65話 とある姉妹の話 ④
最近鼻詰まりがひどく、もし花粉症だったらと恐怖に怯えています。
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私はずっと気がかりだった。
お姉ちゃんはいつも1人で突っ走る。せめて後先くらい考えるよう普段から言いつけているつもりだったけど、まさかここまでのことをやらかすなんて・・・、
私はお姉ちゃんに対して今まできつく叱ってこなかった自分を責めた。
「いくよ悪いおじさんたち! シャルナちゃんの特大魔法を受けてみなさい!」
お姉ちゃんは反魔導団体であり人殺し集団の抗魔党に宣戦布告を仕掛けた。
「お、お姉ちゃん? お願いだから事を荒立てないで・・・。」
「あなたたちみたいなモブ同然のザコ軍団、私1人で十分なんだから!」
「聞いてよ! 話を!」
だめだ、完全に暴走モードに入っちゃった。私の声なんか一切届いていない。
お姉ちゃんレベルの魔導士がただの一般人に負けるわけないし心配する必要はないと思うんだけど、この胸騒ぎは何・・・?
「なんだ姉ちゃん、あんたも魔導士か?」
「そうだよ、だからその女の子をいじめるのはやめなさい!」
「姉ちゃんが遊んでくれるってのか。」
男の数は3人。見たところ武器も何も持っていないようだ。
じゃあお姉ちゃんだけでいいよね? 私、参加しなくていいよね? 怖いし。
「ねえお姉ちゃん、私は女の子を保護するからあいつらのことはお願いね?」
「了解しました大佐!」
どこで覚えてきたのか、お姉ちゃんは帝国軍顔負けの綺麗な敬礼を決めた。
というか誰が大佐だ。
「さっそくいくよ、木陰の水流!」
「うおっ、痛ぇ! 何だこれ?!」
お姉ちゃんの創り出した細長い水の鞭が男たちに襲い掛かる。
すごい、お姉ちゃん・・・ちゃんと魔力を抑えてる! てっきり本能の赴くままに強力な魔法を使っちゃうと思ってたけど。
それでも受ける相手にとってはかなり痛い魔法。男たちも予想外の攻撃に驚いて慌てふためいている。
絡まれていた女の子はその隙に逃げ出し、私の元へと走ってきた。私は怯えるその子を優しく抱きしめる。
「もう大丈夫だよ。あのお姉ちゃん、すっごく強いから。」
「あ、あの・・・。」
お姉ちゃんの方に目をやると、それはもう混沌とした光景が広がっていた。
いい歳したおじさんたちのお尻を鞭で引っ叩くお姉ちゃんは、まるで女王様のよう。
「もうおしまい? おじさんたち弱すぎだよ。」
「くそっ、このクソ魔導士が。」
「うるさーい。」
トドメと言わんばかりに鞭で思い切りお尻を打った。お姉ちゃんの大勝利だ。
魔力を抑えたおかげで正体もバレていないらしく、様子を見ていた周りの人々から称賛の声が上がった。
町の嫌われ者から一転、英雄だ。
町の人に囲まれたお姉ちゃんはどこか嬉しそう。そんなお姉ちゃんを見てると、私まで嬉しくなってきた。
「もう、すぐ調子に乗るんだから。」
「えっと・・・。」
「あ、ごめんね? 今からちゃんと家まで送ってあげるから安心して?」
「あの、そうじゃなくて・・・。」
「・・・?」
どうしたんだろう?
抗魔党はもうやっつけたのに、女の子の表情は一向に晴れない。さっきからずっと怯えたまま、私の服の袖を握りしめている。
「あの人たち3人だけじゃない・・・もう1人いる。」
「えっ・・・?」
直後、お姉ちゃんの周りに集まっていた人だかりから悲鳴が上がった。
私は慌てて声の聞こえた方に目を向ける。
町の人が逃げ惑うように散っていく。その中心には、頬を押さえて地面に倒れているお姉ちゃんがいた。
一体何が起こったの・・・?
「こんな小娘1人相手に情けねぇなお前ら。武器は常に持っとけって言っただろ。」
さっきの男たちよりもさらにひとまわり体の大きい、リーダーらしき風格の若い男が姿を現した。右手には刃の長い片手剣を握っている。男は倒れている自分の部下には目もくれず、その剣の刃をお姉ちゃんの首へと突きつけた。
「あ・・・。」
「妙なマネしたら喉を掻っ切るぞ。」
お姉ちゃんが危ない・・・!
周りの人たちもただ怯えるか逃げていくだけで助けようともしてくれない。私がやる? でも私は一昨日・・・。
「魔導士は全員死ぬべきだ。近年犯罪が増えているのも他種族との争いも、俺の親父が死んだのも全部魔導士のせいだ。魔導士がいなければ世界は平和なんだよ!」
男は剣を振り上げた。
・・・迷ってる暇なんてない。私がやるしかない。でも私はお姉ちゃんみたいにたくさんの魔力は使えない。
だから魔力を抑えて・・・できれば相手を傷つけないように。そんなことが私にできるのかな。
・・・大丈夫、やればできる。
だって私は・・・強くて優しくて困っている人を見過ごさない誇り高き魔導士、シャルナお姉ちゃんの妹なんだから!
「お願い、うまくいって! 装備崩壊!」
私は魔力を解放し、魔法を放った。昔お姉ちゃんが教えてくれた、自分の身を守るための魔法。
金属が割れるような音は聞こえない。剣は割れなかった。
割れるのではなく、根元から剥がれ落ちたのだ。
「馬鹿な、俺の剣が・・・!」
私にもできた・・・!
しかもあれはただの装備崩壊じゃない。どんなに硬い鎧でも真っ二つにする上位魔法、装備断絶。こんなに強力な魔法が使えるようになるなんて思いもしなかった。
「くそっ、てめぇも魔導士か!」
男は私を睨み付けた。
やばい、武器を無力化した後のこと考えてなかった・・・! 私はお姉ちゃんみたいに攻撃魔法はうまく使えない。男は額に血管を浮かべ近づいてくる。このままじゃ私も女の子もタダじゃ済まない。どうすれば・・・!
「はい、そこまで。動いたらダメだよ。」
男の動きが凍りついたように止まる。
今度はお姉ちゃんが背後から男の喉元に剣を突きつけていた。魔法で生成された魔法剣がギラリと危ない光を放つ。
「あなたたち抗魔党にどんな事情があるかはわからない。だから文句を言うつもりもないよ。ただ、私の妹に手を出すっていうなら・・・どうなるかわかるよね?」
「ちっ・・・クソが!」
リーダーの男は部下3人を引き連れて逃げるように去って行った。
「ありがとうございました! 危ないところを助けていただいて・・・!」
助けた女の子、カンナちゃんは改めて私たちにお礼を言った。丁寧に深々と頭を下げて。見ればわかるくらい、とってもいい子だ。
「本当、どっかの誰かさんとはすごい違いだね。」
「ん? 誰かさんって誰のこと言ってるの?」
「勝手に突っ走って知らない男に殺されかけた誰かさんのことだよ。」
抗魔党を撃退した後、私たちは近くの公園へと来ていた。どうしてもお礼がしたいと言って聞かないカンナちゃんがジュースを奢ってくれた。
ジュースも美味しいけど、それよりも私が気になったのは隣のお店。
「ねえカンナちゃん、あのお店って・・・。」
「あれですか? あのお店は売ってるアクセサリーが可愛くて、最近女の子たちの間で人気なんです。お店の名前もとても可愛くて、町の広報紙にも取り上げられたくらいなんです。」
確かにお店の名前も雰囲気も売られているアクセサリーも可愛い。あそこならお姉ちゃんに贈るいい誕生日プレセントが見つかるかも。
「それにしても、お姉さんたちの魔法すごかったです! 私なんかいつも1人で遊ぶことにしか使えなくて、とても人助けなんて。この力のせいで怖がられて友達にも避けられちゃうし・・・。」
「そんなに深く考える事ないよ。」
お姉ちゃんはカンナちゃんに優しく寄り添う。
「魔法は何も特別なことじゃない。怖い物じゃなければ人を傷つけるために生まれたものでもない。それに助け合って生きていくのは私たち魔導士も町のみんなも同じ。いつかはお友達も分かってくれると思うけど、今すぐには難しいかもね。」
「そう、ですよね・・・。」
「そこでカンナちゃんに提案なんだけど、私たちとお友達になってくれない?」
カンナちゃんは驚くように目を丸くした。
彼女にとって突然の提案だったのか、それでもカンナちゃんはすぐに顔を綻ばせ、嬉しそうに笑ってくれた。
「もちろんです!」
その言葉を聞いたお姉ちゃんは目を輝かせて私の方を振り向いた。
「やった、お友達できたよ! 私たちの初めてのお友達!」
「うん、そうだね。」
「やったあ! これからよろしくね、カンナちゃん!」
もう、本当に騒がしいんだから。落ち着きがないっていうか・・・。
私だってたまらなく嬉しいのに、おかげで喜ぶタイミング逃しちゃったじゃない。
「私も嬉しいです。ずっと気になっていた森の家の姉妹さんたちとお友達になれるなんて。」
「えー、そんなに喜んでくれるなんて照れ・・・へっ?」
ヘラヘラと笑っていたお姉ちゃんは一瞬で動きを止めた。私も凍りつく。
今、なんて・・・?
「ちょっと待ってカンナちゃん、森の家って・・・。」
「え? はい、森奥の家に住んでる魔導士一家の姉妹さんですよね?」
「気付かれてたの?!」
正体がバレてる?! でも、だったらどうしてお友達に・・・?
「一度だけ気になって1人で森に見に行ったことがあるんです。町の人たちが恐れてるから、一体どんな怖い人たちが住んでるんだろうって・・・。でも、私が見たのは優しそうな皆さんの姿でした。ご両親も優しそうな人だし、私と同い年くらいの女の子もいた。ずっとお友達になりたいなって思ってたんです。」
私たちの魔力が高すぎることも知ってて、それでも怖がらずに接してくれてたんだ。こんな子が町にいたなんて・・・。
「あの、よければ名前を教えてくれませんか? 私にとっては命の恩人ですし、せっかくお近づきになれたので。」
「私はシャルナ。大魔導士シャルナ様だよ!」
また調子に乗って・・・まあでも人の命を助けたことは事実だし、今日くらいは大目に見てあげてもいいかな。
「お姉さんのシャルナさんですね。妹さんは何ていうお名前ですか?」
「え、私?」
「もちろん、妹さんも私の命を救ってくれた恩人なので!」
「私は・・・。」
こんな気持ちは初めてだった。
ずっと森の中で暮らしてきた。物心ついた時から町の人に恐れられていると教えられ、自分の魔力をずっと抑え続けてきた。誰かを傷つけるのが怖かった。家族4人だけの私の世界。それを自分の手で傷つけてしまうのが怖かった。
でも今度は違う。一昨日の私とは違う。傷つけるためじゃない、人を助けるために魔法を使うことができた。初めてのお友達ができて、私の世界も5人に広がった。
こんなに晴れやかで嬉しい気持ちになったのは、産まれて初めてだ。
「私の名前はアデル。よろしくね、カンナちゃん。」
その日の夜、カンナちゃんと別れ帰宅した私たちは、お父さんとお母さんの帰りを待った。
隣町へ誕生日プレゼントを買いに行っているから、帰りは少し遅いはず。
お姉ちゃんと2人でお腹を空かせながら、お母さんが作ってくれる美味しい晩ご飯を心待ちにしていた。
その日、私たちの両親が家に帰ることは無かった。
過去編も佳境です。よろしくお願いします。




