第41話:ラッキースライム
深層の床が崩落した時、僕らはこの世界に普遍的にはたらき続ける力――つまり重力――に引っ張られ、下の階層に落下した。
セラアーマーを着ていたおかげで僕のダメージは最小限で済んだ。
それでも打ちどころが悪かったのか、しばらくの間、僕は意識と無意識の狭間をさまよう半スタン状態に陥ってしまった。
一体、ここはどこなのか……
果たして、中間たちは無事なのか……
暗がりで何も見えない僕は、くらくらとする頭のまま、何か掴むものを無心に求めて床に倒れたまま手を伸ばした。
ふにょん。
その手が岩でも石でもない、やわらかなものを掴み取る。
なんだこれ? なんの感触だ?
そのかたまりは手を広げると、ちょうどその中に収まるような〝ほどよい大きさ〟をしていて、むにゅむにゅと手をこねくり回すと、マシュマロみたいに形を変えて僕の指先を楽しませた。
どうやらこれは丸みを帯びた、とても素晴らしいものらしい。
僕は試しにそのかたまりを思いきりぎゅっと握ってみる。
「んっ、あっ、あっ……ふわぁぁぁぁん!」
すると、どういうわけか耳元でアンブラの喘ぎ声が聞こえてきた。
ま、まさか……!? と目を開ける。
すると、そこには僕の手で右の乳房を弄ばれている思春期病のしもべがいた。
僕は慌てて手を離す。
するとアンブラは目の前で、いつものものとはちょっと違う、大人びた笑みを浮かべ見せた。
「ご、ごごごごめんっ! アンブラっ!」
「よいのだ、我が王。王の昂った欲望を鎮めることも、しもべたる我の役目だろう」
「そういうつもりじゃなかったんだって!」
「フフフ……隠すことはないだろう。我にその気はなかったが、王の方から求めてくるなら話は別だ。我は拒まぬし、嫌がらぬ。さあ、もっと続けようではないか。王としもべの垣根を超えた禁断の愛の交わりょごばァァァァァ!?」
と、ふいに、微笑んでいたアンブラの顔面にグーのパンチがめり込んだ。
ごすっ! ごすっ! ごすっ! と何度も何度も拳は顔に打ち付けられる。
「……なんであなたがそのポジションなんです? おかしいでしょうが、配役が?」
「い、いや、我は知らぬっ! ただ王が勝手に……」
ブシャァァァァァァァァァァ!
硬質化させた拳を打ち付けられ、アンブラの顔面はゲルとなり辺り一帯に吹き飛んだ。
僕は「ヒイッ!?」と悲鳴を上げる。
いくら再生できると言っても攻撃が容赦なさすぎる!
「いいですか、覚えておきなさい。寝起きドッキリラッキースケベは、私のように色気のあるお姉さんキャラがやるものと相場が決まっているのです。なんのための巨乳メイドです? なんのためのミニスカメイドです? 無駄遣いにも程がありますよっ!」
珍しく語気を荒げるルミナ。
その発言は僕やアンブラではなくら、ここにはいない「誰か」に対し向けられたものに思われた。
「さて、マスター。そういうことです」
「どういうことっ!?」
「ここにムチムチのメイドがいます。そのメイドは常に無防備です」
「……それが、どうしたっていうんだよ?」
「私にも同じことしてください」
言うと、ルミナはメイド服の胸元のリボンを突然しゅるりとほどき始めた。シャツの下にある大きな胸が動きに合わせてゆさりと揺れて、たわわな果実を思わせる見事な谷間があらわとなる。
「マスターは今、アンブラにふいなご褒美を与えました。褒美というのさしもべに対して平等に与えられるべきものです」
「今のはただの事故だって!」
「じゃあ私にも事故してください」
「無茶言うな!」
「ええい、まどろっこしいですね! 据え膳食わぬは男の恥です。マスターから来ないなら私からっ!」
ルミナが本性を剥き出しにして僕に馬乗りになろうとしたその瞬間、僕の纏ったセラアーマーの帽子の部分が突然にゅう〜っと伸びて、彼女の頭をぽこんと叩いた。
――びー、くーる。
「っ、セラ! 余計な真似は……」
――しゃらっぷ、ルミナ。いま、やばいとき。こんなことしてる、ばあいじゃない。
セラの口調は平坦だったが、有無を言わせぬものだった。
流石は長女というべきか。
僕は救援に感謝する。
「……わかりました。続きは地上でやりましょう」
そう言うと、行動をいさめられたルミナは渋々といった様子で緩めていた服を元に戻した。
しばらくするとアンブラが顔面ぐちゃぐちゃ状態から復活を果たし「それで?」とふいに声を出す。
「一体、ここはどこであろう? 深層の下の深層だろうか?」
「いや、多分ここが本来のこのダンジョンの深層なんだよ。上の階層はそのための仕込みというか、ここに落とすためだけの罠だったんだと思う」
僕は地面に触れながら言った。
それはダンジョンのほとんどの場所を占める燐光を放つ岩ではなく、まるでゴムのようにぶよぶよとした謎の素材でできていた。
セラアーマーを纏っているとはいえ,僕があばらの1本も折らず地面に着地できたのは、まさにこの床のおかげに他ならない。
運がよかったわけじゃない。このダンジョンはあらかじめ上の階層から落ちて来た者を受け止める設計になっていたのだろう。
「登っていくのは無理そうですね」
「うん、完全にあの時と同じだ。多分この先を進んだどこかに帰還用の縮地点があるパターンだよ」
立ち上がり、辺りを見渡すと、そこには大きな通路があってそれは一本道だった。
となると、そこを進むしかない。
――ますた、きんちょう、してる?
「してないと言ったら嘘になる。でも、ここまで来たらもう行くしかない」
セラからの問いかけにそう答えた僕は、深呼吸して心を落ち着かせると、3人の中間たちともに深層探索を開始した。




