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青春アレルギー男、恋愛脳女を嘲笑う  作者: 十日兎月


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20/23

二十話 恋愛脳を嘲笑う



「じゃ、お前らはお前らで好きにしていてくれ。オレは影山くんと遊ぶからよぉ」



 言って、ゴミ女を片腕に抱いたまま、俺の肩に手を置くクズ。

 そしてそのまま威圧するように力を込めたあと、クズはヤニ臭い口で宣った。

「そんなわけだから、そろそろ落とし前付けてもらおうか? なに、金さえ払ってもらえれば乱暴な真似はしねぇよ。金さえ払ってもらえればなぁ。あ、もちろんこれは初回料だから、勘違いするなよ?」

「安心して、影山くん。これからもヒメたちにお金をくれたら、なにもしないから。あ、もちろんだれかに告げ口されないように、ウラランたちみたいに恥ずかしい写真を撮らせてもらうけどー」

「そういうこった。さあ、どうするよ? ん?」

「ふ……ふ……」

「おん? 急に顔を伏せてどうしたよ、影山くんよぉ。あ、まさかお前まで泣いちまったとか? おいおい、男のくせに情けねぇなー。せめてそういうのは女の前以外で──」



「ふ……ぷぷぷぷぷぷぷぷぷくけけけけけけけきゃはははははははははははははは!!」



 唐突に響き渡る、狂気に満ちた哄笑。

 それはだれあろう──俺の口から放たれたものだった。



「な、なんだこいつ……? 恐怖で気でも触れたか……?」

「うわ、キモ……」

 腹を抱えて哄笑する俺に、クズとゴミ女が揃って当惑するように顔を引きつらせた。

 一方、光守たちをどこかに連れ込もうとしていた野郎たちも、唖然とした面持ちで足を止めていた。

 しかも光守たちまであっけに取られたような顔をするものだから、余計笑いがこみ上げてきた。いやはや、こんなに笑ったのなんて、一体何年ぶりだろうか。

「かっはっはっ。あー、笑いすぎて腹がいてぇ~」

「ああん? なにが可笑しいってんだ、てめえはよぉ」

「なにが可笑しいかって? こんなの、笑わずにいられる方が無茶って話だろ。草どころか草原が生えるわ」

「だから! なにが可笑しいんだって訊いてんだよ! ぶっ飛ばされてぇのか!?」

 またしても胸倉を掴んできたクズに、俺は仕返しとばかりにニヤリと笑んだ。



「あんたが今までなにも知らずにそこの二股女とよろしくやっていたのかと思うと、滑稽で仕方がないって話だよ」



 そう言って、クズのすぐ後ろにいるゴミ女を指差す俺。

 そんな俺に対し、クズはもちろんゴミ女も同調するように「はあ?」と眉を曲げた。

「ちょっとなに言っているのかわからないんですけどー? 影山くん本当に頭がおかしくなっちゃった? 救急車でも呼ぼうかー?」

「だってよ影山くん。妄想も大概にしておけよ、キモオタくん?」

 ニヤニヤと嘲笑を浮かべるクズとゴミ女に、俺は肩を竦めつつスマホを取り出した。

「おい。いきなりなにしてんだ? もし通報したらぶっ殺すぞ?」

「落ち着けよ。ほら。これが証拠の画像だ」

 言いながら、俺はとある画像を表示させて、スマホの画面をクズに向けた。



 瞬間、双眸を剥きながら食い入るようにスマホの画面を凝視するクズ。そばにいたゴミ女も面白いくらいに両目を見開いて、よろめくように覚束ない足取りで後ずさった。



「な、なんでそれ……だれにも話したことなんてないのに……!」

「へー。じゃああんたと一緒に写っているこの男って、やっぱりもう一人の彼氏だったってわけか」

 俺の確信を突いた一言に、ゴミ女はしまったとばかりに慌てて口を塞ぐ。

 だがもう遅い。さっきの発言にしても、すでに二股を認めたようなものだ。言い逃れは不可能。

 さて、ここでネタ明かしといこうか。



 俺のスマホに表示されている写真──それは先の言葉にもあったように、ゴミ女がクズ以外の男と腕を組んで町中を歩いているところだった。



 しかもご丁寧なことに、まるで変装しているかのように清楚系のファッションに身を包んで。今のギャルギャルしい見た目とは打って変わって、ずいぶんと気合いの入った装いである。

「この男、国立大の医学生なんだろ? しかも大学内で開かれたイケメンコンテストで準優勝に選ばれたくらいの。外見も将来性も申し分なし……あんたみたいな欲深い女にしてみれば、そりゃあ自分からこんな好物件を手放すような真似なんてするわけないよなー」

 それこそ、そこにいる図体と態度がでかいだけのクズと比べるまでもなく。

「ど、どうしてそこまで……。まさか、こっそりヒメたちのことを隠し撮りしていたっていうの!? ありえない! だってそれ、あんたと初めて会う前に行ったデートのはずなのに……!」

「ばーか。よく見ろ。これはとあるインスタからコピーしてきただけの写真だ。俺が撮ったわけじゃない」

「インスタから……?」

 と驚愕に顔相を歪ませながらも、俺のスマホを再度確認するゴミ女。

「ほれ。どこかの店内の窓越しから撮影されているのが、画面の隅には写っているテーブルとその上に置かれている紙コップからわかるだろ。紙コップに印字されている模様からして、たぶんスタバだな。そのスタバの店内の窓越しから、お前が彼氏と一緒に歩いているのを偶然見かけただれかがスマホで撮影して、それをそのままインスタに上げたんだろうな。そういえば、さっき俺が言った大学のイケメンコンテストで準優勝したことや、医学生で最近一人暮らしを始めたことまで詳細に書いてあったぞ。ひょっとしたら、お前の彼氏と同じ大学にいる隠れファンのインスタだったのかもな」

「ウソ……。で、でも、どうやってそれを見つけたっていうの!? 偶然!?」

「そんなわけあるか。お前のツイッター……今はXか? まあとりあえずツイッターとインスタを色々探っている内に、この写真まで辿り着いたんだよ」

「そんなのおかしい! だってあの時のデートはヒメのツイッターやインスタには一切上げてないはずだもん! 絶対辿り着けるはずがない!」



「そうだな。裏垢以外では」



 俺の言葉に、それまで憤怒で赤くなっていたゴミ女の顔色がさあっと青褪めた。

「お前、ツイッターで裏垢を使っていただろ? アカウント名は当然別にしてあったが、お前の本垢として使っているツイッターと見比べたらすぐにわかったぞ。文章の癖がそっくりだったからな。おかげで胸焼けしそうなど『好き』だの『カッコいい』だの、医学生の彼氏を褒めちぎる文を読むことになってしまったけれどな」

 他にも見覚えのある市内の写真をいくつか貼ってあったので、特定は簡単だった。裏垢そのものを探すのは、ちと骨が折れたが。

「あとはお前の裏垢の投稿から、なにか怪しさを匂わせる文章をピックアップして、そこから時間と場所が書いてあるのを集中的に検索すればいいだけの話だ。それで見つかったのがこの写真だよ。どうせだれにも気付かれないと思って、裏垢でツイッターを使ったんだろうが、爪が甘かったな」

 これだからネットは怖いのだ。些細な情報でここまで調べ上げることができるのだから。

 いや、怖いのは俺の方かもな。ゴミ女の化けの皮を剥がすために、毎日夜通しでパソコンの前にへばり付いていたのだから。おかげですっかり寝不足である。

 それにしても、本当に間抜けな奴だ。本命とデートができて舞い上がっていたのだろうが、それを裏垢とはいえネットに上げてしまうとは。このクズも見るからにあんまりネットに精通していなさそうだし、余計なことさえしなければ、このまま二股を続けられていたかもしれないというのに。俺にちょっかいをかけてしまったのが運の尽きだったな。

 しかし医学生という本命がいながら、どうしてこんな社会の最底辺と付き合ってしまったのかという件だけがどうにも釈然としない。至極謎である。

 ま、別にどうでもいいか。こいつの男の趣味なんて微塵も興味がないし、こいつらがあとでどうなったところで知ったことじゃない。

「で? まだなにか言いたいことはあるか?」

 二股をバラされて愕然とするゴミ女に、俺は口角を上げながら続ける。

「あるわけないよなー。こんな証拠写真を見せられたら。なあ、どんな気持ちだ? 罠に嵌めようとしていた男に、こうして逆にしてやられた気分は?」

「うぅ……うううううぅぅ……っ」

「あれ? あれれー? 泣いちゃったー? さっきまでの威勢の良さはどうしちゃったのかな~? もう観念しちゃったのかな~?」

 ついに目尻に涙を溜めて腰を落としたゴミ女に、俺は追撃をかける形で高らかに言ってやった。





「ざまぁみやがれ、この恋愛低能女がああああああああああああああ~!!!!」





 くぅ~! ちょー気持ちいい!

 自分を格上だと思い込んでいる奴の鼻っ柱を折るのは、最高に気持ちいいわ~!

 だが、ショーはこれで終わりではない。

 本当のクライマックスは、まだまだここからだ!



「──おい、姫奈」



 と。

 それまで口も開かず硬直するだけだったクズが、停止していた扇風機が復帰するかのようにゆっくりゴミ女の方を振り返った。

「てめぇ、よくもこのオレをコケにしやがったな。しかもこんな人前で」

「ち、違うのカズ……!」

 荒ぶる獣のように苛烈な双眸を向けるクズに、ゴミ女はそれまで漏らしていた嗚咽を止めて、勢いよく顔を上げた。

「二股をしていたのは事実だけど、本命はカズだから! あの人、確かにイケメンで国立大に通っている医学生ではあるけど、貧乏暮らしで金もないし、それにカズみたいに強くもなくて、冗談ひとつも言えないつまらない人なんだよ? だからカズとこうして小遣い稼ぎしていた方が断然面白いから!」

 ああ、だからこんな畜生にも劣るクソ虫野郎と付き合っていたのか。要は金目的だったってわけね。ほんと、つくづくゴミみたいな女だな。

 まあそういう意味ではお似合いのカップルかもしれないな。名前を合わせたらゴミクズになるし。売れないお笑い芸人みたいなコンビ名ではあるが。

「ね? だからやり直そう? 医学生の彼とはちゃんと別れるし、もうカズを裏切ったりはしないから! ヒメ、これからはカズのことだけを見るから!」

 なんて、この期に及んでまだ都合のいいことを抜かすゴミ女に、俺は唾を吐き捨てたい衝動に駆られた。あざとく上目遣いで懇願するあたり、実に小賢しい。自分が可愛い女子だと思っていないかぎり、なかなか取れない態度である。いっそ清々しさすら感じるな。

 しかしながらゴミ女の言うことを真に受けるほど、クズもバカではなかったようで、

「ああ? んなもん、今さら信用するわけねぇだろうがよぉ」

 こめかみに青筋を浮かせて凄むクズに、ゴミ女は怯えた表情で「ひぃ!」と尻餅を付いた。さながらヘビに追い詰められたカエルのように。

 どうやら、ようやく理解したみたいだな。

 ゴミ女に味方する奴なんて、ここにはだれ一人としていないっていうことに。

「オレはなぁ、人をコケにするのはいいが、コケにされるのは大嫌いなんだよ。お前もそれはよくわかっているはずだよなぁ?」

 ずいぶんと手前勝手なことをほざきながら、ゴミ女の髪を乱暴に掴むクズ。

 そして「い、痛い! やめてカズ!」と悲鳴を上げるゴミ女に委細構わず、そのまま強引に髪を引っ張って無理やり立たせた。

「やめろだぁ? オレは他人から命令されるのも大嫌いなんだよっ!」

「あびぇ!?」

 まるで北斗神拳を食らった三下みたいな悲鳴を上げながら、顔面を殴られて後方に吹っ飛び、そのままソファーに直撃するゴミ女。

 だがそれだけで終わらず、クズは床に転がるゴミ女にすぐさま近寄って、男女平等なんて知ったことかと言わんばかりに勢いよく蹴りを入れた。

「このアバズレが! 死ねやオラァ!!」

「ぐふぅ! や、やめて! 痛いの! 本当に痛いの! いやあああ! せめて顔だけはやめて! お願いっ!」

 悲痛に顔を歪ませながら懇願するゴミ女に対し、クズは容赦なく何度も何度も足で踏み付けていく。なんだか害虫でも退治しているかのような有り様だな。実際害虫みたいな女なので、あながち的外れな表現でもないが。

 それはさておき──ゴミ女の二股が発覚し、すっかり制裁というか残虐シーンを始めてしまったクズではあるが、その金魚のフンであるところの野郎三人組はどうしたのかというと、

「お、おい。どうするよ、あれ……?」

「どうするって……さすがに止めた方がいいんじゃね? 下手したらマジで殺しかねないぞ……」

「止めるって言ったって、一体どうやって? お、おれは絶対に嫌だからな!?」

「そんなの、こっちだって死んでも嫌だぞ! あんなのを相手にしたら、命がいくつあっても足りねぇわ!」

「そもそもあのカズくんを相手にするなんて、たとえ三人がかりでも無理じゃね……?」

 などと、瞠若をあらわにああでもないこうでもないと揉め始めていた。完全に腰が引けているあたり、本当にクズの腰巾着でしかなかったらしい。というよりは、コバンザメに近いか。残飯だけが目当てのアホボケカスってところだな。

 で、そんなアホボケカスに未だ捕まったままの光守たちはというと、クズの暴行を前にして、恐怖に身を震わせながら瞼をぎゅっと閉じていた。特に男が苦手な水連寺なんかは、顔面を蒼白にさせていた。

 この機を逃すまいと、険しい目付きで野郎三人組を睥睨している大空だけを除いては。

 ふむ。これは都合がいい。大空だけは戦意を削がれていないようだし、これならなんとかこの場を抜けられそうである。

 それにはまず、光守と水連寺を救出しないといけないな。

「おい」

 と。

 背後で未だに言い合いしている野郎三人組──その中の光守と水連寺を捕らえている坊主頭もといアホと長髪もといボケに声を掛けたあと、俺は踵を返して歩み寄った。

「お前ら、ちょっといいか?」

「あん!? なんだよ!?」

「てめぇの相手をしている暇なんて──」

「隙あり」

 言うが早いか──



 俺はズボンのポケットに忍ばせておいた小型の催涙スプレーを素早く取り出して、アホとボケの両目に噴射してやった。



「ぎゃあああああああ!? 目が! 目があああああああ!?」

「痛いぃぃぃぃぃ!! 目が抉れるように痛いぃぃぃぃぃぃ!!」

 催涙スプレーを吹きかけられ、目を押さえながら床をのた打ち回るアホとボケ。そんな二人からようやく解放された光守と水連寺はというと、なにがあったのかわからないとばかりに両目を見開いて放心していた。

 ほんと目を閉じていてよかったな、お前ら。でなきゃ巻き添えを食らっていたところだったぞ。

 そんな二人とは対照的に、大空は俺の突飛な行動に瞠目しつつもとっさに身を翻して、赤髪もといカスに上段回し蹴りを繰り出していた。

「──せやあっ!」

「げはっ!?」

 悶絶するアホとボケを前にして驚愕していたカスの頭に、大空の流麗で強烈な蹴りが見事ヒット。カスは受け身も取れず、白目を剝いたまま卒倒してしまった。

 うーむ。話には聞いていたが、まさかここまで武道に秀でていたとは。こいつだけは絶対怒りを買わないように気を付けておくとしよう。

「よし。今の内に逃げるぞ後輩! そこでぼーっと突っ立っている二人を連れてな!」

「ら、ラジャーっス! ほら行くっスよ! 光守先輩! 水連寺先輩!」

「へ? あ、うん……!」

「ま、待って……! 自分で歩けるから……!」

 大空によって強引に手を取られて走らされる光守と、自分の足で逃げようとする水連寺の背中を見届けたあと、俺も玄関先へと急ぐ。

 未だにゴミ女に蛮行を働くクズと、汚い床で倒れ伏せるアホボケカスには目もくれずに。



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