45話 エルレインと最強の3人
人気作家を騙るためだけにTwitterを始めようか迷っている今日この頃です。
「今日は何の本を借りようかな。」
私はギルド寮の1階奥にあるギルドマスターの部屋の前に立っていた。久しぶりに異世界の本が読めることに心が躍る。
小説はもちろんシェブールの成り立ちを描いた歴史書も勉強になるし、偉人の伝記も読んでいて面白い。
ノックする。
応答なし。
「留守かな?」
自分のカードキーを扉にかざす。ガチャリ、と音が鳴った。
「鍵開けっ放し? いないときはいつも鍵かかってるのに・・・。」
・・・入っちゃっていいかな?
怒られたりしないよね? マスターは変態だけどおっとりしてて優しいし。でも普段優しい人って、怒ると何するかわからないって何かの雑誌で読んだような・・・。それに勝手に入ったら不法侵入とかで訴えられるかも。
「でも今夜の読書タイムは捨てがたいし・・・あぁぁどうしよう!」
「地味子さんってけっこう独り言多いですよね。」
「うぎゃああああっ!!」
マスターの部屋の中から顔を覗かせていたのは、ギルドの事務担当兼コック兼ウェイトレスのエルーだった。
私のバカみたいな叫び声が寮全体に響き渡る。口から心臓が出るかと思った・・・。
「い、いい・・いつからそこに・・・?」
「地味子さんがマスターは変態だけど、って言ってたあたりからですね。」
「そこからもう声に出しちゃってたの私?!」
両親が仕事で海外に出てからずっと一人暮らししてたから、独り言のクセ付いちゃったんだよね。
「私、マスターに頼まれてお部屋の掃除してたんです。地味子さんは何の用でここへ?」
「マスターの本を借りに・・・ていうかエルーってそんなことまでしてるの? 本当に仕事しすぎじゃない?」
「ここの寮母でもありますし、お仕事が生きがいですから!」
さらっととんでもないこと言ったなこの人。
エルーの肩書が「事務担当兼コック兼ウェイトレス」から「事務担当兼コック兼ウェイトレス兼寮母」へと進化した。
物理的な危害を加えると豹変する「激怒メイド」のエルーだけど、仕事の猛烈な忙しさは彼女を豹変させないのだろうか・・・?
「もう掃除も終わっちゃいましたし・・・そうだ! 今から私の部屋に遊びに来ませんか?」
「エルーの部屋?」
「はい、いちおう寮母ですのでここに住んでるんです。」
そういえば、マスター以外の部屋に入ったことないかも。気になる・・・。
「それに紹介したい人もいますし、さっそく行きましょう!」
「あ、本だけ借りていくのは・・・。」
「本人の許可無しに部屋に入るのは御法度ですよ~。」
「ですよね・・・。」
そこはちゃんと寮母さんなんだね。
「ここが私の部屋でーす!」
バーン!みたいな感じで紹介されたのは私とアデルの部屋の真下、1023号室。中は案外あっさりとした部屋だった。基本的な家具にクローゼット、ドレッサーがある普通の部屋。
1つ違うところがあるとすれば、車椅子に乗った女の子がいたことだ。
「ん? エルー、その地味な子誰や? そんな友達おったっけ?」
関西弁?! すごい・・・すごい親近感! ジャパニーズランゲージ!!
「知らないのですか? 注目度ナンバーワンの新人、地味子さんですよ。」
「あー、確かアデルに勝ったって噂で聞いた気がするわ。凄いやん。ところで自分、なんでそんな輝いた目しとんねん・・・。」
「ほんとですね。どうしました・・・?」
おっと、いけないいけない。ついテンションが・・・。
異世界の訛りがたまたまそういう風に聞こえてるだけってのはわかってるんだけどね。
「紹介しますね。こちらは私のルームメイトで寮母代理のジャンヌさんです。」
「ジャンヌでええよ。よろしゅうな。」
「うん、よろしくね。」
ジャンヌは車椅子を動かし、私の目の前まで来て手を差し出した。私も中腰で目線を合わせそれに応える。
「黒髪に黒縁メガネ、特徴の無い顔・・・ほんまに地味やな。地味すぎて逆に目立つんちゃう?」
「初対面の相手にひどくない? 否定できないけど。」
「どうせアレやろ? アデルに勝ったってのも嘘やろ?」
「それは本当だよ! 変な力に助けられはしたけど!」
私たちはしばらくの間、自己紹介も兼ねてお喋りをしていた。
エルーによると、ジャンヌは元々ギルドの一員だったらしい。数年前の脚の怪我で引退しちゃったけど、実力は折り紙つき。
「現役時代はアデルさん並に活躍してたんですよ。今でも十分ギルド最強候補を狙えるすごい人なんです!」
「エルー、それは言い過ぎ・・・。昔ならまだしも今のこの脚でアデルやあのオッサンに勝てるわけないやろ。」
「オッサンって・・・あの人まだ27歳ですよ? マスターと同世代です。」
「27ってアラサーやん。ウチからしたらもうオッサンやわぁ。」
いきなり登場人物が1人増えた。
「あの、そのオッサンって・・・?」
「そういえば地味子さんは会ったことありませんよね。ギルド最強候補の1人で、私の兄です。」
エルーのお兄さんかあ。華やかで可愛らしいエルーに似た、イケメンの男の人が頭に浮かんだ。
ていうかギルド最強ってアデルだけじゃなかったんだ。アデル級の戦士があと2人いるって考えると・・・・・・うわ、すごい。すごい怖い。
「まあ、血も繋がってないですし歳も離れちゃってますけどね。」
これフクザツな家庭環境ってやつだ。そこはできるだけ話題に出すのやめよう。
「えっと・・・そのお兄さんってどんな人?」
「兄は基本自由人ですね。今もギルドに来ずにどこか遠い街でブラブラしてるんだと思います。強いのは確かですが。」
仕方ない兄とでも言うように苦笑いするエルー。兄妹仲は悪くなさそう。
「アデルよりも強いんちゃう?」
「うーん、どうでしょう。2人が戦っているところは見たことないですし、可能性はあるかもしれませんね。」
アデルより強いって・・・。
つい最近聖騎士団長のクライスと戦って怖すぎてチビりそうだったのに、なんでそんなに強い人が周りに溢れてるの。
本当はほんのちょっとだけチビったけどみんなには内緒ね。・・・って、誰に向かって言ってんだろ私。
「どのみち兄はしばらく帰ってきませんよ。まったく・・・せっかく私たちを拾ってくれたマスターに恩返しもせずにふらついているだなんて、妹として恥ずかしいです。」
「エルーはマスターに恩返しするためにたくさん働いてるんやもんな。」
「はい! いっぱいお仕事していっぱい恩返しするんです!」
マスターに拾われた・・・か。アデルも前に似たようなこと言ってたような。キトゥンも七魔戒将のスパーダと何かしら因縁がありそうだし、ヒューゴもそのキトゥンとずっと一緒にいる幼馴染。
そして私は異世界から転移してきた、シェブールの人々から見ると異界の住人。
「みんないろいろと訳アリなんだなあ・・・私含め。」
「地味子さん、何か言いました?」
「ううん、なんでも。」
「何ですかー? 気になるじゃないですか!」
エルーが頬を膨らませ、立ち上がり私へ顔を近づけてくる。
「何て言ったんですか? 教えてください!」
「そ、そんな大したことじゃ・・・。」
「それでも気になっちゃうタイプなんです! 教え・・・わっ。」
「・・・え?」
身を乗り出してまで私に顔を近づけていたエルーがバランスを崩した。
直後、私とエルーの鼻と鼻が強くぶつかり合った。そのまま後ろ向きに倒れ込む。
「いたた・・・ちょっとエルー、大丈・・・。」
「いてぇなコラ。」
「え、ちょっ・・・?!」
さっきまで営業スマイルばりの眩しい顔をしていたエルーが、眉間に皺を寄せ額に血管を浮かばせる。
やば、激怒モードだ・・・!
「おい地味女、宝探し祭り以来じゃねえか。」
「ひぃっ! お、お久しぶりでごじゃいまする!!」
恐怖のあまり日本語がおぼつかない。さっきまでの可愛らしいエルーは一体どこへ・・・!
「可愛い可愛いエルレインちゃんに怪我なんざさせて、生きて帰れると思ってんのか?! あぁん?!」
「ごめんなさいごめんなさい!!」
「謝って済むなら警備隊はいらねぇんだよ!」
ていうか私悪くないよね?! エルーが勝手に転んだだけだよね?!
当然そんなことなど関係ないとでも言うように、激怒エルーの踵落としが容赦なく私へ向かって振り下ろされる。
「そんくらいでやめとき。地味子怖がっとるやろ。」
「あぁ? 邪魔すんじゃねーよ車椅子女。」
エルーの強烈な踵落としを、ジャンヌは片手で防いでいた。ブーツの踵が私のすぐ目の前で止まっている。
一瞬遅かったら完全に終わってたかも、私の命・・・。
「今まで働いて稼いだ額よりもそうやって激怒モードで暴れて出した被害額の方が多いんやろ? そら働いても働いても足りひんわな。」
「ごちゃごちゃうるせぇよ! まずテメェからぶっとばす!」
「あぁそうやった。このモードの時は人の話ほとんど聞かへんのやったな。ほな、しゃーない。」
綺麗なアッパーがエルーの顎をまともに捉えた。身体を仰け反らせ真上に吹っ飛び、天井を軽々と破って上の階に突っ込んだ。
「な・・な・・・?!」
「あらら、やっぱり脚に力が入らんと半分の威力も出ぇへんなあ。」
「今ので半分以下?!」
最近はずっとアデルと一緒にいて感覚が麻痺してたけど、やっぱりこのギルドおかしい・・・!
今まで数多の屈強な男たちを病院送りにしてきた激怒エルーを瞬殺って・・・。
「とにかくこれでエルーも元に戻るやろ。天井の修理費はマスター宛にしておくとして・・・。」
「・・・おい。」
天井の方から恐ろしく低い声が聞こえた。これはエルーの声じゃない。
そういえば上の階って・・・。
「床が爆発したかと思ったらエルーが飛んできたんだが、お前たちそこで何をやっている・・・?」
声の主はアデルだった。
これは・・・どう見ても怒ってる。
「久しぶりやんアデル。元気しとった?」
「お前は元気そうだなジャンヌ・・・お前の元気が有り余っているせいで、さっきの衝撃で買ってきたばかりのサンティベルのぬいぐるみ限定Ver.が破れてしまったぞ。どう落とし前をつけてくれる・・・?」
アデルのファンシーグッズを傷つけてしまったらしい。普段どれだけ大切にしてるか知ってるから、どれだけ怒ってるかも大体想像がつく。
要するに・・・殺される。たぶん私も。
あ、どうしよう。脂汗止まんないんだけど。
「なんやそれ。可愛いんか?」
「可愛いだろう! ここの耳のもふもふ具合とかが特に!」
「ようわからんわ。また買ったらええんちゃうん?」
「これは限定Ver.だ! もう今頃売り切れて無くなっている・・・!」
「そっか、スマンスマン。」
このジャンヌの能天気な謝罪に、アデルは完全にブチ切れた。愛剣、ティルウィングを構え上から飛び降りてくる。
「そこになおれジャンヌ! 気が済むまで叩き斬ってくれる!」
「なんや、やる気か?! その喧嘩買ったるで!」
「ちょ、2人とも落ち着いて・・・。」
武器を持って戦うにはあまりにも狭い室内で、最強候補2人の戦闘が始まってしまった。何もできずに立ち尽くす私の目の前をティルウィングの刃が通り抜け、家具の破片が飛び交う。ジャンヌも車椅子とは思えない動きで攻撃をかわし、ギルド一の怪力女アデルと互角に渡り合う。
さっきまでごく普通のシンプルな部屋だった場所は、瞬く間に瓦礫の山へと化した。
「ら・・・最終戦争・・・。」
私は目の前の惨状に呆然としながら、最近読んだファンタジー小説で見かけたワードを呟いていた。
クリスマスイブまであと1週間ですね。皆さん予定は決まりましたか?
私は非リアの友達数人と居酒屋で傷の舐め合いです。




