もぬけの殻と小猿鬼
魔物の気配が消えた林を抜けると丘を幾つか越えた向こうに岩山が見えた。その岩山の上に白い建物が見える。
「あれが二モスの修道院でしょうか?」
返り血を川の水で洗い剣の血糊を落としながらアンが質問する。
「道なりに行くとそのようだな。ここからでは魔物のが居るかどうかは分からんが」
ブカリから二モスまでは、川沿いの道と林を抜けて大体1時間ぐらいの道のりだと村長が言っていたので恐らくそうなのだろう。
村を出て直ぐに大ミミズがいて、林には人型の魔物の群れがいたのだ。あの二モスの修道院までまだまだ何かありそうだ。
だが、日の高いうちに修道院を取り戻したいという俺たちの思惑は意外とあっさり達成された。
「先程の人型の魔物がここにいた奴らの本隊だったのか?」
人気も魔物の気配も無い二モスの修道院の門をくぐった俺が確かめるように呟くと、俺の直ぐ後ろで林からずっと黙っていたロンダが口を開いた。
「小猿鬼だな」
「何がだ?」
「さっきの小さい奴らの名前だ。名前が無いと困るだろ? だから俺が付けた。あいつらは今から小猿鬼だ」
そう言えば、狩りで見た事も無い動物や魔物のを見るとロンダが名前を付けていた。大抵、既に他の名前があるのだが、アンデーヌ近辺にしか居ない珍しい種類の大ネズミにロンダが付けた熊ネズミという名前はその後、熊ネズミの毛皮が売れるようになるのにしたがって広く使われるようになった。
「小猿鬼ですね」
「そうだ、小猿鬼だ」
何か他の名前が既にありそうだが、今は小猿鬼という事にしておこう。
二モスの修道院や周りの民家には人も魔物も何も居なかった。家屋は破壊されていて魔物に襲われ、抵抗した痕跡はあるが一体の死体すら見つける事が出来なかった。
「連れ去られたな」
「だろうな」
最後の民家の捜索を終えた俺とロンダが声を掛け合うとアンが質問してきた。
「あの大ミミズのような魔物が他にも居ると?」
「居るな」
ロンダが答える。
「修道女や村人は全員、生死に関わらず飲み込まれたと考えられるな」
俺がそう言うとアンが厳しい顔をする。
「では生きていても全員呪われているというこですね」
「だろうな」
「サンジドーロに急ごう」
俺たちはもぬけの殻となっている二モスを後にした。




