64話 とある姉妹の話 ③
過去編は大事な話で更新が遅くなります。
という今更過ぎる醜い言い訳。
更新は遅いですが確実に書き進めていきます。よろしくおねがいします!
「町の子供たちと仲良くなろう大作戦? なにそれ?」
雲一つない日の早朝。家族4人で朝食を楽しんでいた途中で、お姉ちゃんは唐突に変なことを言いだした。髪は寝癖が付いたままボサボサで、櫛で梳かそうともしない。もうすぐ大人になるんだからしっかりしてほしい。
それに朝は低血圧の私にとって天敵だ。朝からテンション高めのお姉ちゃんの話にはついて行けそうにない。そうだ、小鳥のさえずりと一緒に聞き流そう。
「だからね、まず町の人と仲良くなるなら小さな子供だと思うんだよ。町の子供たちは大人ほど私たちに警戒心を持ってないからね。なんとか近づけるんじゃないかな?」
「うん、そうかもね。」
「それに今までずっとローブを深く被ってたから、素顔はほとんど広まってないと思う。そこで提案なんだけど・・・。」
「うん。」
あぁ、キノコのスープ美味しいなあ。
「今日は顔出ししたまま町へ行ってみない?」
「うん・・・・・・えっ?」
今、何かとんでもないこと言わなかった?
朝食にかまけてぼーっとしてたから、半分くらい聞いてなかった。流れのまま生返事しちゃったけど・・・。
「よし、じゃあ決まりだね!」
「え? ちょ、ちょっとお姉ちゃん? 待っ・・・!」
「さっそくレッツゴー!」
自分の分を食べ終わるやいなや、食器を片付けることもなく家を勢いよく飛び出してしまった。
「もう、自分のお皿くらい片付けてよ・・・。」
私は自分とお姉ちゃんのお皿を重ね、キッチンへと運ぶ。
少しは落ち着くということを覚えてほしいけど、お姉ちゃんにそれを求めるのは無謀すぎる。
「今日も元気ね、シャルナは。」
お母さんが微笑ましそうに笑い、そう言った。
うちの両親はお姉ちゃんに甘い。別に私に厳しいってわけじゃないんだけど、たまにはビシッと言ってやってほしい。
「お姉ちゃんは元気すぎなんだよ。」
「それでいいのよあの子は。今日は仕事帰りに隣町であの子の誕生日プレゼントを買ってくるからちょっと遅くなるけど、面倒見てやってくれる?」
普通は逆じゃないの? どうして妹の私が・・・嫌じゃないから別にいいんだけど。
お父さんもお母さんも町から離れた仕事場で働いている。理由はもちろん、この町では働けないからだ。物心ついたころから森の奥で暮らしてる私とお姉ちゃんとは違い、お父さんとお母さんは町の人たちに顏が知られている。
「あの子は私たちが森の中に隔離されたのを自分のせいだと思ってる。ずっと自分を責めてるのよ。そんな必要ないのにね。」
「うん・・・。」
「シャルナのせいじゃないって言っても聞かない。あの子は何をするにも一生懸命だもの。だからね、あなたが支えてあげてほしいの。2人で支え合って生きてほしい。そうすればきっと・・・今は辛くても、あなたたちには眩しい未来が待ってる。私はそう思うわ。」
眩しい未来・・・か。
確かにそうかもしれない。お姉ちゃんはいつも1人で突っ走って危なっかしくて、それを見てる私は毎回のようにハラハラさせられる。それでもそんなお姉ちゃんを見てると心が躍って、引っ込み思案な私じゃ見ることもできないような世界へ連れて行ってくれる。
わたしにとってお姉ちゃんと一緒にいることは、ただそれだけで冒険だった。
でもねお母さん、1つだけ間違ってるよ。今は辛くても、ってところ。
「私は今でも幸せだよ。十分すぎるくらい。」
行ってきますとだけ言い残して、私はお姉ちゃんの後を追い外に出た。
先に出て行ったお姉ちゃんはすぐに見つかった。家を出てすぐのところで、誰かと立ち話をしている。私はお姉ちゃんの話し相手に見つからないよう、木陰から覗く。
「あれは確かお姉ちゃんのカレシさんの・・・リオンさん?」
お姉ちゃんがときどきこっそり会っている男の人。幸せそうに話しちゃって・・・。
家では荒れ放題だった髪も既にちゃんと手櫛で直してる。こんな顔は家族にも見せない。
少し照れくさそうに指を毛先に絡ませ、頬を赤くして笑う。恋をする女の子としてのお姉ちゃんの顔。
それだけリオンさんが、お姉ちゃんにとって大切な人になってるってことだよね。それはいいことなのかもしれないけど、ちょっと悔しいかも・・・。
私にとってのお姉ちゃんはいつも明るく笑っているイメージ。考えてみればそれ以外の表情をあまり見たことが無い。
もっと私にもいろいろな顔を見せてくれていいのに。
「・・・なんで私、実の姉のカレシに対抗心燃やしてるの? ないない・・・。」
「ないって何が?」
「うわあっ?!」
お姉ちゃんはいつの間にかリオンさんとの会話を終え、私の背後に立っていた。心臓に悪い・・・。
「カレシさんと何話してたの?」
「ありゃ、見られてた? えへへ、リオンくんが私の誕生日を祝ってくれるんだってー。プレゼントもあるらしいし、楽しみだなあ。」
「何よもう・・・リア充なんて爆死すればいいのに。」
「実の姉に対して酷い!」
冗談もそこそこにして、私とお姉ちゃんは町へと向かった。
「ね、ねえお姉ちゃん・・・本当にローブ無しで人前に出るの?」
「なーにびびってんの。ほら早く!」
「いやいやいやいや! 無理無理無理無理!」
町の中心部にある大きな公園。私たちはその並木道の木陰で激しい攻防を繰り広げていた。見かけに似合わない凄い力で腕を引っ張るお姉ちゃんに対し、私は必死に抵抗する。
お姉ちゃんのぶっ飛んだ発言なんて日常茶飯事だと思って慣れてたけど、今回ばかりは本当に理解できなかった。私たちが顔も隠さずに人前に出るなんて無謀にも程がある。
それに一昨日の私の事件のこともあって、そもそも私は町へ出かけることすら嫌だった。
「絶対にダメ! 今出て行ってもどうせすぐバレて顔指差されて笑われてディスられて泣かされるだけだってば!」
「それはちょっと卑屈すぎ。大丈夫だって、この前試したけどバレなかったし。」
「そういう問題じゃなくて・・・え、もう試したの?! 本当に?!」
メンタルどうなってるの・・・。
「というわけで、レッツゴー!」
「待って! ちょ・・・ひぎゃっ!」
馬鹿力なお姉ちゃんに思いっ切り背中を押され、私は前のめりに倒れ突っ伏した。道のど真ん中で突然こけたのだから目立たないはずがない。多くの町の人がゆっくりとした時間を楽しむ朝の公園。きっと私の正体はバレて・・・。
「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」
「へ・・・?」
無様な格好の私に最初に話しかけたのは、紳士風のおじいさん。起き上がらせてくれようとしているのか、手を差し伸べてきた。
・・・え、本当にバレてないの?
「あ、ありがとうございます。」
「怪我すると危ないから気をつけるんだよ。」
おじいさんはそう言うと優しく微笑み、去って行った。それみろとでも言わんばかりのドヤ顔で出てくるお姉ちゃん。その顔はムカつく。
「ね、うまくいったでしょ?」
「むしろ町の人が私たちを顔よりもローブで認識してたことがちょっとショックなんだけど。」
「そこは気にしないお約束だよ。それじゃあ大丈夫とわかったところで、さっそく子供たちに会いに行こう!」
そういえば町に来た目的は子供たちと仲良くなるためだった。忘れてた。
スキップ交じりに先を急ぐお姉ちゃんの背中を眺める。それから、周囲を見回してみた。
背の高い木々、色鮮やかな花、飛沫が舞う噴水、楽しそうに笑顔を浮かべ休日を楽しむ人々。
確かにローブ無しで人前に出ることはできた。それは良かったと思う。だけど、今までずっと森の中で過ごしてきたからか、私が町の中にいることに私自身が違和感を感じていた。
一昨日初めて町に来たときは人の多さに圧倒されてそれどころじゃなかったけど、改めて肌で感じてみると・・・。
「私にも、みんなと同じように暮らせる日が来るのかな。」
今でも十分すぎるくらい幸せ。それは嘘じゃない。だけどいざ町に来てみると・・・。
私は疎外感と孤独感を振り払い、視界の中で小さくなるお姉ちゃんに追いつこうと地面を蹴った。
「で、これからどうするの?」
広い公園の中を並んで歩きながら問いかける。
未だに人とすれ違うたびにバレないかとドキドキするけど、そんなことも言ってられない。
「まずは魔導士の子供を探そっか。私たちなら魔力を抑えればすぐ仲良くなれるかもしれないからね。」
「魔力を抑える・・・大丈夫かな。」
「心配しないの。お姉ちゃんがついてるよー。」
それはそれで心配なんだよなあ。何が心配って、私以上にお姉ちゃんの方が苦手そうなんだよね、魔力抑えるの。感情や勢いに任せて強力な魔法とかぶっ放しちゃわないよね?
とにかくお姉ちゃんが暴走しないよう私が気をつけないと。
「じゃあやるよ・・・ふんっ!」
お姉ちゃんはそう言うと両手を組んで祈りを捧げるかのようなポーズをとり、目を瞑って魔力を解き放った。いつも家で魔法を見せてくれるときよりも遥かに弱い魔力。すごい、ちゃんと抑えられてる・・・!
「どう? 見つかった?」
「ちょっ、集中してるから今話しかけないで・・・。」
これはお姉ちゃんが使えるいくつかの魔法の1つ、秘法探し。周囲の魔力反応を感知できる魔法。普段のお姉ちゃんの魔力なら半径10㎞以内にいる魔導士全員を検索できるけど、今はせいぜい500mってところかな。
「うーん、何人か見つかったけど大人の人ばかりだなあ。」
お姉ちゃんの更にすごいところは、検索対象がどんな人かも調べられるってこと。大人か子供か男の人か女の人か、だいたいのシルエットが頭に浮かぶらしい。
魔力の高さだけじゃなく魔導士として高い能力を持つそんなお姉ちゃんに比べて、私は自分の魔力がどういう性質のものか理解していない。マグカップを体で触れずに動かしたり水を生成したりと簡単な魔法なら使えるのに、いざ自分の魔力の大半を解放しようとすると体が言うことを聞かなくなり失敗に終わってしまう。
そういうこともあって魔力を抑えるのは得意分野だし、今回はなんとかなりそうかな。
「見つけた、魔導士の子供! すぐ近くにいるよ! こっちこっち!」
「ちょっと、先行かないでよお姉ちゃん!」
また自分だけ先に走りだした。
人も多いんだから少しくらい落ち着きなよ。
「いた! ほらあそこ!」
お姉ちゃんが指差す先には私よりもひとまわり小さな女の子。と、その周りにガラの悪そうな男の人が数人。
「あの子のこと? ちょっと様子が変じゃない?」
「本当だね、どうしたんだろ。ちょっと何話してるか聞いてみるね。」
再びお姉ちゃんはわずかに魔力を解放した。魔法、地獄耳。
要するに、耳が良くなる魔法。
「・・・うわ、まずいよ。あの男の人たち抗魔党だ。」
「抗魔党?」
「魔法に対して異常なまでに敵対心を持ってる団体だよ。最近は魔導士が抗魔党のメンバーに殺される事件も起きてるみたい。メンバーの大半は魔法や魔導士絡みで被害に遭った人たちらしいけど・・・たぶんあの女の子、魔法使ってるところを見られちゃったんだと思う。」
「それってあの子が危ないってこと?! どうしよう、助けを呼ばなきゃ・・・!」
でも、誰を呼べばいいの? 人殺しに手を染めるような人たちなんて誰が止められるの・・・?
どうすれば・・・。
「よし、あの子が襲われる前に行くよ!」
「・・・へっ? お姉ちゃん、何言って・・・?」
私の疑問は完全にスルーされ、腕を掴まれて無理矢理引っ張られる。お姉ちゃんは私を引きずって何の迷いもなく抗魔党メンバーに近づいていく。
お姉ちゃん、まさかとは思うけど・・・嘘でしょ?
「ちょっとそこのおじさんたち! その子に手を出すって言うなら私たちが相手になるよ!」
「あぁ? なんだこの小娘?」
私たちって何? 私たちって何?!
私も参加しろってこと?! ちょっと急すぎだし強引すぎないかな?!
無理、絶対無理! 怖いもん! おじさんたちめっちゃ睨んでるもん! 今にも眼光だけで風穴開けられそうだもん!!
「あ、あの・・・私は無関係で・・・。」
「片方はまだガキだが、よく見りゃ2人とも上玉じゃねえか。おいお前ら、こいつら脅して攫っちまおうぜ!」
あっ、だめだ。私もロックオンされた。詰んだ・・・。
運命の日まで、あと4日。
シャルナ暴走中。




