第28話 一芝居
「…えーっと、話って…。」
セクタは、俺が聞きたい事が、察しつつあるような顔をしていた。
「…ああ、その、ここでお別れになる訳じゃないですか、なら、まあ、元依頼主の事…とか、詳しく聞いておきたいなー、と思いましてですねー。」
俺は、芝居をセクタに悟られないように、慎重にそう聞いた。
「…元依頼主…勇者さんにとっては、それにあたる人だよね。
…実は、名前とかは僕も知らないんだ。
…別にそれは、その人だけに限らず、仲間…の皆の名前も、僕は知らない…はずなんだけど。
それで、僕がいなくなった後、なんで、あいつがリーダーみたいな事をやっていたかも分からない。」
…セクタは、だんだんと俯いて行った。
「…偽物かもしれないんだけど…父さんに、一人というものを体験して見た方がいい…。って、言われて、ネクステ村に送られて、どうしようか迷っていた時に、最初に励ましの言葉をかけてくれたのが、その人だったんだけど。
…あれも嘘だったのかな。…嘘なんだろうね。」
セクタはそう言うと、遠くをボーッと眺めた。
なるほど、元依頼主は、俺達が本性を暴いた時まで、そんな感じの性格を偽っていたのか。
…俺はふとバイトさんの顔が思い浮かんだが、もう一度考えてみても、あの人と元依頼主は同一人物では無いだろうとい結論に至った。
…表に出る性格を偽ったとしても、細かい癖や特徴を完璧に変えたり真似たりする事は不可能だ。
元依頼主が勇者に憧れる人を演じたとしても、あんなに簡単に手を差し出したり、きっとしないだろう。
…それだけ、バイトさんは異質な…。
いや、考えるのはよそう。
「…なるほど、ちなみにセクタ、お別れは、ここでするの?
それとも、薬屋に行くまで?
この都市からリカバリー街へ移動する所、まで?」
俺は、さっきの考えを誤魔化すように、そう、セクタに尋ねた。
「…リカバリー街へ移動する所まで、が、いいかな。」
「…なるほど。」
俺はそう、相槌を打った所で、少し呼吸を整えた。
「…えっと、それと、リプラの事についても、ちょっと聞きたいと思っていて…。
…リプラに、感情が芽生えたかもしれないんだよね…。」
「…感情?」
「…それで、何か、リプラについて気づいた事があったなら、教えて欲しいんだけれど…。」
「…いや、僕は何も…気付いた事は、特に…。」
セクタは、俯いたまま申し訳なさそうにしていた。
「………っ!?」
と、その時、何か手に違和感があったので、少し動かしてみると、紙が握られている事が分かった。
…これは、おそらくリムさんが渡したものだろう、と思った俺は、片手でこっそり紙を開き、開いた紙を挟んだまま、手を熊手のような形にし、前髪を整えるふりをしながら、何が書かれているのかを見ようとした。
…紙には、『聞いたわ 問題ない 来て大丈夫よ』とだけ書いてあった。
…こんな小さな紙に、文字を書くのは大変だっただろうな。
と、俺はこの紙に文字を書いた人に感謝した。
そういえば、皆の連絡先というか、そういったものは貰っていないよな。
…電話とか、メッセージで連絡した方が、楽だと思ったが…。
「…勇者さん?」
「…ん?ああ、じゃあ、そろそろ戻ろうか…。」
あまりにも長く髪をいじっていたせいか、セクタが不思議そうにこちらを見ていたので、俺はそう誤魔化し、紙をしまって部屋の方に歩き始めた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「…は、話は、終わったよ…。」
俺は、部屋の前に戻り、ドキドキしながら、扉を開けた。
「……っ!?」
すると、目の前には、ボロボロのカラリとブロックさん、イーネさんと、敵意むき出しのリムさんがリプラと対峙するようにして、居た。
「…っ!2人とも、逃げて!」
…リムさんは、こちらに気づくと、焦ったような表情で、そう言い、またリプラの方を向いた。
…えっ?…カラリとの話だと、この中の誰かが実は裏切り者だったとか、そう言う設定にして、セクタに何かを訴えさせて、それに成功した時に、働きかけるって…。
…なんで、皆こんなにボロボロというか…怪我してるの?
…いや、しかし、現状台本と違うことは起きていない、問題は無いはず。
…リムさん、演技上手いな…。
「…な、何があったんですか…?」
俺は、カラリの言っていた通りに、リムさんにそう聞いた。
「…っ、見ての通り、勇者さんのアンドロイドが…敵だったのよ!
…信じていたのに。」
「…そ、そんな、リプラ!
今まで一緒に冒険してきたじゃないか!
あれは、全部演技だったって言うのか!」
…俺がそう言った所で、リプラはゆっくりとこちらの方へ向かってきた。
「…させないわ!…っ!」
「………………。」
リプラが、リムさんの方に手を伸ばすと、リムさんはバタッとその場に倒れてしまった。
…そして、リプラはこちらの様子を伺っていた。
「……。」
セクタは、逃げたいようだが、逃げられずにいる様子だった。
「…リプラ…敵って、どういう事だよ!
違うんだよな…?…ただ、ちょっと、今は…違うだけで。」
…俺もそう演技をしたが、俺の演技は、正直、リムさんやリプラに比べたら、上手ではないと思う。
…やっていて、ちょっと恥ずかしいが…そうは言ってられないのだ。
…例え、セクタと話をした結果、冒険に、着いて来ないのだとしても、セクタからは、『行けない』ではなく、『行かない』という言葉を聞かなくてはダメだ。
「…っ。」
俺は、リプラに手を向けられたのに合わせてその場でバタッと倒れた。
…ここからが本番だ、よし、やるぞ…上手くいってくれ…。
「…セク、タ…。」
俺は、苦しそうにセクタにそう話しかけた。
「…な、何?勇者さん。」
「…リプラに、感情が芽生えたかもしれないって話の続きなんだけど…。
…もしかしたら、心から、伝えたい事を訴えれば、リプラは正気に戻るかもしれないんだ。」
「…え?」
セクタは、言っている意味が分からない、というような顔をしていた。
「…これは、半分賭けみたいなものだけど…。
…リプラは、おそらく、何者かに操られている状態…なんだと思う。
…それで、操っている者にとっては、感情っていうものは想定外だと思うんだ。
だから、俺達が、リプラに、心からの気持ちを伝える事で、リプラの感情を動かす事が出来れば、リプラは、正気に戻る…かもしれない。」
「…そんな、でも、本当の感情って言っても…。」
「…でも、何もやらないよりは、マシだ!
リプラ!…その、今まで、セーフティシティから、ここまで、ずっと冒険してきて…楽しかったよ。
…そりゃ、辛い事もあったけど…リプラが、助けてくれたから…。」
…これも、演技のつもりだが、なんだか、こうやって、真剣に感謝を伝えるのは、少し恥ずかしいな。
…演技と言えど、少しは本心というか…感謝しているのは、事実だし。
「…俺は、リプラを信じている…。
…だから…リプラ……。ほら、セクタも。」
「…え、あ、いや……僕の本心?」
俺がそうセクタに声をかけると、セクタは、不安そうな顔をしていた。
「…僕は、わ、分からないよ。」
「…え?」
「…勇者さん、僕は、分からないんだ。
自分が、勇者さん達の冒険に着いて行きたいと思っているのかどうか。
…だから、勇者さんみたいな本心なんて、語れないよ。」
…なるほど、分からない、というのが、セクタの本心なのか…。
…でも、分からない、という事は、少なくとも冒険するのが嫌だという訳では無さそうだ。
…トラックさんの言う事を聞くか、俺の言う事を聞くか、迷っているようだ。
いや、むしろ、どちらを取るか迷っているというよりも、あの元依頼主との出来事のせいで、冒険に対する恐怖と言ったらいいのか、冒険の、辛い部分を知って、悩んでいるようだ。
…いや、むしろ、辛い部分がある事を知ったが、楽しい事もあると思ったからこそ、迷っているのか…?
「…さっき、意識していたのかは分からないが、セクタは、冒険には、着いて行けないって言ったんだ。
…これは、セクタの事だから、最終的にはセクタが決める事になる。
…だから、せめて、後悔がないように…。」
…と、セクタの本心を聞けたことで安心した俺は、思わず熱くなってしまい、立ち上がってしまった。
「…えっ?勇者さん、ダメージは…えっ?あれ、皆…。」
…そんな俺の様子を見たセクタは、さっきから全く攻撃をされていない事に気づいたようで、周りをキョロキョロと見渡した。
「…まさか、全部演技だった…とか?」
「…あっ、いや…。」
…やべ、つい立ち上がってしまった。
「…ちょっと、勇者さん、何やっているのよ。
結構な無茶ぶりだとは思ったけど、確かに、セクタ君の事は、あまり知らないわね、と思っていたから、皆で協力する事にしたのに…。」
「…ツイト様、もう少し粘って欲しかったですね…。」
リムさんとリプラは、そう言って俺を見ていた。
「ツイトさんも、気持ちが溢れてしまったんでしょう。
上手く行って、良かったじゃないですか。」
「「…………。」」
カラリは、俺の気持ちを汲んでくれようとしていたのだが、ブロックさんとイーネさんは、何も言わず、冷めたような目でこちらをただじっと見ていた。
「…え、ほ、本当に演技だったの…!?」
「…あー、うん、ごめんな。
…セクタが、本当にここで別れる事に納得しているか、確かめたくて…。」
…俺がそう言った途端、セクタは、なるほど…僕を欺くとは…。と言ったような表情になった。
「…仕方ない、じゃあ、全部言うけど、僕はここに残る事をしっかりと望んでいるわけじゃない。
…本当は……冒険…したいっちゃ、したいけど…。
…でも、やっぱりちょっと怖いんだ。
僕は戦ったりできないし、勇者さんの足も引っ張りそうだから…っていうのも、あるし…。
…だから、まだ分からないというか…。」
セクタは、ぼそぼそと、皆に言ったようで、独り言のような言葉を呟いた。
「…今、冒険したいって言った?」
「…う、うん、でもまだ…。」
「…えーと、それで…改めて、さっきの言いかけていた事の続きなんだけれど…無意識なのか意識していたのかは分からないが、セクタは、冒険に『着いて行かない』ではなく、『着いて行けない』という言い方をしていたんだ。
…冒険したいのか、分からないままここに残るのは、後悔が残るんじゃないかと思っている。
…まあ、最終的にはセクタが決めることだから、何とも言えないんだけど…。
…ど、どう?」
「………。」
俺がそう言うと、セクタは黙ってしまった。
まあ、着いていきたいっちゃ着いていきたいが、分からないと言っているのに、どう? はないよな。
…しかし…本当に、どうしようか…。
…冒険して、辛い事は何も無いよ、などと無責任な事は言えないし…。
…そんな事を考えていると、俺の頭に、ふと『冒険記』という言葉が浮かんだ。
「…そうだ!この世界には、数百年前にも、勇者がいたって、歴史博物館で聞いたから…。
その歴史…冒険記みたいなものがあれば、少し冒険の事が分かるかもしれない!
…リプラ、その、確か先代勇者は、5人居るんだったよね。
…その5人の、冒険の記録みたいなものは、残されていたりしない?」
「…そうですね、記録が残っているものもあるようです。
分かる範囲を全て、調べてみましょうか?」
「…ああ、お願い…。」
リプラの言葉に、取り敢えずセクタの気持ちが曖昧なまま終わらずによかった、と安心しながら、俺はブロックさん、イーネさんの方を向いた。
「…よし、取り敢えず、セクタの本音が聞けてよかった。
…結果オーライ!…ですよね。」
2人はまだ、冷たい目をしていたが、俺はそう訴えかけた。
「………まあ、そうだな。」
ブロックさんは、やれやれ、といった様子で、冷たい目をやめた。
「…そうだなぁ、構わないよぉ?」
その様子を見ていたイーネさんは、冷たい目はやめたが、明らかに、許しているという雰囲気ではない顔で、そう言った。
「…まだ、怒ってます?」
「…そんな事はないよー、ただ、ちょっと有りょ…じゃなくて、ちょっと、待たされたからさー。」
…イーネさん、まだ何かを有料にするつもりなのか…。
…と俺は思ったが、そこには触れない事にした。
「…ちなみに、どうして皆さん、傷だらけなんですか?」
俺は、イーネさんの事を一旦忘れ、この場の全員にそう聞いてみた。
…すると、リムさんが、俺の方に近づいてきて、話を始めた。
「…それは、私の力よ。
前に、私が勇者さんを違う姿に見せるために使った魔法を、私も含め皆に使ったのよ。」
…なるほど、つまり、リムさんが使った魔法は、誰かを違う人に変わっているように見せるだけでなく、自分を、傷を負った自分に見せることも出来るのか。
…それは使い方によっては、敵の目を欺く事が出来るのではないか、と俺は思った。
「…なるほど、そうなんですね…。」
リムさんの言葉を聞きつつ、リプラの方を見てみると、まだ先代勇者の冒険について調べていた様子だったので、俺は今の状況を少し整理する事にした。
…まず、先代勇者の冒険については、俺もよく確かめてみた方がいいのかもしれない。
…情報技術が発展する前のアンドロイドとは、一体どういうものなのか、それ以前に、勇者という立場になった人達が、どのような振る舞いをしていたのか、気になるからな…。
…次に、AI化病の事…。
最近は症状が出ていないというか、あまり病状進んでいる感覚がないのだが…大丈夫なのだろうか。
そもそも、AI化病の事は、まだ詳しく分かっていないんだよな。
何がどうなっているかはイーネさんに教えてもらったけれど、進行スピードなどは、まだよく知らない。
…本当にどうしようもない時は、カンパニーでお金を稼いで、イーネさんにお金を払ってしまうというのも…1つの手だろうか。
しかし、まず、お金を払った所で、イーネさんが本当に何かを教えてくれるとは限らないんだよな…。
リムさんは、治りかけだと言っていたが、進行スピードなどは、知っているのだろうか。
そして、元依頼主は…一体、何を考えているのだろうか。
…彼の行動は、不可解な点が多い。
…池にいるのが、元依頼主ではなかった場合、その謎は、深まるよな…。
「…ツイト様、情報をまとめ終わりましたよ。」
…俺が、今まであった事を頭の中で整理している間に、リプラが先代勇者の冒険の記録を調べ終わっていたようで、そう声をかけてきた。
「あ、リプラ…ありがとう。」
まだ考えをまとめきれていなかったので、俺の心に少しモヤモヤが残ったが、まず、リプラの話を聞く事にした。
「…では、先代勇者の冒険の、まとめた情報を話しますね。」
俺が目を合わせると、リプラは大丈夫だと判断したのか、話を始めた。
今回も読んでくださり、ありがとうございます。
セクタの運命やいかに…!
次回も良かったら見てください!




