隷属魔術について①
「ルーカスさん。この隷属魔術の仕組みについて、少し話をしてもいいですか?」
ルーカスは冷めたスープをスプーンでかき回しながら、面倒くさそうに頷いた。
「ああ、別にいいけどよ。改めて考えるととつくづく厄介だよな、これ」
「ええ。本当に厄介です」エレノアは淡々と説明を始めた。
「この魔術は、魔王様が開発した最高位のものであり、主従の聖痕を通じて常時魔力リンクが繋がれています。
主人が死ねば従者も死ぬ。主人の明確な命令に逆らえば痛みが走り、
反抗が強ければ強いほど痛みも増します。
現在、この魔術の維持のためにルーカスさんの魔力が常時55%消費されていますし、
私が反抗的になれば、それを抑えつけるためにさらに消費が増える……という仕組みです」
ルーカスはスプーンを止めて、ため息をついた。
「なんか俺の知ってる隷属魔術と大分条件も効果も違うんだよな……普段からお前の反抗的な態度が原因で魔力がカラカラになること多いし。
常時55%って、俺が本気で魔術使おうとしたらすぐに枯渇しちまうレベルだぞ。 お前がちょっとでもムッとしただけで魔力消費が跳ね上がるんだから」
エレノアは視線を少し逸らしながら、平静を装って答えた。
「……それは申し訳ありません。ただ、私もこの関係を望んで結んだわけではありませんし。
急で、魔王様の最後の願いとはいえ……」
彼女はそこで言葉を止め、内心で激しい羞恥を抑え込んだ。
痛みを感じるたびになぜか同時に訪れる甘い快楽の感覚は、彼女だけが知る秘密だった。
聖痕が反応するたび、胸の奥が熱くなり、身体の芯が甘く痺れるような感覚が広がる。
それをルーカスに悟られるわけにはいかない。絶対に。
ルーカスはエレノアの反応に薄々違和感を抱いているようだったが、
まさか快楽が原因だとは欠片も気づいていない。
「なんかお前、時々顔赤くして変な反応してんだよな……。胸押さえて息荒くして……こっちは
行ってしまえば魔力消費だけだけど、お前、本当に大丈夫なんだよな?」
「これは……ただの副作用ですので、特段身体に異常はありません。ええ、大丈夫ですとも」
エレノアは頰を赤らめながら、きっぱりと言い切った。声は少し上ずっていたが。
委員長らしい自制心で何とか取り繕った、と思う。
内心では「この感覚を悟られたら死にたい」と本気で思っていた。
(……なんでこんな機能までついてるんですか?
魔王様、私どうして親にこんな羞恥魔術かけられてるんですか?私がなにしたって言うんですか……)
ちなみに快楽については魔王が付加した機能ではない事を誰も知らない。
多分魔王は地獄でそれを見て笑ってる。
ルーカスは首を傾げ、違和感を覚えつつも、それ以上深く追及はしなかった。
「……まあ、いいけどよ。 とにかくこの聖痕、俺にとってもお前にとっても面倒な代物だ。
早く解除する方法が見つかればいいんだが……」
エレノアは小さく頷き、冷めた朝食を静かに口に運んだ。 冷えたトーストを一口かじりながら、彼女は内心で複雑な思いを抱いていた。 この魔術は確かに厄介だが、ルーカスの魔解析眼と自分の魔力制御が組み合わさる時だけは、効率的に研究に没頭できる貴重な魔術でもある。 その矛盾した感情が、二人の胸をざわつかせていた。
ルーカスは冷めたスープを飲みながら、ぼんやりと窓の外の森を見つめていた。 二人の間に流れる沈黙は、冷めた朝食と同じように重く、どこか不思議な落ち着きを帯びていた。




