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リタイア魔術師と隷属魔術  作者: ハルラララ
第一章、プロローグ

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6/13

ある一日の研究風景①

夕暮れの隠れ家、1階の研究室はいつものように魔術書と実験器具で溢れていた。

ルーカスは机に突っ伏したまま、突然勢いよく顔を上げた。

「おい、エレノア! これ面白そうじゃん!

今までの『水弾』って、ただの球体だろ? でもここをこう組み替えたら……」

ルーカスは興奮した様子で机から身を乗り出し、右手を勢いよく振った。

彼の目が輝いている。新しい発想に気づいた時の彼は、まるで子供のように生き生きとしていた。

普段の面倒くさがりな態度とはまるで別人。

研究に没頭するときのルーカスは、誰よりも目には熱を帯び、言葉も饒舌になる。


彼は魔解析眼を全開にし、空中に光の数式を浮かび上がらせた。

複雑な無数の色の光の線が交差し、回転し、刻一刻と変化していく。

ルーカスは指先でその数式を指揮者のように指示を与えながら弄りながら、

興奮を隠しきれずに説明を続けた。

「ほら!。この部分の魔力循環を少しだけずらして、球体の内部に回転を加えるんだ。

そうすれば単なる水の塊じゃなくてさ、移動中も内部で圧力を溜め込んで、

着弾時にその力学が爆発的に広がるようになる。

今までの水弾はただ当たるだけだったけど、これなら当たった後に範囲攻撃になるんだよ!

どうだ、面白くないか?」

エレノアの左胸の聖痕が淡く光り、刻印を通じてルーカスの視界と思考が共有された。

彼女は一瞬でルーカスの発想を理解し、金色の瞳を大きく見開き、感心したように息を呑んだ。


「……これは……」


エレノアは思わず身を乗り出し、空中に浮かぶ光の数式を食い入るように見つめた。

ルーカスの視点を通じて、通常の魔術師では到底見えない「無限の可能性」が彼女の目に飛び込んでくる。

彼女はしばらく無言で数式を追い、ようやく感嘆の声を漏らした。

「ルーカスさん……さすがですね。

既存の初歩の水属性魔術をここまで柔軟に分解して再構築する発想……私には到底思いつきませんでした。初歩だけに、改善尽くされたと普通思いますし。

理論的にも美しく、可能性が広がっています。

内部圧力の制御さえ上手くできればですが、単なる攻撃魔術から、状況に応じた多様な応用が期待できますね。これ結構汎用性ありそうです」

「だろ、だろ?」

ルーカスは得意げに胸を張ったが、エレノアはすぐに冷静さを取り戻し、複数の選択肢を分析し始めた。

「とりあえず、その新しい『水弾』に付与性を与えるならこんな感じでしょうか」

エレノアは光の数式を指先で軽く触れながら、落ち着いた声で説明を続けた。


「第一に、追尾性を重視した『追尾水弾』です。

これは着弾後の爆発範囲を犠牲にしても、敵の動きを予測して自動的に追尾する特性を付与させます。

ルーカスさんが考えた回転圧力のある『水弾』に追尾機能があれば相当厄介な魔術になるはずです。

ただし、追尾性能の魔術に魔力を割かれるので、爆発威力自体は若干控えめになるでしょう」


ルーカスは目を輝かせて身を乗り出した。

「おお! 追尾か! それいいな!

ただの水弾が避けてもついてきたと思ったら爆発するなんてめっちゃ面白いじゃん!

次教えろよ、エレノア!」

エレノアは少し微笑みながら、次の選択肢に移った。


「第二に、広範囲制圧を重視した『水散弾』。

これは内部圧力の限界を最大限にまで見定め、着弾時に水を四方八方に飛散させるものです。

ルーカスさんの発想を活かせば、着弾と同時に魔力の解放点を複数設定して、流水を高圧力で

放射状に飛ばせます。敵集団に対する制圧力は抜群で、防御を固めている相手にも有効です

……ただ、威力が強い分魔力の安定性に欠けるので、改善式の調整と誤発動のリスクがありそうですが」


ルーカスは興奮してテーブルを叩いた。

「すげえ! それめっちゃ強そうじゃん!

一撃で周囲を水攻めにして敵をまとめて吹き飛ばすとか、派手でいいな!

エレノア、お前天才かよ!?」

エレノアは淡々と続けたが、口元にわずかに笑みが浮かんでいる。


「第三に、魔力効率を重視した『精密水弾』。

これは爆発を抑え、一点集中の貫通力を高めた形態です。感覚的には最近戦争で流行りの『銃』に

近い発想です。これに着弾時に爆発性を付与します。

単体の強敵に対しては有効ですが、範囲攻撃には不向きでしょう。

水の塊を極限まで圧縮し、射出する術式なので、魔力消費を最小限に抑えつつ高い攻撃力を発揮できます」


ルーカスは腕を組んで感心した様子で聞いている。

「なるほどな……一撃必殺って感じはするし、魔力が少ない魔術師でも使えそうだな」

エレノアは光の数式を指でなぞりながら、まとめに入った。


「この中で最適解は明らかに第一の『水散弾』です。

安定性・威力・応用性のバランスが最も優れています。

ルーカスさんの回転圧力のアイデアを最大限に活かしつつ、威力と汎用性を両立させられるからです。

それに三つの中では威力は回転圧力以外手を加えていないので、最も成功確率も高いですし」

「さすがだな……よくこんな一瞬で、こんなに手順を考えてまとめれるよな。俺じゃ無理だ」

「どうでしょう? 完璧な回答だと思いますが」

エレノアは理路整然と説明し、最後に少し自慢げに胸を張った。


ルーカスはエレノアの完璧な分析に感動しながらも、ニヤリと笑った。

「へえ……確かに完璧だな。 だが俺はあえてこれを選ぶ!」

ルーカスは光の数式を指差し、第一の『追尾水弾』を指さした。


「なんでよりにもよって一番制御が難しそうなそれを選ぶんですか!?!?

最初に選ぶなら一番失敗しにくいこっちでしょう!」


「お前が作った三案じゃん」

「そうですけど!思いついたら提示しただけでまさかそれが採用されると思ってないですし…」

彼女は光の数式を指差しながら、必死に説得を試みた。

「いや、だってこの選択肢が上手くいったら一番面白そうじゃん?」

ルーカスは悪びれもせずに答えた。

「面白そうって……! 研究は遊びではありません! この魔術式作るのにもバカにならないお金

かかっているんですよ!触媒代とかかった時間分の費用は回収しないと……」

エレノアはテーブルに手をつき、身を乗り出して抗議した。

金色の瞳が興奮し光り出し、頰が少し赤くなっている。

「うるせー! 俺の研究だぞ!俺がやりたいように決めてなにが悪いんだよ!!」

ルーカスは椅子に座ったまま、腕を組んで開き直った。

完全に子供のような態度だ。

「検証を伴わない無謀な実験はそれは研究ではなくいたずらです!」

エレノアは声を張り上げ、聖痕が微かに光り始めた。

彼女の委員長スイッチが完全にオンになり、いつもの生真面目さが爆発している。

口論がヒートアップする中、ルーカスはとうとうキレた。


「いいからご主人様に従え!!!」


瞬間、エレノアの聖痕が強く光った。

「……つっっ………?!」

エレノアの身体がビクンと震え、痛みと同時に甘い快楽が胸を貫いた。

彼女は唇を強く噛み、声を出せずにその場で膝をガクッと折り、テーブルに手をついた。

顔が真っ赤になり、息が荒くなる。

痛みと快楽の波が交互に襲い、彼女の理性が一瞬揺らぐ。

ルーカスはそんな彼女の反応に気づかず、意気揚々と叫んだ。

「よし、スタート!」

彼は選んだ術式を一気に発動させた。



ドバァァァァァァァン!!



研究室全体が水の奔流に飲み込まれた。

天井から壁までびしょ濡れになり、床は水浸し。

魔術書が水浸しになり、実験器具があちらこちらに割れて散乱している。

控えめに言って大惨事。

ルーカスは頭から水を滴らせながら、呆然と呟いた。

「……失敗した」

エレノアは水浸しの床に膝をつき、濡れた髪を垂らしながら、ルーカスを睨みつけた。

「……だからっ……制御とっ安定性にっ……かけるって言ったのにっ……」

その瞳には怒りと羞恥、そして言い知れぬ感情が渦巻いていた。

聖痕の疼きがまだ残り、身体が小刻みに震えている。

ルーカスは気まずそうに視線を逸らし、小さな声で言った。

「……ごめんなさい」

エレノアはまだ言葉を発せずにいた。

聖痕の疼きと快楽の余韻で、声が出せない。

ただ、じっとルーカスを睨み続ける彼女の視線が、今日の研究の結末を雄弁に語っていた。

ルーカスは水浸しの床に座り込み、頭を抱えた。

「はぁ……これ当分次の実験はお預けだな……修繕費と次の実験台稼がないと」

エレノアはようやく息を整え、呆れ声で言った。


「……次は、ちゃんと正しい方を選んでください。 へっぽこ主人」


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