32話 幸せの青い鳥 ④
今から過去に類を見ない程凄まじくどうでもいいことを言いますが、バイト始めました。
前回のあらすじ。
アデルは頭おかしかった。
雪と風が吹き荒れる夜の雪山で、私たち5人は巨大なシロクマの魔物、ツンドラベアに囲まれていた。
「5、6・・・7頭もいるじゃない! どうすんのよ、1人1頭相手しても足りないわよ!」
「わかった、なら私が5頭倒そう。残りの2頭はお前たち4人で頼む。」
「アデルちゃんそれ配分おかしくない?!」
「でも、俺たちとしてはそうしてくれた方がありがたいな。やるぞ、きぃ。」
私とアンジェ、キトゥン、ヒューゴでツンドラベアを2頭。レッドウルフやお祭りで見た巨獣以上の、人間を相手にしたときの余裕。今までの魔物たちとは違う、私にもわかるくらいの別次元の強さ・・・。
「ねぇ、これ勝てるの・・・?」
「なんとかするしかねぇよ。」
「だよね・・・。1人で5頭だなんて、アデルは大丈夫なの?」
「過去にあいつはツンドラベアの上位種、マザーベア10頭相手に死ななかった。問題ないだろ。」
さすがアデル。私が心配する理由はどこにもないみたい。
「そんなことよりどうすんのよ! 4人つったって私と地味子は戦力としては居ないも同然よ?!」
「ちょっ、しれっと戦力外通告しないでよ! 私だって戦えるもん!」
私は買ったばかりの銃を取り出した。威力が高くて初心者にも扱いやすい最新型のすごい銃。って武器屋のおっちゃんが言ってた。
使い方もちゃんと覚えて弾も込めてあるし、もちろん予備の弾も鞄に詰め込んである。準備は万端! 完璧!
「あー・・・その銃じゃあ20発撃ってもツンドラベアは倒せないな。」
そんなふうに考えていた時期が私にもありました。
結局、キトゥンとヒューゴがツンドラベア2頭相手に戦闘を始めてしまった。私とアンジェを置いてけぼりで。
魔法の炎が燃え盛り周囲の雪を溶かし、魔力の銃弾が複雑に行き交う。以前にアデルとシリウスが戦った時と少し似ている。つまり、私が立ち入る隙が無い完全な蚊帳の外状態だ。
「でも、今回あんたには銃があるじゃない。それでなんとかできないの? 倒せなくても足を撃って動きを止めるとか・・・。」
「この距離で撃ったら2人に当たりそうな予感がプンプンするの。」
「そういえば命中率ひどいわよね。」
大人しく見学中。
今のところ2人が押しているように見えるけど・・・。
「アンジェこそどうなの? 防御スキルとか使えるし戦力になれるんじゃないの?」
「お腹が空いて力が出ないのよ。」
「ごめん、ちょっと何言ってるかわかんない。」
その言い訳2人が聞いたら怒りそう。
「にゃうっ!」
突然猫のような呻き声が聞こえた。キトゥンがこっちに向かって、正確に言えば真っ直ぐ私に向かって吹っ飛んできた。
「うわわ・・地味子! ちゃんと受け止めなさいよ!」
「えぇっ?! アンジェも手伝ってよ!」
「無理! 猫耳がある分重いもの!」
「そんな変わらな・・・おぶぅっ!!」
私は見事キトゥンの体を受け止めた。顔面で。
「いたたた・・・あれー? お尻の下に何か温かいものが・・・って地味子ちゃん?!」
「むぐ・・・!」
ナイスキャッチ私。
キトゥンのお尻は大きくて柔らかかった。
「ボクが戯れのラヴリィウィップで動きを止めるから、ひぃちゃんと地味子ちゃんで攻撃して!」
「うん、わかった!」
参戦することになってしまった。まあでも、このまま何もせず見物してるよりはずっといい。
「あいつを捕まえて! 戯れの猫尾!!」
キトゥンの指先から伸びる炎の鞭が1頭のツンドラベアの巨体をぐるぐる巻きにした。炎が苦手なのか、あまり激しく抵抗はしない。これはチャンス。
「いくよ・・・どぉりゃああああっ!!」
おおよそ女の子らしくない掛け声とともにツンドラベアの1頭が上空へと放り投げられた。
「これで仕留める、双天翔・辻風!!」
ヒューゴの二丁拳銃、双天翔から竜巻状の魔法弾が放たれる。
私も負けじと銃を構え弾が切れるまで何度も撃った。命中したのは6発中3発。うーん、まあまあかな。
魔力の辻風に巻き込まれたツンドラベアはそのまま雪煙を巻き上げて地面へ落ちた。
「よし、あと1頭!」
「あれ・・・これ私撃つ意味あんまり無かったんじゃ・・・?」
この銃けっこう高かったんだけどなあ。
「地味子ちゃん、危ない!」
「えっ・・・?」
キトゥンの次に私に向かって飛んできたのは、大きな氷柱状の氷の塊。
これは・・・もう1頭のツンドラベアの背中のトゲ?!
やば、避けられない・・・!
・・・・・・!
・・・・・・。
・・・あれ?
「まったく、戦場なんだからぼーっとしないの。」
「・・・アンジェ。」
巨大なトゲはアンジェの創り出した防壁に跳ね返され粉々に砕けた。
また人に助けられてしまった。こういうところで自分の成長してない具合を痛感する・・・。
背中のトゲを失いただのシロクマと化し不意打ちも通じないと踏んだツンドラベアは、逃げようと私たちに背を向け走りだした。
「アンちゃんナイス! あとはボクにまかせてー!」
キトゥンが両腕に炎を纏い後を追いかける。
「地味子ちゃんを傷つけようとしたんだから絶対許さないよ! 待てー!」
「きぃ、単独行動は・・・!」
ヒューゴがそう言いかけたのも虚しく、キトゥンはもう見えないところまで行ってしまった。さすが獣人、走るの速い・・・。
「この暗さと吹雪の中1人でいるのはマズい、追いかけよう!」
「わ、わかった!」
しばらく走ると樹氷の森が目の前に姿を現した。
風の音に紛れて聞き取りづらいけど、キトゥンの声はこの奥から聞こえる気がする。ただ、なんだろう・・・どこか叫び声に近いような。
「うひゃあああっ!! ひぃちゃん助けてぇぇぇ!!」
キトゥンの大きな声、そんなに遠くない!
「ちょっとヒューゴ、今の声ヤバいんじゃないの?!」
「急ぐぞ!」
幻想的で綺麗な樹氷の間をすり抜けて声のした方へ走る。
しばらくすると、先頭を走っていたヒューゴが何かにぶつかって尻餅をついた。
「おわぁっ! な、なんだ・・・?!」
「何よこれ、なんでこんなところに壁があんのよ・・・。」
目の前にそり立つ白い壁。樹氷? でも毛皮みたいなものに覆われてるような・・・?
違う、これは壁じゃない・・・!
「これ、ツンドラベアだよ! しかもさっきのやつらより3倍は大きい!」
ヒューゴがぶつかったのはツンドラベアの足だった。トゲを失くし逃げて行った小さなツンドラベアは後ろに隠れて私たちを威嚇している。いや、小さくはないんだけど。
それにしても、何このありえないサイズ?! さっきのでも十分凶悪だったのに・・・!
よく見るとこの巨大ツンドラベアはキトゥンの片足を掴み顔の前に持ち上げていた。宙吊りのキトゥンは顔を赤くしめくれそうになるスカートを必死に押さえている。けど、チラッと見えてる。白だ。
「は、早く助けてぇぇぇ!」
「こいつは・・・マザーベアか!」
マザーベアってまさか、さっき言ってたツンドラベアの上位種?
「わ、私アデルを呼んでくるわ!」
「アンジェお願い!」
アンジェは慌てて走ってきた方向を高速で飛び戻って行った。
こんなに大きい魔物、私とヒューゴだけで相手できるのかな。アデルが来るまでせめて時間稼ぎを・・・。
「って、あれ・・・?」
その巨体から繰り出される攻撃力で襲いかかってくる・・・と思っていたら、方向を変えてキトゥンを掴んだまま走り出した。
「ちょっ、ボクをどこに連れて行くつもりなの?! !!」
「きぃ! おい待て!」
その速さは巨体からは想像できないほど速く、あっという間に見えなくなってしまった。私とヒューゴは何もできないまま取り残される。
「ど、どうするのヒューゴ・・・?」
「もちろん追いかける!」
「でも、アデルが来るまで待った方がいいような・・・。」
私だって今すぐ助けたいけど、2人で戦っても勝ち目はほぼ無いと思う。私あんまり戦力になれないし。
「それはダメだ。マザーベアはエサを捕まえると何よりもまず、それを自分の寝床に持ち帰る習性がある。」
「それって・・・。」
「このままじゃきぃのやつ、食われるぞ。」
「早く探しに行こう! 今すぐ!!」
私たちはマザーベアの去った方向へ走りだした。
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「今のは・・・マザーベアか?」
鎧を纏った金髪の青年騎士は、雪で覆われた崖の上からマザーベアが走り洞窟へ入って行くのを目にしていた。
「女の子を捕らえていたが、一体・・・。」
「隊長、どうしました?」
後ろから部下らしき少女騎士が不思議そうに話しかける。
「・・・エミリエット、お前たちは引き続き幸せの青い鳥の捜索を続けていろ。すぐ戻る。」
「え、ちょっと・・・隊長! どこ行くんですか?!」
青年騎士はそう言い残すと、崖から飛び降りた。その右手には刃が金色に輝く美しい大きな槍。
「いくぞブリッツシュラーク。『雷霆』の力を見せてやろう。」
ありがとうございました。
ぼちぼちとのんびり行きます。




