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1.ランカ・ライカ

 国境にあるインヒレイン山岳地帯。この山岳地帯は木々が生い茂っていたり、岩肌が剥き出しになった崖があったりと難所が多く、とても険しいのだが、そこを旅のルートとして選択する者は多かった。その理由は主に二つある。一つは単なる地理上の問題で、インヒレイン山岳地帯が、タンゲア帝国、マカレトシア王国、セルティア共和国という三カ国に隣接しており、しかも距離的には最短であるという事。もう一つは治安上の問題で、他の楽な山岳地帯のルートに出る山賊は凶悪であるのに対し、インヒレイン山岳地帯を根城にしているランカ山賊団は、随分と良心的である事だった。

 ランカ山賊団は、旅人達に対し、山を渡るボディガード兼ガイド料と称して金品の類を要求しはするが、それも常識的な範疇だったし、殺しをする事も滅多にない。そもそも、本人達は山賊を自称してはおらず、警護団を名乗っている。実際、セルティア共和国では彼らを山賊認定してはいなかった。他の二国に関しても、山賊認定こそしてはいるもののそれほど危険視してはいない。だから討伐隊が差し向けられるような事も今までに一度もなく、実質放置されている。

 ただし、それでもランカ山賊団の縄張りであるインヒレイン山岳地帯を通る際には、一つだけ注意すべき点がある。

 それは、“絶対に子供を虐めてはいけない”という事。

 もし子供を虐めたりすれば……。

 

 夜中。

 ランカ山賊団のアジト。

 その居間で一人で寛いでいた弓使いのハットは、自分達のボスであるランカ・ライカが自室から出て来た事に、少し驚いていた。彼女は早寝早起きが基本だ。滅多に夜更かしをする事はない。それに、寝付もとても良い。いつもなら熟睡している時間だ。

 「どうしたの? 母さん」

 それで、そう尋ねた。

 “――母さん”。

 それが、女ボス、ランカ・ライカの、山賊団での通称だった。

 ランカはその問いには答えず、「お前は、こんな時間まで起きているのかい」と、そう彼に向かって小言を言った。そして、そのまま手に持っていた薄手の上着を羽織る。彼女は愛用の武器の金棒も部屋から持って来ていた。それを見て、彼はこう尋ねる。

 「まさか、こんな時間に誰かが山を歩いているの?」

 ランカは表情をきつくすると「ああ、」とそれに答え、それから「子供が、泣いている」とそう続けた。そして、耳を澄ます動作をする。彼女の耳には、遠くの何処かで泣いている子供の泣き声が微かに届いていた。山中にいる。“可哀そうに”と、彼女は思う。こんな真っ暗の山の中を歩かされて。

 ……どんな大人かは知らないが。

 許さないよ。

 彼女の耳は子供の泣き声だけには、敏感に反応するのだ。かなり遠くにいても、察知してしまう。

 それから彼女はその泣き声の大体の位置を掴み終えると、居間の窓を開ける。そしてそのまま、そこから外へ向かって物凄い勢いで飛び出していった。

 それを見たハットは「こりゃいけない。さっさと皆を集めて追わないと」とそう独り言を言うと、見張り当番とまだ起きているだろう連中に声をかけにいった。

 

 山中。

 木々に囲まれた登り坂。昼ならば、比較的楽に通れる道だが、視界の悪い夜中ではそうはいかない。

 「だから俺は、こんな子供を連れてくるのなんて反対だったんだ! 泣き出しちまったじゃないか。煩くてたまらん」

 と、髭面の無骨な男が叫んでいる。背は小さいが、力は強そうだ。いかにも怖そうな顔をしている。その男の背中には大きな荷物があった。恐らくは盗品か何か。いずれにしろ、胸を張って出せるような代物ではない。護身用の為か、男は剣を腰にさしていた。

 その髭面の男に反論をするように、もう一人の男が言う。その男は、どちかといえば痩せていた。

 「この子が泣き出したのは、お前が怒鳴るからだろう! 子供にはもっと優しく接しないといけないんだよ。それに、この山を渡るのには、子供がいた方が良いんだ。子供がいるだけでここの山賊団は、対応がかなり変わるって教えただろうが」

 「どうせ、こんな夜中に、その山賊に見つからないように隠れて渡るんだったら同じだろうが!」

 「だから、怒鳴るなって。これ以上、子供を泣かすな。折角、子供を連れて来たのに、これじゃ逆効果だ。

 もし、子供の泣き声を聞かれたら、山賊の女ボスが何をするか分からないんだぞ?」

 言い争っている二人の男のその傍らでは、髭面の男に強く手を引かれながら泣いている子供の姿があった。子供の歩くのが遅いのに苛立った髭面の男は、嫌がる子供の手を無理矢理に引いていたのだ。ただし、子供が泣いているのはその痛みの所為ばかりではない。夜の山中の不気味さと、恐ろしい男達に恐怖を覚えた事がその主な原因だった。

 自分は騙されたのではないか?

 子供はそう思い、不安に耐え切れず、遂には泣き出してしまったのだ。

 実際、この子供は騙されていたのだが。

 二人の男は泥棒だった。彼らはマカレトシア王国で盗みをし、タンゲア帝国へと逃げる為にインヒレイン山岳地帯のルートを選択したのだ。そして、「インヒレイン山岳地帯のランカ山賊団は度を越して子供に甘い」という噂を聞きつけた痩せている男は、孤児を騙して連れて行く事を思い付いたのだった。大人しそうな孤児に声をかけ「お母さんと、お父さんを探してあげるよ」と言い、逃げる為の山越えに利用する。無事にタンゲア帝国に着いたなら、その後はさっさと人買いに売ってしまう。そんな計画だった。ところが、いざ山を越えようとする段になって、彼らに欲が生まれたのだ。夜中の間に山賊に見つかりそうな所を越えてしまえば、山賊に遭わず、つまりは金を払わずに山を越えられるのではないか、と考えたのである。

 それが彼らの間違いだったのかもしれない。或いは、真っ当に、昼のうちに山を越える事を選択していたなら、彼らは無事にタンゲア帝国にまで逃げられていた可能性はある。しかし既にもう遅い。彼らはこの山の中で、子供を泣かせてしまった。

 髭面の男がまた怒鳴った。

 「さっきから、山賊に子供の泣き声を聞かれたらまずいだなんだ言っているが、こんな広い山の中、しかも夜中で、聞こえるはずがないだろうが! 山賊どもはアジトで寝ちまっているよ。臆病過ぎるんだよ! お前は!」

 その怒鳴り声に怯え、子供は更に大きく泣く。その泣き声に腹を立てた髭面の男は、拳を振り上げる。子供を殴るつもりだ。しかし、その拳を振り下ろそうとするその刹那だった。

 ビュオゥ

 何か、風のようなものが髭面の男の直ぐ傍を通り過ぎたのだ。気が付くと、男の前から子供が消えていた。

 そして、

 「おぉ、可哀想に。こんなに泣いて。恐かったのかい? もう、泣かないんで良いんだよ」

 と、そんな声が。女の声。まるで、怯える我が子を慈しむかのような。

 真っ暗闇の山の中。月明かりと、男達の持って来たランプの灯りに照らされて、薄ぼんやりと子供を抱きかかえる女の姿がそこには浮かんでいた。女は子供を抱きかかえながら、優しくその頭を撫でている。

 短髪。見た目の身体つきは、それほど大きくはない。否、むしろ華奢にすら見える。ただ、その出で立ちから女が山賊であると分かる。髭面の男は思う。

 “まさか、こいつが例の女山賊なのか? 馬鹿馬鹿しい。俺でも勝てるぞ”

 それから髭面の男は、女山賊が恐らくは武器だろう金棒らしきものを手から放している事に気が付いた。男のすぐ近く、ランプの弱い灯りに照らされて地面にそれが転がっているのが辛うじて見える。どうやら子供を抱きかかえる為に、手放したようだ。

 “こいつ、さてはアホだな”

 男はそう思うと、腰から剣を抜き片手でそれを持ってから、空いているもう片方の手でその地面に転がっている金棒を持とうとした。武器を完全に取り上げてしまえば、もうこの女は何も抵抗できないだろう。そう考えたのだ。見た所、周囲には他の山賊もいないようだった。勝てる。男はそう思った。

 ところが。

 「あれ?」

 思わず、髭面の男はそう声を上げてしまった。金棒が持ち上がらない。凄まじく重かったのだ。

 「何をやっているんだい? お前は」

 そう女の声が聞こえた。子供はいつの間にかに泣き止んでいる。しかし、まだ女は子供を優しく抱きかかえていた。どうやら放す気はないようだ。

 「わたしの愛用の得物に、汚い手で触るんじゃないよ」

 それを聞くと、恐怖を伴った驚愕の表情を浮かべながら髭面の男は一歩引く。“この女は、こんな重い物を持ちながら、夜の山の中を物凄い速さで駆けて来たのか?”と、そう考え、剣を両手で構えた。“化け物め”。女はそれを見ると声を上げる。

 「ほぅ……」

 まじまじと男を見つめ、続ける。

 「百歩譲って、わたしに剣を向けた事は許そう。こんな真夜中の山の中で、突然にやって来られたら誰だって驚く。怯えるのも無理はない。だが………」

 そう言いながら、女は傍らに生えている木の枝を持った。ミシミシと音を発てて、枝が折れていく。太い枝だ。先端の方には、たくさんの小枝が生え、葉も茂っている。

 「うちの子供に剣を向けた事は、絶対に許さない!」

 そう言い終えると、女は完全に木の枝を折ってしまった。そして、その生い茂った枝で髭面の男を薙ぎ払う。茂った枝や葉っぱが髭面の男の身体に被さって来て、そのまま男は倒されてしまった。

 髭面の男が慌てて起き上がった時には、女は既に片手で子供を抱きかかえ、もう片方の手で金棒を持っていた。あの重い金棒を、軽々と片手で持っている。

 “こいつは、やばい”

 男は思う。剣を構える。どうするか?

 しかし、男が迷う暇もなく、暗闇の中で女は金棒をブンッと振るった。「うちの子供に、なにをしているんだい!」と叫びながら。金棒が構えていた剣を弾き飛ばして男の身体に当たり、ドフンという何かが沈むこむような変な音がする。それで男の身体は吹き飛び、同時に意識もぶっ飛んでしまっていた。そして近くの岩に激突すると、男は無様にそこに横たわった。

 「さて」と、それから女は言う。

 「うちの子供を虐めていた、わるーい大人がもう一人いるようだね」

 暗闇の中でも、どうやら女は正確に痩せている男の位置を捉えているようだった。じっと睨みつけている。まずい。間違いなくこいつは女山賊のランカ・ライカだ。痩せている男はそう思うと言う。

 「ちょっと待ってくれ。何か勘違いをしていないか? “うちの子供”って、その子は俺達が連れて来たんだぞ」

 それを聞くと、女は「ああん?」と、声を上げた。

 「どうやら、お前は物を知らないようだね。この山の中に一歩でも足を踏み入れた子供は、みんなわたしの可愛い子供だって決まっているんだよ!」

 そう言いながらランカは金棒を痩せている男に向けた。

 “何を言っているんだ、こいつは?”

 と痩せている男は思う。そして、“こいつは噂以上に度を越した子供好きだぞ。何とか説得しなけりゃ殺されちまう”と考えると口を開いた。

 「いや、待ってくれ。俺はその子には、一切乱暴を働いていないんだ。怒鳴っていたのは、そこで転がっている馬鹿野郎だけだよ。俺は子供には優しいんだ」

 それを聞くと「フーン」と言って、ランカ・ライカは金棒を肩に乗せた。

 「なら、それが本当なのか、この子に訊いてみようかね。どうだい? この男には、優しくされたかい?」

 すると子供はコクリと頷く。それを見て、痩せている男は“おっ いいぞ”と思う。「だよな。飴だって上げたもんな」と、それからそう言った。しかし、

 「このおじさんは、ぼくのパパとママを見つけてくれるって言った」

 と、それからそうその子供は続けてしまったのだった。ランカはそれに「うん?」と反応する。

 「その話は本当かい?」

 そして、そう痩せている男に尋ねる。

 「ああ、確かに言ったよ」

 男は答えながら、“これは、やばい”と、そう思っていた。ランカは言う。

 「違うよ。わたしの言っているのは、そういう事じゃない。この子の両親を本当に見つけられるのか?って訊いているんだよ」

 痩せている男は言いよどむ。

 「いや、ま、その、なんだ。見つけられるかって訊かれたらあれだが、少なくとも見つける努力はするさ」

 男を睨みつけながら、ランカは言う。

 「方向から言って、お前たちはどうやらタンゲア帝国に向かっているようだね。この子の両親がタンゲア帝国にいるっていう証拠はあるのかい?」

 「いや、それは……」

 男は何も返せない。もちろん、証拠などあるはずもなかった。そもそも嘘なのだから。その男の態度から、ランカは男が子供を騙していたのだと察する。そして、“こんな幼い子を騙して許せない”と、そう思う。ランカは言う。

 「嘘なんだね」

 それからゆっくりと男に向かって近づいて行った。睨みつけながら。暗闇の中、目だけが印象的に浮かんでいた。

 「当然、判決は死刑だ」

 そう言うと、ランカは思いっきり金棒を振るった。「うちの子供に、なにをしているんだい!」と叫び声を上げながら。その痩せている男の意識は、そこでなくなった。

 

 「あ、やっぱ、もう終わってる」

 と、しばらくして声が響いた。声の主はランカを追って来た山賊団のメンバーの一人だった。来たのは全員で十人ほど。一番、歳が若いだろう一人が口を開く。

 「二人だけか。これじゃ、母さんも物足りなかったのじゃない?」

 彼の名はヌーカと言った。接近戦は苦手だが、石投げが得意で、戦闘時は中間距離で前線にいる者をよく援護する。

 それにランカは「足りるも足りないもあるかい」とそう答える。彼女は子供を両手で抱きかかえながら、上機嫌でゆっくりと全身でリズムを刻むようにしていた。

 「おっ 二人だけにしては大漁だ。皆、喜ぶぞ。きっと、こいつら泥棒だな」

 そう言ったのは大柄で力持ちのダノ。彼は男達の荷物を確認していたのだ。それにランカはこう答える。

 「そんなところだろうね。ふん縛って、マカレトシア王国の入り口辺りにでも転がしておきな。後は警察がよろしくやってくれるさ。あっと、それから、荷物は半分は返してやるんだよ。後は料金としてわたし達がいただく」

 ランカはそう言ったが、料金と言っても何の料金かは分からなかった。多少、不満があるような口調でライドという少女が口を開く。

 「全部、とっちゃえばいいのに」

 その声にランカは驚いたような声を上げた。

 「ライド!」

 それにビクッと反応すると、ライドは「いや、冗談だよ、母さん。うちは山賊じゃないし……」と、そう言い訳をしようとしたが、それにランカは「違うよ」と、そう返した。

 「お前が来ているとは思っていなかった。まさか、こんな夜中にグライダーを使ったのじゃないだろうね? あんな、危ないものを」

 ライドはグライダーに乗る事を得意としているのだ。山の急斜面などからジャンプし、滑空して一気に長距離を移動してしまう。もちろん、遠くにいる敵を見つける事などにもそれは利用できる。だが、グライダーを夜中に使うのは危険だ。着地地点を見誤ったり、操作ミスで怪我をし易い。

 「いや、ちゃんと地面を走って来たけど」

 ライドはそう返す。すると、ランカは「なら、いい」と言う。まるで、昼ならグライダーの使用を許可しているような口振りのランカだが、実を言うのなら、昼にライドがグライダーを使っても、彼女は小言を言う。「あんな危ないものは使うな」と。ただし、厳しく罰する事まではしないのだが。彼女は子供に甘いのである。

 やがて、泥棒二人を縛り上げると、ランカ山賊団はアジトへと帰って行った。ランカは子供を抱きかかえながら歩いており、鼻歌などを「フンフンフ~」と歌っていた。

 「嬉しそうだね、母さん」

 と、それを見てヌーカが言う。

 「ま、久しぶりに小さな子供をうちに泊める事になる訳だしね。絶対、一緒に寝る気だよ」

 そう言ったのは大柄のダノ。

 「ま、それでどうせ別れる時に泣く事になるんだろうけど。ナイアマンさんがまた苦労する事になるわ」

 と、最後に言ったのはライドだった。

 実を言うと、それがランカ山賊団が子供を保護した時の大体のパターンで、子供との別れを嫌がるランカをナンバー2のナイアマンが宥めて、それでようやくランカは子供を街に返すのだった。

 それから二三日が経過した。子供を街に返すまで、一週間程かかるのが普通なのだが、今回はそのわずかな期間で迎えが来てしまっていた。

 そしてランカは、

 「母さん。セルフリッジさんが来ているよ」

 と、山賊団の一人が言うのを聞くなり、子供を連れて自分の部屋にこもってしまっていたのだった。

 「すいませんね。毎度、毎度、セルフリッジさん」

 そのランカの行動を受けて、ナンバー2のナイアマンがそう言った。彼は確りとした好青年で、こんな山の中で暮らしているにもかかわらず学がある。セルフリッジと呼ばれたその男はやや長身だが痩せていて、まるで威圧感がなかった。ニコニコと笑いながら、こうそれに返す。

 「いえいえ、こちらこそ、毎回、子供を保護していただき、有難いと思っているんですよ」

 オリバー・セルフリッジという名のこの男は、マカレトシア王国の政府関係者で、ランカやランカ山賊団とも浅からぬ縁があった。そして、こんな時は大体が彼が繋ぎ役として山賊団のアジトにやって来るのが常なのだ。今回のように、彼が単独で子供を迎えに来る事もよくある。

 「にしても、今回は早かったですね」とナイアマンが言うと、セルフリッジはやはりニコニコと笑いながらこう返した。

 「王国の入り口で縛られていた泥棒達は、あなた達が捕まえたのでしょう? 実はあの人達に声をかけられていた孤児院の孤児の一人が行方不明になっていましてね、捜索願が出ていたのです。それで、まぁ、絶対にここだろうなと、そう察したのですよ」

 それにナイアマンは笑いながら「なるほど、なるほど」とそう返した。

 「うちの母さんが、子供を保護しないはずがないですしねぇ」

 そして、そう続ける。

 この二人、タイプが少し似ている所為か、気が合うようだった。その時、奥の方から声が響いて来た。

 「セルフリッジ! この子は、わたしの子供だからね! ぜぇぇぇったいに、連れて行かせるもんか!」

 ランカの声だ。

 そのランカの声を聞くと、ナイアマンはため息を漏らし、「今回は何時間くらいかかりますかねぇ」とそう呟くように言った。

 

 インヒレイン山岳地帯。

 ここでは、絶対に子供を虐めてはいけない。インヒレイン山岳地帯を根城にするランカ山賊団の女ボス、ランカ・ライカは常軌を逸した大の子供好きで、その彼女が常に目を光らせているからだ。

 子供を罵るのも駄目だし、暴行を加えるなんてもっての外。それが山賊団の子供であろうが、旅行者達自身が連れて来た子供であろうが、まったく関係のない子供だろうが、とにかく、子供でさえあればどんな子供にでもそれは適応される。

 もしも、子供を虐めようものなら、その時はランカ・ライカが激怒する事になる。彼女は普段から身体能力が高いが、子供が絡むと冗談抜きでその力は数倍に跳ね上がる。そして、

 「うちの子供に、なにをしているんだい!」

 という叫び声が聞こえた後、子供を虐めた者は、彼女から過剰なお仕置きを受ける事になるのだ。例えば、金棒でぶっ飛ばされたり、投げ飛ばされたり、絞め落とされたり。

 だから、とにかく、この山の中では、決して子供を虐めてはいけないのだ。

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