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エルダクガを離れて船に乗り込みます

 船を楽しみにしつつも、まずは一日の活力を入れに、朝食へと戻る。

 昨日と似たメニューだったけど、昨日と違うのはビルギットさん。なので屋外にテーブルを持ってきている。

 果たしてどうなるかと思ったけど……。


「……これは、まさか私に? よ、よろしいのですか?」


 ビルギットさんの前には、とてつもないサイズの肉料理と、パンらしきキョフテが切っていないピッツァみたいになっていたりと、他にも様々なものが出てきた。


「はっはっは! むしろ昨日の試合を観て、料理人どもが随分と盛り上がってしまってな! しかしビルギットはすぐに発つと聞くや、あいつら朝から皆作りたがってこの有様よ。ああ、他の皆も、適当に自分の皿に取り分けて食べるのだ」

「皆様……ありがとうございます」


 ビルギットさんは笑顔でお礼を言い、早速机の上の料理に手を出していく。あの大きめの肉切れも、ビルギットさんには一口だ。


「あっあっ、わたしもたべなくちゃ!」


 そんなビルギットさんの様子を見て、アンがテーブルを見渡し、それを切っ掛けにみんなで料理に手を出していく。

 本当に豪勢な料理だ。なかなか食べられないんじゃないだろうか、これはビルギットさん大金星だ。


 やはりこの地方、肉類が非常に豊富で、それらをスパイスを利用して作り上げた料理の数々は、全く違う国に来たという感じがして非常に興味深い。

 レノヴァ公国とシレア帝国も違う食事が出て来たわけだけど、はっきり言ってどちらもビスマルク王国に近かったと言ってもいいぐらい、こちらの料理は新しかった。

 こういう体験ができるのも、旅ができてこそだよな。


 ……これが、何も目的のない旅なら後ろめたいこともなく楽しめていたのかもしれないけれど。

 今は、リリーを救出するために旅をしているのだ。

 そういえばリリーも、ずっと村に住んでいたからこういった旅行は……いや、むしろレノヴァ公国に出たりすらしていないんじゃないだろうか。思えばずっと村にいて、近所の気のいいお姉さんって感じで近くにいてくれたもんな。


 リリーなら、この辺りの食べ物は、どう思うだろうか。

 少し辛くて、濃い味付けの肉は気にいるだろう。野菜は……わからない。なんだかんだと気に入りそう。

 そして最後に言うのだ。『絶対ビールに合うわね!』って。

 それはもう間違いなく、他の人に聞いてもそう言うだろうって分かるぐらい、リリーならそう言う。

 一人で盛り上がっちゃって、それでも周りがみんな笑顔になってしまう。


 笑顔になる。だから、リリーがいない村は、あれだけ人口が増えて発展しても、少し何かを欠いたような……そんな雰囲気が漂うのだ。

 だから僕もそんなリリーに、かなり救われてきた部分がある。


 ……思えばリリーには、世話になっただけのものを返してきただろうか。

 いざそう考えると、もらってきたものに対して自信がない。

 姉貴の友人として、本当にずっと良くしてもらったのだ。


 この旅が終われば、リリーにももっといろんなものを返していこう。


 -


 出発の前に、エルダクガ王国の街でいくらか気になった食料をたくさん買い込んで、リンデさんに保管してもらう。

 さすがリンデさん、どれだけ買ってもアイテムボックスの限界は見えてこず、一人では絶対に買うだけ買って持って帰れなかっただろうなという量の食材や道具が、全て手に入ってしまう。


「ほんとにリンデさんはすごいですね……家が入った時点でもう驚きはしませんが、正直限界があるかどうか全くわかりません……」

「えっへん! どんどん買ってください! お金は持ってても何がいいものなのか、私はさっっっぱりわかりませんからね!」


 アイテムボックスのことは胸を張ってもいいですけど、そこは胸を張る部分じゃないと思います。

 でもリンデさんは、実際のところもっと自分で買ったりしたいらしい。


「あれがおいしいのかなとか、あれが便利なのかなとか、思うんですけど……正直自分だと、分かっても使えないんですよね」

「そういえば、そうですよね」

「そのまま食べておいしい林檎さんならまだしも、あのお野菜さんの数々は、ライさんがスープにした時と生で食べた時では、もう生肉とステーキなんて比にならないぐらい別の食べ物でしたし……」


 リンデさんは、一度スープに入っている人参を生で食べてみたいと言った時に、食べさせたことがある。

 あまりおすすめはしないけど、と一言伝えて食べてもらったけど……。

 リンデさんは、一口食べてショックのあまり、椅子に座り込んだのだ。


『……人参ってライさんの手が加わらなければ、本来はこんなものなんですか……!?』


 リンデさんはオーガキングで作ったスープを食べて、後カレーもシチューも食べた。それらには全て人参が入っていて、あの肉厚な野菜を気に入っていた。

 人参が調理前で味はもちろんのこと、食感も全く違う。

 特に人参はモノによっては非常に独特の臭みがあるため、調理していても苦手な子も多い。


 リンデさんはその後、全ての野菜を食べた。

 玉ねぎの、生では全く違う刺激の強い味と食感にも首を傾げ、じゃがいもの口で勝手に崩れない感触にも眉根を寄せた。


 料理の出来ないリンデさんにとっては、この市場にあるもの全てが、あの時の野菜と同じなのだろう。

 おいしい料理をこの街で沢山食べて、それらと同じ材料を見て。

 だけど、調理が可能な人がいなければ、その思い出は全て生野菜の記憶に塗り変わってしまう。


「ライさんは、このへんの野菜もできるんですか?」

「わかりませんが、ある程度は。レシピ本もありましたし、恐らく間違えなければきっと大丈夫ですよ」

「たのしみです!」


 だから、このエルダクガの思い出を。

 ファジル様の出会って、短い間でも心を通わせた思い出を。

 おいしく食べた、この国の料理をの味で思い出せるように、持ち帰ろう。


 -


 昼になる前に、船に乗り込む。

 しっかりしたつくりで、ある程度の機能は魔法で自動化されているとのこと。

 ……自分でもらっておいてなんだけど、滅茶苦茶にすごい船だな、これ。


 甲板に出ると、ビルギットさんがまだ外にいた。

 橋から入れないから、どうするのかと思って見ていると……!


「……ん……っと」


 小さくかけ声を一つ、その直後になんと跳び上がって、甲板に降り立った!

 揺れる! ……と思った瞬間、足元に風が巻き起こる。


「もしかして、今のは」

「さすがライ様、一瞬で分かりますか。はい、風の魔法で衝撃を吸収しました」


 そんなこともできるのか……いや、クラーラさんみたいに空を飛べる人もいるんだ、ビルギットさんがこれぐらい習得できていても不思議ではない。

 しかしそれにしても、今のは器用だなーと思う。


 そして、着地の瞬間にきらりと燦めくものがあった。

 ビルギットさんに、金の装飾品が増えている。

 本当にもらったんだ、見れば見るほど見事なペンダント……ビルギットさんの青い肌によく映えて綺麗だ。

 長いチェーンが、胸の谷間に流れ……って見てはいけない!

 危ない危ない……あまり失礼のないようにしないとな。


「わーっ、ビルギットさんが乗ってもびくともしません!」

「そうですね、リンデさん。本当にいい船です」


 その船の飾りを触りに船の端まで行くと、下にはファジル様とアブラハム様がいた。


「あ……!」


 喧噪もすごいし、もう声も聞こえない距離だけど、二人の表情は分かる。

 アブラハム様は笑顔だったけど、ファジル様は……どこか切なそうな顔だ。


「わーーーっ!」


 リンデさんがファジル様を見つけて、大声をあげて両手を振る。

 ファジル様が目を見開くと、すぐにリンデさんに対抗するように両腕を大きく振り返した。


「まーーーたあいましょーーーーーっ!」


 リンデさん、再びエルダクガに来る気満々の声を上げて、みんなに別れを告げる。

 うん、僕もまた来たい。今度は姉貴と……それにリリーも。


 さあ、それじゃ。


「次の島を目指します!」

「はい!」


 マナエデン目指して出発だ。

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