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18.奪い合いをさせてくれ

 

 そんなこんなで無事、次の日の昼頃にはエランの街に到着した。


 予定より到着時刻が遅れたのは、ヤミ……でなく、ニコがぐーすか寝ていてなかなか目を覚まさなかったためである。自由人だなコイツ。


 オルラマさんがギルドに提出していた依頼状のコピーに、クエスト完了印をもらう。

 これをギルドの受付に提示すれば、クエスト達成の報酬がもらえるというわけだ。


「お前さんたち、ここまでありがとう。おかげで無事エランに着くことができた。美味しい夕食にもありつけたしのぅ」

「いえいえ、こちらこそ。お世話になりました」


 ニコニコしているオルラマさんとヴェインが握手を交わす。

 そこで「そういえば」とオルラマさんが言い出した。


「さっき、顔見知りのエランの人間に聞いたんじゃが……何やら今、この街には変な噂が流れてるそうでな」

「変な噂?」


 俺が訊き返すと、うむ、とオルラマさんは神妙な顔つきで顎の白髭を撫でつける。


「数日前、とある輩が拘置所に入ったそうだが……そいつの正体が、"八架連(ハッカレン)"らしいと」

「ええ!」


 思わず素っ頓狂な悲鳴を上げる。何だって?

 俺の横では、ニコも興奮した様子だ。


「は、"八架連"ってあの? ガル魔国に実在したという、伝説の八人の幹部ですかっ?」

「いや、詳しくは知らんのじゃが……何か事件を起こして拘束されているらしい。捕まってるなら問題ないとは思うが、お前さんたちも気をつけてな」


 ではな、と手を振って、オルラマさんが仲間たちと共に去って行く。

 俺は彼らの背中を見送ってから……唖然と、ヴェインを見上げる。


「いまの話、どう思う?」


 思慮深い眼差しをしたヴェインは目を細め、遠くを見るようにしながら、


「……現時点では情報が不確かすぎて、何とも言えませんね。捕まっているという人物が本当に"八架連"の一員なのかも分かりませんし」


 と返答する。


 そんなヴェインの前世は、ヴェリミリナ・クォーケンフロム――魔王デスティアの元で側近として仕えていた、傾城の美女である。

 そして彼女は、魔王軍幹部の"八架連"の一人でもあった。……だから、もし本当に"八架連"の誰かがこの街に居るなら、俺とヴェインにとってその人物は、顔見知りである可能性が高いのだが……


「ちょっと街で聞き込みしてみようぜ」


 そう提案する俺に、ヴェインとニコが頷いた。


 ――その約二十分後。


 再び街の入口あたりに戻ってきた俺たちは、三人で円を作って「うーん」と首を捻っていた。


 エランはかなり広い街で、街の中心から十字路に分かれる形で通路が作られていた。

 その内、店舗や商館のある東の道をニコが、民家が並ぶ西の道を俺が、公共施設の多い南の道をヴェインが担当して、それぞれ話を聞くことになった。

 ちなみに北の方角に関しては貴族街らしく、あまり寄りつかない方が良いと近所の人から注意を受けたので、そちらには聞き込みはしていない。街に着いた早々、余計な厄介事を起こすわけにもいかなかったからだ。


「私の方では、オルラマさんに聞いた話と同程度の情報しか集まらなかったわ。地元の人間が少ないのもあったかも」


 ニコが肩を竦める。


「でもここの食事所は『群れる牙』と『たのし処』がオススメという素敵な情報を得たわ。今晩はさっそく――」

「俺の方だと、その逮捕された誰かさんが、冒険者らしかったってのは聞けたぞ」


 さっそく食べ物の話題に移ろうとするニコの言葉を遮り、そう伝える俺。

 エランはちょうど街を囲むようにして川が流れていて、その川で洗濯をしていた女性たちに話を聞いたのだった。


「……そうですね。ギルドでも、そのような話を耳にしました。ただ……」


 ヴェインが言葉を濁す。何かと思って沈黙していると、声を潜ませて彼が続ける。


「何やら思っていた以上にきな臭いかもしれません。どうやらギルド内でも箝口令が敷かれているようです」

「箝口令?」

「その冒険者について余計な情報を漏らすな、という感じに。口が重たい者ばかりで、大した話は聞き出せませんでした」


 それは……どういうことだ?


「でも、おかしくない?」


 そこでコテンと首を傾げたのはニコだった。


「だって魔神アイリーン……だっけ? が、言ってたわよね。"八架連"を召集してるって」

「確かにそうですが、自分の傍には六人しか居ない、とも発言していましたよ」

「そうだけど……その一人がエランに居るかしら? エランはクルクに比べれば発展しているし大きな街だけど、政治や商業の中心地というわけでもないし。それに……」


 ニコは一度言葉を切ってから、再度続ける。


「この状況下で、もしも"八架連"の内の誰かが王国内で捕まってるとしたら――いろんな意味でヤバいんじゃないの?」


 ニコの危惧はもっともだ。

 まず、ガル魔国に住む魔族、それも軍幹部のひとりがセヴィレト王国内で犯罪を犯したとするなら大問題。

 そして逮捕権がないにも関わらず、王国側が魔族を拘留しているとなると、これももちろん大問題。

 せっかく三十年かけて友好関係を築きつつある王国と魔国の関係が、一気に険悪に戻ってしまう可能性もある。


 うーん……でもなぁ……。


 俺は頭の中に、前世の記憶の中にある彼らの姿を思い浮かべてみる。

 あの中で、魔神の召集に一切従わず、ひとりで王国に対して反旗を翻すタイプのヤツといえば――


「……え? 何ですかマオ様? 急に疑わしげに私の方を見てきて」

「………………」


 俺は無言のまま、静かに首を振った。

 いや。いやいやいや。だってヴェーリは今、俺と共に冒険している真っ最中なワケだし。

 それに魔国誇る武闘派集団の"八架連"のこと、他にも血の気の多い連中は居るが……だとしても、彼らの内のひとりとして、アッサリとエランの憲兵団に捕まるとは思えない。


 これは単なる事実なのだが、セヴィレト王国とガル魔国の戦力差は三百年ほど前から圧倒的に開いている。

 まぁ、三百年前の時点だとまだ、ガル魔国内は数々の小さな国に別れ、それぞれ戦争を行っていたような具合ではあるが……ものの例えとして、現在のセヴィレト王国と、当時の魔国内の最弱の小国が正面から戦ったとしても……ほぼ間違いなく、小国側が勝利する。

 王国は土地や水に優れ、年がら年中多様な農作物やマナを採取できるという利点があるので、あるいは戦争が長引けば、という意見もあるかもしれない。

 しかしその場合、王国が長期戦を狙ったとしても、小国の圧倒的戦闘力は微塵も揺らがなかっただろう。


 今でも俺は、事実として確信している。

 勇者アイリスの存在のみがイレギュラーだった。

 彼女が居なければ今も、俺は――魔王デスティアは変わらず魔国領を統治していたことだろう。……たぶん。


 故に、結論。

 このエランで捕まっているというそいつは、"八架連"ではない。と考えるのが妥当だ。


「何でふたりとも急に黙っちゃったのよ?」


 しばらく唇を尖らせて、俺とヴェインを見上げてきていたニコ。

 俺はそんな彼女に、あっさりめに言い放った。


「よし、決めた。ニコ」

「ん? 何よ?」

「俺とヴェインにお前の奪い合いをさせてくれ」

「いいけ……ん? は? えッ?」


 軽く頷きかけたニコが、我に返り、大きく目と口を開く。


「奪い合い? 奪い合いってなに? なんで?」

「――覚えてるだろ。俺は魔神に会いたいんだ」

「それは前に聞いたけど……」

「考えてもみろ。"八架連"とお近づきになれればきっと、魔神に紹介とかしてもらえるぜ」


 俺は口から出任せを言いつつ、笑う。

 その人物が"八架連"かどうか、道ばたで可能性の話をしていてもしょーがない。

 疑いがあるならば、とりあえず調べてみる。

 空振りならそれはそれでオーケー。スタンスとしてはそれで充分だった。


「それは分かったけど……だからって何でうばいあい? なのよ?」


 ぽかんとしているニコに対し、ヴェインはといえば俺の意図を察したらしく、「ああ」と頷いてみせた。


「なるほど、それでは。……憲兵隊の詰所にレッツゴー、ですね!」



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