呪いを解きに
ここは世界各地から呪いにかけられた病人が集まっている療養地だ。
そこらかしこで見かけるのは病人と医療従事者の割合が高い。
治療院は療養地らしく自然の中に建っていた。
最悪レベルの呪いをかけられたものが入院している治療院の前に俺たちは来ていた。
「ここに解呪師がいるのですかご主人様?」
「ああ。金は持ってきた。大丈夫だ。世の中にはありとあらゆる奇天烈な呪いが存在する。事情を話せば人から憎まれる、という俺の呪いへの理解もしてくれるだろう」
俺は途中で作ったものものしいマスクを被っている。
顔の4分の3は隠れるマスクだ。
「行こう」
「はい!」
車椅子に乗るばあさんを押す解呪師のお兄さんを横目に広場を横切る。
俺は戸を叩いた。
しばらく待つと「お入りください」
と、戸が開けられた。
中には数人の人がいて俺の対応をしてくれた。
治療術師たちはみんな同じ制服を着ていた。
「顔を隠しているのは申し訳ありません。私の治療についてあまり多くの人に知られたくないんです」
「そのような方も多くここを訪れます。うちの方針では身分を詮索しない、というのもあります」
ニコリとお兄さんは俺に言ってくれた。
強盗かと思われかねないと思ったが、おそらく途中で作った魔物の皮の高級感がよかったのだろう。
貴族とでも思ってくれたに違いない。
俺の格好が立派になりメトは良い従者の振る舞いというようなものを模索しているようだった。今もきりりと背筋を伸ばしている。
そんなに大した主じゃないぞ俺は。
俺はカムイと名乗り、簡単な手続きをした。
「そのお歳で幼い従者を連れて来られたことにもなにか事情があるのでしょう」
お兄さんは俺の手をぎゅっと握ってくれて目で励ましてくれた。高貴な身分と思われているようだ。
さしづめ貴族の嫡男の少年が自分と同い年ぐらいに若い従者しか連れてきていないということで様々な想像がお兄さんの中で働いているのだろう。
俺が逆の立場でも内情が気になって仕方ない。
「……いろいろと聞かないでくれて助かります」
「いいんですよ。準備が整い次第専門の術師のところへ案内します。それではもうしばらくお待ちください」
お兄さんの帽子には幾何学模様の星が刺繍されていた。
あれは確か3重の星が《一人前》の証だ。
一人前の証の3重の星の者はあと1人いて、あとの3人は1つの星が描かれている限りで、これは《見習い》ということだった。
んで、2重の星が《半人前》だったか。
お兄さんは俺にかけられている天罰術式を見てどういうタイプの呪いかある程度見抜いたようだった。
少しばかりお兄さんは同僚と話すとお兄さん以外の治療術師は離れていった。
流石にマスクを外すわけにはいかないな。指名手配犯である俺の素性がバレる訳にはいかない。と考えていると誰かがきた。
「アイセアさんの準備ができました」
「ああ、早かったね。ではこの者の案内させますのでカムイさん、どうぞ」
アイセアというのは俺を診てくれる解呪師の名前だろう。
そう思ってこちらを呼びに来た治療術師に目を向けるとそこには俺が知っているやつがいた。
ルミナ。ロイドとしての俺の幼なじみの少女。
ここで解呪師見習いをしていることは知っていたがいきなり出くわすとは。
オレンジに近い髪のポニーテール。
深緑の瞳。
着ている服はまぎれもない治療術師の制服。
ルミナは俺と同い年の14歳で幼いころから明るく元気な子だった。この世界で俺と仲良く遊んでいた。
シルエットが女性らしさが幾分か増していた。
昔は俺よりも背が低かったが若干俺よりも背が高くなっていた。
俺が154cmだから157ぐらいはありそうだ。
まぁ女の子の方が身体の成長早いし。俺はこれから伸びる予定だし。
「こんにちは。カムイさんですね。ボクはルミナといいます」
仮面で俺だと分からないはず。
俺は知らんぷりして軽く会釈しする。
「それじゃあご案内します」
そうたんぽぽのような笑顔で言ったルミナに無言で続こうとした。
廊下を数歩進んだらルミナは立ち止まった。
そして振り向いた。
彼女はある仮定を過去から引き寄せようとしていた。
ついに口からその仮定を出した。
「…………ロイド?」
さっそくバレたんですが。




