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地味子の地味な異世界転移  作者: 汐とまと
第1部
46/75

46話 長として

「地味子の地味な異世界転移」って略すとどうなるんでしょうか。

「地味地味」? いや、なんか微妙ですわ・・・。

「おい! もっと西側に兵をまわせ!」

「無理だ、もうここも限界なんだよ! 抑えきれねえ!」

「南の防衛部隊も全滅しちまった! 敵の数が多すぎる!」


ミツバの町から遥か遠く。

シェブール王国防衛拠点の1つ、要塞プラウザー。

過去幾度となく敵兵が挑み敗走していった、シェブール最大級の要塞。高くそびえ立つ城壁と屈強な兵達がその強固さを物語っている。


はずだった。

今はその城壁にいくつもの大きな穴が開き中から火の手と黒煙が上がっている。かつてない事態に要塞の兵たちは慌てふためき右へ左へと走り回る。


「自慢の要塞もここまでされちゃ形無しだな。魔獣共を使う必要もなさそうだ。」


自身の率いる兵が蹂躙するのを遠くから眺めるのは七魔戒将の1人、シリウス。

そして、その隣にもう2人。


「んだよ、前線に姫様が来るなんて珍しいな。何か問題でもあったのか?」

「たいしたことじゃないです。というかその呼び方はやめてくれませんか・・・。」


七魔戒将の長、ウェンディフラウ。


「で、そっちは相変わらず姫様のお守りってか。」

「はい・・・ぴったりくっついて離れてくれないです。」

「・・・・・・。」


フラウの傍らには背の高い女性が立っている。

その目はただじっと真剣に戦場を見つめており、シリウスに話しかけられても微動だにせず口も開かない。


「おいテスラド。無視すんなコラ。」

「・・・・・・。」

「聞こえてんだろ! おーい!」

「・・・・・・。」


眉ひとつ動かさない。


「こいつ、相変わらず姫様の言葉以外全無視だな。」

「テスラド、そういうのはよくないですよ?」

「申し訳ありません、姫。」


ようやく口を開いたテスラドはシリウスを一瞥することもなく端的に謝罪した後、フラウに向かって膝をついた。


「いや、俺に謝れって・・・まあいいわ。それより姫様、問題ってなんだよ。」

「本当にたいしたことじゃないんですけど・・・。」

「うん?」

「デュジョンさんのサボりです。」


シリウスはやれやれと言わんばかりにため息をつく。


「また単独行動かよあいつ。最近多くね?」

「私も頑張って説得したんですが、「俺様に指図すんじゃねえ、クソガキ!」と怒られてしまいました。あの人怖いです・・・。」

「姫様よお、仮にも七魔戒将の長なんだからそこは力ずくでなんとかしろよ。」

「そういうのもよくないんですよ? それに・・・。」


シリウスと向かい合い、眩しい笑顔を見せる。


「それに私は、力ずくではなく心や言葉で通じ合いたいです。大きな力は悲しみと復讐の連鎖しか生みません。人間の皆さんともいつかは和解できる日が来ると信じています。」

「さすがです、姫。」


テスラドは無表情のままフラウの頭を撫でる。他人から見ると主人と従者というより、姉妹のようだ。


「ずいぶんご立派な理想だけど、姫様がそれ言うと説得力ないよな。」

「どうしてですか?」

「だって俺たち7人の中で一番強いんだぜ? 率いてる兵も一番多い。まさに力を体現してるようなものじゃねえか。」

「う・・・確かにそうですね。でも、私は信じたいです。私たちの中に眠る通じ合う心を。」


細い指がシリウスの胸に触れる。


「あなたの中にも・・・。」

「・・・あればいいけどな、そんな高尚なもんが。」

「ヒトとして生を受けた以上、きっとあります。」

「姫様、念のため言っとくがそれ絶対シャンメリには言うなよ?」


自分の胸に触れる手を掴み、下ろさせる。

フラウは首を傾げた。


「なぜです?」

「あいつは誰よりも人間を憎んでる。過去に色々とあったらしいからな。人間と和解だなんて冗談だとしても通じねえぞ。」

「私は本気です。彼女もきっと・・・。」


そう言いかけたフラウの言葉を遮ったのは、テスラドだった。


「シリウス、貴様いつまで姫に触れているつもりだ。さっさと離せゴミ虫が。」

「お前たまに口開いたと思ったらひでぇこと言うのな。」

「何人たりとも姫に危害を加えることは許さん。」

「わかった、わかったよ。そんなことより仕事の時間だ。」


シリウスが戦場と化した要塞に目をやる。


「やっこさん、そろそろ本気出してきたみたいだ。」

「私たちの軍が押されていますね。あれは重装兵でしょうか。あの鎧の紋章、どこかで・・・。」

「シェブールが世界を統治する前、隣国アスラムとの戦争において敵国の騎士団を壊滅させ多大な戦果を挙げた精鋭部隊、クラックヘルム重装兵団だな。この要塞に駐屯していたのか。」

「魔獣を放ちますか?」


自身の部下たちが巨漢の鎧兵たちに倒されていくのを見たシリウスは、口角を上げて不敵に笑った。


「いや、俺たちが行く。クラックヘルム重装兵団の団長、クラックヘルムはかなりの強さだって噂だからな。俺が直接潰してやるよ。」

「俺たちってことは、私も行くのか? 私には姫の護衛が・・・。」

「シャンメリ以外で姫様に勝てる奴なんているかよ。ほら置いてっちまうぞ。」


シリウスは白の魔力を身に纏うと宙にふわりと浮き、そのまま飛んで行ってしまった。わけのわからないまま置いてけぼりにされたテスラドは額に血管を浮かべる。


「・・・申し訳ありません姫。行ってまいります。」

「はい、行ってらっしゃい。」


テスラドもシリウスの後に続き、黒の魔力を身に纏って消えていった。


「なんだかんだ言ってもついて行ってあげるんですから・・・優しいですね、テスラドは。」


そう呟いた後、ふと辺りを見回してみる。


「・・・あれ? 私、もしかして敵陣でひとりぼっち・・・?」


フラウは唐突なアウェイ感に襲われた。




「魔族の雑魚兵など蹴散らせぃ! 我らクラックヘルム重装兵団の力を思い知らせてやれ!」


リーダー格の発する掛け声とともに重装兵たちは声を上げ敵を薙ぎ倒し、次第に士気を高めていく。その姿はまるで、小魚の群れを掻き乱し捕食する巨大鮫のようだった。


「おーおー、さすがに他の兵とは格が違うねぇ。」

「誰だ?!」

「誰だっていいじゃねーか。それより俺と遊んでくれよ。重装兵が1,2・・・だいたい10人ってところか。暇潰しくらいにはなるかな。」

「ふん、バカにしやがって・・・。」


他の兵よりも一際大きな巨漢がシリウスの前へ出た。


「我らクラックヘルム重装兵団に単身で挑むとは、命知らずもいたものだ。」

「さっきリーダー面して指揮を執ってた奴だな。お前らの団長はどこだ?」

「団長は忙しく、貴様などの相手をしている暇はない。代わりに私が貴様の息の根を・・・。」

「ふぅん、じゃあお前に用はねぇよ。」


まるで興味が無いようにそう吐き捨てると、シリウスの5本の指先から放たれた白く細いレーザーが、厚い鎧と屈強な体を紙のように貫いた。


「ば・・かな・・・!!」

「まさか、シドーさんが一撃で?!」


大きな音を立て、巨漢重装兵は仰向けに倒れた。


「あ、そいつシドーっていうの? まあどうでもいいけど。そんなに心配ならお前らも後を追ってあげな。」


シリウスのレーザーが重装兵たちの全身を串刺しにする。国の精鋭たちはものの数秒で血の海に突っ伏す肉塊へと変貌した。




要塞、南側。


「な、なんだこいつ・・・俺たちの攻撃が通じねぇぞ?!」

「バケモノだ、逃げろ!」


必死の形相で逃げ惑う重装兵たちを追い回すのは、全身に棘を生やした巨大な魔獣。ただ目の前の獲物を捕らえては食い荒らしていく。こちらも目も当てられない程の惨状、血の海だった。


「あの女だ! あの女がバケモノを使役しているに違いない! あの女を潰せぇ!!」


魔獣に追い回されていた重装兵たちは目の色を変え、一斉にテスラドへと襲いかかった。

刹那、地面から現れた黒い影に包み込まれた。


「なっ、なんだこれは?! 吸い込まれ・・・うわああああ!!」


その場にいた重装兵たちは暗闇の中に忽然と姿を消した。

テスラドは一仕事終えた魔獣をペットのように抱きしめ撫でてやると、辺りを見回し眉をひそめる。


「・・・妙だ。クラックヘルムがどこにもいない? まさか・・・。」




「シリウスさんもテスラドもまだでしょうか。こんなところで1人はちょっと寂しい・・・。」


フラウは1人座り込み、土に木の棒を滑らせてまるで子供の様に絵を描いていた。


「じゃーん、シャンメリ様の似顔絵~。うん、意外と上手く描けたかも。」


出来上がった絵はシャンメリの顔とは程遠い、おおよそ人の顔とすら認識できないレベルのおぞましい造形をしていた。フラウの美的センスは壊滅的だった。


「記念に残しちゃいましょう。あとはテスラドとシリウスさんの絵も・・・。」

「やはり、ここであったか。」


フラウの身体を大きな影が包み込んだ。振り向くと、重装兵団の鎧を身に纏った老兵が立っていた。自分の身長の倍の長さはある槍を持つ、歴戦の猛者の風格を放つ白髭の大男。


「わ、びっくりした。どちらさまでしょうか・・・?」

「儂の名はクラックヘルム。部下たちが大変世話になっとるようじゃのう。」

「あなたが重装兵団の団長ですね。1人でここまで来たのですか?」

「要塞プラウザーを一望できる場所といえばここしかないからな。主らを相手にした時点で勝敗は決しておった。ならば、部下たちに代わって一矢報いるのも長の役目じゃ。だがまさか、敵の指揮者が主のような若い娘だとは思わなんだ。」


クラックヘルムは槍を構えた。


「一矢報いる、か。すごいなあ・・・素敵な覚悟です。同じリーダーでも、私には真似できそうにありません。」

「主の名前を聞いておきたい。」

「私は魔界の軍勢を統率する7人の将軍、七魔戒将の1人にしてそのリーダーをしています。『神々の祝福』ウェンディフラウと申します。」

「なんと、主があの七魔戒将の長だったか。」


驚いた顔をした後すぐ、たまらなく嬉しそうな顔をする。その表情の変化は、戦いを好まないフラウには理解できなかった。


「主のような大物と戦って死ねるなら兵士として最高の誉れじゃ。相手にとって不足無し! 『巌突』のクラックヘルム、参る!!」

「・・・あなたの勇気は忘れません。」


辺り一帯は金色の光に包まれた。


兵は全滅したのか、やがて静かになっていった。要塞プラウザーは燃え続け、ただ黒煙を上げるだけの瓦礫の山と化していた。


「姫様終わったぞ。そっちも終わったみたいだな。」

「姫、お怪我はありませんか?!」

「おかえりなさい2人とも。」


シリウスとテスラドの帰還を迎え入れるフラウの傍らには、巨漢の老兵が横たわっていた。もはやただの屍となったその体には、外傷一つ見受けられない。


「こいつがクラックヘルムか。でっけぇじいさんだな。」

「えぇ、とても素晴らしい方でした。」

「なんだよ、何かあったのか?」

「いえ、なんでも。」


フラウは尚も煙を吐き続ける要塞へと向き直った。


「これでシャンメリ様の理想へと1歩近づきました。帰りましょうか。」

「姫、僭越ながら帰りは私がおんぶいたします。」

「いえ、怪我をしたわけでもないのにさすがにこの歳でおんぶは・・・1人で歩けます。」

「そうですか。」


わずかに残念そうな顔をするテスラド。


「過保護すぎだろうが。代わりに俺をおんぶしてくれよ。」

「死ね。」

「少しはオブラートに包むってことを学んだ方がいいぞ・・・。」


シャンメリと七魔戒将たちは少しずつ、しかし着実にシェブールの中心部へと侵攻を進める。

そして、彼らの進む先には・・・。





年末ですが、寒さに負けず投稿していきます。どうぞよしなに。

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