72話 命を喰らう魔法 ④
遅くなりました、最新話です。
またガシガシ書いていきます(予定)。
町に散らばった裏ギルドの残党退治をしていた俺たちの前に、妖怪たちは突如として現れた。あらかた戦闘も終わり気を抜いたところでさらなる連戦。正直体がもたない。
しかも妖怪は俺たちには目もくれず、無差別に建物を破壊し始めた。今はそれを食い止めるのに全力を注いでいる。
アンジェの呼びかけもあってギルドのみんなが戦ってくれてはいるが、仕事に行ったりで全員が揃っているわけではなく、戦力が足りてない。
俺とエルーの目の前には2体目のがしゃどくろが立ち塞がる。さっきギルド前で見た奴とは色違い。体格もこちらの方が大きい。
倒すには2人がかりでも骨が折れそうだ。
「一刻も早く地味子ちゃんの元に駆け付けたいんだが、このままじゃ難しそうだな。」
「そうですね、ヒューゴさんが遅れてきたヒーローみたく颯爽と現れたら地味子さんも振り向いてくれそうですよね。」
「そうそう、俺がかっこよく・・・って何言ってんだおい。」
俺の方を見てニヤニヤするエルー。
何だ。どういう顔だこれは?
「でもキトゥンさんのことも大事にしてあげなきゃですよ? あの人元気いっぱいって感じで意外と寂しがり屋さんですから。」
「何の話してんだよ。」
「あっ、そうですよね! そんなこと幼馴染のヒューゴさんの方が一番わかってますよね! 付き合ってはいないけどお互いをよく知る男女・・・アツアツだなぁもう!」
俺の隣で1人で勝手に盛り上がるやかましい騒音メイド。このリア充めと言いながら肘で脇腹を小突いてくる。誰かこいつ黙らせてくれねえかなマジで。
「まあいいや、さっさとこいつ片付けるぞ。俺とエルーの魔法で・・・。」
「あ・・・えっと。」
エルーは途端に表情を曇らせる。俺はしまった、と思った。
「ごめんなさい、魔法は私・・・。」
「そうだったな、悪い。無神経だった。」
我ながら配慮に欠けた発言だったと反省する。普段ならこんな馬鹿なミスはしない。この切羽詰まった状況が口を滑らせたのだろうか。
実はエルーは魔導士だ。俺やキトゥンと同様、体内に魔力を有している。以前はその脚力を活かした足技と魔法を組み合わせ、最前線で活躍していた。しかしある事件をきっかけに魔法を使うことがトラウマとなり、戦線からも身を引くようになってしまったらしい・・・が、エルーの身にどんな事件が起きたのかまでは知らない。
ともかく本人にとっては思い出したくもない過去のはずなのに、まさか普段あまり話さない俺が掘り返してしまうとは。
大丈夫です、と俯き加減に呟くその横顔は、どう見てもあまり大丈夫じゃなさそうだ。それを見て俺はさらに猛省した。
「殲滅スル・・・!」
おおよそ戦闘中であるとは思えないこの状況を見かねたのか、がしゃどくろはその体躯をゆっくりと動かし、片腕を天高く振り上げる。
「やべ、避けろエルー!」
「へ? え、ちょ、待っ・・・。」
空を切る一閃。響き渡る地震のような揺れ。砂埃が舞い踊り突風が吹き荒れ、地面に蜘蛛の巣状の亀裂が走る。
あれをまともに食らったらひとたまりもない。それどころか一発KOだ。だが幸いなことに奴の動きよりも俺たちの方が速い。
このまま避けながら奴の弱点を探ればいい。
そのためには脚力を活かしたエルーのスピードで奴を翻弄する必要がある。エルーとの共闘は初めてで慣れないが、ここはなんとか力を合わせて・・・。
「あれ? あいつどこいった?」
辺りを見渡した。さっきまで隣にいたメイド服少女の姿が見当たらない。トイレか? いやいや、いくら緊張感が無いからといってそれはない。
じゃあ一体どこに・・・?
嫌な予感が脳裏を駆け巡る。俺は攻撃後も動く気配の無いがしゃどくろの方へと視線を向けた。
「きゅう・・・。」
エルーは振り下ろされたがしゃどくろの平手と地面に挟まれ、綺麗に潰されていた。戦闘用の鋼鉄ブーツに包まれた細く綺麗な脚がピクピクと小刻みに痙攣している。
「えええええ?! 何で潰されてんのお前?!」
想定外の状況にそう言って驚いてはみたものの、完全に俺のせいだ。普段のエルーなら問題なく回避しただろう。過去のトラウマを思い出してしまったせいで敵の動きに集中できなかったのだ。変な声を上げて痙攣しているあたり普通に生きているだろうが、どう見ても戦闘不能状態だ。
エルーという大きな戦力を失った。俺たちは妖怪の対処に追われているが、あくまで本命はデュジョンに攫われた地味子ちゃんとシャルナの救出だ。こんなデカブツの相手を1人でしていたら時間がいくらあっても足りない。
その間に地味子ちゃんの身に何かあったら俺は・・・。
「我、レツドウノ兄、カイドウ。弟ノ仇ヲトラセテモラウゾ、人間・・・。」
「弟? あぁ、アデルが返り討ちにしたがしゃどくろのことか。ていうかお前、喋れんだな。」
魔力を解放した。俺の中に眠る全魔力だ。
それを察知したカイドウは警戒したのか少し後ろに下がる。どうやらただのパワー馬鹿ではないらしい。だが、そんなことは関係ない。
「だったら俺の声も聞こえてんだろ。耳の穴かっぽじってよく聞けよ。」
俺は二丁拳銃、双天翔を構えた。俺の体内にある魔力が腕を伝い、シリンダーへと流れ込んでいく。
攻撃を回避だとか弱点を探るだとか、そんなことはもうとっくに考えていなかった。俺の頭の中にあったのは行く先を遮る巨大骨野郎への怒りと、無駄な口を叩き仲間を危険に晒した自身への怒りだ。
「今お前に構ってやるヒマは1秒もねぇ! 背骨のど真ん中に風穴開けてやるから覚悟しろよデカブツ!」
魔法の銃弾が相手の顔面を捉え、大爆発を起こす。その衝撃でカイドウはよろめき、被弾部分から黒煙を巻き上げながら音を立てて仰向けに倒れた。
・・・違う、今の攻撃は俺のじゃない。もっと高いところから・・・。
俺は空を見上げた。
「な、何だあれ・・・?!」
俺の目は信じられない光景を映しだしていた。
ミツバの町上空に現れたのは、ドラゴンだった。美しい翼を羽ばたかせる白いドラゴン。見ただけでも10頭以上はいる。
ドラゴンは群れずに単独行動をする生物だ。あんな大群でいるところなんて見たことがない。敵か味方かもわからないバケモノの登場に、俺の頭はさらに混乱を極めた。
「何が起こってんだ・・・? しかもドラゴンの背に乗ってるの・・・人か?」
よく目を凝らして見ると、いくつもの人影らしきものが確認できた。人がドラゴンを使役するところなんて初めて見たが、可能なのか?
しばらくすると、人影のうち1人が飛び降りた。魔法でふわりと宙に浮くと、重力を感じさせない動きでゆっくりとこちらへと降りてくる。
あれ、あいつどこかで見たような・・・?
長い黒髪に胸に刻まれた聖騎士の紋章、そして特徴的な大きめの丸眼鏡。
「お前・・・エミリエットか?」
俺の目の前に降り立ったのは聖典騎士団副団長、『真約聖書』のエミリエットだった。眼鏡を指で持ち上げ、早足で俺に近づいてくる。
「お久しぶりですヒューゴさん。キトゥンさんはお元気ですか?」
「お前、何でこんなところに? ていうかあの大群は何・・・?」
「我々の移動手段です。そんなことよりうちの団長を見ませんでしたか?」
「クライスか? いや、見てないけど。」
そうですか、と少し肩を落とすエミリエット。何でちょっと残念そうなんだ。そういえばこいつ、日夜こっそりストーキングするくらいクライスのこと好きなんだっけ?
「この町にデュジョンが来ているという情報が入りまして。それを聞いた団長が真っ先に出て行ってしまったので、それを追いかけてきたのです。ですが雷の魔力を纏った団長のスピードには白竜もついていけず、首都ギル・ガメスを出てすぐ見失ってしまいました。」
クライスもこの町に来ているのか。しかも今回は対立などもせずに完全な味方。あのドラゴンの大群には度肝を抜かれたが、これほど頼もしい援軍はいない。
そういえば聖典騎士団は青い鳥の一件でほぼ壊滅状態になったはずだが・・・。
「つい先日、新たな騎士たちを団員として迎え入れました。妖怪ごとき、私たち新生・聖典騎士団が殲滅してみせましょう。」
「おぉ、悪いな。じゃああのデカブツ倒すの手伝って・・・。」
「そういうわけですので。」
再び双天翔を構えようとする俺を、エミリエットが制した。
「あなたは地味子さんの元へ行ってください。」
「え?」
「ここに来る途中、アンジェさんに会いました。状況は全て聞いています。急いでいるのでしょう?」
そういうわけにはいかない。と言いたいところだが、確かに俺は地味子ちゃんを助けたいがために急いでいる。それにエミリエットの強さは直接戦った俺がよく理解している。騎士団付きとはいえ女子1人を戦場へ置いて行くのは気が引けるが、状況が状況だ。
ここは・・・。
「あんたに任せたわよ、エミリエット!」
「うおぁっ?! アンジェ、いつの間に?!」
突然ひょっこりと現れたアンジェにセリフを奪われる。
町の人の避難誘導をし地味子ちゃんの居場所を見つけ、妖怪退治に少しでも戦力を集めるため町中を飛びまわったアンジェ。今回一番の功労者は彼女かもしれない。
「だって空を飛ぶ妖怪とかいたら怖いじゃない。あの白いドラゴンの陰に隠れさせてもらってたのよ。」
「全然気づきませんでした。私にすら気配を察知させないとは・・・。」
驚き目を丸くするエミリエットには目もくれず、アンジェは俺をまくし立てる。
「地味子とシャルナは町郊外の洋館にいるわ! 急ぐわよヒューゴ!」
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ミツバの町外れにある廃墟の洋館。そこにアジトを構えシャルナ誘拐を目論むデュジョン。そしてキトゥンによると、町中で20体近い妖怪たちが暴れまわっているらしい。
妖怪たちは強い。そこらの魔物や悪党とは比べ物にならないくらい。私も直接戦ったからわかる。
私とキトゥンの2人がかりで苦戦した。そんな妖怪が20・・・どれほど緊迫した状況なのかは戦闘経験の少ない私にも理解できた。
それなのに・・・。
「一体どう俺とデュジョンを見間違えるんだ! お前の目は節穴か!」
「だからそれは謝ったじゃん! クライスだって前にボクの下着見たんだからこれでおあいこだよ!」
「あれは不可抗力だろうが! 小娘の下着なんざ見て誰が喜ぶか!」
「うわ、サイテー。死ぬの? 死にたいの?」
いつまで喧嘩してるんだろう、この2人・・・。
キトゥンはもう私を助けることとか忘れちゃってるんじゃないだろうか。割とアホの子だし。
シャルナに至っては蚊帳の外過ぎて私の胸の中でウトウトし始めている。安眠の邪魔をしないように優しく撫でみる。
「んん・・・。」
うわー、ヤバいこれ。
寝顔可愛すぎか。
「地味子、無事か!」
一向に収まりそうもない2人の喧嘩に途方に暮れ諦め現実逃避しかけていた頃、いいタイミングでアデルが駆けつけてくれた。
よかった、アデルなら止められるかも。キトゥンとクライスの間に入るなんて私じゃ絶対無理。
「うん、私は大丈夫だよ。シャルナも一応無事。」
「そうか、よかった・・・。」
両肩をしっかりと掴み私の無傷を確認しては安堵の表情を浮かべる。随分と心配させてしまったようだ。でも私の無事を喜んでくれるのは素直に嬉しい。
「洋館の中をうろついていた犬の魔物は粗方片付けたが・・・あれは何だ? どうしてクライスがここに?」
未だに飽きもせず言い争いを続ける2人を怪訝そうに見つめる。まあ、当然の反応だよね。
私が一部始終をあらかた説明し、騒動を治めてもらった。アデルが大人の対応で2人を諭すとみるみるうちに大人しくなった。まるで仲良し兄妹とお母さんだ。見ていてちょっと面白い・・・というか、微笑ましい。
「おいメガネ娘、何だその孫の成長を見守る祖母のような目は。」
「ふぇっ?! そ、そんな目してた?!」
「・・・まあいい、それよりも現状を整理するぞ。」
不快そうな視線を私から逸らした後、クライスは話を切り出した。
「俺はこの洋館のどこかにデュジョンがいると聞いてきた。目撃した者は?」
シャルナは完全に半寝状態でお休みモードだ。代わりに私が挙手をする。
「どこにいる? 尻尾を巻いて逃げたか?」
「えっと、たぶんその下かな。」
「は・・・?」
私は瓦礫の山を指差す。
私が囮となり誘い込み、シャルナが建物を崩壊させデュジョンを押し潰した。強敵相手に、私たちなりに奮戦した証だ。
完全に戦闘不能とまでは言えない。
それでも大ダメージ、少なくともまともには動けないくらいの傷を負って・・・。
「誰が尻尾巻いて逃げたってぇ?」
瓦礫の下から聞こえてきた恐ろしく低い声に、背筋を悪寒が走った。
夢の世界に落ちかけていたシャルナも、たったこの一言だけで飛び起きて息を飲んだ。
瓦礫の山を徐々に崩し掻き分けながら、七魔戒将デュジョンが私たちの前に再びその姿を現した。
しかも・・・。
「ほとんど無傷・・・冗談でしょ?」
デュジョンの身体には多少の擦り傷や切り傷はあるものの、深刻なダメージと思われるものは何一つ無かった。
自分たちの渾身の一撃が効かなかった。その現実が地味子とシャルナの恐怖心を更に煽る。
「ふはっ、まさかあんなゴミクズを頭から被った程度で飛ばされちまうとはな。我ながら情けねぇ。」
鬼神の如き眼光が地味子たちに向けられる。
クライスが一歩前へ出た。
「お前がデュジョンだな?」
「うるせぇな、今話しかけんじゃねぇよ。」
私は違和感を感じた。
デュジョンの雰囲気がさっきと変わっている気がする。物言いは相変わらずだけど、苛立ちを募らせているようには見えない。闘争心はあるけど、どこか落ち着いている・・・?
まるで野生の猛獣が臨戦態勢に入ったかのような。
「雑魚が何匹か増えたようだが関係ねぇ、まとめて喰ってやるよ人間ども。」
張りつめた緊張感に、私の肌を突き刺す静かすぎるくらいに研ぎ澄まされた殺意。幾度となくデュジョンとの対面を重ねた上で、私は直感した。
今の彼は、これまでで一番危険だ。
今年中に第一部を終わらせるなどと息巻いていた自分を殴りたい気分です。
今の章すら終わるかどうか・・・。
気合い入れていきます。




