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地味子の地味な異世界転移  作者: 汐とまと
第1部
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73話 命を喰らう魔法 ⑤

このお話もようやく終わりが見えてきた気がします。

気がするだけかもしれませんが。。

73話です、よろしくお願いします。


「メガネにシャルナに猫耳に『砕剣』、それと聖騎士団長様か。わざわざこんなとこまで何の用だ?」


デュジョンは私たちの顔を順に1人1人見ると、眉を動かし口角を上げた。

私とキトゥンは距離をとるためシャルナを抱えて一歩後ずさり、アデルは警戒の目で相手を睨みつける。

静かな膠着状態の中、最初に口を開いたのはクライスだった。


「七魔戒将全員に容疑がかかっている。大人しくお縄についてもらおうか。」

「そういうのは警備隊の仕事じゃねえのか。」

「彼らじゃ手に余る。」


それもそうか、とデュジョンは鼻を鳴らす。その顔に焦りなどは見られない。

この余裕というか、落ち着いた感じは何・・・?

さっきまでのデュジョンは剥き出しの敵意に加えて、絶対の自信のような風格があったような気がする。

うまく言えないけど、まるで別人のようだ。


今デュジョンの目の前には5人。

ほぼ満身創痍状態の私とシャルナ、見ず知らずのキトゥンはともかく、アデルやクライスのことを知っているならその強さも知っているはず。

もし私が彼の立場なら、敵わないと考えてとっくに降伏している。少なくとも、もっと慎重になるか焦るかのどちらかだ。


それなのにこの余裕と危険な雰囲気・・・デュジョンにはまだ、私たちに見せていない奥の手がある?


「・・・! ・・・こ!」


思い当たるとすれば、私が気絶する前に見た・・・。


「・・・味子! 地味子! 聞いているのか!」

「ふぁいっ?! な、何?!」


アデルの一喝が私を現実に引き戻す。私、こんな時に考え事してた・・・?


「シャルナを担いでここを離れろ。キトゥンがついていく。」

「え、でも・・・。」


私にそう指示したアデルの顔は真面目そのものだ。むしろ少し深刻な表情にも見える。彼の異変に気付いたのかもしれない。

私の耳に顏を近づけると、デュジョンには聞こえないくらいの声量で指示を出した。


「洋館内に敵の魔力反応は無いが、万が一の可能性もある。戦闘はキトゥンに任せてお前はシャルナをここから連れ出すことに集中するんだ。後は私たちに任せろ。」


アデルの細く綺麗な手が私の肩を軽くポンと叩く。

切羽詰まった表情が、この瞬間だけ優しく綻んだ。



「ここまでよく頑張ったな。偉いぞ地味子。」


美しく上品な笑みをたたえるその姿。低く落ち着いたトーンの声。僅かに耳にかかる吐息。

自分の顔が紅潮し心臓が高鳴るのがわかった。


さっきからいろいろなことが起こりすぎて忘れてたけど、私はここにきて初めて実感した。アデルもキトゥンもついでにクライスも、みんな私の元へ駆けつけてくれた。私を助けに来てくれた。


妖怪ハテンゴと戦い、シャルナと共に誘拐され、デュジョン相手に奮闘した。心身ともに限界突破済だった私の心に、たったその一言がまるで清水のように染み渡る。

鉄のように重かった体が軽くなり、力が湧いてくるように感じた。


「素直に労ってやりたいところだが、おそらくまたお前の力が必要になる。だから・・・。」


心配そうに見つめるアデルに向け、私は小さくガッツポーズをした。


「大丈夫。まだまだ頑張れるよ、私!」


これは虚勢じゃない。アデルを心配させないために言ったわけじゃない。心からの言葉。

私の言葉を聞いたアデルは安心したように再び頬を緩ませた。


デュジョンもジャバウォックもまだ倒せていない。かといって私だって闘争心は衰えてない。今度はギルドのみんなもいる。まだまだ勝負はこれからだ。

まあ、私はとりあえずシャルナと一緒に逃げるんだけど。

逃走用のドアを開け、キトゥンが手招きする。


「ほら、地味子ちゃん行くよー。」


私は振り落としてしまわないようにシャルナをしっかりと担ぎ上げ、駆け足で部屋を出た。




「クライスとのんびり喋っていていいのか? 目当てのシャルナはもうここから逃げたぞ。」


一定の距離を保ちクライスと睨み合っていたデュジョン。その余裕そうな表情はターゲットが姿を眩ましても尚、崩れない。

闇の魔力が床を伝う。


「シャルナの護衛はあの忌々しいメガネと猫耳か。まとめて殺してこい、業の影(カルマシャドウ)!」


影のように伸びたデュジョンの魔力が形を変え、意志を持つ生き物かのように動き出した。その影はアデルとクライスには目もくれず真っ直ぐとドアへ伸びていく。


「追跡させる気か。」


アデルはティルウィングを構えた。


「ふはっ、無駄だ! 業の影(カルマシャドウ)の性質は文字通り影。物理攻撃は通用しねぇ。影となって気取られず近づき対象を飲み込むぜ。」

「それはどうかな。」


アデルの一閃が、まるで紙のように闇の魔力を両断する。物質だけでなく魔法をも切断するのはティルウィングの特殊能力だ。

業の影(カルマシャドウ)は金切り声のような悲鳴を上げ、霧となって消えていった。

それを見たデュジョンは興味深そうに笑う。


「へぇ、魔法を斬れるのか。不思議な剣だな。」

「・・・。」

「シャルナに触れられなかった時の動揺ももう無い・・・ようやく楽しめそうだ。2人まとめてかかってこいよ。」


2人がかりでいいという挑発。少なくとも、ギルド屈指の実力者と、数多の戦場を経験してきた聖騎士団長がやすやすと乗ってしまうようなものではなかった。


「無論だ、貴様と正々堂々やるつもりはない。お言葉に甘えて2人がかりで確実に正義を執行させてもらう。」

「待てクライス。」


アデルは金色の雷槍ブリッツシュラークを構えるクライスの腕を掴んで制止した。


「・・・なんだ、まだ何かあるのか? さっさと正義を・・・。」

「デュジョンの様子がおかしい。」


デュジョンは一見すると典型的な戦闘タイプだが、頭の回転も速く全ての裏ギルドを統率するほどの切れ者だ。この状況下での余裕ぶりに加えて先ほどの安い挑発。そしてこの大人しいともいえる落ち着いた雰囲気。

とてもとは言えないが、アデルが知っているデュジョンとはどこかが違う。


「つまり、さっきとは様子が違うということか。」

「わからない。だが嫌な予感がする。」

「いずれにせよ、我々の目の前にデュジョンがいるのは揺るぎない事実だ。駆逐するほかに道は無い。」

「・・・。」



デュジョンは笑っていた。

恐ろしくも見えるような不敵な笑みを浮かべて、何か小声で話す2人を見つめて。


「罠に引っ掛かったんだよ、テメェらは。」




________________________________________




私の理解が全然追いつかない。

学年でもけっこう成績のいい方だった私の頭が、今完全に停止している。

デュジョンの相手を任せ、私はシャルナの護衛を頼まれた。キトゥンと共に部屋を飛び出し、この洋館の出口へと向かっていたその途中。


私たちの目の前に、デュジョンが現れた。


「うそ、どうなってんのー・・・?」


キトゥンも動揺を隠しきれない。

私がおんぶして抱えているシャルナの手が、私の制服を強くきゅっと握るのを感じる。


「ふはっ、いい顔すんなあテメェら! 驚いたか? そりゃ驚いたよなぁ!」


耳障りな高笑い。『幽闇の死霊王』の二つ名に相応しいまでの雰囲気。身体にはところどころ小さな傷のようなものが見える。たぶん、瓦礫の下敷きになった時についたものだと思う。


間違いない・・・こいつが本物のデュジョンだ!

じゃあ、今アデルたちが相手してるデュジョンは一体・・・?


業の人形(カルマドール)。」

「!」

「いわゆる分身ってやつだ。さすがに俺ほどの強さは持ちあわせてねぇが、まあ足止めくらいには役に立つだろ。」


瓦礫の下に埋まっている間に入れ替わったってこと?

私の知ってるデュジョンと何かが違うと感じたのはそのせい?

そんなことって・・・。


「ここまで全部予想通りだったぜ。メガネとシャルナを守るためにここから逃がすことも、貴重な戦力を俺を倒すために割くってこともなぁ! 俺はただここに突っ立っているだけでよかった。馬鹿な人間共のおかげで楽させてもらったぜ。」


心のどこかではわかってたはずなのに、改めて痛感させられた。

こいつからは逃げられない。

七魔戒将からは、逃げられない・・・!


「地味子ちゃん、逃げるよ。」

「えっ・・・?」


キトゥンがおもむろに私の腕を掴んで引っ張った。獣人族特有の力の強さに私は抗えず、言われるがまま走る。

窓へと向かって。


「ねぇ、何する気なの?」


窓の立てつけが悪く力ずくで開かないことはシャルナを探している途中でこっそり確認済みだ。

まさか・・・。


「行くよ、怪我しちゃったらごめんねー。」

「ちょっと待って、危な・・・!」



硝子の割れる大きな音。空中に散らばる鋭利な破片。

私は窓を突き破り、外へと飛び出した。

昔アクション映画で見た思わず目を瞑ってしまうようなワンシーンを、まさか自分がやることになるなんて。


手の甲や膝がところどころ破片で傷ついてしまっているあたり、映画のようにうまくはいかないようだ。


「走って!」


初めての体験に心臓をドキドキさせている暇もなく、次の指令が発せられる。

走る? どこへ?

たぶんだけど、町にはまだ妖怪たちがいる。シャルナを抱えて走るにはあまりにも危険すぎる。だったら町外れの方向へ・・・!


「逃がすわきゃねぇだろーが! 業の波動(カルマウェイブ)!」


闇の魔力が主人の身体を中心として、波紋のように周囲へと広がっていく。まともに立っていられないほど地面が上下に揺れる。大地がひび割れ、辺りの木々が根元からへし折れる。魔法は私に直撃しなかったけど、その振動だけでバランスを崩し尻餅をついてしまった。シャルナも地面へと倒れ込む。

なんて力なの・・・こんなの、敵うわけない。


「どうしよう・・・こんな魔力、ボクだけじゃどうしようもないよー。」

「実力の差がわかったらさっさとシャルナを引き渡しやがれ。そうすれば半殺しで許してやってもいいぜ。」


何もできない私を尻目に、キトゥンが言葉で反撃する。


「ここまでして1人の女の子を追い回すなんて・・・何が目的なの?!」

「んだよ、テメェも知らねぇのかよ面倒くせぇ。そいつはシャンメリの姉だ。」


真実を聞いたキトゥンは絶句した。私もシャルナ本人から聞かされた。

シャルナの正体、そして、悲しい過去。


「しかも生前はシャンメリ以上の魔力を持っていたらしい。だから俺はそいつの魔力をいただくんだよ! 今は隠してるだけで本当はスゲェの持ってんだろ?! そいつさえ吸収しちまえばもう恐れるモンは何もねぇ! シャンメリもあの女も、もう俺の敵じゃなくなるんだよ!」


嬉々として語る魔人族の男は、私の目にはとても醜く、歪に映った。

ハッキリと理解した。

デュジョンは・・・こいつは、ただ自分が強くなりたい。ただそれだけの理由でシャルナを長年追いかけまわし、ミツバの町を危険に陥れた。

あまりにも身勝手で、あまりにもくだらない。


許せない・・・!



「吸収って、そんなのどうやってするつもりなの? 地味子ちゃんの力みたいなのでもない限り不可能だと思うけど。そもそもシャルナちゃんは幽霊だし、触れないよー?」

「俺には可能なんだよ。そうだな・・・もうそろそろ飽きてきたし、見せてやるよ。」


そう言ったデュジョンを、真っ黒な闇の魔力が包み込んだ。同時に私の背筋を悪寒が突き抜ける。

どこからともなく吹き抜ける風。地面を伝い広がっていく闇の魔力。辺りの草木や花々は枯れ始め、腐り落ちる。

近くにいるだけで心臓を締め付けられるような苦しさと吐き気に襲われる。


「これが俺たち七魔戒将のみに許された力、魔人族の到達点だ。」


こんな強大な魔力、感じたことない・・・!


「俺の魔法は魔力を、魂を、そして命を喰らう。圧倒的な力の差に跪きやがれ、轟魔招来(アビスドライブ)!」


ヒトとしてのデュジョンの姿を見たのは、それが最後だった。


彼は恐るべき怪物へと変貌した。






最近の雨続きに加え、来週は台風が来るそうですね。

関西在住の方はお気を付けください。

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