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第21話 戦闘 前編

「………うおおおおぉ!」


俺は剣を構え、元依頼主に斬りかかった。


「…っ!」


…俺は、さっき見たリムさんのように

心臓を狙ったのだが、攻撃は、ギリギリ

元依頼主にかわされてしまった。


「………っ。」


続けて、何度も斬りかかるが、攻撃は

全てかわされてしまった。


「…ツイト様!」


…俺は、そう声が聞こえてきた方を向いた。


「……………っ!」


リプラは、手をバッと前に出すポーズを

取った。

…言いたい事が分かった。…つまり、

今、元依頼主が弱っているこの状況なら、

魔法を使えば、動きを止められるかもしれない

…ということだろう。


「…リ、リプラ!う、撃つね!」


…俺は、そう叫んだ。


「…?」


リプラは、不思議そうな顔をしながら

頷いた。


「……『フラッシュ』!」


…俺は、そう言った後、『フラッシュ』を

撃った。

…しかし、やはり1度見たということも

あるのか、『フラッシュ』はやり過ごされて

しまった。


「…ス、『スタン』!」


…俺は、間を開けずに『スタン』を撃った。


「…………ぐっ………!」


どうやら『スタン』は命中したらしく、

元依頼主は、膝から崩れ落ち、うつ伏せに

倒れた。


「…。」


俺は、ゆっくりと距離を詰めた。

…そして今度はしっかりと心臓を狙い…。

…俺は、思いっきり剣を突き刺した。


「………。」


「…ツイト様?どうかされましたか?」


「あ、いや…はは、ちょっと手が滑っちゃって。」


…が、剣は元依頼主では無く、床を貫いていた。


「…………………っ。」


俺は剣をもう一度持ち直そうとしたが、

手が震えて地面に落としてしまう。


「…ツイト様?…どうか………まさか。」


「…いや、はは、ちょっと、待って…。」


「……そうだと思ったよ、勇者サン。」


俺が剣を持つのに手こずっていると、

元依頼主はゆっくり起き上がり、壁の方へ

向かい、力なく寄りかかった。


「…森で、自分で頼んだのにもかかわらず、

血を流す俺を見ながら震えていたよね。

…それで、俺は思ったんだ。…勇者サンは、

もしかしたら、傷ついている“人”を見る

のが嫌なんじゃないかって。

あの時まで自覚していなかったけれど、

自分、もしくは自分の頼みで人が傷つく

のが、嫌なんじゃないかって。」


「…しかし、それなら…。」


リプラは、驚いたような表情で、そう

呟いていた。


「…うん、そうだね。…勇者サン、俺は

君のお仲間が言った通り、人じゃない

…複数体に増える事が出来るタイプの

モンスター。本体が倒されない限りは

死なないよ。

…つまり、俺は本体じゃないから、ここで

俺を殺しても、俺は死なないって事。


…どう?罪悪感は減った?

…ほら、今俺を倒せば、誰も殺さずに

そこの子を救えるよ。」


…元依頼主は、わざとらしくそう言った。

…そうだ。…元依頼主の言う通りだ……俺は…。


…“誰も傷ついて欲しくない”なんていう

綺麗な理由じゃない。

…“死を見たくない”…んだ。


…分かっている。…分かっていたつもりだった。

…冒険するのであれば、“死”というものを、

いつかは意識しなくてはいけないという事を。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「冒険って…こんな感じのものなの…?」


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


…いつか、セクタが言っていた言葉を思い出した。

…そうだ、冒険は、楽しい事ばかりじゃなく、

辛い事もある。…分かっていたはずだ。

辛い事の中には、“死”というものもあるという

事も。

…それは、自分や仲間だけでなく、敵や、

関わりを持たない人にも存在するものであり、

避けて通る事は出来ないものだと言うことも。


…しかし、カラリを、助けなくてはいけない

この状況で、“死を見たくない”なんて言っては

居られない。…でも、怖かった。

…命が消えてしまう瞬間を見るという事が。

…ましてや、自分の手でそうするなんて、

出来るはずがなかった。


…今まで倒したモンスターは、話さなかったし、

シュワッと消えていたから、そんな自覚は

なかった。


…でも、目の前の元依頼主は…どう見ても、

人だ。…やっぱり、剣を振れない………。


…でも、元依頼主は、死んでも、本体じゃない

から、死なない、らしい。


…なら、大丈夫だ、うん、大丈夫。

死体を見るのが怖いなら、森でモンスターを

倒した時のように、目を瞑ればいい。

…それなら、“死”を見る事はない………。


俺は、そう思いながら剣を構えた。

…罠かもしれない、と疑う余地はなかった。

罠だったとしても、取り敢えず元依頼主

を倒さなくては、状況は変わらない。


……でも、本当にそれでいいのか?


…剣を振ろうとした時、俺の頭に、そんな

言葉が浮かんだ。

…ここで、死から逃げても、いつか、また、

死を見なくてはいけない時が来るだろう。


…逃げても、どうしようもないんじゃないのか?


……しかし、それなら…逃げないのであれば、

どうすればいい?


…剣を握る事も出来ていなかったのに、

逃げない、と思うだけで、本当に逃げない事

なんて、出来るのだろうか。


「……………。」


…無理だ。…無理に決まっている。

…俺は、そっと目を瞑った。

…次は、次は…きっと…逃げない、から…。


「…ツイト様!」


…そう思いながら、剣を振ろうとしたが、

リプラに声をかけられ、俺はすんでのところで

目を開き、剣を止めた。


「………?」


…しかし、俺の心は決まっている。

…今更、リプラに何か言われたって、もう、

どうしようも…。


「…ツイト様!頭を冷やしてください!

『フリーズ』っ!!」


「…え。」


…俺は、リプラが何をしたのか一瞬、

分からなかった。しかし、その後の感覚

によって、すぐに何をされたのかが分かった。


「…つ、冷てえぇぇぇぇ!?」


俺は剣を放り投げ、床に転がった。


「…るぇ!?…なんで?…な、なんで?」


俺は、リプラの方を向いてそう何度も

問いかけた。…寒さで震えてしまい、ろれつが

回らなかった。


「ツイト様、今まで気づく事が出来ず、

申し訳ありません。

…森での出来事で、気づくべきでしたね。

しかし、ツイト様、それではダメですよ。」


そんな俺の様子を見ながら、リプラは

俺にそう言った。


「それは、わ、分かってるけど…

でも、逃げないって思っただけじゃ、

やっぱり…!」


「…それでは、敵の思うつぼですよ!!」


「…え?」


…リプラは、俺が予想していた言葉とはだいぶ

違うことを言った。


「よく考えてみてください、ここでツイト様

がどうしようと、さっき本人が言っていた通り、

どうせこの元依頼主は本体じゃないのです。

…それなら、逃げるも何も、初めから、

戦ってなんていないじゃないですか。」


「…え、あ、まあ、そうなんだけど、

でも、あの、俺が今逃げようとしていたのは。」


「…はい、今の様子を見て、分かります。

…人の死に直面するのが怖いんですよね?

…しかし、相手はモンスターですし、それに、

本人が、そもそも死なないと言っているじゃ

ないですか!それならば、逃げる物事なんて、

初めから存在しないんですよ!」


「…ん?」


…まあ、確かに、俺が逃げたかった、人の死

というものは、ここには存在しない。

…いや、でも、今さっき考えていたことは、

そういうことではないだろう。

…人間でなかったとしても、元依頼主は、

血も流すし、本体でなくとも、一応、

死は存在する…。…逃げる物事は、

存在するだろう……?


「…で、でも、たとえ、元依頼主が死ななかった

としても、今倒さないと、カラリは…。

…お、俺は、カラリを助けたいから、だから、

こうするしか…。」


「……ツイト様、そもそも、元依頼主さんを今

倒す必要はないのですよ。」


「………??」


「…ツイト様、これは、罠です。

…不思議だと思いませんか?…増える事が

出来るのに、わざわざ、満身創痍の状態で、

加えて、電流を解除するリモコンまで

持ってくるなんて……。

…きっと、ツイト様が元依頼主を倒した

瞬間に、何かをしてくると予想ができます。


…しかし、考えてみると、増える事が出来る

のであれば、もっと手っ取り早く私達を

倒せたはずです。

…何故、こんな面倒な事をするのか、考え

られることは二つ、“増やせる人数に限りがある”

…か、“動かせる人数に限りがある”か、です。


…おそらく私は両方だと思います。

…増やせる人数に、限りがないのであれば、

わざわざあれだけの人を集める必要は

ありませんし、動かせる人数に限りが

無いのであれば、今、満身創痍の元依頼主さん

に気が向いている間に、私達を不意打ち

することもできるはずです。


…ですから…増やせる、動かせる人数に

限りがあるのであれば…きっと、この部屋の

どこか、もしくは、この部屋に繋がるどこかに、

増えた元依頼主さんが潜んでいて、倒された瞬間

に、待機させておいた自分を動かして、不意打ちを

狙う可能性が高いと思われます。


…そのため、元依頼主さんを倒すのは、得策では

ないのですよ。…明らかな罠です。

…盲目にならないでください、ツイト様。」


「………。」


…俺は、リプラの話している言葉の意味が、

よく分からなかった。

…確かに、考えてみれば、これは見え見えの罠だ。

しかし、俺は、これが罠であることを、

わざと考えようとしなかった。


…それに、これが罠だとわかったところで

どうする。…元依頼主を倒さなくては、

カラリを助けられないという事に変わりは………。


……待てよ、“元依頼主を、今倒す必要はない”…?


「…落ち着きましたか?ツイト様。」


俺の様子を見て、リプラは、そう声をかけた。


「…うん、元依頼主を倒さなくとも…リモコン

さえ、手に入れれば……カラリは、助けられる。」


「…落ち着いたようですね。」


俺の言葉を聞いたリプラは、優しげな表情で

そう答えた。

…俺は……元依頼主は、ここで必ず倒さないと

いけない、という考えに、囚われていた。

…でも、そうじゃなかった。…リモコンさえ、

手に入れれば、この檻の電流は解除出来る。


…今、元依頼主はスタンしている状況である

はず。…それならば、リプラが予想している、

周りに潜んでいるかもしれない人にさえ気を

つければ、割と簡単に電流は解除出来る

かもしれない。


冷静になり、そんな考えが頭に浮かんだ。

そして同時に俺は思った、多分、元依頼主は、

リムさんにも同じようなことをしたのでは

ないかと。

…初めに、元依頼主とリムさんが戦っていた

時、リムさんは、躊躇なく攻撃をしていた。

…さっきも、俺に絶対に追いつかせない、

という様な気持ちを感じた…。


…それなのに、ボロボロになっているとはいえ、

こうも簡単に元依頼主を俺たちの方に逃がして

しまう事を許すとは思えない。

…きっと、リムさんは、何かを察して元依頼主に

トドメを刺すのを思いとどまったのだろう。


…そのせいで、隙が生まれてしまい、さっきの

部屋に閉じ込められてしまった…そうではないかと。


…とにかく、元依頼主は、何とかして、一旦自分を

倒してもらいたかったのだろう。

…罠だったようだし、リプラが言っていた、

逃げる物事なんて初めからなかったというのは、

その通りだったようだ…なんて。


「…あ、そう言えば…。」


俺は、元依頼主に近づこうとしながら、

リプラにそう声をかけた。


「…えっと、初めに…リプラが、『スタン』を

撃って!…っていう合図をする前に…リプラは、

『剣を構えて』…って、言ったよね。

…元依頼主を倒すのは、得策じゃないって

言っていたけど…。……えっ?」


俺がそうリプラに声をかけると、リプラは

俺の腕をつかみ、引っ張りながら話を始めた。


「……実は、気づいていたのです。

…おそらく、元依頼主のものであろう、

私達以外の気配が、この部屋からする事に。」


「………それなら…。」


「…今のツイト様ならば、この部屋に潜んでいる

者達も、倒せるのではないか、と思ったのです。

…無理なようであれば、少し手を貸せば問題ない、

と、思っていたのです。

…問題は、山積みのようでしたが…。


…ツイト様、これからは…。」


リプラは、そこまで言うと、少しの間

沈黙した。


「…一緒に頑張りましょう、ね。」


そして、そう言った。

…本当は、別の事が言いたかったみたいだ。

……多分、強めに言えば、“次は逃げるな”

…という事だと思う。


………今回は罠だったから、避けられて

良かったのかもしれないが、次は、本当に、

“死”から目をそらす事が、叶わないかも

しれない。

………俺は…このまま冒険して行って、

大丈夫なのだろうか………。

俺は、そう、深く考えた………。


「………って、ちょっと待って、リプラ、

何してるの?……………って、うわぁ!?」


リプラが、元依頼主から離すように俺の

腕を引っ張るので、疑問に思い、振り向いて

見ると、目の前には、中にカラリがいる、

電気の檻があった。


「あ、危なかった…ねえ、リプラ、なん……。」


俺がリプラに声をかけようとすると、

リプラは、即座に俺の後ろに周り、そこから

俺の両腕を、がっしりと掴んだ。


「…えっ?……何?」


「ツイト様、一度檻に触れてみてください。」


「…え?なんで!?」


「…問題ないです。私は、感電しないよう

これを使いますので。」


リプラは、そう言うと、片手で俺の両腕を

ホールドしたまま、異空間からおそらく

ゴム素材の手袋を取りだした。


「…ツイト様は、状態異常を治す魔法を

覚えていたと思います。…それを使えば、

感電するのは一瞬ですので、ツイト様

の方にも、問題はないですよ。

……………では、行きます。」


「………えっ!!?待って!行かないで!!

なんで??……『状態異常治し』!!

『状態異常治し』っ!!!………ああああっ!!」


…俺は、状況が分からぬまま、心の中で、必死に

状態異常が治る事を考え続けた。


「……あ、ああ……リプラ、い、いきなり何を……。」


なんとか感電を解いた俺は、リプラの方を

向いた。


「…元依頼主さんは、まだ、切り札を隠し持って

いると思います。」


リプラは、元依頼主の方を見ながらそう言った。


「……切り札…?」


俺も、リプラに釣られて、元依頼主の方を向いた。


「………はぁ…。」


元依頼主の方から、そんな音が小さく聞こえた。

…まさか、本当に切り札があるのか…?と、

俺は、身構えて、元依頼主の次の行動に備えた。

今回も読んで下さりありがとうございます。


まさか、冷やす魔法をこう使う事になるとは…。


次回も良かったら読んで下さい!

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