第28話 無様さに誇りを持て、主神の加護を受けし者らよ!
「お主らはまだ主神の真の力を理解しておらんようだな。」
そんな老人の言葉が現実になる光景を、俺はその時目撃したのだ。
『来ました! やつらが来ました! なんの悪びれるそぶりもなく、警察隊に向かって突っ込んできます!』
バイクの異様な轟音と共に、暴走族が次々とインターチェンジをすり抜けようと突撃してきた。
パトカーが暴走族の持つ改造された車両に追突され、ぺしゃんこになっていく。
その隙をついて、バイクが通り過ぎてゆく。
『見るも無残な光景が広がっています! 警察の包囲網が一瞬で打ち砕かれていきます!』
「もう、どうするのよ!」
特に何か加勢するわけでもなかった老人に、ラズリは怒ったが、肝心の老人がいないことに気付いた。
老人だけではない。
ロフィロイや、メイゲス、ゼノムスなどの男手が全て駆り出されていた。
「あんたはなんなのよ、あんたは!」
そして一人残ったハルクトを見て、ラズリはじじいの行方を探し始めた。
「ははは、ちょろいもんだぜ!」
暴走族のリーダーらしき男が、インターチャンジを突破した部下とともに不気味な笑みを浮かべた。
だが、その笑いも最も卑下すべき笑いに打ち消された。
「むほほほほほほほ、ちょろいものよ! まんまと我が策にはまり負ったわ!」
「だ、誰だ! しかもなんかとても重要な最後の発音部分が違う気がするが、ってそんなことはどうでもいい! 姿を現しやがれ!」
彼がそう言った瞬間、高速道路のガードレールの上でいかにもアクロバティックなポーズで水平に両手を広げる老人の姿があった。
「さすがは首長! 月をバックに悪路バティックなポーズがお似合いです!」とメイゲス。
「ふはははは。 おやじギャグは今風の横文字とミックスすることでさらに年配のシワのほりを深くするのだ!」
老人はそう言うと、暴走族の列の前後に網を張った。
「わしはゴレマズド! 主神フレクシスの裁きを代行せし者! この日のために用意した我が神器の威力、見るがいい!」
老人の剣を見て、暴走族たちは警察の仲間だとやっとわかったようだった。
空ぶかしをして威圧すると、立ちはだかる老人に向かって突っ込んでいく。
「ゆくぞ!」
それは一瞬の出来事だった。
先頭のメイゲスがバイクに鎧をつかって衝突してきたのだ。
「バーーーーーーン!」
「ひるむでないぞーーーーーー! 我らが主神の加護を受けし鎧の強度を高めるのだーーーー!」
「くっ! なんて変態だ!」
暴走族のリーダーもさすがにひるんだすきを老人は見逃さなかった。
「喰らうがよい! フレクシスぐれねーど! 炸裂せよ!」
『し、信じられません! 先ほどの老人が暴走族に捨て身で突撃し、食い止めています!』
老人が宙を舞い、ほぼ同時に爆竹がパンパンと彼のまわりで鳴り響いた。
「バーーーーーン!」
「神聖なる主神の響きに耳を傾けよ、従僕どもよ!」
はッ、このロフィロイも、当たり屋の気持ちがわかったような気がします! 彼らが実はかまってほしくて非常にさびしかったことを!」
『さらに部下とみられる一人がわけのわからないことを口走っています! 彼らは一体何者なのでしょうか?』
「な、なんだこいつら!」
暴走族はもはや相手にしてはいられないと、来た道を戻り始めた。
「に、逃げろ!」
「むっ! 崇高なる試練に背をむけるか! 愚か者が!」
老人はあろうことか、さきほど横倒しにしたバイクの一台にまたがると、異様な空ぶかしを始めた。
「主神よーーーー! 今こそわれらに力をーーー!」
『ブブブブーーーーーン! ブブブンブブブンブブブヴォーーーーーン!』
まるで老人の言葉をバイクのうなりが代弁しているようにしか聞こえなかった。
「まだ追ってっ!」
「警察だーーー止まれ!」
暴走族を待っていたのは、体勢を立て直した警察隊の群れだった。
「いやはや、今回はお手柄でしたなー。」
暴走族を見事一網打尽にした老人たちに、警察隊のリーダーがほめたたえた。
「なに。 わしはフレクシスの告知に従ったまで。」
「はい?」
「ああ、気にしないでください。 うちのおじいちゃんボケてるんですよ。」
ラズリが必死にフォローし、老人に口にチャックをしておけとにらみを利かせた。
「そうです、おじいちゃんはすごいんですよ?」
ラミーヌがお祝いのお菓子をどっさりと買ってきて、すでにつまんでいた。
「言うなれば、生肉を握っているモヒカン野郎が携帯の着信音に異様に反応したために、コンビニから出てきた自身を不死身の神と称するスーパー美容師のぶちキレたときに見せるギョッとした目つきに競り勝ったとして、フッと一回だけ鼻で笑うようにすばらしいわれらの首長です!」
「ああ、言い忘れてたけど、この人も脳みそがおかしいので、気にしないでくださいねーーー。」
ラズリの言葉によって残忍な設定が増えていった。
その時、俺は思った。
なんでもやってみよう。
失敗を恐れてちゃいけないんだと。
「明日から、俺はやるよ、ラズリ!」
「何を? 急に改まってどうしたの?」
「いいや。 そうだ、これだけは伝えておかなくちゃね。 ラズリ、好きだ。」
ボッと彼女の顔が赤くなったのを確認してから、俺はその場から急いで駆け出した。
無様でもいいじゃないか、光に向かっていく姿勢さえ、誰にも消すことはできないのだから。
行こう、新たな未来に向かって…。
ついに小説とは程遠いと思われる作品を書き上げることができました。これも最後まで本編を読んでくださったタフな(?)読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!一体カーレンベルクはこの作品で何をしたかったのか、と疑問に思っている方もいるでしょう。スランプという無様な状態になったからこそ、あえてそれを自身で見つめ、問いかけることにより、次へと進む足がかりにしたかったからです。もちろん、世の中に訴えたいことも含まれています。
さて、今回初心に帰った上で、以前予告しておいたファンタジー小説に着手したいと思います。少なくとも本作品より完成度を高めるつもりです。では。