44話 湯けむり悩殺事件
もうすぐ2016年が終わると思うと感慨深いですね。
読書納めはこの小説でどうぞ。
「温泉だあああー!!」
バスタオルを巻いたキトゥンが私の耳元で叫ぶ。雪山でもこんな格好してなかったっけ?
私たちは幸せの青い鳥の依頼を終えた後、村の旅館に宿泊することにした。景色のいい露天風呂が魅力の歴史ある旅館らしい。しかも宿泊費はエルマンさん持ち。
確かに露天風呂の景色は最高だった。
目の前一面に白銀の世界が広がっていて、高くそびえ立った雪山も迫力満点だ。
「ほかに宿泊客もいないから実質貸切状態ね。」
「贅沢だよね。アンジェ、羽の怪我は大丈夫?」
「あ、やば・・・湯船に浸かったら沁みるかも。」
傷をお風呂に浸けた時の痛みを想像して顔を強張らせるアンジェ。子供みたいで可愛い。
「ひぃちゃんも一緒に入ればよかったのにー。」
「いやいや、ここ女湯だからね。」
「ボクは気にしないのに・・・あれ? アデルちゃんは?」
そういえばアデルの姿が見えない。
「呼んだか?」
「あ、アデル。一体どこ行って・・・・・・ん?!」
美しく豊満なボディをバスタオルで包んだアデル。
そのアデルに首根っこを掴まれ吊るされているのは、ヒューゴだった。
私とアンジェは慌てて体を隠す。ヒューゴも顔を赤くしながら見えないように目を両手で覆っていた。
「ちょっ・・・どうしてヒューゴがここにいるの?!」
「どうしてって、せっかくの露天風呂だ。みんなで入りたいだろう?」
「ここ女湯だってば!」
それに男の人とお風呂だなんて・・・!
「なんでキトゥンもアデルも平気なのよ!」
「ボク一緒に住んでるし気にならないよー?」
「仲間なんだ、このくらいのスキンシップは当然だろう。」
この人たちどうかしてる・・・。
ていうかキトゥンとヒューゴって一緒に住んでるんだ。いくら幼馴染っていっても、すごいな・・・。
「わ、悪ぃ地味子ちゃん・・・今すぐ出て行くから。アデル、いい加減離せって!」
「風呂には入らんのか? 今日一日戦いっぱなしだったし、疲れ取れるぞ?」
「普通に男湯に入るわ!」
「まあそう硬いこと言うな。よーいしょっと!」
「え、何して・・・うぉわあああっ!!」
アデルは掛け声とともに、ヒューゴを力づくで湯船へ投げ飛ばす。
ヒューゴは弧を描き宙を舞った。
・・・ていうか、私の方へ飛んできてるんだけど?!
「ちょっ、危・・・!」
「ぎゃああああ!!」
ヒューゴは湯船へ・・・というか、私へとダイブした。怪我したらアレだし、ちゃんと受け止めてあげるべきだっただろうか。
「いてて・・・ん? なんだこれ、柔らかいな。」
ヒューゴの声がすごく近くで聞こえる。湯気が立っていてよく見えない。なんだか胸に圧迫感が・・・。
「ひっ・・・?!」
ヒューゴの顔が、私の谷間に・・・!!
「いやああああ!!」
「ぐほぁっ!!」
私は一瞬我を忘れ、気が付けばヒューゴの顔面を思い切り殴り飛ばしていた。
「ご飯だあああー!!」
「キトゥンうるさい。」
「えっ、あ・・・ごめん地味子ちゃん・・・。」
お風呂から上がると部屋には豪華な夕飯が準備されていた。霜降りのお肉に魚のお造りなど、高級そうな料理がテーブルいっぱいに並んでいる。料亭って感じの料理なのに、やっぱりお米は無い。たまに忘れそうになるけどさすが異世界。
誰もがテンションのあがる光景を目の前にして、私はというと・・・。
膨れていた。
「地味子、そろそろ機嫌を直してはくれないか・・・?」
「そうよ、ちょっと大人げないと思うわ。それほど大きくもない胸触られたくらいで・・・ぷふっ・・。」
「だって、男の人に触られたの初めてだもん・・・。」
ヒューゴとアデルはともかく、ずっと笑いっぱなしのアンジェはもう一生許さない。
「ほら地味子ちゃん、機嫌直そ? ボクのお刺身あげるからー。」
「嬉しいんだけど、それはキトゥンがお魚嫌いなだけでしょ。」
「・・・バレたか。」
「まあ、ありがたくもらうけど。」
猫耳なのに魚が食べられないなんて、なんだかチグハグ。
4人でテーブルを囲み料理をつついていると、私はようやく1人足りていないことに気付いた。
「そういえばセクハ・・・じゃなくてヒューゴは?」
さっきから見当たらない。
「あんた今セクハラ野郎って言おうとしたでしょ・・・。あいつなら隣の和室で寝かせてるわよ。思いっ切り殴られてからずっと気絶中。」
「そっか・・・ちょっとやりすぎちゃったかな。後で謝らないと。」
「それはそうと、地味子さあ。」
「何?」
アンジェが私の肩によじ登り、耳打ちしてくる。
「ヒューゴってさ、あんたのこと好きなんじゃないの?」
「・・・へ?」
この言葉に過剰に反応したのは私、そしてキトゥンだった。アデルも食べるのをやめ興味深そうに耳を傾けてくる。
「へぇ、そうなのか? よかったじゃないか。」
「ちょ、ちょ・・・ちょっと待って! どうしてそうなるの・・?」
アンジェは私の反応が面白いとでも言うように顔をニヤけさせる。うわぁ、すっごいムカつくんだけど。
「なんか宝探し祭りの日からヒューゴの地味子に対する目つきが変わった気がするのよね~。料理対決した時もやけにひいきしてたし。」
「確かに料理は褒めてくれたけど、でもだからって・・・!」
自分の顔が熱くなってくるのがわかる。たぶん、けっこう赤くなってると思う。本当かどうかわからないとはいえ、恥ずかしいというか照れるというか・・・よくわからないけどとにかく落ち着かない。
「ねぇアンちゃん、それ本当?」
キトゥンは怖い顔でアンジェに迫る。
「ど、どうしたの? 今までにないくらい迫力ある顔になってるわよ? 眉間に皺が寄りまくってるわよ・・・?」
「ひぃちゃんが地味子ちゃんのこと好きって本当?」
「え、た、たぶん・・・。」
「・・・・・・地味子ちゃん!」
今度はその顔のまま私に迫る。怖い怖い怖い・・・。
「い、言っとくけど・・ボクはひぃちゃんと10年以上一緒にいるんだからね! 同じ家に住んでるしご飯も一緒に食べるし、寝る部屋だって一緒なんだからね!!」
「あ、えっと・・なんかゴメン・・・。」
謝る意味はわからなかったけど、とりあえず謝った。
「なんか唐突に三角関係が生まれたわね。発端は私だけど。」
「演劇みたいでわくわくするな。」
「しないでよ・・・。」
晩ご飯を食べ終えてから2時間後、私は1人で旅館の庭を散歩していた。
地面は石畳で覆われていて両サイドは背の高い木々に囲まれている。しばらく進むと小さな池に橋がかかっていて、鯉ではないけど魚もいた。
日本庭園を連想させる趣のある風景に心癒された。
「・・・アンジェの言ってたこと、本当なのかな。」
ヒューゴってさ、あんたのこと好きなんじゃないの?
その言葉が頭の中で無限ループし、自分で自分を羞恥心の渦へと引き込んでいく。
「何考えてんだろ私・・・そんなことあるはずないのに。」
彼氏ができたことはおろか告白されたこともない。当然、したことも。
「キトゥンの言う通り2人がくっつけばいいんだよ。ずっと一緒にいるんだしキトゥンの方が可愛いし胸もデカいし。いやいや、もしかしたらヒューゴは巨乳嫌いって可能性も・・・って本当に何考えてんだ私!」
冷たい風の吹く夜空の下、1人頭を抱えて悶える。
恋愛とかそういうのよくわかんないし、もういいや。
料理を褒められたとき、嬉しかったなあ・・・。
「地味子ちゃん、1人で何やってんだ?」
「わっ、びっくりした・・・ヒューゴ?」
いつの間にか後ろにはヒューゴが立っていた。さっきの見られたっぽい。
「その服、制服って言うんだっけ? それだけじゃ寒いだろ。はい。」
「あ、ありがと・・・。」
上着をかけてくれた。優しい。
私たちは近くにあったベンチに腰かける。
「こんな時間に散歩?」
「うん、ちょっと眠れなくて。ほかの3人は疲れてたみたいでもう寝ちゃった。」
アデルはキトゥンに抱きつかれて寝苦しそうだった。
眠れない理由は2つ。1つはクライスと戦った後、夢の中で起きた出来事。彼女は自分が神様だと名乗った。会話の内容も一言一句覚えてるし、妙にはっきりとした夢だったなあ・・・。
あの夢が現実だとしたら、神様の言ってたことが気になる。
ギルドに裏切り者・・・本当なのかな。正直信じたくはないけど気になって眠れない。
もう1つは・・・・・・。
「ん? 俺の顔に何か付いてる?」
「いや、別に・・・。」
やっぱりアンジェの言葉がどうしても頭から離れない。なんでこんなに意識しちゃってるの私?! さっきの温泉の件もあってご本人登場みたいな状況でちょっと気まずいんだけど!
この静寂をどうにかしようと話題を探して口を開く。
「あ、えっと・・・さっきは殴っちゃってごめんね?」
「全然気にしてないよ。元凶はアデルだし。」
また静寂。私はヒューゴの横顔をちらりと見る。
顔赤くなってる・・・やっぱり寒いのかな?
「ヒューゴってさ、キトゥンと一緒に住んでるんだよね?」
「あぁ、そうだな。」
「異性と一つ屋根の下で暮らすってどんな感じなの?」
なんか変な質問しちゃった。
「うーん・・・きぃを異性として意識したことはあんまり無いかな。幼馴染だし家族みたいなもんっていうか、俺にとってきぃは親みたいな感じだし。」
「え・・親? それってどういう・・・。」
「まあ、昔いろいろあってな。」
妹とか姉とかじゃないんだ。親・・・なんだか複雑な関係そう。
「寝るのも一緒なの?」
「・・・きぃがどうしてもって聞かなくて、仕方なく。あいつ毎晩寝たまま抱きついてくるんだよなあ・・・。」
「あはは、キトゥンの方が子供みたいだね。でも今日はアデルにくっついてるし、抱き枕ヒューゴの出番は無しかな。」
私はいつもアンジェと寝てるし今日も2人で1つの布団だからいいんだけど、ヒューゴはどうなんだろう。
急に1人で寝ることになったら寂しいものなのかな。いやいや、ヒューゴは子供じゃないんだから。でもキトゥンのこと親みたいなものって言ってたし、やっぱり・・・。
「今日は私が一緒に寝てあげよっか?」
・・・。
・・・・・・ん?
私今とんでもなく誤解されそうなこと言わなかった?
「な、何言ってんだ地味子ちゃん・・・?!」
「あっ・・ち、違うの! なんか口が勝手に動いたというか、ヒューゴ1人じゃ寝れないんじゃないかなって思ったというか・・・! とにかく口が勝手に動いたの! 私の意志とは関係なく!!」
疲れで頭がおかしくなってるのかな。これじゃあ私ただのド変態じゃん・・・。
「ぷっ・・・あはははっ! やっぱ面白いな地味子ちゃんは・・腹痛い・・・!」
「わ、笑わないでよ! 本当に口が滑っただけで、本心ではこれっぽっちも思ってないからね! 一緒に寝たりなんかしない! 今日私廊下で寝る!」
「いや、布団は人数分あるんだからそこは普通に寝ろよ。さ、風邪ひくといけないしそろそろ戻ろうか。」
変なこと言っちゃったせいで顔が熱い。恥ずかしくて心臓バクバクしてるし、もうだめ・・・今夜は寝れそうにないよ・・・。
これが眠れない要因3つ目に加わり、結局私は朝日が昇るまで目を閉じることすらできなかった。
最近1話投稿するあたりのアクセス数が増えてきて嬉しい限りです。
この小説を読んでくださっている全ホモ・サピエンス達に感謝を捧げます。




