フィナーレ-2-
物語はいよいよ最終回。全ての真相が今明らかになる!
登場人物
清水亮:大学二回生 鵜飼渚:同じ大学の同級生 田中哲平:10年前の爆破事件の真犯人
永島透:清水の叔父で探偵 熊谷一:永島の助手
永島が現場に向かう数刻前、海が望める、ある小屋の中で鵜飼と田中は会話をしていた。
いや、それは会話というよりも尋問という言葉が似合っていた。
「田中さん。10年前の事件の話、聞きたいなあ。」鵜飼渚は不敵な笑みを浮かべながら田中に話しかけた。
「昨日ここにきてから何も食べてないでしょう。このままじゃ最後の晩餐を食べる前に死んじゃいますよ。」
田中は椅子にロープで縛られていた。鵜飼はこの小屋に入った時、水が入ったペットボトルを田中に渡した。
田中は当然怪しんだが、渇きには耐えられずたまらず受け取った。その水の中に睡眠薬が入っていたのだ。
「分かった。全て話す。ただ白状したら解放してくれ頼む。」「いいでしょう。約束します。」
鵜飼がそう言うと田中は当時のことを話始めた。
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読者の皆さま、田中が話した内容は大方は永島の推理通りでした。ここから話される内容は新規の情報です。
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「僕は店を出たあと当時の交際相手で君の母親である長谷部佳代と鉢会った。
そして、彼女の家に二人で行こうと店を少し離れた直後爆発が起こった。
彼女は当然唖然としたが十数秒後、僕の表情を見て勘付いたらしく、
彼女は僕にただあなたがやったのか、と尋ねてきた。僕は震えながら小さく頷いた。
今思うと店のことについてあれこれ聞いていたことを不審に思っていたのかもしれない。
彼女は僕にある約束をし、逃げろと僕に向かって叫んだ。」田中は何とか声を絞り出して話した。
それは今彼が置かれている立場によるものではなく、
当時の記憶を思い出し、恐怖に駆られているように鵜飼には感じられた。
「ある約束って?」鵜飼が問う。
「彼女は僕の罪を被ってくれる代わりにある約束をした。
それは僕に、僕と彼女が初めて出会った海で待っていてほしいと言うものだった。
僕は騒然とした街中を駆け抜けて海に向かった。1時間ほどいたと思う
しかし、僕は怖くなった。そして、逃げ出してしまった。
その時に靴を履き忘れたことは自分の家に着いてから思い出した。」
田中の話を聞き終わった鵜飼はこう思った。だから私の母は移送中に逃げ出して海に向かったのだ。
そこで田中の靴を発見し、田中は海で自ら命をたったと勘違いし、自分も海の中へ入っていったと。
「これでいいだろ。約束通り解放してくれ、頼む。」田中は必死の表情でそう言った。
「あなたは母との約束を破った。だから私もあなたと同じことをします。」
鵜飼はもはや怒りすらも湧かなかった。彼女は持ってきた手提げ鞄の中から包丁を取り出して、
田中に向かって何度も突き刺した。彼女は用意していたスイッチの存在を完全に忘れていた。
その30分後ある人物がその小屋に駆け込んできた。
それは彼女の叔母であり、森慎吾殺しの三番目の容疑者とされていた鵜飼恵子だった。
鵜飼恵子は鵜飼渚の母が死亡してから、渚を引き取り、約10年間育ててきた。
渚は昔から何度も恵子の家を訪れていて恵子は渚のことをとても可愛がっていた。
渚は恵子を第二の母親のように感じていた。恵子は連日の渚の動きから嫌な予感がしていた。
しかし、実際には想定を遥かに超える事態が起こってしまっていた。
渚が田中を刺したことはその現場を見たものなら誰でも分かっただろう。
「あなたのお母さんが罪を被ったのはね、あなたのためだったのよ。
あなたにはお父さんが必要だって、ずっとあなたのお母さんは私に話していたわ。」
恵子の目には溢れんばかりの涙が浮かんでいた。もちろん渚も同じだった。
鵜飼渚の父親は渚が幼い時に病死し、彼女の母親がずっと一人で渚を育てていたのだ。
長谷部佳代は田中を新しい父親として娘の渚に紹介するつもりだった。
「あなたはお母さんの分まで幸せに生きなければいけない。今すぐここから逃げなさい!」
恵子は涙を拭って、そう声を張り上げた。
恵子はここに来る前から覚悟を決めていた。
万が一のことがあったら自分が代わりに罰を受けようと。
恵子の説得に押されて渚は駆け出していった。
またその三十分後、小屋のドアをノックする者が現れた。
恵子は覚悟を決めておそらく塀の外でみる最後のシャバの光景を小屋の窓から眺めていた。
しかし入ってきたのは意外な人物だった。その人物のことを恵子は渚から聞いていた。
伊水亮は目の前の光景を必死に処理しようと脳をフル回転させた。伊水はこの小屋で起きた出来事を想像した。
「あなたがそこにいる男性を刺したのですか。」伊水は恵子にそう尋ねた。恵子はそうです、と言った。
「いつ刺したんですか。」不意をついた質問に恵子は戸惑い、ついさっきだと答えた。
やはり僕の想像は正しい、と清水は思った。田中の体にまとわりついている血はすでに固まりはじめていた。
5分間ほど清水は頭痛が起きるほど悩み続けた。ただ彼には無実の人間を殺人犯に仕立てあげることなど、
どう考えてもできなかった。伊水はこう言った。「鵜飼渚さんはどこですか。」
鵜飼渚は走りながら何度もこれから起こることを考えた。
やがて彼女はそれらの出来事に到底耐えきれないと結論づけ、小屋に引き返した。
そこには腹から血を流して横たわっている伊水の姿と自分の胸に包丁を突き刺した恵子の姿があった。
鵜飼渚の叔母がもう助からないことは誰の目から見ても明らかだった。
ただ、清水はまだ息があった。彼女は泣きながらただ「ありがとう…」と何度も繰り返した。
鵜飼渚は清水を小屋から離したところへと運び、自身は小屋の中へと戻った。
彼女は手提げ鞄からスイッチを取り出し、そのボタンを押した。
永島と熊谷が到着したのはその小屋が爆発したすぐ後だった。
「遅かったか。」永島は魂が抜けたような表情でそう言った。
しかし、瓦礫になった小屋の近くで横たわっている人物を発見し、すぐそばへと走っていった。
「亮くん!大丈夫か!」返事はないが息はまだあった。熊谷はすぐに携帯を取り出し救急車を呼んだ。
それを横で確認しながら永島は数十メートル離れた砂浜の上にカーネーションの花束があることに気がついた。
数日後、鵜飼渚、鵜飼恵子、田中哲平の三人の死亡が確認された。
永島にはこの小屋で起きた出来事がある程度想像できた。それを熊谷に話すと熊谷はある疑問を口にした。
「なるほど…鵜飼渚はどこかで爆弾の作り方について学び、作った爆弾を小屋に仕掛けた。
そして田中の殺害に使うはずだったその爆弾で鵜飼渚は自殺したと…。
でももし、僕が彼女なら母の復讐ということで田中を溺死させると思うんですよね…」
熊谷の疑問に永島はこう答えた。
「彼女の母が眠っている海を汚したくなかったんじゃないかな。」
伊水亮は事件の数日後、目を覚ました。医者の話によると幸い命に別状はないということだった。
ただ二ヶ月は入院する必要があると言われた。見舞いに来てくれた永島から事件のことは聞いた。
ついでに関係していた森慎吾殺人事件についても教えてくれた。
彼の頭の中にはある言葉がずっと残っていた。「ありがとう…」あれは誰に向けた言葉だったのだろうか。
唯一の生きた証拠である田中が死んだことで真相は闇に葬られ、
結局10年前の事件の犯人は鵜飼渚の実の母である長谷部佳代と世間では認知されている。
愛する人の罪を被り、その人に裏切られ、守ろうとした娘も死んでしまった長谷部佳代。
必死に育てた姉の子供を結局は死なせてしまい、自ら課した使命を果たせなかった鵜飼恵子。
自分の行動で10年間育ててくれた叔母を死なせてしまった鵜飼渚。
愛する娘を庇った行動で助かるはずの命を切り捨ててしまった倉本沙織。
そして、母を救うための行動で母を殺人犯にしてしまった倉本沙織の娘。
もし自分が神様ならこんな大きな欠点のある世界は創らない、と伊水は思った。
この世界の大きな欠点は救いが不在であることだと。
みなさんここまで読んでくださり本当にありがとうございます。
物語はこれにて幕を閉じました。この小説では様々な伏線が張り巡らされています。
(例:清水と鵜飼が飲食店跡地を訪れた時、百合と一緒に買ったもう一つの花束はカーネーションで、
清水を先に帰らした後、鵜飼が海に備えたなど。)ぜひ物語を見返してそれらの伏線の発見もお楽しみください。
繰り返しになりますがこの「救いの不在」を最後まで読んでくださり本当にありがとうございました。




