第43話:捜索者の苦難
死神騎士とアイアンゴーレムを僕らは無事に退治した。
思わず膝を突きそうになる。
3人の連携があったからなんとか敵を屠れたものの、こんな調子で魔物と戦っていては命がいくつあっても足りない……
――フハハハ! 見たか、セラ姉! ルミ姉! 我と我が王の連携プレーをっ!
アーマー化してるアンブラがやかましい思念を放射する。
「ないす、ぐまい」と答えたのがセラ。
「そうですね。とてもよかったですね。今日もマスターに着ていただいて」といらだたしげに答えたのが、口を尖らせたルミナである。
これに関しては、ちょっと仕方ない。
ルミナアーマーは3人のアーマー形態の中で最も機動性が高く、致命的な毒の攻撃や、相手からの毒への耐性など十分に魅力的な性能を備えている。
だが、いざという時に即座に自分を治せるセラアーマーや、魔法連打が可能となるアンブラアーマーと比べると、使用頻度はどうしても低くなる。というか【鎧化】しないでもルミナが普通に強いので、わざわざ纏う必要があまりないのが実情なのだ。
……もしも地上に戻れたら何か埋め合わせしてあげよう。
思った僕は広場の中央へ行き、宝箱の中身を確認した。入っていたのは腕輪であった。中央に宝玉の嵌められた美しい金の腕輪である。
何かのマジックアイテムか、それともただの装飾品か、詳しいところはわからない。
ただし呪いの装備である可能性もゼロではないので、僕は腕輪を嵌めたりはせずそのままポッケにしまってしまうと、鉄柵の上がった3つの出口の前にそそくさと向かったのだった。
「さて、どの道を選ぶかだけど……セラ先生、今日のオススメは?」
僕は隣に立っている、裸ワイシャツの幼女に聞いた。
こういう時、つまり運の要素が大きい場面ではセラに行き先を選ばせることが多い。それは習慣化されていて、ジンクスを否定しがちなルミナもそのことに異論はないようだった。
「う〜んとねぇ、え〜っとねぇ、いきのこるならこっちがいい」
ヒールスライムは即答した。
それは左の道だった。
「でも、キティいるか、わかんない。セラ、そういうのは、にがてです」
彼女はくりくりした丸い目で僕をじいっと見上げてくる。
僕とルミナは顔を見合わせた。
こんな反応は初めてだった。
「この子の直感がすぐれているのは私も認めるところです。ですがマスター、もしかするとこの子の勘のようなものは、自分や仲間の危機だけに作用するようなものなのではないでしょうか?」
「生存本能みたいな感じ?」
「ええ、そうです。実際、これまでの冒険では、この子の選択のおかげで優位に進めたことが何度かありました。けれどその勘はフラメル嬢の捜索には使えないのではありませんか?」
ルミナの言うことは一理あった。
前回の深層探索のように、ただ単純に自分たちの脱出を目指すだけならば、深く考える必要はなかったろう。
けれど今回はそれにプラスアルファでキティを探す必要がある。それが難易度を爆上げしていた。
「ちなみにアンブラはどう思う?」
――我は右だ。
「その心は?」
――右手が……右手が疼くのだッ!
アンブラアーマーは〝ククク……〟と思念を送り、僕の右手を勝手に動かす。
……聞いてみた僕が馬鹿だった。
思春期病のしもべを無視した僕は改めてルミナに向き直る。
「キティがいるかはわからないけど、とりあえず左行ってみる?」
「それが賢明と思われます。案外そこにいるかもしれませんし」
そういうわけで、僕らは左の道を行くことにした。
アンブラアーマーは一度解除する。
なぜなら【鎧化】は集中力を極度に使う必要があるので、いざという時に纏える英気を温存する必要があるからだ。
通路はそれほど広くなく、横に並ぶのが難しかったため、僕らはルミナを前衛として、中衛にアンブラ、そして後方に僕とセラという非【鎧化】時の基本隊列を取ることにした。
「ククク……怖いか、ルミ姉よ? なんならいつでも前衛を代わるぞ?」
「誰に向かってものを言ってるですか、この
愚妹。また、その頭を吹き飛ばしますよ?」
などと軽口を叩き合いながら通路を進んでゆく2人。
仲が良いんだか、悪いんだか……
とはいえ、ここにいる全員、誰も、決して油断はしていなかった。
ダンジョンの魔物は生まれるのではなく、壁や天井から突然〝湧く〟。
時には〝スタンピード〟と言って、大量の魔物が一度に湧いて、攻めてくることもあるのである。
しかし警戒を強めている時ほど、逆に厄災は来ないもの。
半時間ほど進んだが、時々ロックキャンサーがカサカサと壁を這い回り逃げて行くのが見えたぐらいで、魔物の襲撃は起こらなかった。
流石セラの勘はよく当たる。
恐らく、この道は3つの中で最も安全なルートだったのだろう。
と、ふいに、腐った玉子を思わせる、嗅ぎ覚えのある臭いが鼻腔をくすぐる。
「マスター、下がっていてください。私が様子を見て来ます」
そう言い、ルミナは先行した。
ややあって、何かを確認したらしい彼女はくいくいと僕らを手招きする。
「またしても例のアレです、マスター。例の毒沼地帯です」
彼女の指示通り近付いてみると、そこには膝下ぐらいの深さの黄色い液体満ちた毒々しい沼地が広がっていた。
懐かしさすら覚える光景だ。
人型のホムンクルスとして覚醒したばかりのルミナを纏い、襲い来るヤドックトードの群れをナイフで倒していったのは、半年近く経った今となっても鮮明に思い出せるできごとだ。
「当たりですね、本来であれば」
「んー、そうだねえ。ルミナを纏えば実質的にここってボーナスステージみたいなものだから」
僕はやれやれと肩をすくめてみせた。
もし、これが僕だけの冒険であれば間違いなく先を進んだろう。
問題はキティがこの地帯を通過できたかということだ。
フラメル伯の説明によれば、キティは遭難する前にパーティを組んでいたという。その中に解毒魔法を扱える強力な僧侶がいたならば、結界などを張ることでこの先を進めたかもしれない。
だが一度入れば二度と出られないといわれる死の縦穴まで同行してくれる者は誰1人としていなかったそうだ。
つまりキティはたった1人で深層に囚われていることになる。
「フラメル嬢のしもべの中に、ここを渡ることことのできるようなものはいましたか?」
「どうだろう? 色んな化合獣を使っていたからなぁ……強いて言うならユニコーンとか?」
「ククク……我が王、知ってるぞっ! それは純潔の乙女しか背に乗せぬという、あの伝説の化合獣だなっ!」
「それは流石に迷信だけど、まあ馬型の化合獣だよ」
「その、おうまさんに、のってったの?」
「ううん、いや……それはないか。キティは自分の化合獣を道具じゃなくて意思のあるもののように扱っていたから、しもべに苦痛を与えるようなやり方は選ばなかったと思うんだよね」
「と、いうことは……」
「ここは〝外れ〟だね。大人しく来た道を引き返そう」
目の前の「安全地帯」を見ながら、僕は苦い表情でそう言った。




