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絶対守護神ガーディナー  作者: ぶんじ
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第一話 正義の味方、募集します。

【前章】

《邂逅編》

 蝉の喧騒(けんそう)が青空に吸いこまれていく、真夏。木々がまばゆく照り返す、肌に刺さるような強い日差しの中、今日も正義の味方は地球の平和を護るために戦っていた。

 「ナイトマン・・・どうやら貴君らの命運も今日限りのようだな。」

 黒衣を身に纏い、黒い仮面を着けた長身の男が言葉を放つ。すると同じような黒ずくめの怪人が数人、舞台を囲むように現れた。正直、真夏に黒い集団は見ているだけで暑苦しい。

 「黙れ黒騎士!敵に寝返ったお前に、我々ナイトマンが負けるものか!」

 それに答えるように、青い仮面を着けた細身の男が叫ぶ。続けて赤い仮面を着けた体格のいい男が口を開く。

 「くっ、しかし姫を人質にとられては手の出しようがない!」

 最後に中央の白い仮面を着けた男が立ち上がり、

 「このままじゃ俺たちナイトマンは黒騎士にやられてしまう!姫を助けるために、みんなの力を貸してくれ!」

 彼の言葉に呼応するように、観客席の子供たちが騒ぎ出す。すると女性の声のアナウンスが流れ始めた。

 「みなさんの力をナイトマンに貸してください!私がせーの、と言ったらみんなで『がんばれ、ナイトマン!』と叫んでください。みなさんの応援の力でナイトマンを助けてください!!」

 屋外の暑さにも負けず、子供たちが声をあげる。

 「「「がんばれー!ナイトマーン!!」」」




 「おつかれ~!じゃあな。」

 「お疲れ様です。」

 「ふぅー!生き返る~っ!!!」

 所変わって控え室。郊外のひなびた遊園地の小規模イベント会場にて、朝の特撮番組『紳士同盟ナイトマン』ショーは、まばらな観客の応援の元、無事に最後の公演を終えた。

 この暑さの中、ヒーローのスーツを着てショーを盛り上げていたメンバーもほぼ解散し、控え室という名の狭い物置部屋に二人の青年が残っていた。

 「って、ゆーか。ギャラはともかく、きぐるみ系の仕事は二度とやんねぇ!暑いし臭いしやってらんなーい!!」

 今にも止まりそうなレトロ扇風機の前を陣取って、愚痴を叫ぶ青年が一人。名前は木村玲一(きむられいいち)。中肉中背でくりくりと大きな瞳に、長いまつげと肩につくほどに伸びた明るい髪。いわゆる若者的な風貌である。その言葉にもう一人の青年が答える。

 「玲一。ヒーローはきぐるみじゃない。それに、文句は番組を一度ちゃんとみてから言え。」

 扇風機のぬるい風に当たりながら、後ろ髪を結い直しつつ手早く着替え、さらに玲一は反論する。

 「いや、だって。剣くん。剣くんそもそもヒーローじゃないし。目的違ってるし。」

 玲一の言葉に、控え室の端で黙々と着替え、愚痴をこぼす彼を注意した青年の眉の端がぴくり、と動く。高い身長に、筋肉質のがっしりとした体格で、短めのさらさらとした黒髪と切れ長の瞳。玲一とは反対に、全体の雰囲気に古風な香りが漂う。

 「そうだ。レッドナイトの面接を受けに行ったら、何故か黒騎士になってしまったのは確かだ。しかしだな、黒騎士は一概に敵と判断はできない。これまでの歴代特撮のセオリーから言っても黒騎士は裏切ったのではなく、敵の目をあざむくため・・・。」

 「はいー!語り禁止!興味ないっすから、オレ。語り、ムダ、ゼッタイ。」

 「黒騎士は味方になる。ナイトマンの一員に!」

 玲一の制止も空しく、熱くヒーロー(特撮)を語る青年、鹿蔵剣(かのくらけん)は止まらない。

 「そもそもなんで一緒に受けた、ナイトマンに興味のない玲一がブルーナイトになっているんだ。」

 「いや、体格でしょ。オレ、ガタイよくないし。剣くんでっかいし。いや、それはともかく。今日でヒーローショーのバイトもオシマイ。次のバイトどーすっかなぁ。ね、剣くんどーすんの?」

 自分の愚痴がいつの間にか剣の愚痴にすり替わったのを察してか、さらりと話題を転換させる玲一。着替え終わり、相変わらず扇風機の前に座り込み、生ぬるい風にあたりながら、無料求人誌を読み漁る。

 「次か。・・・まぁ、適当にどこか雇ってくれるところで働くだろうな。」

 遅れて剣もようやく着替え終わり、荷物を片付け始める。

 「剣くんさ、なんでもできるし、絶対どっか良いとこ就職できると思うんだけど。やっぱヒーローになるために、とりあえずフリーターなの?」

 「正直、どうやったら本物のヒーローになれるかがわからんが。この世に悪がある限り、可能性はゼロじゃない。なら諦めきれんからな、しばらくはこの生活だ。」

 玲一はふぅん、と求人誌のページをめくる。その傍らで机上の荷物をかばんに詰め込み、剣は玲一が占拠していた扇風機の電源を切った。

 「さぁ、そろそろ事務所で給料をもらって帰らないと・・・。」

 ドアノブに手をかけたその時。

 「剣くんっ!」

 後ろで大声を上げる玲一。

 「剣くん、剣くん!」

 「一度でいい!一体どうした?」

 「これ、このページ!」

 あわてて玲一が差し出した求人誌の1ページ。このご時世、見開きで2ページ丸々使って載っている記事の内容が。

 “正義の味方(ヒーロー)、募集します。”




 その翌日。蝉の声が響く日中の厳しい暑さの中、剣と玲一は鬱蒼(うっそう)と木々が生い茂る山奥、まさに田舎と呼ぶにふさわしいバス停にいた。

 「おかしい。おかしいよ、やっぱり!おいしすぎると思ったんだー!!デマだよ、あれっ!」

 乗ってきたバスが去り、人の気配を微塵も感じないこの場所で、じたばた暴れる玲一。その横で冷静に辺りを見回す剣。

 「いや、玲一。ここに貼り紙がある。何々?“正義の味方の採用試験を受けられる方はこの道路の右手に10kmほど進んでください。そちらに受付がございます。”・・・だそうだ。」

 淡々と読み上げ、そのはり紙の指示を疑うことなく従い、道路を歩き始める剣。

 「じゅっきろぉ!?ないって、ないって!ありえないって。大体この山奥まで来るのに交通機関、散々乗り継いで4時間かかったんだよ?!帰れなくなっちゃうよ!」

 大きく手をふって剣を止めようとする玲一。

 「玲一、お前はこのまま次のバスで帰れ。俺はそこに行ってくる。正義の味方になれる、最初で最後のチャンスかもしれないんだ。ここで諦めるわけにはいかない。」

 コンパスの長い足で、さらなる山奥へと向かい、一本道へ歩み始める剣。

 「・・・剣くん。」

 その背中が小さくなっていくのを眺めながら、玲一は考えた。

 (いや、確かに剣くんは最初に会ったときからずっと正義の味方に、ヒーローになるって言ってて。

半分バカにしてたけど、やっぱり本気だったんだ。そんでオレはどうかって言ったら。ぶっちゃげお金に釣られてここまで来たんだし。けどあの給料も怪しいんだよな~。今時あの金額はないよな。てか、もはや全てが怪しい。そりゃ剣くんめっちゃ強いけど。めちゃくちゃ強いけど。

 もし、なんかヤバイ事に巻き込まれちゃったら?オレどーする?ここまできて友達ほっとくの?)

 玲一は目を瞑(つむ)り、天を仰ぎながら思考を反芻(はんすう)する。

 「・・・・・・オレも行く!」

 決心し、眼を開き前を向く。しかしそこに・・・もう剣の姿はなかった。

 「って、おーい。酷くね!?ちょっとー!鹿蔵さーん、おいてかないで~!!」




 「ぜー、ぜー、ぜー・・・。」

 「だから、無理してついてくるなって・・・。」

 「無理してないから!!」

 結局、玲一が剣に追いついたのは、バス停到着から半時を過ぎた頃だった。コンパスの違いがあるとは言え、疲れきって虫の息の玲一に対して、剣は平然としていた。人の気配はないがきちんと整地された道を進んできた。山奥で、見渡す限りの木々に囲まれ、木陰ではひんやりとした風が心地よい。湿度もほどよく、都会のコンクリートジャングルと比較すれば過ごし易さは歴然としていた。とは言え夏の日中、暑いことに変わりはない。暑さと戦いながら、さらに歩き続ける二人の目の前に、山の中にぽつん、と設置された長机と傍らに佇む一人の青年の姿が現れた。

 「こんにちは。」

 この、暑さが厳しい日中の、太陽光線が燦々と降り注ぐ中。涼やかな風が心地よいとは言え、首がすっぽりと隠れる黒の長袖タートルシャツを汗ひとつかかずに着こなし、無表情で機械的に挨拶をする青年に、二人はぽかんとなりながら、挨拶を返した。

 「こんにちは。」

 「こんにちはって、あんた誰?」

 警戒の色を明らかに見せる玲一に態度を変えず、あくまで機械的に青年は言葉を続けた。すらりとした体格に、明るい短髪。上がった目じりが、無表情に冷たさを感じさせる。

 「私は袴田虎路(はかまだとらじ)と申します。こちらは“正義の味方”求人の面接受付会場となります。お二方、履歴書、職務経歴書等、何か提出書類がございましたら、こちらでお預かりいたします。まずはお名前を伺ってもよろしいでしょうか。」

 「俺は鹿蔵剣。フリーターと言うやつだ。」

 「オレは木村玲一、同じくフリーター。ってか袴田さん。面接受付会場って?」

 げんなりとした表情で書類を差し出した玲一に、虎路は涼しげに一言。

 「はい。こちらは面接の受付会場です。」

 騒ぐ力もないのか、玲一は静かにうなだれる。

 「では、面接会場はどちらでしょうか?」

 山奥の、一本道の脇。そんな普通ではない場所で普通に会話をしようとする剣に、何か言いたげな視線を送りつつ、玲一はその場にしゃがみこんだ。さすがに疲労の色を隠せない。

 「はい。こちらの山道から頂上までお進みいただいた場所に、面接会場がございます。」

 虎路は変わらず無表情で、さらりと机の横の獣道と化した山道を指す。

 「頂上って!!ありえねぇし!」

 玲一は思わず跳ね上がる。信じられないといった表情を虎路に向けるが、彼はそれにも顔色を変えず、飄々(ひょうひょう)と続ける。

 「頂上まで辿り着かれた方には、合否に関わらずここまでの交通費の全額負担と、帰宅までのお世話をさせていただきます。」

 「お世話って、なんじゃそら。てか交通費出るとか、そんなん行くしかねーじゃん・・・。」

 ふてくされた玲一を余所に、虎路はさらに続ける。

 「ただし、面接を受けるに当たってひとつだけ、条件がございます。」

 「条件?」

 「はい。山頂の面接会場に、この山にあるはずの“何か”を探して持ってきていただきたいのです。その条件をクリアした人のみを採用という形になります。条件をクリアできなかった方でも、ちゃんと会場まで来ていただいた方には、先ほどの交通費と帰路の保障はさせていただきます。」

 虎路の言葉に、剣は首をかしげる。

 「“何か”とは?」

 「それが・・・。その“何か”が我々にもわからないのです。」




 「ぜーったい!おかしい!怪しい白い粉の密売とか、秘密結社とかなんかそんな臭いがプンプンすんね!!」

 虎路の指示した山道を登りはじめて5分。玲一がしゃべりだす。

 「だって“何か”ってなんだよ!わかんないもの、どーやって探せっつーの。剣くん、これさっさと山登って帰ろう。正義の味方の募集じゃないよ、絶対。」

 先ほどまでの重い足取りと違って、勢いよく山道を進む玲一と対照に、剣は思考の渦にはまったようにゆっくりと歩みを進める。そして何かを決心したのか、顔を上げ口を開いた。

 「・・・玲一。とりあえず俺はこの山を散策してみる。お前はまっすぐ頂上を目指せ。」

 そう言うと剣は玲一の返事は待たず、さらに獣道ですらない、草木が生い茂る山の脇に入っていった。

 「ちょっ、そう言うってわかってたけどさ!待ってよ、もうちょっと付き合うから。」

 玲一もその後を追う。

 一方、剣と玲一が山へ入って行くのを見送り、預かった書類を整理している虎路の元に、一本の電話が入った。

 「はい?」

 「トラ。電話を受けたら、もしもし。OK?で、もうお昼だけど。何人受け付けた?」

 「失礼しました。もしもし、でしたね。たった今二名をご案内いたしました。不合格で頂上の会場にこられた方が一名、こちらで苦情申し立てて引き返した方が三名。計六名受け付けました。不合格の方はヘリで送っています。」

 電話先の男は軽くため息をついた。

 「やっぱり難しいか・・・。まぁいい。こっちも引き続き『門番(ゲート)』を探すよ。じゃあ、頼むね、トラ。」

 かしこまりました、と虎路は切れた電話を置いた。案内していた山を見上げ、ぽつりとつぶやく。

 「大和・・・もしかするとこの気配は『門番(ゲート)』ではないのかもしれません。」




 道ではない道の草木を掻き分け山を突き進む剣と、その後を追う玲一。しばらくすると、二人は少し開けた場所に出た。山道が相当堪えたのか、玲一はふらふらと傍らの木にもたれた。

 「ちょ・・・ちょっと、剣くん。さすがに休みたい。」

 剣は玲一の申し出にうなずき、歩みを止める。傾きかけた太陽の位置を確認し、静かに瞳を閉じる。虫と鳥の鳴き声と、風が揺らす木の葉の音が耳をかすめる。汗ばむ肌にひんやりとした風を感じながら、これまでの事とこれからの事を頭の中で整理し始めた。

 (もう二、三時間経たない内に日が暮れる。なんの当ても無く、このまま見知らぬ山を散策するのは危険だ。玲一の体力を考えても、今から頂上に向かうしか方法はあるまい。玲一は悪の結社みたいに言っていたが、目的は一体何だ?わざわざこの地で面接をやらなければならなかった理由は?探す人間がわからない“探し物”とは何だ?そもそも、正義の味方ならば、対する悪がいるはずだ。

 何の説明もなく、このような辺境に呼びだてられていることに疑問を持たず、のこのこやってきた上に玲一を巻き込んでいるのは俺の責任だ。・・・謎が多い点からも気にはなるが。これ以上、俺のわがままを通す訳にはいかない。)

 剣は、疲れきってしゃべる気力もない玲一に向き直り、己の出した結論を伝えようとした。その時。



 《・・・タスケテ。》



 虫と鳥の声と木の葉の音、耳に入るのは確かにそれだけだった。女性のようなか細い弱々しい声で、助けを求めるような声が聞こえた気がした。何かを決心したかのように振り返った剣が、一瞬、目を見開いたまま動きを止めたことに玲一は心配そうに眉をひそめた。

 「剣くん?・・・どーした?」

 玲一の声を聞き、剣ははっとした。

 (玲一ではない。)

 しかし、疲れから来る幻聴かもしれない、と剣はふっと笑い、再び玲一に話しかけようとしたその時、



 《タスケテ、ダレカ・・・。》



 確かに、救いを求める声を、剣は聴き取った。

 「玲一、聞こえたか?」

 真剣な顔つきで尋ねられ、玲一はさらに困った表情を作った。

 「いや、何を?虫と鳥の声以外なんも聞こえないよ?」

 玲一の態度に嘘は無い。やはり気のせいかと周りを見渡した剣の視界に、違和感が生じた。青空に浮かぶ小さな赤。よく目を凝らすと、アゲハのような赤い蝶に見えた。それはひらひらと、こちらに近づいてきた。

 「赤い・・・蝶。」

 ぽつりともらした言葉の後に、剣は先ほどの言葉を耳にする。《タスケテ》と。

 「・・・お前が、お前が言っているのか?」

 目の前で見たことの無い真っ赤な蝶に話しかける剣を見て、玲一は思考能力が停止していた。

 (えっと。あの真面目な剣くんが、ちょーちょに話しかけてます。実はオレより疲れてたんじゃ・・・って。あんな真っ赤なちょーちょみたことねーなぁ。・・・・・・ん?)

 「わあぁぁぁっ?!」

 玲一は今までの疲れが吹き飛んだかのように跳ね上がる。

 「剣くん、それ、そのちょうちょ!!それが“探し物”なんじゃないの?!」

 慌てて、頭の上を飛んでいる蝶を指差す玲一。剣は魅入られたように蝶を見つめたまま動かない。

 「剣くん?・・・やっぱり疲れてるんじゃ?」

 玲一は、そんな剣の姿に眉間にしわを寄せ、心配そうに様子を伺う。剣は静かに振り返り、口を開く。

 「玲一、俺は自分が正気だと思っている。思っているんだが。」

 そう言いかけると、後ろから何かの音が聞こえた。剣がすばやく向き直ると、目の前に異様な光景が広がっていた。

 「!」

 「ね、・・・ねぇ、剣くん。これ、ドッキリじゃないよね?」

 玲一は思わず後ずさる。二人の目の前で地面が盛りかえり、それは人型になって動き出した。空洞を風が走るようなうめき声のような音を発し、目の前の土人形は二人に近づいてくる。

 「いや、まじシャレになんないって!キモいし!!なにコレ?!」

 完全にパニック状態になっている玲一をよそ目に、剣は腰を落とし、手を構える。赤い蝶が剣の上空をひらひらと力なく舞う。

 「つまりはこのゴーレムから助けて、という事か。仕掛けはわからんが、やるしかあるまい!」

 剣は一歩踏み出し、目の前の土人形に右拳を突き出した。衝撃で土が砕け、殴った部分がぱらぱらと崩れ去る。間髪入れずに左足を蹴り上げると、土人形は元の形をなくした。状況を把握できずに、固まっていた玲一が思わず叫ぶ。

 「って戦っちゃうんですか!!」



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