53話 幽闇に揺蕩う白の少女 ⑦
今年中に第一部を完結させるっていう目標、ちょい無理くさいです。
それでも私は頑張るぞい。
私の目的はキトゥン、ヒューゴとともに妖怪から幽霊少女シャルナを守る事。
鴉天狗の妖怪ハテンゴの目的はシャルナを捕まえる事。
だったはずなんだけど・・・。
「ひぃちゃんといつも一緒にいるのはボクだし!」
「絶対にワタシの方が好きデース!」
「わ、私はそういうんじゃないけど・・・外でキスとか破廉恥だし!」
当初の目的はどこいった?
私が言っていいセリフじゃないけどさ。
「とにかくシャルナ連れて逃げて!」
「なんか何言っても無駄そうだな・・・わかった。ダグラスの家で落ち合おう。」
ヒューゴとシャルナは私たちに背を向けて走り出した。裏ギルドの兵隊くらいなら何人がかりだとしても、ヒューゴならたぶん大丈夫。あとは・・・。
「あっ、逃がしませんヨ!」
「ひぃちゃんは渡さないもん! 戯れの猫爪!」
キトゥンの炎魔法。それを見たハテンゴは不敵に笑う。これはチャンスだと言わんばかりに葉の扇子を構えた。
「炎属性はワタシ的にラッキーだと言ったはずデスヨ?」
再び広場を強烈な突風が吹き抜けた。
炎の鉤爪は風にあおられ、そのまま消えてしまう。
「また消えた?! いったいどうなってるのー!」
「当然デス。火は風向きと同じ方向へ流れ、燃え移る。それは魔法で創られたものも同じこと。ワタシが風を起こし続ける限り、アナタの攻撃がワタシに届くことはありマセーン。」
ラッキーとはそういう意味だったんだ・・・!
キトゥンは常に身体のどこかに炎を装備して戦う。思い描いた場所や好きな場所に炎を発生させたり、爆発を起こしたりできない。つまりキトゥン本人に向かって扇子を扇ぐ、ただそれだけで無力化できちゃうんだ・・・。
それってもしかして・・・。
「地味子ちゃん、あとはヨロシク。」
「諦めるの早くない?! もうちょっと粘ろうよ!」
「だってボクの攻撃全然効かないじゃん。相性悪すぎー。」
今戦えるの私だけってこと、だよね?
こんなことならヒューゴに残ってもらえばよかったかも。
「でも、火は確か酸素に触れると強くなるはず・・・それなのにどうして?」
「それはとってもカンタンなことデース。」
ハテンゴはキトゥンを指差し、得意げに高笑いする。
「そこの子猫ちゃんよりワタシの方が魔力が超強いからなのデース!」
「・・・はあ?」
天狗がわかりやすく天狗になってる・・・。
「前言撤回ー。地味子ちゃん手伝って。あのムカツク長っ鼻ぶっとばすから。」
「・・・キトゥン、もしかしてマジギレしてる? あのやっすい挑発に?」
「べ、別にキレてないし。なんとなく鉄拳制裁食らわせたいなって思っただけだし。」
「嘘でしょぉ・・・。」
子供っぽいところがあるのは知ってるけど、まさかここまでとは・・・。
「でもどうするの? 炎効かない相手だよ?」
「あの風の力はたぶん魔法だし、地味子ちゃんの力で無力化できるんじゃないー?」
「うん、できると思う・・・出来ると思うんだけど。」
「だけど・・・どうしたの?」
さっきから何度も試してる。
相変わらずというか何というか、自分の無力さに気が滅入る。
「今日はちょっと調子悪いっぽい。」
「地味子ちゃんってほんとダメダメだよねー。」
返す言葉もないです・・・。
私のこの力、神通はいつも使いたい時に限って使えなくなる。過去2回成功したけどどちらも私がピンチの時やアンジェが傷つけられた時だけ。まるで私の気持ちに呼応しているかのように。
「何か起こってからじゃ遅いんだけどなあ。」
「お喋りはここまでデスヨ!」
突風が吹き荒れ私とキトゥンの身体を押し飛ばそうとする。ここは何も無いただの広場。掴まるものが無いからとにかく踏ん張るしかない。
ハテンゴは私たちが動けないことをいいことに、何度も突風を発生させる。
「ほらほら、吹っ飛んじゃいなさい!」
「も、もう無理・・・うわあっ?!」
地面から足が離れ体が浮き上がる。そのまま葉っぱのように軽々と飛ばされ地面を転がった。
「いたた・・・なんて威力なの。」
「地味子ちゃん大丈夫ー?!」
「うん、大丈・・・あれ? キトゥンはどうして平気なの?」
キトゥンは割と平気そうな顔で仁王立ちしている。私より背が低くて軽そうなのに。
「もしかして胸か! 胸の分重いからなのか!」
「ちょっと落ち着こう? 確かに地味子のちゃんよりボクの方が大きいけども。ボクはただ足の裏の握力で地面を掴んでるだけだよー。地味子ちゃんもそうするといいよ。」
「ちょっ、当たり前みたいに言わないで・・・。」
さすが獣人族。身体能力高すぎ。
「なるほどデスネ、でもその状態じゃあ動くことはできないはず。ならば吹っ飛ぶまで攻撃を続けるのみデース!」
何度も何度も扇子を扇ぎ、風を起こし続ける。地面を掴むことなどできない私はすぐに押され地面を転がり、近くの建物の壁にぶつかり押し付けられてしまう。
「うぐ・・・まるで透明な壁に押されているみたい。全然動けない・・・。」
「地味子ちゃん! 今すぐ助けたいけど、ボクももう無理かも・・・!」
地面にしがみついていたキトゥンも徐々に限界を迎え始める。
「そこの人間は全然お話になりマセン。子猫ちゃんの方もそろそろ楽にしてあげマース! 風塵乱舞、波旬!!」
今までとは明らかに違う、黒い風が吹き荒れる。そのままキトゥンの身体に包み込むようにまとわりつき、地面から引き剥がす。
「うわわ、一段と強い・・・!」
「油断は禁物デスヨ。」
ハテンゴは翼を羽ばたかせ、宙に浮かぶキトゥンの背後へ回り込んだ。反応し振り返る間もなくキトゥンは蹴り飛ばされ、土煙を上げて地面へ垂直に落下した。
「キトゥン!」
今は風は止んでいる。私は横たわるキトゥンへ駆け寄ろうと走りだした。
「獣人族は頑丈ですからネ、この程度じゃ終わらせマセーン!」
ハテンゴはキトゥンに向けて急降下し、お腹を思い切り蹴り上げた。下駄を履いたつま先が深々とめり込み、軽い体はくの字に折れ曲がり宙へと投げ出される。
「かはぁっ・・・!」
蹴り飛ばされた小さな体はこちらへと飛ばされ、私はそれをしっかりと受け止める。威力が殺せずキトゥンを抱いたまま尻餅をついた。
「大丈夫?!」
「あ、あんま大丈夫じゃ・・げほっ・・・。」
かなり強烈な一撃だったのか、私の胸の中で力なく倒れ込み何度も咳き込んでいる。
「気絶させることもできないなんて、本当に頑丈なんデスネェ。」
「ち、近づいたら撃つよ・・・!」
「・・・そんなもので脅してるつもりデスカ?」
私は腰に差していた銃を手に取り相手に向けた。ハテンゴはそれを意に介することもなく平然と近づいてくる。
どうして銃に怯えないの? どうして止まってくれないの?
私じゃ相手の動きを制限することすらできないの・・・?
「ワタシはけっこう飛ぶスピードが速いので、そんなものは当たらないと思いマスヨ? それに・・・。」
「な、何・・・?」
ハテンゴは銃を持つ私の手元を指差す。その顔は少し嘲笑っているようにも見えた。
「そもそもアナタがそれを撃てるとは思いませんが? 手、震えてマスヨ? もしかして怖いんデスカ?」
「嘘・・・?!」
彼女の言った通り、私の手は小刻みに震えていた。
怖い、といえばそうかもしれない。強い相手と対峙した時の恐怖。その実力差を見せつけられた時の恐怖。そして・・・。
神通の力で無力化させるのとは訳が違う、武器で直接相手を手に掛けることへの恐怖。
シェブールに来てから自分に危害を加えようとする動物や魔物に銃を撃ったことはあるし、何度かその命を奪ったこともある。それでも、自分と同じような人に近い姿の相手に銃を向けた時、私の手は半ば本能的に引き金を引くことを拒否し震えることを止めなかった。
「戦う勇気が足りないみたいデスネ。そんな人間を相手にしても興が冷めるだけデス・・・今逃げれば見逃してあげるかもしれマセンヨ?」
ハテンゴの言う通りなの・・・?
宝探し祭りでアデルに諭され、青い鳥のクエストで仲間を傷つけられても、私の中では覚悟や決意は変わらなかったってことなのかな・・・。
そんなの嫌だ。そんなの・・・。
「バカなこと言わないで。」
黒い負の感情でぐちゃぐちゃに混ざった頭の中に差し込んできたのは、キトゥンの声だった。
「地味子ちゃんに勇気が無いだなんて、そんなこと言わないで!」
「死にぞこないが何言ってるんデスカ?」
「ボクは知ってるもん。一度殺されかけたレッドウルフに立ち向かったことも、アデルちゃん相手に一生懸命戦ったことも、聖騎士団の団長に1対1で宣戦布告したことも。地味子ちゃんが勇敢でかっこいいことはボクやギルドのみんなが知ってる。だから・・・。」
キトゥンは私の銃を持つ手をしっかりと握った。
「地味子ちゃんなら大丈夫。ボクより肝っ玉据わってるもんね。」
「・・・・・・ばか。」
キトゥンのその言葉が光となり、私の頭の中を綺麗に澄みわたらせていく。複雑に掻き混ぜられた思考は捨て、深く考えすぎることをやめた。勇敢だと言ってくれた。かっこいいと言ってくれた。
素直に嬉しい。
私に足りなかったものは、キトゥンのような子供っぽさ・・・もとい、真っ直ぐさだったのかもしれない。
私は引き金に掛けられた人差し指に力を込めた。放たれた銃弾は真っ直ぐ飛び、ハテンゴの肩を掠める。
「なっ?! ま、まさか撃ってくるなんて・・・!」
ハテンゴは慌てて翼を羽ばたかせ再び空中へと舞い戻る。
一度飛ばれたら銃弾はほぼ当たらない。
それを見たキトゥンはあろうことか立ち上がった。
「よしっ。休憩も終わったしそろそろやるぞー!」
「え、さっきの攻撃まともに受けたのにもう動けるの・・・?」
「さすがにお腹とかまだ痛いけど、獣人は頑丈さだけじゃないよ。自然回復量も人間より何倍も速いんだからね!」
だとしても早すぎだよ・・・獣人族恐るべし。
「元気になったところでワタシが優勢なのは変わりマセンヨ。また炎の魔法もろとも吹っ飛ばしてあげマス。」
「そうなんだよね。さて、対策考えよっか地味子ちゃん。」
何も考えてなかったのかよ。
「仕方ないなあ・・・じゃあこれ、貸してあげる。」
「これって、護身用ナイフ?」
キトゥンの言葉のおかげで余計な考えはなくなった。それと同時に私の頭の中の作戦司令室がいつもより少しだけ冴えわたる。
「私が合図したら思い切り走って。私とキトゥンの力があれば、もしかしたらハテンゴを倒せるかもしれない。」
NEWGAME!って面白いですよね。今日も1日頑張るぞい。(もう夕方




