長い一日①
朝の隠れ家では、珍しくルーカスが寝坊しないかったので、いつもより早い朝食の時間が始まっていた。
ルーカスもぐもぐとパンを食べながら、唐突に。
「ああ、今日は俺もクエストに行くわ。よろしく」
と宣言する
エレノアは向かいに座ってコーヒーを飲んでいた手を止め、ゆっくりと視線を向けた。
「……どこで呪いをうけたんですか?」
金色の瞳が完全に死んだ目で聞いてくる。
「なんで即答で狂った認定にするんだよ!?」
ルーカスは口にトーストを詰め込んだまま、慌ててモゴモゴと喋った。
「そりゃあ普段と全然違う事言えばそうも思いますよ。唐突すぎますし。あといない方が楽ですし」
「おい、最期のひと言」
ルーカスはトーストを頬張りながら言葉を続ける。
「まあ、そうなんだけどさ、クエストやらないと冒険者資格が失効しちまうんだよ」
「ああ、それでですか」
なんだ、と言いながらエレノアは怪訝そうな顔を少し緩ませる。
「稼働している冒険者の数を把握するために引退制度と失効制度があるのは知っていましたけど、
意外とスパン短いんですね。私と暮らし始める前は仕事だけは真面目だったと聞いていますが」
「…………おう」
「なんですか、その間は」
エレノアは深いため息をつき、コーヒーカップを置いた。
「……久しぶりでしょうし、せめて足を引っ張らない程度のクエストにしましょうね。
もし邪魔になったら即座に置いていきますから」
「よろしくお願いいたします!全て先輩の指示に従います」
「なんですかその言いよう。腹が立つんですけど」
こうして、本来なら普通なのだがとても珍しい組み合わせが冒険者ギルドへと向かった。
ギルドに着くなり、ミラ・ストーンはカウンター越しに二人を見て目を丸くした。
「……今日は二人でどうしたんですか?」
ルーカスが胸を張って答える。
「二人でクエスト行きます!」
ミラは一瞬沈黙し、眼鏡を押し上げながらため息をついた。
「……今日は嵐ですか」
「あなたもですか!?」
実に信頼のないルーカスである。
全て自業自得である。
「ほら、冒険者資格の更新の件で」
「ああ、そう言えばこの間伝えてましたね……普通引退や長期のケガでない限り、失効するような
ものではないのですが」
ミラは呆れた顔でクエストボードを指差した。
「まあ、好きになさい。ただしルーカスさんが足を引っ張らないようにお願いしますね」
「……あの、一応俺の方がランク結構上なんですけど」
「定期的に仕事をきちんとこなしてから、そのような事は言うべきですね」
二人がクエストを受注してギルドを出た直後、別の受付嬢が興奮気味にミラに駆け寄ってきた。
「ミラさん! 今日のギルド新聞、見ました!?」
「……いえ、今日は朝少し寝過ごしてなにかありましたか?」
新聞を受け取ったミラの表情が、見る見るうちに固まっていった。
「勇者失踪 『大切な人を迎えに行きます』との謎の書置きあり!」
現勇者、ルミナ・ヴェールの名前が大きく載っている。
ミラは新聞をじっと見つめたまま、長い沈黙を落とした。
「………………」
同僚が心配そうに声をかける。
「あの、ミラさん?」
ミラは新聞をゆっくり畳み、遠い目をして力なく呟いた。
「……あーあ、しーらない」




