70話 命を喰らう魔法 ②
70話達成しました。目指せ71話。
ボクとアデルちゃんがルイーズおばさんの家を出発し、走り続けて十数分。デュジョンの魔力を感じるという廃墟の洋館が見えてきた。
「前から思ってたけど、アデルちゃんって魔導士じゃないよね? どうしてほかの人の魔力を感じることができるのー?」
ボクたち魔導士はほんのわずかだけど他人の魔力を感じ取ることができる。でもそれは相手がすぐ近くにいればの話。どれくらいまで感知できるかは人それぞれだけど、ボクの場合は20メートルくらい離れてしまえば感知できなくなる。
それなのに、魔導士でもないアデルちゃんは10㎞先の町の郊外にデュジョンがいることを突き止めた。
魔導士探索専門の秘法探しって魔法もあるらしいけど、もちろんアデルちゃんが使えるはずもない。
「言われてみればそうだな。気が付かなかった。」
ありゃりゃ、自覚なしだったかー。
アデルちゃんって意外と謎多き女の子だよね。美人でスタイル良くて強くて可愛いもの好きでミステリアスとか、魅力の宝石箱か。
「む・・・。」
アデルちゃんは何かを察したかのように足を止めると、辺りを見回し始めた。デュジョンのいる洋館は目と鼻の先だっていうのに、一体どうしたんだろう。
「妙な魔力を感じる。レツドウやあの雪女と似た魔力だ。」
「へ・・・?」
「来るぞ。」
僅かに聞こえてきたのは、地響きのような音と揺れ。それはだんだんと大きくなり、ボクたちの足元に広がる大地に亀裂を走らせた。
割れた地面の間から姿を現したのは、毒グモを模したかのようなおぞましく巨大なモンスター。
しかも、それが2体。
「まさか、妖怪なの?」
「正解~。」
2匹の巨大グモの陰からさらにもう1体、今度は女の人の姿をした妖怪が現れる。
「私、いや・・・私たちは『土蜘蛛』三姉妹。この子たちは妹のウチサルとウナサル。そして私が長女のイツマヒメよ。」
「くそ、いったい何体の妖怪がこの町に来ているんだ?」
町に現れた雪女とがしゃどくろ、ボクと地味子ちゃんで倒した天狗、妖怪はこの3体だけだと思ってた。この土蜘蛛三姉妹以外にもまだ妖怪が来ているとしたら、ボクたちの町やギルドだって危険に晒されていることになる。
一刻も早く地味子ちゃんを助けに行かなきゃいけないのに、これじゃあただボクたちの戦力が分散されてるだけだ。
それとも、これ全部がデュジョンの策略・・・?
「ふふっ、焦りが見えるわね。デュジョンに囚われたお友達を助けたい、そんな焦りが手に取るようにわかるわ。そんなあなたたちにイイコト教えてあげる。ミツバの町に放たれた妖怪は、全部で20よ。」
「なんだと・・・?!」
それって、ボクたちが倒した3体を除いても、あと17体が町に潜んでるってこと?! デュジョンが相手ってだけでも大変なのに、そんな数どうやって倒せばいいの・・・?
「アデルちゃんどうしよう、このままじゃ・・・。」
「地味子を助けるにも町へ戻るにも、まずはこの三姉妹を倒すしかない。考えるのは後だ、行くぞキトゥン!」
アデルちゃんの合図とともにボクは魔力を解放した。火之迦具土の業火が全身を包み込む。
すぐ先にある洋館で地味子ちゃんが待ってるんだ・・・速攻ぶっ倒す!
「『砕剣』のアデルと『炎猫』のキトゥン、2人とも人間界では名の知れた戦士・・・でも私たち土蜘蛛三姉妹に勝てるかしら? さあ、楽しみましょ・・・。」
「その勝負、ちょっと待ったあああ!」
土蜘蛛長女イツマヒメのセリフを遮った声は、ボクたちの後方から聞こえてきた。声の主は自身の身長ほどもある巨大な斧を振り回し、イツマヒメに斬りかかった。
間一髪で避けられるも、斧は地面を叩き割り大爆発を起こす。この怪力と武器の破壊力、駆けつけてくれたのはあの人だ。
「お前はダグラス・・・どうしてここに?」
「あら、遅れて登場のヒーローはぴーちゃんだけじゃないわよ?」
ダグラスをこの呼び方で呼ぶのはこの世でただ1人。超重量の大刀、青龍なんたら刀を軽々と構え、ギルド内でも『鬼首斬り』と恐れられるダグラスのお嫁さん。
「ルイーズおばさんだ。2人とも助けに来てくれたのー?」
「妖精の子が知らせてくれたのよ。町外れの洋館に地味子ちゃんが捕まってるから助けてって、泣きながらね。」
「アンちゃんが・・・?」
プライドが高くいつもツンツンしてるアンちゃんの泣く姿、簡単には想像できなかった。地味子ちゃんとアンちゃんの間にある信頼や絆は、ボクが想像してるよりも遥かに硬いみたい。
「町中に妖怪がいることに気付いたあの子は、休まず飛び回ってギルドのみんなに助けを呼びかけていたわ。他のみんなは妖怪退治、私とぴーちゃんはさしずめ援軍ってところかしら? あの子、よっぽど地味子ちゃんのことが好きなのね。」
ダグラスとルイーズおばさんは土蜘蛛三姉妹の前に立った。
「お前らは早く地味子の元へ行ってやれ。」
「ここは私たちに任せなさい。」
「2対3だなんてダメだよ。ボクらも加勢する!」
そう言うと、凄い勢いでルイーズおばさんがこっちを振り返った。なんか怖い顔してる・・・。
「あらあら、心配してくれてるのかしらぁ?」
「へっ? そ、そりゃあ・・・。」
「私が誰か忘れたようね。言っとくけど、あなたとアデルだけなら5秒で磨り潰せるわよ子猫ちゃん?」
この影のかかった笑顔で思い出した・・・。ギルドに入りたての頃、当時ギルド最強だったルイーズおばさんに、ひぃちゃんと一緒に特訓と称して朝から晩までボコボコにされた日々を。
ボクにとっては地獄級のトラウマだ。
「なーんてね、冗談よぉ。」
冗談に聞こえないよ・・・。
「ルイーズの冗談は置いといて・・・後輩の背中を押すのは、俺たち大人の役目だ。お前たちはただ目の前の事に集中すればいい。」
「友達を助けるんでしょ? 後ろを振り向く必要はないわ。ここは私たちに任せて早く行ってらっしゃいな。」
そう言って敵と対峙する2人の背中は、今までで一番大きく頼もしく見えた。
強さも折り紙つき、三姉妹は2人に任せられる。だったらボクとアデルちゃん
は迷わず洋館へ向かうしかない!
待っててね地味子ちゃん、今すぐ助けに行くからね!
「あ、そうそうキトゥンちゃん。」
「なに?」
「今度おばさん呼ばわりしたらブチ殺すから憶えておいてね。」
「ひぃっ! ご、ごめんなさい!」
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時刻はもう夕方。
徐々に薄暗く、オレンジ色に染まっていく窓の外に一度目を向けた後、デュジ
ョンは語り始めた。
「業の鈺でシャルナを捕らえ、ギルド連中は町に放った妖怪で戦力を分散、万が一ここに辿り着いたところで俺とジャバウォックに勝てる奴なんかいるわけがねぇ。俺の計画は1ミリの綻びもない、完璧なはずだった。お前という唯一のイレギュラーを除いてはな。」
私はデュジョンと再びの対峙を果たしていた。
「おいメガネ、テメェは一体何なんだ。ザコのくせに俺の部下を倒してちょこまかと逃げまわって、どこかに隠れたかと思ったら俺が召喚した業の番犬どもを退けて、そして今・・・一度負かされた相手の目の前に、たった1人で現れやがった。」
鋭い眼光が一直線に私を睨む。彼のその目に込められているのは怒りではなく、警戒。私は直感的にそれを感じ取った。
「犬っころを倒したのはその妙な力か?」
「うん。」
彼はその言動と嗜虐的な行動に反して、人一倍警戒心が強く慎重派だ。10以上の裏ギルドを仕切るその技量も伊達じゃない。ただでさえ歯が立たないくらい強いのに、不意打ちや罠にかけることも難しいなんて反則級。私なんかが勝てるわけないことくらい最初からわかってた。
だから私は・・・。
「シャルナはあなたに引き渡す。だからその代わり、私のお願いを聞いてほしいの。」
「・・・はあ?」
デュジョンは面食らったように唖然とした表情を浮かべる。当然だ。ついさっきまで必死に抵抗してた人間がいきなり目の前に現れたかと思ったら、開口一番に降伏を申し出たのだから。
武器を全て床に置き両膝をついて、極力交戦の意志が無いことを伝える。
私は今から酷いことをする。
シャルナ、ごめんね・・・。
「シャルナを渡す代わりに、私の仲間にはもう手を出さないでほしいの。妖怪たちと共にこの町から出て行ってほしい。それが私のお願い。」
「テメェ、そんな嘘が通用するとでも思ってんのか? 大体何で今さらになって・・・。」
「嘘じゃない。」
今日自分の身に起こった出来事、このまま戦い続けたら起こるであろう事。想像するたびに恐怖心が私を包み込み、震えが止まらない。
目頭が熱くなり、思わず涙がこぼれ落ちる。
私は両手を組み、祈った。
「仲間に傷ついてほしくないし、私はあなたに絶対に勝てない。もう嫌なの、もう怖い思いも痛い思いもしたくないの・・・。」
「ふん、シャルナは仲間じゃねぇってことか?」
「仲間だと思ってる、けど・・・ギルドのみんなには代えられない。」
「ふはっ! 仲間の為に仲間を売るとは、とんだ平和主義者だな!」
デュジョンの高笑い。何度も聞いたこの笑い声が、恐怖心を更に煽る。
「まあそんなことはどうでもいい。テメェが嘘ついてるようには見えねぇし、俺もそろそろテメェらの相手をするのがメンドくなってきたし・・・いいぜ、その話に乗ってやる。シャルナを俺に引き渡しさえすれば、ギルドの連中には手を出さねぇし妖怪共も連れて帰る。」
「・・・ありがとう。」
「だが・・・。」
デュジョンが取り出したのは、刀身の長い黒い剣。
「テメェは逃がさねぇぞメガネ。今ここで殺してやる。」
「ど、どうして? シャルナは後でちゃんとここに連れて来るし、これ以上抵抗はしない! だから・・・。」
「別に大した理由はねぇよ?」
デュジョンの顔が歪んだ。
口角は異常なほど上がり、細められた目が私を見下ろす。まるで檻に捕らえた獲物を見るかのような、人を殺めることを心から楽しむ快楽殺人鬼の顔。
こんなに恐ろしい顔をできる人がいるなんて・・・。
「ただ、たった今俺が無性にテメェを殺したくなっただけだ。できるだけ痛く、苦しくなるように殺すとするぜ。妙な力もあるし念のため魔力は使わず、この愛用の武器でな・・・!」
「そんな・・・。」
「まずはその四肢を切り落としてやるよ!」
デュジョンは地面を蹴り、黒剣を構え私に急接近する。彼はもうシャルナを捕らえることよりも、私をどうやっていたぶり殺そうかしか考えていない。
私が仕掛けた罠だと気付かずに。
「今だよ、シャルナ!」
「何?!」
私が合図を叫ぶと同時に、デュジョンの頭上にある天井が大爆発を起こした。業火を纏った木の破片や家具たちが滝のように一斉に降り注ぐ。
「普通に戦えば100%勝ち目はない。だから罠にかけることにしたの。だけどあなたは警戒心が強くて、普通の罠では引っ掛かってくれない。だから誘い込んだ。」
「テメェさっきの涙は、体の震えは・・・?!」
「中学で演劇やってたから、そういうのは得意なんだよね。」
さっきまでの殺しの喜びで満ちた表情は消え、怒りと憎しみで歪んだ顔が私に向けられる。立場的にも精神的にも優位に立った途端に、罠に嵌められたと悟った彼のその顔は恐ろしく、歪だった。
1人の人としてどこまで心が堕ちれば、こんな顔ができてしまうのだろうか。
「このクソガキ、ぶっ殺し・・・!」
彼の言葉は最後まで続くことは無く、その身体ごと数多の瓦礫に押し潰された。
投稿頻度を増やすため、ガンガン書いていきます。
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