気にくわないなら…
俺は声のした方をチラッと見るとそこには筋肉ムキムキで強面のおっさんがいた。
(ここで反応するともっと絡んできそうだしさっさと退散するか)
そう決めると俺は無視してギルドから出ようとした。
「おいおい、無視すんなよ。」
そう言うとおっさんは俺の肩を掴んできた。
「なんですか?俺疲れてるんで用事があるなら明日にしてもらえませんか?」
俺が少しイラッとしながら言うと意外なことにおっさんは
「頼む。時間はそんなにかからねぇから俺の話を聞いてくれ。」
と言った。
さっきまでのような態度だったらついていく気はなかったが、何か事情がありそうなのでとりあえず聞いてみることにした。
「分かったよ。」
「すまねぇな。すぐに済ますから俺についてきてくれ。」
そう言うとおっさんはギルドから出て行った。俺もその後を追ってすぐにギルドから出た。
ギルドから出ると外は日が落ちて暗くなっていた。
「兄ちゃん、俺の名前はグランってんだ。兄ちゃんの名前は?」
「俺は光田だ。」
「そうか。光田、お前飯は食ったか?」
「いや、食べてないけど。」
「なら、飯を食いながら話そう。もちろん俺が奢るからよ。」
信用していいのか迷ったが、今の俺なら負ける気がしないのでその誘いに乗ることにした。
「分かったよ。」
そう応えるとおっさんは嬉しそうに笑った。
「そ、そうか。俺に任せとけ。美味いもん食わしてやるからよ。」
そうしておっさんについていくと小さな店についた。
「ここが俺のおすすめの店〈月の宴〉だ。夜しかやってないし派手な外見じゃねぇし知ってる人は少ないが、この〈ソラス〉では俺の知ってる限り1番美味いとこだ。」
おっさんは俺に説明すると中に入っていった。俺も後に続いて中に入った。
店の中は落ち着いた雰囲気でなんとなく和を彷彿とさせる場所だった。
おっさんは知り合いらしい女性と話した後席につき、俺にも座るよう促した。
「で、話ってのはなんなの?」
「ああ。その前に一つ聞きたい。お前さんはエリーのことどう思ってる?」
「は?」
「いや、だからエリーのことだよ。」
「どう思ってるって言われても今日会ったばっかりの人だし可愛い子だなぁとぐらいしか思ってないけど?」
「ならいいか。実はなエリーはこの〈ソラス〉を治めているフレッド伯爵に求婚されているんだよ。」
「貴族って貴族と結婚するんじゃないの?エリーって貴族じゃなさそうだったけど。」
「普通はな。だが、エリーは別に貴族ってわけじゃねぇ。だからフレッド伯爵はエリーが自分のものになるのが当たり前だと思ってやがるんだ。それでエリーに関わろうとするやつに危害を加えやがる。現にこの前エリーのとこで冒険者登録したやつが行方不明になったんだ。それ以前にもエリーのとこで依頼の手続きしたやつがおそわれたことはあったが行方不明になるやつが出たのはこの前が初めてさ。それからあのギルドではエリーに関わんなってんのが暗黙の了解になったんだ。」
「なるほど、つまり何も知らない俺にそのことを教えてくれようとしていたということだったんだ。」
「まあ、そういうこった。」
「おっさん、顔に似合わずいい奴だな。」
「顔に似合わずは余計だ。俺だって気にしてんだ。それより今日のことでお前さんは狙われるかもしれねぇ。そこんとこは気をつけとけよ。」
「一つ聞いていいかな?」
「なんだよ。」
「エリーはその状態を望んでないんだよね。」
「そりゃそうだろ。避けられることを好むやつなんていねぇだろ。」
「そんなエリーの状態をおっさんはいいと思ってんの?」
知らず知らずのうちに俺は責めるような口調になっていた。
「いいわけねぇだろ。俺だけじゃねぇ。あのギルドの連中はみんなエリーの笑顔が好きなんだ。特に俺はな、エリーがギルドに来た頃から知ってんだよ。あの頃のあいつはいつもいい笑顔を振りまいていたさ。それなのに今のあいつの笑顔は明らかに無理してんのがわかんだよ。だからと言ってフレッド伯爵に逆らえば間違いなくやられちまう。お前さんは知らんだろうが、フレッド伯爵の部下にはAランク冒険者の〈雷神〉がいやがる。〈ソラス〉の街のギルドでランクが1番高いのはBランクの俺だ。明日ギルドカードを受け取る時に聞くと思うがランクA以上は化け物ばかりだ。BとAでは勝負にもなんねぇんだよ。」
「なるほど、つまりその〈雷神〉とかいうやつをなんとかすればおっさんたちはエリーの現状をなんとかしてくれるんだね?」
「おいおい、馬鹿なことは考えるなよ。〈雷神〉ってのは本当にヤベんだよ。あいつ1人でこの街を潰せるくらいなんだぞ!」
(俺ならこの大陸でも潰せそうだけどねー)
「もう一度聞くよ。〈雷神〉さえなんとかすればおっさん達がエリーの現状を改善してくれるんだね?」
俺が真剣にそう問いかけるとおっさんは少し迷ったあと
「ああ。約束しよう。」
と言った。
「なら、俺がその〈雷神〉をぶっ倒すよ。心配はしなくていいよ。俺こう見えても結構強いから。」
「とりあえずお前さんを信用しとくが、無茶して死ぬんじゃねぇぞ。」
「当然。それと俺が〈雷神〉と戦うことは秘密にしといて。バレたら面倒くさそうだし。」
「なんでそんなに自信があんだよ。ああもう分かったよ。俺はお前さんが〈雷神〉を倒してくれると信じるぜ。」
「任せといてよ。」
「ったく、今日冒険者になったばっかのやつに俺は何を期待してんのやら。もうこうなったらヤケだ。今日は食いまくるぞ。もちろんお前さんも食えよ?」
「ありがたくご馳走になるよ。」
こうして初めての街での初めての夜は過ぎていった。
ちなみに〈月の宴〉の料理は今まで食べた中で最も美味しい料理だった。
次回〈雷神〉と戦います。




