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地味子の地味な異世界転移  作者: 汐とまと
第1部
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63話 とある姉妹の話 ②

最近夜寝ても1,2時間くらいで起きてしまうんですが、何が原因なんでしょう?

誰か教えてください助けてください。


私の体から発せられた光は私へと襲いかかってきた魔導犬もろとも、目の前にあった屋台さえも巻き込んで消し飛ばした。

まるで、主に危害を加えるもの全てを排除しようとするかのように。


でもよかった・・・吹き飛ばされた露店の主人はたまたま不在で誰もいなかった。人を巻き込まなかっただけ不幸中の幸いだったかも。

お店の弁償とかしなきゃだけど、間一髪で最悪の事態を回避できたことに私は安堵した。


「あぁ、カロンちゃんが・・・カロンちゃんが!」


私が落としたお財布を拾ってくれた優しいお姉さんが、涙ぐみ血相を変えてペットの残骸へと駆け寄る。


「あんた・・・なんてことしてくれたのよ!」

「え・・・?」


お姉さんは恨みを込めた鋭い眼光を私へと向け、声を荒げた。

どうしてそんな目で私を見るの? わざとじゃない、わざとじゃないのに。

謝らなきゃ・・・。


「おい、そこの姉ちゃん! 危ねえから離れろ!」


そう叫んでお姉さんを引っ張り私から離れようとするのは、さっきの串焼き屋のおじさん。良い子だねと褒めてくれた時の優しい表情は完全に消えていた。ただ私へ向けられているのは、信じられないものを見るかのような恐怖の眼差し。


どうして? どうして2人とも・・・。

確かに私は悪いことをしたけど、誰も傷つけてはいない。それなのにどうしてそんな目をするの・・・?


「ローブを被っているからもしやとは思ったが、やっぱり魔女の娘か! お前らみたいなバケモノはこの町から出て行け!」

「私のカロンちゃんを返しなさいよ・・・返しなさいよこのガキ!」


優しいおじさんじゃなかったの?

優しいお姉さんじゃなかったの?


「ここにいたら危険だ、あの子から離れろ!」

「あそこのお店全部魔法で吹き飛ばしたんですって、怖いわ・・・。」

「近付いちゃだめよ。」


私の耳に入ってきたのは、聞こえるか聞こえないかくらいの囁き。

それぞれ別々の方角を向いて歩き町を行き交うだけだった人たちが、一斉に私を見つめてくる。


恐怖だけじゃない。怒り、憎しみ、そして軽蔑の意が込められた視線が私の全身を突き刺す。背筋が凍り冷や汗が噴き出すのを感じた。

まるで世界中の人が敵にまわったかのような、突然の孤独が私を襲った。


目を瞑り耳を塞いで、私はその場にうずくまった。


やめて・・・。


「あっち行けバケモノ!」


お願い、見ないで・・・。


「こっちに来ないで!」


そんな目で私を見ないで・・・!


「おい、あいつ魔女の娘だぞ。」

「気味が悪いわ・・・。」

「誰か警備隊を呼んで!」

「あんなバケモノがいたんじゃ夜も眠れねえよ。」

「死んじゃえ。」


私の中で、何かがプツリと音を立てて切れた。


うるさい、うるさい、うるさい、うるさい・・・!

私は悪くない、私は悪くない、私は悪くない!!


もう全部吹き飛ばしてしまいたい。私に罵詈雑言を浴びせ続ける周りの人たちを、私たちを追い出そうとするこの町を。

さっきみたいな魔女の力、もう一度使えないかな。

確かこうやって・・・。


さっきは咄嗟に放った魔法。感覚を思い出してみる。

・・・身体からわずかに魔法の光が溢れ出した。もう少し、もう少しでこの力を完璧に使いこなせる気がする。もっと魔力が解放できれば・・・。


「こっち、ついて来て。」


私がより大きな魔力を解放しようとしたその時、聞き慣れた声がすぐ耳元で聞こえた。私のものと同じローブを着込んだ声の主は半ば強引に私の腕を掴んで引っ張り、騒がしい群衆の中から連れ出してくれた。


私は導かれるまま、屋台の並ぶ街道から人気の無い林の中へと移動する。


「嫌な予感がしたからこっそりつけて来たけど、予想通り過ぎて逆にびっくりしちゃったねえ。」

「・・・お姉ちゃん、どうして?」


掴んでいた腕を離すと、シャルナお姉ちゃんはフードを脱いで私の方へ向き直った。見慣れた笑顔が私の心に落ち着きを取り戻してくれる。


たぶん私のことを心配して来てくれたんだと思う。

私が町へ行くって言い出した時やたらと反対してたのは、お姉ちゃんも今回みたいなことを経験したからなのだろうか。

だとしたら尚更わからない。


あんな目に遭っても、お姉ちゃんは町の人と交流を持つというの?


「どうして邪魔をしたの?」

「うん? 邪魔って・・・どういうこと?」


私は視線を落とし、自分の手のひらを眺める。魔女の力、魔法を使いこなせそうな気がした。あと一歩で何かを掴めそうな気がした。


「もう少しだったのに。」

「何をするつもりだったの?」

「決まってるでしょ、私の力でこの町の奴らを一人残らず・・・。」



心の中で渦巻いていた負の感情全てを吐き出す間もなく、私の言葉は途切れた。お姉ちゃんの平手が私の左頬を打っていた。高く大きな音が辺りに響く。


「私の可愛い妹から、そんな言葉は聞きたくないなあ。」


初めて見るかもしれない、人を叱る時のお姉ちゃんの顔。普段の笑顔を絶やさない明るい姿はそこにはなかった。


「うーん・・・とりあえず、座って話さない?」


そう言って近くにあったベンチを指差した。私が先に腰かけると、お姉ちゃんは近くのお店でジュースを買ってきてくれた。もちろんただジュースを買うだけでもフードを深く被る。


しばらく静寂が続いた後、先に口を開いたのはお姉ちゃんだった。


「うちの家族全員、魔力が異様に高いのは知ってるよね。」

「・・・うん。だから町の人たちから隔離されてるんでしょ?」


両親は後天性。つまり生まれつきではなく、ある日突然膨大な魔力を体に宿すようになってしまった。私とお姉ちゃんにはその魔力の高さが遺伝してしまったらしい。


「実はね、町から隔離されるようになった原因って私なんだよね。」

「え・・・?」


お姉ちゃんは俯き加減にそう告白した。その横顔は少し悲しそうに見える。


「たぶんお父さんもお母さんも今までうまく隠し続けたんだと思う。でも私が5歳くらいの時、お母さんの言いつけを聞かずに勝手に家から出ちゃったんだよね。子供の頃だしどうしてそんなことをしたのか覚えてないけど、一人で外に出ちゃダメだよってお母さんから口酸っぱく言われてたのだけは覚えてる。」


お姉ちゃんが5歳・・・ってことは、私はたぶん産まれてない?


「一人で町を歩いたのは初めてだったからワクワクしたね。少し大人になった気分だった。お店も家もただの小屋も全部キラキラして見えたよ。」


私と同じ・・・さっきまでの私も、初めての町に心が躍った。お姉ちゃんも同じ気持ちだったんだ。


「でもその後すぐ、私は悪い人たちに誘拐されちゃうの。」

「ゆ、誘拐?!」

「誘拐されかけたって言った方が正しいかな。何人もの身体の大きな男の人に囲まれ抱え上げられて、助けを呼ぼうとしても怖くて声も出せなかった。子供ながらもうダメだって思ったね。」


物騒なワードが飛び出す中、お姉ちゃんはクスクスと笑っている。

いやいや、何も面白くないからね? 自分が誘拐されかけた話だからね?


「その時だった、私の体が眩いくらいの光に包まれたの。悪い人たちも周りの人たちも、もちろん私もびっくりした。あまりに眩しかったから私は目を瞑ったの。」

「その光って・・・。」


私の体からも出た、魔法の光。一瞬で魔導犬や露店を吹き飛ばしてしまうほどの強力な破壊魔法。


「目を開けたら、誘拐犯の男の人たちは一人残らず消え去ってた。跡形もなく、ただ地面に大量の血痕を残して。」

「うそ・・・。」


お姉ちゃんが人を・・・?


いつもニコニコ笑っててお調子者で、明るく綺麗で誰にでも優しい私のお姉ちゃんが。

子供の頃で魔法が制御できなくて、危険な目に遭っていたとはいえ人を殺した・・・?


「それから数日後には家族の魔力の高さが町の人たちに広まって、私たちは森の奥まで追いやられた。それで今日にまで至るって感じかな。まあ、我ながら情けない話だよね。ちゃんとお母さんの言いつけを守っていればこんなことには・・・。」

「そんな・・・お姉ちゃんは悪くないよ! 確かに取り返しのつかないことかもしれないけど、その人たちは誘拐犯なんでしょ?! それは周りの人も見てたはずなのに、それなのにどうして隔離されなきゃいけないの?! お姉ちゃんは自分の身を守っただけじゃない!」

「それは仕方ないよ。こんな危険人物が近くにいりゃ誰だって怖くもなるってば。」


ヘラヘラと笑うお姉ちゃん。いつもはこの屈託のない笑顔に癒されているところだけど、今回ばかりは納得いかなかった。


「それはそうかもだけど、だからって5歳の女の子がやったことなのに・・・!」


また、私の言葉が途切れた。今度はビンタされたわけじゃない。

お姉ちゃんは横から私の頭に手をまわし、そっと抱き寄せた。


「私が町の子とときどき会ってるのは知ってるよね?」

「・・・うん。」

「私はね、もっと町の人と仲良くなりたいの。もっとたくさん話して、優しくして、私のせいで私の家族が失った信用を取り戻したい。それが、私が摘み取った命に対する償いになるのかなって思うの。私が会ってる男の子・・・リオンくんっていうんだけど、彼は私のこの考え方にすごく賛同して応援してくれてる。だから、彼の気持ちにもちゃんと応えないとね。」


その時見たお姉ちゃんの笑顔は、これまでにないくらい眩しかった。私たちの身体から発せられる魔法の光なんかよりも遥かに眩しい、女神様のような笑顔。

私が抱いていた町の人たちに対する怒りの感情は、もうすっかり消えてしまっていた。


「やっぱりお姉ちゃんには敵わないなあ・・・。」

「当然でしょ、お姉ちゃんだもーん。」

「よしっ、決めた! 私ももっと町の人に優しくする! もう何を言われても挫けない。お姉ちゃんみたいに頑張って、私も家族の信用を取り戻して見せるよ!」


それを聞いたお姉ちゃんは嬉しそうに微笑んだ。まるで孫の成長を喜ぶおばあちゃんのような包容力。


初めて町に出て私たち家族の現状を知って、そしてお姉ちゃんの想いを知った私は確かに一歩成長できたような気がする。目標も決まったことだし、まずは来週のお姉ちゃんの誕生日。プレゼントもケーキも買って、ちゃんとお祝いしなきゃね!


夕焼けに染まる木々を背に、私はそう決心した。




運命の日まで、あと6日。






姉妹過去編の後、デュジョン編の後半に入ります。

もうちっとお付き合いください。

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