきたいな…って、思った。」


頑張って言葉をまとめるセクタを、皆、じっと見守っていた。


「…僕は…ここに残った方が…多分、後悔する。

…さっきは、分からない、って言ってたけど、過去の勇者さん達の話を聞いて、僕ははっきりと思った、ここで冒険について行かなかったら、後悔する…って。

…やっぱり、皆と一緒にいるのは…楽しかったから…。

…それなら、辛さも、乗り越えて行けるんじゃないかって…思ったから。

…それで…冒険して、その先に何があるのかは、分からないけど…何があっても、僕は自分でした“選択”を後悔することはないよ。」


「…な、なるほど…。」


つまり、セクタは、やはり、俺が思っていた通り、冒険の辛さを知ってしまったが、同時に、楽しい事もあると知って…悩んでいたわけか。

そして今、先代勇者の話を聞き、冒険には、必ず辛さがあるって事を知って、大切なのは、それを乗り越えて行く事じゃないかと…俺達と一緒なら、それができると、同時に思ったのか。

それで、俺の言った通り、後悔のない選択をした、と。


…なるほど…俺は正直、さっきの冒険の話では、何も分からないと思っていたのだが…セクタはそんなに深く読み取ろうとしてくれたのか…。すごいな…。


「…まあ、でもそれは、今の選択を後悔しない、ってだけで、これからまた、どうか…ってなったら、絶対に戻らないという保証はないけど…ね…。」


不安そうな顔でそう続けるセクタに、リプラやリムさん、ブロックさん、カラリは、暖かな眼差しを向けていた。

…俺も、その様子を見て、少し、暖かな気持ちになった。


「…よかったですね、ツイト様。

廊下では、そういう事になるのかな…と、曖昧な返事をしていましたが、結局の所、セクタさんとも、一緒に冒険がしたかったのですよね。

…そうでなければ、こんなに熱心になりませんよ。」


…その時、ササッとリプラが俺の隣に来て、小声でそう呟いた。


「…えっ?…い、いや、居て欲しいか居て欲しくないかとかじゃなくて、その、セクタが…このまま残るのは嫌なんじゃないかって…ひょ、表情に、出てたから…。」


「大丈夫です、分かっておりますよ。」


「いや、別に、ただ、セクタはちょっと俺の友達に似ていたから…だから、なんか、ちょっと気がかりだっただけだよ。」


「…ええ。」


リプラは、分かっております、察しております、という笑みで、俺の話を聞いていた。

…熱心か…俺、そんなに熱心になってたのかな…。

…まあ、確かに、リ・クエスト村では、セクタが俺達を引き留める側だったのに、今では逆になったというか…。

…なんというか、やっぱり、俺も、リプラの言った通り、一緒に冒険がしたかったのかもしれないな。


…そして…トラックさんを説得しなくちゃいけないのか…。

…大丈夫なのだろうか、何が起こるか分からない冒険に、息子を連れて行く事を了承してもらえるだろうか。

…それ以前に説得できる時間があるのだろうか。

ホッとした気持ちと同時に、そんな不安が込み上げてきたが、俺は、大丈夫だ、と心を落ち着かせ、覚悟を決めた。


「…で、イーネさんは…なんでそんな邪悪な笑みを浮かべているんですか?」


…と、皆、暖かな表情を浮かべている中、イーネさんだけは、何やら意味深な笑みを浮かべていた。


「…え?…いやあ、何でも…。」


「…って、この際だから言わせてもらいますけども、元依頼主と戦っていた時に、居なくなっていましたよね?

…まあ、色々考えていて、放置していましたが、あれずっと気になってたんですけど…。」


俺は、セクタの本心が分かったのだから、この際、イーネさんの本心も暴いて…じゃなくて、聞けたらいいな、と思い、そう訴えた。


「…えっ?」


「…そういえば、確かに居なかったような気がしたわね。」


「…………………ああ、そうだな。」


「…そうなんですか?」


「…うん、確かに。」


「…なるほど、そうなのですね。」


イーネさんは、一瞬、気付かれていたかー、という表情になったと思ったら、何やらバツが悪そうにしていた。


「…それはほら、こちらにも色々と事情があるんですよぉ…。」


「…事情って?」


そんなイーネさんを責め立てるように、リムさんが、そう切り返した。


「………あれだよ、そのー、君が、勇者様を追っかけていたのと、似たよーな理由だよ。」


イーネさんはそう、とぼけるが、リムさんは、何かに気がついたような顔をしていた。


「…あら、私、勇者さんを追いかけていた事、あなたに言ったかしら…?」


「…やべっ……ああ、『kantsumire』だよ。

…君達と出会う前に、見ていたんだ、写真が上げられてたんだよ。

おそらく、勇者様を撮ろうとしていたのかもね、でも、勇者様と一緒に、君も写ってたんだよ。」


…イーネさん、焦りが言葉に出ちゃってるよ…と俺は密かに思った。


「…まず、勇者さんを追って、絶対に写真に写っていないと、言いきれるわけではないわ。

…でも、万が一写真に写っていたとして、それだけでどうして追っていると分かるのかしら?」


「…まあ、ほら、私は、君が知っての通りの状況だから、何かに勘づいて、追ったんじゃないかって思ったんだよ。」


「…じゃあ、その、証拠の写真は?」


「…ほら、それは、勇者様が、『kantsumire』に、自分の写った写真を投稿しないで、みたいなことを訴えた時に、その写真を載せた人が、反省して消したんだよ。」


「…なるほどね。

…じゃあ、結局、居なくなった事情というのは?」


イーネさんは、誤魔化せなかったか…という顔をしていた。


「……い…今はそれどころじゃないよ!

あいつを倒すんでしょ?セクタ君も、覚悟を決めたみたいだし、ねっ?

後は、セクタ君のお父さんと話をして…。

で、そう、薬屋!…薬屋ね!

早く行こうじゃないか!うん!!」


イーネさんは、そう言うと、素早く部屋から出ていった。


「…あっ、ちょっと!」


リムさんも、イーネさんを追って、部屋から出ていってしまった。


「…では、ここを出て、もう一度薬屋へ向かう準備をしましょうか。」


リプラは2人を見送ると、そう言って、冷静に準備を始めた。


「…え?いいの?」


「安心してください、準備が終われば、2人を迎えに行きますので…。」


「…あ、いや、そうじゃなくて…いや、まあ…そうか…。」


あまりにも冷静なリプラに、自分がおかしいのか…?と思い始め、俺も、準備を始めた。


「………………随分と冷静だな。」


ブロックさんもそう言いつつ、準備を始めた。


「…もう、出発なんですね…。」


「…えっああ、準備…。」


カラリやセクタも、自分の準備をし始めた。


「………………。」


準備をしながら、リムさんとイーネさんの事を考えると、俺は、何故か、雪が降ってきたような、しんみりとした気持ちになったのだった。

今回も読んでくださり、ありがとうございます。


初めての依頼ってなんだっけ、ウォールさんって誰だっけ、と、なり、一応確認したいという方は4話にその内容があります。

しかし、おそらく確認しなくても、問題ないとは思うので、大丈夫です。


次回も良かったら見てください!

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