4.謎の人物
「お前――星宿者だろ」
唐突に、村井陽翔がそう言った。
一瞬、思考が止まる。
「……は?」
聞き返した声が、自分でも驚くほど鈍かった。
「その反応で確定だな」
淡々とした口調。
冗談の気配は一切ない。
(……バレてる?)
「お前何者だ」
自然と声が低くなる。
村井は、わずかに肩をすくめた。
「説明してやってもいいが……どうせ理解できないだろ」
「は?」
「頭の出来的にな」
一瞬、血が上る。
「……言ってくれるな」
「事実を言ってるだけだ」
間髪入れずに返される。
(コイツ……)
殴りたくなる衝動を、なんとか抑える。
そんな俺を一瞥して、村井は言った。
「で、どうする?そのまま無駄に隠し続けて、どこかで殺
されるか」
「……」
「それとも、少しはマシなやり方を覚えるか」
その言葉に、わずかに引っかかる。
(ただの煽りじゃない……?)
「……お前、何を知ってる」
そう問い返すと、村井は少しだけ目を細めた。
「ようやくマシな質問になったな」
そして――
「俺は賢者だ」
「……は?」
思わず間の抜けた声が出る。
(なんだそれ)
笑いそうになるのを堪える。
だが。
「何が面白い」
空気が変わる。
さっきまでよりも、明らかに冷たい。
「その反応が理解力の限界ってことだ」
「……」
(こいつただの厨二病じゃない)
むしろ逆だ。
“分かっている側”の人間。
俺は一度、息を吐いた。
「……じゃあ一つ聞く」
「星奪者取締機関って知ってるか?」
その瞬間。
村井の動きが、わずかに止まった。
「……なぜそれを知っている」
声のトーンが落ちる。
「その組織は表に出ない国家機密だ」
やはり、普通じゃない。
だが――
(じゃあ、あの時の奴はなんなんだ)
沖縄で会った男は、自分から名乗っていた。
(どっちが本当だ……?)
思考が絡まる。
その沈黙を、村井が切り裂いた。
「……一つだけ教えてやる」
「は?」
「今のお前そのままだと確実に死ぬ」
言い方は最悪だ。
だが、妙に現実味がある。
「動きが雑だ力の使い方もな」
「無駄が多すぎる見てて苛立つレベルだ」
(……っ)
言い返そうとするが、言葉が出ない。
心当たりがあるからだ。
「例えば昨日のやつ」
村井が一歩踏み出す。
「出力で押し切っただろ」
「……なんでそれを」
「見れば分かる。あんな使い方してたら、長く持たな
い」
そして、軽く指を動かした。
次の瞬間。
机の上の消しゴムが、音もなく弾け飛ぶ。
「……!?」
「余計なエネルギーを削れ。制御しろ」
「それだけで、死ぬ確率はかなり下がる」
何でもないことのように言う。
(……本物だ)
直感で理解する。
コイツは危険だ。
だが、それ以上に――使える。
「……なあ」
俺は一歩、距離を詰めた。
「その“賢者”っての本当に役に立つんだろうな?」
村井は一瞬だけこちらを見て、鼻で笑った。
「さあな」
「お前がそのままなら、何も変わらない」
「……ムカつく言い方だな」
「事実だからな」
即答だった。
だが――
「まあ、死にたくないならついてこい」
「最低限は教えてやる」
そう言って、村井は背を向ける。
その背中を見ながら、俺は小さく息を吐いた。
(……とんでもない奴に目をつけられたな)
だが同時に、思う。
(こいつがいれば――)
少なくとも、無駄死にはしない。




