29話 幸せの青い鳥 ①
またちょっと長めのお話が始まります。お付き合いいただければ幸いです。
「うぇっぷ・・・気持ち悪ぅい・・・。」
ミツバの町から遠く離れ、別の町の郊外。
お仕事の話を聞くため私とアンジェ、キトゥンにヒューゴ、そしてアデルは依頼主の家へと向かっている。
ガタガタと揺れる馬車の中、振動がお尻から頭まで突き抜けるのを感じながら片道8時間の道のりを過ごしていた。
出発前に食べた20人前スイーツ+馬車の揺れのコンボが胃の中をぐるぐると掻き回し体調不良に拍車をかける。
私ではなく、アンジェの。
「地味子、なんであんた平気なのよ・・・。」
「揺れる乗り物は慣れてるからね。中学も高校もバス通学だったの。」
「いっそのこと飛びながら馬車について行こうかしら・・・でも疲れるし。」
「吐くなら外でお願いね。」
私の肩に座ったまま吐き気を訴えるアンジェは、馬車が動き始めてからずっと俯いたまま口元を押さえている。顔も真っ青だ。
「それにしても、あのフラウって子可愛かったよね。私またあの可憐で眩しい笑顔が見たいかも・・・。」
「えぇ、確かに・・良い子だったわね・・・うっぷ。」
「誰だ、そのフラウというのは?」
私の隣に座っていたアデルが尋ねてきた。あの夜以来、私とアデルの距離は本当に縮まった気がする。こうやって仲良く隣同士で座ったりとか。それにしても改めて近くでアデルを見ると、未だにちょっとドキドキしてしまう。
やっぱりすごい美人さんだなあ・・・。
「さっきケーキ屋さんで仲良くなった女の子だよ。人見知りだった今までの私では考えられない、素敵な出会いだったよ~・・・。」
「そ、そうか・・・見たことないくらい顔が緩んでるな。」
私たちの向かいに座っているキトゥンとヒューゴはというと。
「おぶ・・もう馬車には乗らねぇ・・・。」
「ひぃちゃんって相変わらず乗り物に弱いよねー。」
アンジェと同様だった。
「しっかりしろヒューゴ、それでも男か。」
「馬車酔いに男も女も・・・おぅふ。」
ヒューゴは馬車から顔を出しぐったりしていた。もう、情けないなあ。
キトゥンも慣れているのか、背中をさすったり水をあげたりと手際が良い。
「幼馴染っていうか親子みたいだね、2人とも。」
「えー、こんな大きい子供いらないよー!」
「俺だって不本意・・・うっぷ。」
介抱中のキトゥンが、私が腰に身に着けていた武器に気付く。
「地味子ちゃん、武器変えたの?」
「うん、ちょっとね。やっぱりナイフだけじゃ頼りないから。」
私は制服の上からベルトを巻き、腰に銃と使い慣れた護身用ナイフを差している。銃は今日の為に練習してきた。命中率はお察しの通り。
護身用ナイフはもう封印するつもりだったけど何度も私の身を守ってくれた武器だし、捨てるには愛着が湧いてしまったみたい。
それを見たアデルは何故か表情を曇らせた。
「もしかして、祭りの時に私が言ったことを気にしているのか・・・?」
「い、いや・・・そんなことないよ?」
本当は少し気にしている。
お祭りの終盤でアデルに言われたことがまだ少し胸に刺さったままだ。正直ちょっときつかったけど、そんなことで立ち止まっていられないし。
それにこんな申し訳なさそうに委縮されると何も言い返せないよ・・・。
「あの時はその、少し気が張ってて神経質だったから・・すまない・・・。」
「そ、そんな顔しないで! 私は大丈夫だから!」
「ちょっと、2人とも何があったの? 喧嘩はだめだよー。」
頭を下げて謝るアデル。逆に申し訳なくなる私。私たちを交互に見て首を傾げるキトゥン。
「別に無理には聞かないけどー・・・。それにしても、アデルちゃんって本当に表情豊かになったよねー。」
「そうか? 自覚は無いが。」
「シリウスがいなくなってから心配だったけど、最近はよくぬいぐるみ屋さんにも通ってるみたいだし、元気になってくれてよかったよー。」
「また戻ってきてくれるといいんだがな・・・。」
「うん、そうだね・・・。」
私はよくシリウスのことを知らないし話したこともない。ギルドでは素行が悪くてよく問題を起こしていたと聞いたけど、みんなシリウスが帰ってくることを望んでる。
それだけ愛されてた、ってことだよね。
「それで、最近はどんなぬいぐるみ買ったのー?」
「この前質のいいレッドウルフのぬいぐるみを見つけてな。少し高かったが思い切って・・・・・・ちょっと待て。どうしてそれを知ってる?」
あれ、そういえばアデルのファンシー趣味の件は私とアンジェ以外誰も知らないはずじゃあ・・・?
「おい地味子、お前まさか誰かに話したのか?! 誰に言った?!」
「お、落ち着いてアデル・・・私誰にも話してないよぉ・・・!」
アデルが私の両肩を力強く掴んで揺さぶる。首痛い首痛い。
「ていうか、もうみんな知ってるしー。アデルちゃんがシェブール中のぬいぐるみ屋さんや雑貨屋さんに行ってることも、アデルちゃんの部屋がファンシー仕様だってことも。」
「な・・・?!」
「もしかして隠してるつもりだったの・・・? 新年会のときも酔っぱらったままギルドの真ん中で寝てたじゃん。ピンクの可愛い抱き枕抱いてさー。」
アデルの顔が一瞬で硬直した。私の両肩を掴んだまま離さず、リンゴのように頬を染めてプルプル震えている。
「・・・ギルドのみんなが知っているのか?」
「うん。」
「・・・マスターもエルーもみんな?」
「うん。」
「そうか・・・。」
アデルが私を解放してその場にへたりと座り込む。
「うぅ・・・2人とも、私を殺してくれ。こんなことを知られてはもうギルドに戻れん・・・。」
「えー、なんで? 可愛いのにー。」
「可愛い言うなぁ!」
「真っ赤なアデルちゃんも可愛いー。」
「う、うるさい!」
アデルってからかわれると途端に弱くなる。そういう才能の持ち主なんだろうか。ついからかいたくなってしまう。
「アデルってパジャマも可愛いよね。」
「本当? ボクも見たいー!」
「地味子、貴様あとで覚えていろ・・・!」
笑い声の絶えない馬車の中。
アンジェとヒューゴはすっかりダウンしちゃったけど、もうすぐ目的地だ。私はふと窓から顔を出して空を見上げた。少しひんやりとした風が肌を撫でる。
少し雲がかかった空。
快晴って程じゃないけどいい天気。お仕事日和って感じだ。
アデルとキトゥンのやりとりを聞きながら青空の景色を眺めていると、違和感のあるものが視界の端に映る。一瞬だけ映ったソレはすぐに雲の向こうへと消えてしまった。
「生き物じゃなかったよね。空飛ぶお城・・・? って、そんなわけないか。」
いくら異世界と言っても、そんな目立つもの飛んでるわけないよね。何かの見間違いか。
私は再び青い空へ目を向け、残り少ない馬車の旅を楽しんだ。
そろそろ新キャラ出したい気分です。ぼちぼちいきます。




