39話 幸せの青い鳥 ⑪
のんび~りといきます。
亀並の進行速度ですがお許しください。
エミリエットの相手はキトゥンとヒューゴがしている。私とアンジェでしっかり役目を果たさないとな。私たちの相手は聖典騎士団団長、『雷霆』のクライス。
「アデル、あんたなら勝てるんじゃないの? さっさと倒しちゃってよね。」
「かもしれないな。だがもう青い鳥はいない。問題は全て解決したんだ・・・私はこれ以上の被害は出したくない。地味子ならやってくれるさ。」
「あんたも大概甘っちょろいわよね。」
溜息をつくアンジェ。以前から思っていたがアンジェは私に対してだけ当たりがきつい気がする。気のせいだろうか。
「なんだ、手伝ってくれないのか?」
「・・・私が守るのはあくまでも地味子よ。そのためにあんたを手伝うの。勘違いしないでよね。」
「あぁ、それでいい。」
思えば、地味子とアンジェはどういう関係なのだろうか。
以前聞いたところによると、2人が出会ったのはギルドにやって来るつい数日前らしい。それなのに2人はただの友人とは違う不思議な絆で結ばれているように見える。
後夜祭で見たアンジェの涙とそれに応える地味子。
2人を繋ぐ、お互いを想う強い愛情。
「本当に不思議だ・・・。」
アンジェだっていつも憎まれ口を叩いているというのに。
「ちょっと、こんなときに何ぼーっとしてんのよ! あんたがそんなんじゃあ勝てるものも勝てなくなっちゃうでしょ!」
「あぁ、すまん。」
「しっかりしてよね。」
「無駄口を叩くとは、余裕だな・・・雷霆の宝剣。」
クライスの手元に雷が落ち、鋭い長剣を形作る。
「アンジェ、下がれ!」
「遅い!」
クライスの剣閃をティルウィングが受け止める。
速い、しかも重い・・・!
「さすがだなアデル。魔力無しでこの俺と対等に渡り合える相手は久しぶりだ。だがな・・・。」
上空に暗雲が立ち込める。
しまった・・・! クライスは自身とは別に独立した魔力を扱える。私がこうしてクライスに気を取られているうちに・・・。
「お前たち2人はともかく、あのメガネ娘に力を使われては厄介だ。先に倒させてもらう。」
「地味子!」
「無駄だ、雷霆の鉄槌!!」
巨大な落雷が地味子に降りかかる。
直撃したかと思った瞬間、水色の膜のような物に阻まれ雷は辺りに散らばった。
「きっつ・・・! 魔力どんだけよ・・・。」
アンジェの張った防御スキルが地味子を包み込んでいた。
さすがアンジェ、やる時はやるようだ。
当の地味子は・・・。
・・・・・・?!
「あらら、随分と信頼されちゃってるわね、私。」
今の巨大な落雷に驚いていると思っていたが、意外だった。
地味子は自身の力を解放することに集中していた。目を瞑り、こちらの状況には見向きもせずに。
本当にこの2人の信頼は厚いらしい。
それにしても、クライスの落雷を止めるとはかなり練度の高いスキルだな。
「防いだか。ならばもう一度撃つまでだ。」
まずい、クライスはアンジェが力尽きるまで雷を落とすつもりだ。このままでは・・・!
「アンジェ! 無理はするな!」
「バカ。あんたが私の心配してどうすんのよ・・・いいから地味子のことは私に任せて、さっさとそのビリビリ野郎を倒してきなさい!」
「だがそれでは・・・。」
アンジェはため息をついた。な、なんでそんなに不機嫌なんだ・・・?
「言っとくけど、地味子はあんたのことも信頼してるんだからね。だから自分のすべきことに集中できるの。それなのに頼りのあんたがそんなことじゃ困るわよ。」
「私も・・・?」
「当然でしょ、仲間なんだから・・・って、私の口からこんなこと言わせないでよ! 恥ずかしいじゃない・・・。」
・・・そうか、私はただ勘違いをしていただけだ。
私の役目はそんな2人を守りながら戦うことだと思っていた。重い役割だと。
でもそれは違った。
アンジェが地味子を守り、地味子は力の解放に集中している。
そして何より、2人は私のことを信頼してくれている。
ならば私の役目はただ1つ。クライスを倒すことだ。
「あぁ、悪い。もう大丈夫だ。」
「ふん、ならいいけどね。」
私はティルウィングを握りしめ、クライスの持つ雷霆の宝剣を両断する。
「何・・・?!」
「私は私のやるべきことを、だな。」
掌底がクライスの腹部を捉えた。
「ごはぁっ・・・!」
クライスの身体はくの字に折れ曲がり、何本もの樹氷を突き破って雪の壁に激突した。手応えはあった。
信頼しろ、ただし期待はするな。
地味子ならできると信じている。それでも、私がクライスを倒すつもりで戦う。
お互いがお互いを信じ、自分のやるべきことをする。この信頼関係は、それでこそ真価を発揮する。
「立てクライス。少しお灸を据えてやる。」
「・・・・・・。」
クライスは静かに立ち上がり、金槍ブリッツシュラークを地面へと突き刺した。
彼は武器を手放した。しかし、戦いを放棄したわけでないことはすぐにわかった。
雷の魔力がこれまでにないほど増幅していく。これはまさか・・・!
「ブリッツシュラークは俺の魔力を纏っても砕けない特殊な金属でできているんだ。」
「突然何を・・・。」
「通常の武器よりも遥かに重くてな。扱いやすくて気に入っているんだが、これを持ったままでは本来のスピードが出せない。」
何を言っているんだ・・・?
そう考える時間は無かった。突然姿を消したクライスは、私ですら反応できない程の速度で私との距離を詰めていた。
腹部に鈍い衝撃。直後の激しい嘔吐感。
お返しと言わんばかりの掌底だった。しかも膨大な雷の魔力を纏った。
「・・・っ?!」
全身が痺れ力が抜ける。
私はその場に崩れ落ちることしかできなかった。
「ギルドの戦闘員程度で俺を止められると思ったか? しばらくそこで寝ていろ。」
クライスは私を一瞥し見下ろした後、まっすぐに地味子の元へと向かっていった。あまりの痛みと痺れで体を動かすことはおろか、声も出せない。
このままでは・・・アンジェ、地味子・・・。
「地味子には指一本触れさせないんだから・・・!」
アンジェが道を塞ぐ。
ダメだ。地味子を連れて逃げろ・・・!
「大人しくそこをどけ。そうすれば危害は加えない。」
「・・・2人で逃げ切るのは無理だってわかってる。だからって地味子を置いて行くのは死んでもお断りよ。」
「それは残念だ。こんな小さな命にも手をかけねばならないとはな。」
クライスが魔力を解放し、アンジェが防御スキルを展開する。雷魔法はバリアに行く手を遮られ明後日の方向へ弾き返される。
「頑丈な防御壁だな。だが、いつまで持つかな。」
アンジェの下の地面が金色に光り出す。あれは・・・!
「雷霆の旭日!」
地面から雷が空を突き上げる。なんとか反応し直撃は避けた、が・・・。
「うっ・・・?!」
羽に掠っていた。色鮮やかで綺麗な妖精の羽が傷つき、空中でバランスを崩す。その隙をクライスは見逃すはずがなかった。
「終わりだ・・・雷霆の囲繞。」
小型の雷雲がアンジェを取り囲み、体を小針のような雷が貫いた。
「あぐ・・っ・・・!」
小さくも多くの魔力が凝縮されたその雷はアンジェの全身を駆け巡る。その小さな体は痺れフラフラと宙を漂った後、地面へと落ちた。
そのまま、ピクリとも動かなくなってしまった。
私は自身の力不足を悔やんだ。私にもっと力があればこんなことには・・・。
こんなことには・・・!
「・・・・・・アンジェ?」
力の解放に集中していた地味子が、目を開けた。
自分のピンチには一切動じもしなかった地味子は、アンジェが・・・大切な親友が傷ついたことによりその集中を解いた。
地味子、頼む・・・逃げてくれ!
「ようやく気付いたか。もうお仲間は2人とも戦闘不能。あとはお前だけだ、メガネ娘。」
「アデルに・・アンジェに・・・何をしたの?」
なんだ・・・? 地味子の様子が変だ。
「私の大切な人たちに何をしたの・・・!」
「もう諦めろ。その不思議な力も使えないのでは俺には到底・・・。」
「何をしたのかって聞いてんだよ!!」
地味子の身体が再び白い光に包まれた。しかも、過去2度見たどちらの光よりも強い、思わず目を覆ってしまうような光。
「まさか、これは・・・!」
「あなたがどれだけ強いとかもうそんなことどうでもいい・・・。」
仲間の危機に潜在していた力が反応したということか・・・これが『奇跡の少女』。
仲間を想う心が運命を変え、奇跡を呼び起こす。
少し不本意だが、文句は無い。
地味子、あとは頼む・・・。
「あなたの魔力は私が掌握してみせる。操ってみせる。どれだけあなたが強くても、私が絶対に止めてやる!!」
いつも読んでくださる方たちには私から永遠の感謝を捧げます。




